ウマ娘三部作Firstシーズン 片翼の撃墜王 ~イカロスの黎明~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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第二部 ナイスネイチャ有マ記念編

完結です。


きっとその先へ

~トウカイテイオーside~

 

 

 

 

(…あぁ、やっと、やっとなんだねネイチャ…)

 

前にいるウマ娘達を次々にかわし、先頭のパーマー先輩にさえも食らい付かんとするネイチャを見ながら、ボクは歓喜する。

 

(やっと、その目をした君と戦うことが出来るんだね!)

 

そして、自らも最後のスパートをかけるべく、体勢を整える。大地を深く、深く踏みしめ、力を貯める。

テイオーステップ、そう呼ばれるほどの跳ねるような足裁きを可能にする自らの足のバネに、限界まで力を貯める。

 

(…それなら)

 

そしてそれを解き放った瞬間…

 

「全力で行くよ!ネイチャァァァっっっ!!」

 

ボクもまた、流星となる!

 

「おおっと!ナイスネイチャ選手がメジロパーマー選手を抜き去って、先頭に躍り出ました!だが、後方からトウカイテイオー選手もスゴイ足であがってくる!!」

 

1人、2人、3人…誰もボクについてこられない!

何人かはボクに対抗してスパートをかけようとするけど、それも無駄。ボクにスタミナを削られた子達のスパートは、普段の半分の切れ味も出せず、ボクの影を踏むことすら出来ない。

 

だから、そんなボクが目指すただ1人の相手は…

 

「ネイチャァァァっっっ!!」

 

「…っ!!テイオォォォっっっ!!」

 

「おおっと!並んだ!並びました!!1番ナイスネイチャ選手と3番トウカイテイオー選手が先頭で並びました!!激しい競り合い!一体どちらがこの争いを制するのでしょうか!?」

 

一気にネイチャへと肉薄し、並び立つ。だけど、ネイチャは簡単には抜かさせてくれない。ボクが全力を振り絞っても、全く怯むことなくついてくる!

そして…

 

(…あぁ、その目だ。その目なんだよ!ネイチャ!!)

 

絶対に負けたくない。意地でもお前の首筋に噛みついて、噛みちぎってやる。そんな殺意と闘争心に溢れたこちらを射殺さんとするような目でボクを見てくるから…

 

(そんな目をしたキミと、もう一度ボクは戦いたかったんだ!!)

 

全力をさらに越える、その覚悟でさらにボクは加速する。それはネイチャも同じようで、ボク達は2人ともさらにスピードを上げる

 

…そう、ボクの1番始めのキミとの記憶は、あの雨の日のレース場。いつものようにレースに勝ったボクを見つめるキミの目だった。

 

あの頃、ボクは天才と言われレースで負けなしだった。色んな子と、色んなレースを走ったけど、ボクは負けたことがなかったし、それを当然だと思ってた。

だから、自分が負けた時のことなんて考えたこともなかったし、ましてや敗者のことなんて気にかけたこともなかった。実際に、悔しそうにしてても、天才に負けたならしょうがない、そういう子ばっかりだったしね。

 

(…でも、キミは違った)

 

そうあの雨の日、正確にはトレセン学園の新人レース、そこでボクはキミに出会った。いつものようにレースに勝ち、当たり前の歓声を浴びるボクは、ふと自分を見る誰かの目線を感じた。それがあまりにもおぞましく、冷たいものだったにも関わらず、同時に燃えるように熱いものだったから気になって振り向いたボクは、あの時始めて真の意味でキミに出会ったんだ。

 

 

「さぁ、ゴールまであと200メートル!200メートルです!これは二人の一騎討ちだ!一位争いはまだ続いている!これはどちらが勝つのでしょうか!?」

 

ワアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァアアアアアッッッッ!!

 

 

実況の言葉にレース場が震える。すでに観客席の熱狂は最高潮だ。そんな周りを尻目に、ボク達は互いに競い合う。もう周りには誰もいない。一対一、それこそが今のボクとネイチャの状況だ。

 

(だからボクは待ってたんだ)

 

そうだからこそ、ボクは望んでいたんだ。もう一度、あの目をした君と戦いたいって。

今は違うけど、あの頃ボクは、勝つっていうのがどういうことか、よく分かってなかった。

相手の夢を壊してでも、自分の夢を叶える覚悟、それがあの時のボクにはなかったから、正直な話ボクはあの後キミの目が怖くて部屋で震えてたんだよ?

