【完結】ウマ娘プリティーダービー企画短編集ーAutumnー   作:またたね

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栄光、その先へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 諦める事なら誰にだって簡単に出来る。

 

 逃げる事なら誰にだって簡単に出来る。

 

 手放す事なら誰にだって簡単に出来る。

 

 負ける事なら誰にだって簡単に出来る。

 

 

 

 しかし、その逆を行う事は遥かに難しい。

 勝つための努力を惜しまないウマ娘でさえ、その全てを勝ち取る事は決して容易ではなくほんの一握りしかいない。そういう世界なのだと、走る事を選んだウマ娘はその全員が熟知している。

 

 

 これは何度負けても挫けず、認めてもらえなくても折れず、決して下を向かずに前を見続けていたウマ娘が栄光の勝利をもぎ取ってからのちょっとした後日譚である。

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 URAファイナルズを走り抜け、トゥインクル・シリーズで見事結果を残し大事な『最初の3年間』を乗り切る事が出来てから数日。

 

 

 しばらくは休養となりレースに出る事もなく、久しぶりにのんびりとした日常を過ごせると思っていた矢先の事だった。

 トレーナー室で軽く雑務でもしようとしていたはずが、気付けば担当ウマ娘に連れられグラウンドに来ていたのだ。

 

 

(少しは暖かくなってきたかなあ)

 

 ふと見上げると青く澄んだ空に白い雲。冷たい空気が程よく照らしつけてくる陽光と相まって不思議と気分もクリアになってくる。こうなると来春が待ち遠しい。

 そんな中、耳に聞こえてくるのは何かが駆けてくるようなリズムの良い足音。もはや何百何千何万と聞き慣れたその音はやがて近くへやってきた。

 

 視線を音源の方へ向けると、それはもうすぐそこまで来ている。手元のストップウォッチに力を集中し、その瞬間を見逃すまいと目力が入り視界も細くなっていく。

 風を斬るような音と共にゴールを切った瞬間ストップウォッチを押した。

 

 タイムを見て感嘆の息を漏らす。白い息はもう出ないようだった。

 足音が聞こえてくる。どうやら息を整えてからこちらに戻ってきた担当ウマ娘が声をかけてきた。

 

 

「タイムはどう?」

 

「うん、前回よりも速くなってるよ。悪くないね」

 

 言ってストップウォッチを見せる。

 それを見た少女は満足気にするでもなく、自然とこう言った。

 

 

「ふーん、確かに悪くはないわね」

 

 他のウマ娘ならもっと嬉しそうにするのが普通だと思うのだが、目の前の少女は違う。タイムが速くなったところで満足はしない。

 自分ならもっと速くなれるとそう信じて疑わない精神を持っているのだ。

 

 だからこその()()()()

 トレーナーは過去に一度タイムを更新した時に良いと言ったら怒られた事がある。『良い』と言ってしまえばそこで満足してしまう。止まってしまう。そこに甘んじないよう、まだまだ次の段階へ昇るために自らブレーキをかけないのが彼女のやり方だ。

 

 

「いや、というかさ」

 

「あら、何かしら?」

 

 そもそもの話をしなければならない。

 何故自分がここにいるのかを。何故言われるがまま彼女の言う通りにして練習に付き合っているのかを。

 

 溜め息交じりに目の前の担当ウマ娘、キングヘイローに向かってトレーナーは言う。

 

 

「URAファイナルズも終わってとりあえずは一段落ついたんだし、しばらくは練習は無しにして休養って言ったのに何で僕は君の練習に付き合わされてるんだろう」

 

「何を言うかと思えばそんな事? そんなの一流の私がはい分かったわと納得するはずないでしょう? 常に気高いキングに無駄な休養は必要ないの。最低限の休みがあればあとは猛練習に励むのみ。一流は日々を研鑽してこそなのよ! おーっほっほっほっ!!」

 

 甲高い高笑いが練習場に響く。URAファイナルズが終わってまだ数日。この調子だと一日だけ休んであとは自主練していてもおかしくはない。というか彼女ならやりかねない。

 URAファイナルズは予選、準決勝、決勝とあるからか次のレースまでのスパンが短く、ウマ娘の疲労も溜まりやすくなってしまう。

 

 キングヘイローの体調も考えて長めの休養を提案したのだが、そもそもが間違っていた事を実感した。

 このどこまでも一流を磨く彼女に長期休養はむしろマイナスになってしまうという事を。提案した時にキングヘイローの表情が不服そうに見えていたのは気のせいではなかったようだ。

