ウマ娘三部作Firstシーズン 片翼の撃墜王 ~イカロスの黎明~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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テイオーとマヤちゃんの絡みが見たい、そう思う今日この頃

せっかく同室なのにアニメではマヤちゃんほとんど出番なかったですしね…
生活リズムもかなり違いますし、この子達普段はいったいどんなやり取りをしてるんですかね?



帝王の矜持

「ふふん!そんなの簡単な話さ!」

 

マヤの問いに、さほど間を置かずテイオーちゃんは答える。

 

「ボクはサイキョームテキのテイオーさまだからね!その事実を証明するために走るだけだよ!!」

 

ふんす、ふんす、と鼻息が聞こえる。恐らく実際にテイオーちゃんの方を見れば、ものスゴいドヤ顔をしているところだろう。

だから…

 

「…じゃあ」

 

「ん?」

 

「…じゃあどうしてそれを証明しなきゃいけないの?」

 

マヤは質問を重ねる。

 

「…サイキョームテキ…うん、スゴいことだと思うよ。

別にそれ自体を貶めようだなんてマヤは思わない。」

 

…マヤだって、これでも競技者の端くれだ。テイオーちゃんの言うそれが、どれだけの血と汗と涙の上に築かれているのか、なんてことは流石に分かる。

現にマヤとてURAファイナルズの初代女王、ある意味では一つの最強の座を手にしているだけに、それが陳腐なものだなんて絶対に言えないし、言わない。

 

…一番でなくても良いなんて言う人もいるし、別にその考え方が間違っているとは思わない。何かに真剣に打ち込むことは、それだけで価値がある。それは誰にだって否定できるようなことじゃない。

 

けど、だからと言って一番であることに価値がないわけじゃない。

むしろそれは、限られた人にしか辿り着けない至高の頂。

頑張って頑張って頑張って…そうして自分の全てをかけて挑んでも、それでも誰にでも手が届くようなものじゃないからこそ、そこには価値がある。そうして勝ち取ったものだからこそ、誰が何と言おうとそれは尊いんだ。

だから、それ自体に何か言いたいわけじゃない。

 

「…でも、それって何の意味があるの?」

 

…そう、だからこそマヤは思う

 

「最強になりたい。それ自体は別に良いよ?それが立派なものなことくらい、マヤでもわかるよ?

 

…でも、それは何で?何でわざわざ最強なんて称号を、テイオーちゃんは手に入れようとするの?」

 

例えば、何か欲しいものがある。だから、それを手に入れる為に最強にならなけらばいけない。そういうのなら分かるよ?

それが必要だからこそ手に入れなければいけない、何かの目的のための手段であるというのならば、それは別におかしなことじゃない。誰でもやってることだ。

 

「…でもさ、最強を証明するために走る…それは…」

 

…それは因果の誤謬…本来何かを手に入れるべき手段であるものが目的に刷り変わっているようで…

 

「…それって、テイオーちゃんの自己満足なんじゃないの?」

 

…URAファイナルズで優勝した時のことを思い出す。

あの時、トレーナーちゃんはマヤの優勝を泣いて喜んでくれた。普段はマヤを子供扱いして、いつもふざけた態度だったあのトレーナーちゃんが、唯一あの時だけは泣いていた。

良かった、良かったって。だからあの時、それを見ていたマヤもなぜか涙が出てきて…結局ウイニングライブが始まるまで、二人で抱き合って大泣きしたのは、今となっては良い思い出だ。

 

でも、もしその時そこにトレーナーちゃんがいなかったら?

確かにマヤがしたことは偉業だと思う。でも、その喜びを本当の意味で共有してくれる人はどこにもいない。そしてマヤが成した偉業は、皆にそれを自慢できるもの以上の価値はない。だったらそれは、そんな自己満足でしかないものを追い求めることって、空しいだけじゃないの…?

 

そう問うマヤに…

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、そうだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

そうあっさりテイオーちゃんは答える。

 

…流石に即答されるとは思わなかったから、テイオーちゃんの方を見るけど、特にテイオーちゃんは変わらない。最後に見た時と全く同じで、ベッドに横たわって雑誌を読んでいるし、その表情も特に変わらない。そして、雑誌のページをめくりながら続ける。

 

「ボクが最強であることを求めるのが自己満足?

それはまさしく、その通りだよマヤ。だって、ボクが最強になりたいのは、他ならぬボク自身がそうなりたいって思ったからさ」

 

また1ページ、テイオーちゃんが雑誌のページを捲る。

 

「…でもさ、それの何が悪いの?」

 

「…!」

 

「ねぇ、マヤノ…

 

なんでボクにそんなこと聞くのか知らないけどさ、君だって夢を叶えるってことが、他の誰かの夢を壊すことで成り立つものだってことぐらい分かってるよね?