だからこそ、それに気付いたときにボクは思ったんだ。絶対無敵の帝王になるには、あの目をしたキミを正面から倒さなきゃならない。ボクが今まで砕いてきた夢に責任を持たなきゃならない。

それになにより…絶対にそんな目をした人間は強い。だから、正面から戦い、そして勝ちたい、そう思ったんだ!

 

大地を踏みしめる。今この瞬間、ボク達の実力は完全に拮抗していた。お互いがお互いに相手を抜き去ろうとするけど、実力が完全に同じために、それが出来ない。堂々巡り。それは忌むべき停滞ではあったけど、同時にそれは…

 

(…強く、なったんだね。ネイチャ…)

 

あの時ボクに歯が立たなかったキミが、ようやくボクと同じステージに上ってきてくれたってことで…

次は絶対に勝つ、そんな目をしていたキミが、やっと約束を果たしにきてくれたってことで…

 

だから…

 

(…!!)

 

瞬間的に脳裏に閃くのは火山のイメージ。何億年もの時間をかけて力を溜め込んだ火山。それが一気にその内に溜め込んだ力を爆発させるイメージで…

 

 

 

「…おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

 

 

「!!テイオー!テイオー選手だ!!僅かに、ほんの僅かずつだが、ネイチャ選手を引き離し始めているぞ!!」

 

「しかも徐々に、テイオー選手の勝負服が姿を変えていきます。これは…!!」

 

そんな灼熱の大地の中で、ボクは目の前に現れた光る羽をつかみ取る。

するとその羽から膨大な力と光があふれてくる。そして…

 

 

 

 

「...!!」

 

 

 

 

 

オオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ!?

 

 

 

 

 

 

隣を走るネイチャからの驚愕の視線と共に、観客席から驚嘆の声が上がる

 

…そう、故に今のままなら共倒れになりかねないということであり、その突破方法は…

 

「こ、これは!テイオー選手の勝負服が変化しました!」

 

「驚きましたね。こんな土壇場でウマ娘として新たなステージに到達するなんて…」

 

全身にあふれるその力を開放するとともにボクは炎に包まれる。そして、

それを突っ切った僕の勝負服は、以前のものとはまったく違うものになっている。

これまでの白と青を基調とした、貴公子然とした勝負服が、煮えたぎる灼熱の大地

の力をそのまま凝縮したかのような赤い勝負服へと変わる。体の底から無限の力が湧いてくる。

 

「おおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!」

 

…簡単だ。実力が拮抗しているのなら、どちらかが片方よりも強くなれば良い。端的に言うならば覚醒すれば良い。そしてボクには、レースの天才たるボクにはそれが可能であり…

 

「さぁ、ゴールは残り後わずか!先頭はトウカイテイオー選手!このままいってしまうのか!?」

 

「うおおおおおおおおおっっっ!!!」

 

炎をまとい、ボクは吠える。

 

僅かに、ほんの僅かに空いたネイチャとの距離は縮まらない。縮まらない!ならば!

 

「最強はぁぁぁぁっっっ!ボクだぁぁぁぁっっ!!」

 

ゴールまであとわずか数十メートル。そこにボクは叫びながら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あぁ…またか)

 

僅かに、本当に僅かに自分よりも前に行くテイオーを見ながら、どこか冷静にアタシは思考していた。

 

(…また、届かなかったのか)

 

時速60キロを越えるスピードでレースをしているはずなのに、どこか時間の進みが遅い。乾いた風の匂いも、踏み砕いた地面から跳ねあがる土の感触も、自分の異常なまでに跳ねあがった体温も、客席の歓声も、全部分かるのに、どこか時間が止まったかのような感覚…

 

恐らくは一般に言うゾーンという感覚の中で、アタシは静かに絶望する。

 

(…あんなに、あんなに頑張ったんだけどな…)

 

若駒ステークスに皐月賞、そして日本ダービー。どのレースでも、アタシはテイオーに勝ちたいと願い走り続け、そして負けた。だからアタシは頑張った。地方に遠征して、色んな重賞レースに出て経験を積み、宝塚記念みたいなG1でも、1番にこそなれないけど結果を残せるようになった。だから、勝つ。今回こそ勝ちたいと思ってたのに…