 

 

「URAファイナルズで勝っても君の行く道は変わらないようだね」

 

「当たり前でしょう? むしろこのキングがそんなところで満足するわけないわ! これからもレースに勝ち続けて一流であり続けるの!」

 

「なるほど、じゃあ今日のトレーニングはこのくらいにして部屋に戻ろうか」

 

「何でそうなるのよ!! あなた私の話聞いていたの!?」

 

 割と凄い剣幕で抗議をしてくるキングヘイロー。

 そんな彼女は、『あの』URAファイナルズに出場し見事に決勝を勝ち抜いた。トゥインクル・シリーズにおいては前半勝ちきれない結果が続いたが、路線変更してからの活躍は凄まじく、こうして誰もが認めるウマ娘になり名実ともに一流ウマ娘となったのだ。

 

 注目度で言えば今もっともNO1のウマ娘。

 そんな彼女の反応にも慣れたようにトレーナーはこう返す。

 

 

「元々は休みにしてたからね。キングがトレーニングするっていうならそれに合わせたメニューを考えなくちゃならない。その分だと他の日も僕に黙ってトレーニングしてたろ?」

 

「うっ……そ、それはもっと一流になるためには当然の事でっ……」

 

「だったらちゃんと休む事も一流の仕事だよ。けど、今のキングの調子や脚を見てると本当に問題はなさそうだし、望むなら軽めのトレーニングくらいは許可できる。だから2人でミーティングしながら考えよう。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 最後の言葉を強調して言うと、分かりやすくキングヘイローの耳がピクンッと動いたのが分かった。

 返事を待たずしてトレーナー室へゆっくりと歩を進める。

 

 すると、すぐさま隣へ彼女が並んだ。

 

 

「ふふんっ、トレーナーも言うようになったじゃない! その心意気に免じてあなたには私に最適なトレーニングメニューを考える権利をあげるわ!」

 

「いや君も一緒に考えるんだけどね?」

 

 視線を横に向けるといかにもご機嫌といったキングヘイローが並んで歩いている。

 尻尾を見れば高く振り上げている事から本当に機嫌も良いのだろう。扱いやすいと言ってしまえばそれで終わりだが、そういうとこも今となっては可愛らしいと思える領域にまでなっている。

 

 3年も一緒にいればお互いの事もよく知る訳で。料理は基本的に苦手で卵焼きを何とか作れる程度……だったのだが最近は料理の勉強も始めているらしい。一流のウマ娘は料理も出来てなんぼだとか。

 そして見ていても分かる通り生粋の高飛車お嬢様であり、常に自分が人の上に立っているような言動をとったりする。

 

 と、第一印象だけで見れば少し誤解されがちな部分もあるが、実際は面倒見がよく寮で同室のハルウララや友人の世話を焼く(焼かされると言った方が正しいか)ように優しい一面もちゃんとあるのだ。

 実際キングヘイローが率いている取り巻きのウマ娘達は強制的でも何でもなく、本当にキングヘイローを慕っており人徳あってのものだと接していれば自然と分かる事も多い。

 

 座学の成績も優秀であり、以前好成績を残した事で評価されトレーナーと一緒にパーティーへ招待された際、テーブルマナーもしっかりしていて育ちの良さも伺えるほどのウマ娘だ。

 あとは怖いものが苦手だったり、負けず嫌いを拗らせてクジで財布をすっからかんにするなど何回かやらかしてしまっているくらいだろうか。

 

 そこもまだ子供らしさを感じられてトレーナーとしては微笑ましいが、これをキングに言うと怒られるので言わないが吉である。

 とにかく、キングヘイローとの3年間はとても充実したものであり、お互いが成長できたりと良い結果を残せた時間だったと言ってもおかしくはない。

 

 

(ここで満足な結果って思わない辺り、僕もキングに影響されたかな)

 

 先程の彼女のタイムは前回よりも縮まっていた。

 トゥインクル・シリーズを走りぬきURAファイナルズを勝ち取ったキングヘイローが、まだ速く(強く)なる。その事実にトレーナーとしての血が騒ぐ。

 

 

 故の、ミーティングだ。

 

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 

 

 トレーナー室。

 少し暖かくなってきたとはいえ、まだ寒さが残っているので暖房設備の整っていない部室よりも年中適温を保っているトレーナー室でのミーティングが始まる。

 

 