 

…少なくともキミは…他ならぬ菊花賞ウマ娘であるキミは、それを誰よりも分かってるはずだ」

 

「…」

 

…ああ、そうだ。クラシック三冠、生涯で一度しか挑めないその王冠は、日本中のウマ娘の誰もが一度は夢見たことがある、全てのウマ娘にとっての究極の栄誉の一つだ。

そして、その至高の冠の一つである菊花賞、それを手にしたマヤは、その過程で多くの対戦相手の夢を葬り去った。

 

…亡くなったお母さんとの約束のために走るウマ娘がいた。自分を応援してくれる皆のために走るウマ娘がいた。幼い頃から憧れ続けた夢を掴もうとしたウマ娘もいたし、病気の妹を元気付けるために走ったウマ娘もいた。

そんな十人十色、その場に集まった全てのウマ娘達の、様々な夢、思惑、祈り、願い、その全てを叩き潰した屍の山の上に、マヤが獲得した菊花賞の王冠はある。

だからこそ、この王冠は血に塗れている。

この王冠、マヤの持つ菊花賞の冠は、偉大なる栄光の証であると同時に、マヤが自分の夢を叶えるためだけに、立ちふさがる他のウマ娘すべての夢を壊したという証明でもある。

だからこそ…

 

「…それならさ、分かるでしょ?

 

大なり小なり、ボクたちは生きている限り、誰かの夢を自分の都合で壊さなければならない。それがどんな立派なものであろうと、尊いものであろうと、素晴らしいものであろうと、ボク達は時としてそれを壊さなければいけない、壊さなければ生きていけない。

 

…そう、ボクたちは自分が生きるため、自分の夢を叶えるため、ただそれだけのエゴ丸出しの自分本意な理由で、そんな誰かにとっての大切なものを、守りたかったものを叩き潰さずには生きていけないんだ」

 

故に

 

「…ならさ?そんなボクらの生き方を自己満足の生き方と言わずして、一体なんて言うんだろう?

 

たとえどんな理由があったとしても、人を殺すことは罪だし、その夢を、誰かの大切なものを壊すこともまた罪だ。

でもボク達はそうしなければ生きていけない。ボク達はね、生きている限りは絶対に誰かを傷つけなきゃ、生きていけないんだよ。

 

そう考えるなら、程度の差はあっても、この世に自己満足の為以外に生きる人間なんて、はたしているのかな?」

 

「…」

 

「…あはは、いじわる言いすぎちゃったかな?

 

でもね…」

 

そこでテイオーちゃんは、雑誌を畳んでこちらを向く。その目は、一切の迷いがないもので…

 

「…だからこそ、たとえ誰が何と言おうと、ボクはこれを貫く。

 

確かに、今のボクは無敗でもなければ三冠ウマ娘でもない。

だから…本当はムテキでもサイキョーでもない。

そんなことはボク自身が一番分かってる。

 

…でもボクはボクであるかぎり、ボクなんだ。だからこそ、目の前にどんな困難が立ちはだかっていたとしても、ボクがボクであり続けるために、それを乗り越えていかなきゃならない。ボクはボクはだって言い続けなければならないんだ。

 

…でないと、今までボクが進むために壊してきた色んなものにも、顔向けができないしね」

 

そう言ってテイオーちゃんは微笑んだ。

 

「だからボクは走る。自分はサイキョームテキのテイオー様だ、って言い続ける。それがボクの走る理由だよ!…これで良いかな?」

 

「…うん。ありがとう、テイオーちゃん…」

 

そう言うと、テイオーちゃんはベッドから立ち上がり、読んでいた雑誌を片付け始める。

 

「にししっ、どういたしまして!

…じゃあ、今日は早いけどもう寝よっか!電気消して良い?」

 

「…うん」

 

パチリという音がすると、部屋の電気が消える。隣からはテイオーちゃんが布団に潜り込む音が聞こえる。

 

「よしっ、それじゃあお休み~」

 

「…うん。お休み、テイオーちゃん」

 

お休みの挨拶を言い終わると、テイオーちゃんはそれっきり何も言わなくなる。マヤも何も言わない。電気を消した部屋は、もう真っ暗で何も見えない。ちょっと前の季節なら、そんな状況でも虫の声がしたものだけど、この季節は流石にどの虫も春を待つ眠りに入ったのか、外からは何の音も聞こえない。ただただ静かだ。

 

(…ボクがボクであり続けるために、か…)

 

テイオーちゃんの走る理由、それを心の中でもう一度呟く。

…成る程、確かにテイオーちゃんらしい理由だと思う。幻の三冠ウマ娘、その走る理由は、実に単純明快でサッパリしたものだ思う。

流石は皇帝を越えると言いきったテイオーちゃん。その生きざまは、まさに自身の覇道を突き進む、帝王というありかたに相応しいものだろう。

 