 

(…結局、こうなるのか…)

 

それでも伸ばした手は届かない。ほんの僅か、それこそあと少し手を伸ばせば届く距離、それが届かない。

 

(…まぁ、いつものことか)

 

だからもう、アタシもいい加減疲れちゃって…

 

(結局無理なんだよ…天才に勝つなんて…)

 

アタシ、頑張ったんだよ?だからさ、もう、良いよね?もう、諦めても――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネイチャちゃん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉で我にかえる。世界の時間が進み始める。弾かれたように声の方を見たアタシの目に映ったのは

 

 

 

 

「頑張れぇ!ネイチャちゃぁぁぁぁん!!」

 

 

 

マヤノ、あたしの大切な友達。その時、必死にアタシを応援するマヤノを見た瞬間に、アタシの脳裏にいつかの喫茶店での会話が甦る。それは間違いなくアタシが話したことで…

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

「…あたしが諦めなかったのはね、トレーナーさんに出会ったからなんだ」

 

「ネイチャちゃんのトレーナーさんに?」

 

「そう。多分あの人がいなかったら、アタシいまここにいないと思うんだ。」

 

そう答え、アタシは続ける。

 

「言ったとおり、あの頃のアタシの成績は3位ばっかり。どんなに頑張っても1番になれない。だからもう限界だって思ってた時にあの人に出会ったんだ」

 

今でも思い出す。トレセン学園からの帰り道、声をかけられ後ろを向くと、何だかよく分からないドロドロのお化けみたいなのがいて、流石にびっくりしたアタシはそれに思いっきりキックをかまして…

 

「…で、それがよく見たら人間だって言うんだからアタシも大慌て!

急いで救急車を呼ぼうとしたんだけど、すぐに飛び起きてまた話しかけてくるもんだから、本当に妖怪か何かと思ってアタシその場から逃げちゃってね。

後日正式に話すことが出来たんだけど、それがアタシとトレーナーさんとの出会い」

 

そう話すと、マヤノはかなり微妙な顔をする。

 

「えっと…初対面でトレーナーちゃんを弾き飛ばしたマヤが言うのもなんだけど…すごい出会いだね…」

 

「でしょ?よく言われるんだ」

 

「…ちなみにその、ネイチャちゃんのトレーナーさんは…」

 

「うん、無傷。

…正直何で?って今でも思うけど、あの人どうも昔からかなりの不幸体質みたいでね…色々な目に会ううちに体が丈夫になって、今ではうま娘のキックに耐えられるくらいにまでなったんだって」

 

「…ねぇ、それ本当に人間なの?ネイチャちゃん?」

 

アタシに聞かないでほしい。と少し話題が逸れたところで、アタシはまたマヤノに話を続ける。

 

「…で、そういうわけでアタシは今のトレーナーさんと出会ったんだけど、契約する時にあの人はアタシに言ったんだ」

 

そこで、コーヒーを一口含む。

 

「…俺は何があってもネイチャを信じてる、ってね」

 

そして、それは文字通りのものだった。

 

「…アタシはメイクデビューまで何回か未勝利戦を戦わなきゃいけなかった。そして、いざメイクデビューしてもこれといった成績は…少なくともG1勝利は今まで一度も達成できていない。それに、ライバルだって思ってるテイオーにも未だに勝てていない。だから、トレーナーさんの負担はかなりのものだったと思うし、今でも迷惑をかけている」

 

なにせ勝てないのだ。トレーナーという職業は、極論ウマ娘を勝てるように育てる仕事だ。

だから彼らには担当ウマ娘を勝てるようにする義務があるし、逆に言えばそれが出来なければ職務怠慢といっても良い。

それを考えると、アタシのような中々勝てないウマ娘を担当するのは、自身の評価を上げることが出来ないために不利であり、また勝てるように育てる方法を他のうま娘よりも多く試さなくてはならないため、トレーナーにとっては負担ばかりが大きく、自身の評価にも繋がりにくい、嫌な仕事ということになる。

 