「まず最初に釘を刺しておくけど、まだレースが終わって数日。だからいつも通り追い込みすぎるトレーニングは控えよう。少し目を離すとキングはすぐ自分を追い込んじゃうからね」

 

「そのくらいしないと手応えを感じなくなってきたから仕方ないじゃないの。キングは常に上昇志向なんだからっ!」

 

「うん、それはいい事なんだけどね。キングとキングの脚のために万が一でもケガのリスクは減らしておきたいんだ。そこは分かってくれないかな」

 

「……仕方ないわね。トレーナーがそこまで言うなら従ってあげなくもないわ!」

 

「はいありがとー」

 

 相変わらずな反応についトレーナーも軽い礼で返す。

 3年も似たようなやり取りをしていればこれももはや定番になってくるのである。

 

 

「で、次はトレーニングの話なんだけど、とりあえずはグラウンドを何周走るか決めようか」

 

「50周ね」

 

「話聞いてた?」

 

「おーっほっほっほっ!! そのくらい余裕よ余裕っ! むしろ控え目に言ったんだから感謝してほしいわ!!」

 

「ああもううるせっ。こういう時の高笑いだけホントうるせっ。というか以前のトレーニングよりも回数増えてるのはどういう了見なのかな。もしかしてアホなのかな」

 

 グラウンドのコースは本物のレース場のコース同様、全ての距離で走れるようになっている。路線変更で短距離をメインに走るようになってからも時にマイルや中距離を走るキングヘイローは練習では中距離用のコースも走る事が多い。

 一回の全力疾走でも疲れるのに一日のトレーニングで2000mを50周とほざいているのは普通にやばいヤツだ。

 

 さて、一流であり高飛車お嬢様がアホと言われてそれを流すはずもなく、1秒の間も空けずに喰い付いてきた。

 

 

「だぁれがアホよこのへっぽこ!! URAファイナルズで優勝したこのキングが過去と同じメニューを繰り返す訳ないでしょう!? 一つの舞台が終われば一新して新たな舞台が始まる。つまりはトレーニングメニューも今のキング基準に合わせてリニューアルしたのよ!」

 

「リニューアル先がスパルタすぎて思いやられるんだけど。ちなみに控え目って言ってたけど控えなかったらどのくらいだったの」

 

「100周」

 

「もっと控えやがれド阿呆が」

 

「何よぉ! このへっぽこへっぽこぉっ!!」

 

 何かプンスカしているが気にしない。このお嬢様は時たまこうしてネジがぶっ飛ぶ事があるので油断も隙も無いのだ。

 これで成績超優秀なのだから侮れない。とりあえず控え目という言葉を辞書で調べてほしい。

 

 たまに暴走する彼女を止めるのもまたトレーナーの仕事である。

 

 

「とにかく、予定していた休養期間までは激しいトレーニングは控える事。その後は様子を見つつ僕が良いと思った日はキツめのトレーニングもしていい。これが今の僕に出来る最大限の譲歩だから。あ、これに関してはいくらキングでも反論はダメだからね」

 

「なん……ぐっ……ああもう分かったわよ!」

 

 納得はしていない表情だが何とか分かってくれたようだ。

 メニューはまた後日組むとして、トレーニングの話はとりあえずこれで終わりでいいだろう。

 

 問題は次だ。

 

 

「そして今日話しておきたかった事なんだけど、次のレースについてね」

 

「ああ、その事」

 

 URAファイナルズに勝ち、誰もが認める一流ウマ娘になった。

 しかし、ウマ娘というのはそこで終わらない。キングヘイローは、そこで満足しない。

 

 

「キングはもう考えてるの?」

 

「もちろん。常に将来を見据えてプランを考えているのが一流のウマ娘よ!」

 

「確かさっきも一新して新たな舞台が始まるって言ってたっけ。じゃあもう大体は決めてあるんだね」

 

「ええ。これは私の目標であり決定事項よ! よぉーくお聞きなさい! キングの歩む道は──、」

 

 立ち上がって一流ウマ娘は言う。

 

 

「トゥインクル・シリーズに再挑戦よっ!!」

 

「……へえ、その心は?」

 

 高らかに宣言したと思えば、想定よりも普通な事を言いだした。

 とはいえ『あの』キングヘイローの事だ。これで終わりだなんてトレーナーも思っていない。伊達に3年も一緒に歩んできていないのだ。

 

 トレーナーの問いに待ってましたと言わんばかりのにんまり顔をするキングヘイロー。

 しかし直後に表情は真剣そのものになった。

 

 