…そして、だからこそ思う。その理由は、才能に恵まれた彼女と正反対の立場にいるはずのネイチャちゃんのものにもよく似ていて…

 

 

 

 

「…ねぇ、マヤノ」

 

 

 

 

「…!な、何?テイオーちゃん?」

 

いきなり声をかけられ、慌てて返事をする。

 

「あはは、ごめんごめん。もう寝てた?」

 

「…ううん、まだ寝てなかったよ」

 

「それなら良かった。ごめんね、ビックリさせちゃって」

 

「ううん、それは別に良いよ」

 

「そう?それなら良かった。

 

…それでね?色々話したけど、最後にもう一つだけ良いかな?」

 

そう言うと、テイオーちゃんは語り始める。

 

「…あのさ、マヤノ。さっきはああいうこと言ったけど、別にボクは自分一人で走ることが良いことだとは思わない。

確かに、人間だれもが多かれ少なかれ独りよがりで、最終的に一人で歩かなければならないってのは事実だよ?

でもそれは、だからといって周りをぞんざいに扱って良いってことじゃない。そんなどうしようもない現実で、それでも手を取り合うからこそ、僕らは強くなれるんだ。だからこそ…」

 

そう言うとテイオーちゃんは言葉を区切る。そして言った。

 

「…だからこそ、マヤノ。ボクは思うんだ。

確かに、君が走る理由の一つはもう戻らない。君を強くしてくれた、君の言うところのトレーナーちゃんは、もうどこにもいない。今まで、君が走ってきた理由はもうなくなっちゃったのかもしれない」

 

「...!?」

 

思わずテイオーちゃんの方を見るが、電気が消えた部屋では何も見えない。テイオーちゃんがベッドに仰向けで寝ていることは分かっても、その表情までは見えない。

 

「…でもね。かつて確かにそれがあったことだけは事実なんだ。そして、一つだけ言えるのは、今走ることを止めたら、キミはそれすらも否定してしまうことになる」

 

「…」

 

「…それだけは、忘れちゃいけないよ、マヤノ」

 

「…テイオーちゃん…」

 

「…なんてね!さぁ、明日も早いんだから、いい加減寝るよ!ボクなんて、もうすぐ有マだから、もっと頑張らなきゃいけないしね!!

 

お休みマヤノ!!」

 

そう言ったきり、テイオーちゃんは寝返りをうつと喋らなくなる。すると、当然部屋は静かになるわけで、辺りにはまた静寂が満ちる。今度こそ、誰も何も言わない、真の静寂だ。

 

そんな暗い部屋の中でマヤは天井を見つめる。暗さに目が慣れてきたのか、見上げたそこの様子が少しだけ分かる。何も言わずにじっと上を見つめるマヤの目の前には、電気の付いていない電灯が、闇の中にぼんやりと浮かんでいる。

 

(「…だからこそ、マヤノ。ボクは思うんだ。

確かに、君が走る理由の一つはもう戻らない。君を強くしてくれた、君の言うところのトレーナーちゃんは、もうどこにもいない。今まで、君が走ってきた理由はもうなくなっちゃったのかもしれない」)

 

頭の中を、最後にテイオーちゃんが言ったことがぐるぐる回っている。

 

(「…でもね。かつて確かにそれがあったことだけは事実なんだ。そして、一つだけ言えるのは、今走ることを止めたら、キミはそれすらも否定してしまうことになる」)

 

どうしてか、それが頭の中から離れない。

 

(「…それだけは、忘れちゃいけないよ、マヤノ」)

 

それは、何かのヒントになるような気がして…

 

(…マヤは…)

 

布団を頭から被る。基本的に早寝遅起きなマヤにしては、珍しく眠気が全然沸いてこない。目がさえて眠れない。恐らく、しばらくは眠れないんだろうな、と思いながらそれでも寝返りをうつ。

 

…のたうち回るような熱い夏が過ぎ、その余熱が秋で冷め、季節はもう、凍えるような寒さの冬に移り変わっている。

そして、師走。誰も彼もが走り回る、年納め。一年という時間が終わりを告げつつあるこの時期は、もちろんウマ娘にとっても、その年の走り納めの時期であり、そしてその年の最後の栄誉を掴む最大の好機であり…

 

 

 

 

      有マ記念

 

 

 

…中山の地、そこで今年最後の戦端が開かれようとしていた…

 

 

 




しっとりテイオーもがきんちょテイオーも好きですが、
個人的にはやっぱりイケメンテイオーが一番好きですね。

作者としては、普段はふざけていても、本質的にはテイオーには帝王であってほしいと思っています。


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