今でこそ重賞をいくつか取っているからまだ良いが、実際にトレーナーさんが同僚に陰口を叩かれているのを見たことがあるし、彼が他のトレーナーよりも夜遅くまで仕事をしてるのもアタシは知ってる。詰まるところ、アタシはトレーナーさんにとっては不良物件なはずなのだ。

 

「それなのに、あの人は嫌な顔一つしない。それどころか、どんなにアタシが負けても、「ネイチャなら大丈夫!次は必ず勝てるって信じてる!」って笑ってるんだ」

 

だから、アタシは一度聞いたことがある。あなたはどうしてアタシのトレーナーをしてくれるのか、どうしてアタシをそんなにも信じてくれるのか、って。

 

「…なんて言ってたの?」

 

「…アタシの目を見たから、だって」

 

「…目?」

 

ぱちくりと目を見開くマヤノにアタシは続ける

 

「実はトレーナーさんが始めてアタシのことを見たのは、トレセン学園の新人レースだったみたいで、その時にアタシを見たんだって」

 

もっとも、その時はアタシの名前を知らなかった上に、いつも通りトラブルに巻き込まれて、不幸にもアタシに声をかけることすら出来なかったようで、アタシが始めてあったと思った時にはかなり時間がたってたみたいだけど…

それはまあ、それはともかく、

 

「その時に見たアタシの目に一目惚れしたんだって」

 

トレーナーさん曰く、あの時のアタシの目は正直ヤバかったそうだ。腹を空かせた狼のように、相手の首筋に噛みつくことだけを考えてる。次こそは絶対に殺ると、そういう決意に満ち溢れた闘争本能と殺意に溢れたギラギラした目

 

「…それって誉めてるの?」

 

「まぁ、これだけ聞くとヤバイよね?

…でもトレーナーさんは最後に言ってたんだ」

 

そんな目をした奴は、絶対に自分の狙った獲物を逃さない。血反吐はいて泥水すすろうと、自分に対して嘘だけはつかない。どんなに苦しくても、自分の目指すものだけは絶対に諦めない。そんな自分の夢に対する並々ならぬ覚悟を称えた目に惚れたんだ、ってトレーナーさんは言ってたんだ。

 

「…正直な話、女の子に話す内容じゃないよね?でも、トレーナーさんがそう言ってくれたから、アタシは頑張れた。アタシが夢を見ることをあの人は肯定してくれた。だから、アタシはもうちょっとだけ走ってみようって思ったんだ」

 

そう言うとマヤノは私に聞いてくる。

 

「へえ~、じゃあトレーナーさんがネイチャちゃんの走る理由なの?」

 

だから私は答える

 

「…ちょっと違うね。あたしの走る理由は…

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れぇ!ネイチャちゃん!!」

 

「もうちょっとだよ!ネイチャちゃん!!」

 

「大丈夫だぁ!俺達がついてる!!」

 

「…!!」

 

気が付くと、マヤノの他にも観客席には沢山の人達がいた。レース場の一角を埋めるその人達は、アタシの家族だけでなく、商店街のおじさんやおばさん、そしてトレセン学園の下町のおじさんやおばさん、他にも、他にも沢山の人達がいた。そして、そんな沢山の人達がアタシのことを一生懸命に応援してくれている。

 

…そう、それはまさしくアタシが今まで頑張ってきた集大成。今までの人生の中でアタシと出会い、そして応援してくれるようになった人達が皆そこにいて…

 

「…ぁ」

 

そして最後に目に入ったトレーナーさん、こんなアタシのことを信じ、ここまで付き合ってくれたアタシのトレーナーさんが、

 

「…!!」

 

いつもと同じ、アタシの勝利を微塵も疑っていないような目で見るものだから…

 

 

 

 

 

 

「…アタシ」

 

…燃え尽きたはずだった

 

「…アタシは」

 

…諦めるはずだった

 

「…………………アタシは!!」

 

…だけど!!

 

 

 

 

「勝つんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!」

 

絶叫と共に大地を踏みしめる。

 

「あっ、1番ナイスネイチャ選手!僅かに空いた距離を詰め、今トウカイテイオー選手と並びました!!」

 

「…なっ!?」

 

実況により盛り上がる客席の熱狂も、隣で驚くテイオーの驚愕も、今のアタシには何の関係もない。ただアタシは走る。

 

もう、アタシには何も残ってない。ゴールまで走りきるだけのスタミナも、土壇場で覚醒することができるだけの才能も。アタシにはもうホントに何もない。だけど!!