「……前半の私はお母さまに認めさせるために三冠路線にいったけど叶わなかったのは覚えてるでしょ?」

 

「もちろん」

 

「そこから短距離マイルに路線変更して軌道に乗った私は連勝を重ね、秋の天皇賞ではスペシャルウィークさん達に勝ってURAファイナルズでも優勝できた。だけどそれじゃダメなのよ」

 

「……、」

 

 何となく、彼女の言いたい事が分かった気がした。

 一流を目指すキングヘイローならではの拘り。そのまま彼女は続ける。

 

 

「だから今度は最初から私が私の進む道のままトゥインクル・シリーズを勝ち進むの。そして取り逃した年度代表ウマ娘を取りにいくわ!」

 

「ああ、うん。やっぱりそうだよね」

 

 一流でありワガママなお嬢様がそういった称号を狙いにいかない訳がない。

 そして、それすらもキングヘイローは通過点に過ぎないと考えているだろう。次に年度代表ウマ娘に選ばれるのは前提として、だ。

 

 

「最初から最後までこのキングが活躍して年度代表ウマ娘に選ばれ、またもURAファイナルズを優勝すれば私の注目度は格段にもっと上がるでしょうね!」

 

 もう既に注目されているのでは、という野暮なツッコミはこの際しないでおく。

 

 

「けど、一流の私はそんなところで止まらない」

 

「知ってる。まだ何か目指してるものがあるんでしょ」

 

「ええ」

 

 トゥインクル・シリーズでそこまでの結果を残しても尚、キングヘイローが目標にするもの。

 それは。

 

 

「ドリームトロフィーリーグ」

 

 トゥインクル・シリーズの上位の位置にあり、トゥインクル・シリーズで好成績を収めたウマ娘のみが出走できるレースプログラム。

 主にトゥインクル・シリーズを卒業したスターウマ娘達が夢の対決を繰り広げるため、非常に高い人気を誇っている。夏と冬に開催され、出走するための予選リーグもある。ちなみにドリームトロフィーリーグへは移籍という形で登録されるため、登録したウマ娘は以後トゥインクル・シリーズには出走できないとされているのだ。

 

 スペシャルウィーク、セイウンスカイ、グラスワンダー、エルコンドルパサーといった黄金世代の同期達とはまた違う。

 正真正銘全員が怪物揃いと言われているドリームトロフィーに出るとなれば、より一層厳しい未来も考えられるが。

 

 

(キングに諦めはない、もんな)

 

 そんな未来をすぐに切り捨てる。これまでだって何度負けても決して諦めず前を向き続けてきた彼女だ。

 誰よりも不屈で泥臭くとも前へ進み、笑われようとも笑い返すような精神を持っているウマ娘だ。高飛車なお嬢様がそんな姿になっても諦めなかった結果がURAファイナルズ優勝。

 

 ならば、異論などどこにあろうか。

 ふと、笑みが零れた。

 

 

「あら、どうしたの? 私の宣言に度肝でも抜かれたかしら?」

 

 返事がなかったのを気にしているのかキングヘイローが覗き込んでくる。

 応えなければならない。今以上の高みを目指す一流ウマ娘へ、トレーナーとしての答えを。

 

 

「いや、君にはいつも度肝を抜かれているよ」

 

「ふふんっ、それもそうね! キングは常人とは程遠い思考をしているもの。まだ理解が少し遅れていても許してあげるわ!!」

 

「そうだ。常人は君を見て何も思っていなかった。他の同期ばかりを見て誰も君を認めなかった。偉大な母親だからと期待され、挙句の果てにじゃじゃウマだの井の中の蛙だのと言われてた」

 

 走りだけを見て何が分かるのか。そんなの何も分からないに決まっている。彼女がどんな思いでトレセン学園に来て何と言われようとも気高く振る舞うのか。そんなの接してみないと分からないに決まっている。

 

 そう、トレーナーは知っている。

 キングヘイローというウマ娘を。

 

 誰よりも泥臭く、勝利を渇望し、不屈であり続けていたかを。

 

 

「そんな君を一番最初に見つけたのは僕だ。一番最初に君を認めたのは僕だ。君に可能性を見出したのは間違いなく僕だ」

 

「ど、どうしたのよいきなり……?」

 

 同期がみんなスカウトされていく中、中々選ばれずに校舎裏で1人うずくまっている少女がいた。

 選抜レース後、色々とメモしている間に目を離していたらその少女がいなくなっていたから探していたのだ。

 