 

再び大地を踏みしめる。

足よ砕けろ!

そんな覚悟で踏み込んだ大地は、その表面を見事に陥没させながらも、力強くアタシを押し出してくれる。

 

「…く!?」

 

隣でテイオーが慌てたように加速する。だが!

 

「うおおおおおおおおおっっっ!!!」

 

知らない!そんなこと知ったことではない!!ただただ、アタシはがむしゃらに走り続ける!

 

そうだ!アタシには何にもない!マヤノのような天才的な直感も、テイオーのような溢れんばかりのレースの才能も、アタシには存在しない!

アタシは本当に普通の、どこにでもいるウマ娘だ!だけど!!

 

足が痛い、胸が痛い、頭が痛い、腕が痛い。辛くないところなんてどこにもないし、体中が痛くて痛くてたまらない。だけどアタシはそれでも前を向く。ゴールの先、大切な人達を見つめ続ける。

 

そうだ!それでもアタシには応援してくれる人がいる!こんなアタシのことを大切に思ってくれる人達がいる!だったら!

 

(気合いでも根性でも何でも良い!)

 

だったら!その人達のためにも!自分に残ったもの全部かき集めてでも!

走りきらなきゃ嘘じゃないか!!

 

「さぁ、いよいよゴールが近づいてきましたが、両者横並びで一歩も譲りません!これは一対どうなってしまうのでしょうか!!」

 

不意に実況の声が遠くなる。自分が今どうやって走ってるのかさえ分からない。本日二回目のゾーンに入ったアタシはしかし、あまりにもレースに集中し過ぎて、逆に自分の感覚を知覚できない。

 

だが、それでもアタシは前に進む。ボロボロの肺で息を吸い込み、ズタズタの足を一歩踏み出す。

 

時間感覚も曖昧だ。あれから一秒たったのか、それとも一年たったのかすら、アタシには分からない。ただ、それでもアタシは足を前に出す。

 

そうだ、例えこれから100万光年の先にゴールがあったとしても、アタシは変わらず足を前に出す。進み続けてみせる!

 

なぜなら、アタシの走る理由は――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…気が付けば、アタシはゴールしていた。極限まで体を酷使したせいか、座り込むことや寝転ぶことはおろか、その場から一歩も動くことができない。ただ、その場に佇むことしかできない。

 

「...」

 

故に不思議で仕方がなかった。もう終わってしまったのかと。現実感というものが皆無だった。だから、アタシはバカみたいにその場に立ちすくみ、辺りを見回す。

 

するとふと、これまで一着争いをしていたトウカイテイオーが、隣で芝に寝っ転がっているのを見つける。彼女は腕で顔を覆っているため、表情は読めない。だからアタシには、彼女が泣いていることくらいしか分からない。

 

そう、アタシにはこの時なぜテイオーが泣いているのか、それが分からなかった。だからこそ、何となく上を見上げたアタシは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………ぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして掲示板に記された自分の名前の横に記された文字を見て…

 

「あぁ…そっか…」

 

全てを悟る。それが今年の有マ記念の結末。アタシのこれまでの努力の集大成。掲示板に書かれていた数字はつまり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1着ナイスネイチャ!ナイスネイチャ選手です!

ついに、ついにナイスネイチャ選手が初めてのG1の王冠を!年末最後の冠をその手に掴みました!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場が一気に沸き立ち、熱狂に包まれる。

 

それはあの雨の日、アタシではなくテイオーが浴びていたもの、いやそれ以上のものであり…

 

(あぁ…)

 

だからこそ、アタシは気が抜けて膝から崩れ落ちる。そして空を見上げる。その空は、どこまでも、どこまでも青く、青く晴れ渡っていて…

 

…その日、アタシは遂に因縁のライバルに、初めての勝利を収めたのだった。

 




少女は走った。傷ついても傷ついても、それでも走り続けた。



…そして遂に、彼女は天蓋へと至る。
羽を持たない少女は、それでも執念だけで空へと至ったのだ。



それを見た別の少女は、そこに何を思うのか…
次回後日談を挟んでから、第三部開幕です。


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