 彼女達が走っている間、周囲のトレーナーが少女の事を色々言っていたが、そんなくだらない事は気にしない。あの負けん気を選抜レースの時点で出せるウマ娘は貴重だ。

 何より、少女を勝たせたいと本気で思った。誰からも認められない少女を、誰もが認めるウマ娘にさせたいと思った。

 

 そうして、キングヘイローはここまで来れたのだ。

 だから、言う。

 

 

「トゥインクル・シリーズで勝つのは大前提。その後のドリームトロフィーリーグも僕が君を勝たせてみせる」

 

 手を差し出す。

 改めて、出会ったあの頃と同じようにもう一度。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ッ」

 

 まだまだ将来の事は不確定で未知数だ。

 他を凌駕する才能が決してある訳ではないと承知もしている。だからこそ、不屈の少女に勝利をもたらすのは自分だと言ってみせろ。

 

 不可能を可能にしてきたお嬢様へ証明してみせろ。

 一流のウマ娘を担当する自分だって、一流のトレーナーなんだと。

 

 

「一流トレーナーの僕が、必ず君を勝たせてみせるよ」

 

 聞いて、キングヘイローの表情は一瞬呆気に取られたようにも見えた。

 しかしそれは一瞬で、すぐさま不敵なモノへと変わる。

 

 

「……ふんっ、まったくいきなり何を言いだすかと思えば……分かってるじゃない! それでこそキングのトレーナーよっ!!」

 

 顔を逸らした彼女の目尻から光るものが見えたが触れないでおく。あと仄かに顔も赤く見える。

 これも、彼女と接していなければ分からない優しさだ。ツッコむと変に誤魔化されるので見ない振りがちょうど良い。

 

 キングヘイローとトレーナーの当面の目標は決まった。

 まずはトゥインクル・シリーズを勝ち抜きURAファイナルズで再び優勝して年度代表ウマ娘に選ばれる事。その後にドリームトロフィーリーグに出てそれをも優勝する。

 

 当然生半可な気持ちではなく本気で勝ちにいくつもりだ。

 例え負けたとしても、何度でも這い上がって挑戦すればいい。今のキングヘイローにとっては負ける悔しさはあれどそれでまた強くなれる精神がある。

 

 ここから再スタート。

 今度こそ一流のままに栄光を掴みにいく番だ。

 

 

「もう我慢できないわっ! トレーナー、今からトレーニングに行くわよ!!」

 

「え? いやだから予定してた休養期間までは控え目のトレーニングだって言っ」

 

「なら明日丸一日休めばいいでしょう!? 代わりに今日はトレーニング続行! いいわねっ!?」

 

 こうなってしまえば止められないのがワガママお嬢様である。

 軽い溜め息ひとつ。しかしながら不思議と笑みも零れるのはこんなやり取りも慣れたせいか。

 

 

「はいはい、仰せのままに」

 

 トレーナー室を出て自分が認めた唯一の『王』へ着いて行く。

 その後ろ姿は傍から見れば『王と従者』のようにも仕方なく彼女に付き添う『カップル』のようにも見えるだろう。

 

 

「それと聞きなさいトレーナー! このキングにはもう一つ、あくまで通過点に過ぎないけど目標にしているものがあるわ!」

 

「お、何かな」

 

「『顕彰ウマ娘』よ! ウマ娘が与えられる栄光ある称号は全て取りに行くわ!!」

 

「確かトゥインクル・シリーズに最も貢献したウマ娘が引退する時に与えられる最大の栄誉って言われてるやつだよね」

 

「そうよ! いずれは世界の『顕彰ウマ娘』をかっさらうんだから覚えておきなさい!!」

 

「あー、じゃあ引退まで頑張らないとね」

 

「引退!? 何をへっぽこな事を言ってるのよ! キングは生涯現役なんだから!!」

 

 言ってる事がしっちゃかめっちゃかである。

 しかも栄光ある称号となると三冠ウマ娘とかもそういうのに入るのだろうか。だとしたらいったい何年かかるだろうかと思案するトレーナー。端から叶えられないと思っていない時点でトレーナーも相当の担当バカだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 生涯現役で『顕彰ウマ娘』も取るんだよね?」

 

「当たり前じゃない! あ、あなたにはそれまで付き合ってもらうんだから覚悟しておきなさい!! おーっほっほっほっ……!!」

 

「……ん~……あれ、それってもしかしてプロポ」

 

「だだだ黙らっしゃいこのへっぽこぉっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 春は、きっと近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

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