ウマ娘三部作Firstシーズン 片翼の撃墜王 ~イカロスの黎明~【完結】 作:DX鶏がらスープ
コロナで予約している人以外は入れなかったので、泣く泣く退散しました。
おのれ〇ィケイドォォォ!!(逆恨み)
旅人と皇帝
正門のゲートの前には生徒会長がいた。
「ふむ、もう良いのかね。せっかくの友達の晴れ舞台だろうに」
「…ルドルフ会長?」
今はウイニングライブの真っ最中。だから会場から出ても誰もいないだろうって思ってたのに、思いもよらない人と出会ってしまった。
「…どうしてここに?」
「別におかしなことでもないだろう?私はトレセン学園の生徒会長だ。
故に、できる限りその生徒達の活躍は生で見ておきたいと思っている。まぁ、もちろんそうは言っても全部見るのは無理だが、それでも最低G1くらいはなんとか見れるように努力していてね。今日もその一貫だよ。」
「…はぁ」
なんて言葉を交わすけど、流石に相手が予想外過ぎて、話題が続かない。だから必然的にその場に満ちるのは沈黙。コンクリートの床は、その冷たさと同じくらい強固に静けさを保っていて、クリスマスのイルミネーションで飾られた正門は、薄闇の中でもぼんやりと明るい。遠くからわずかに聞こえる、いまだに熱狂が冷めないライブ会場の歓声が、その場の静けさを余計に際立たせているようにも思えた。
「それで」
そんな静けさを破るように、会長はマヤに問いかける。
「もう一度同じことを聞くようだが…良いのかね?最後まで見ていかなくても。」
会長がさっきと同じ質問をする。
…何を?…なんていうのは流石に野暮かなってマヤも思うけど、まぁ言いたいことは分かる。
ワアアアアアァァァァッッッ!!
後ろからまた歓声が上がる。今マヤが抜け出してきた会場では、まだネイチャちゃんが頑張っているみたいだ。
ウイニングライブ。レースの勝者のみがセンターに上がることができるそれは、マヤ達ウマ娘の憧れであり、同時にレースと同じくらい大事な時間。そして、そんなウイニングライブの今日の主役は、この有馬記念を制したネイチャちゃんだ。
「マヤノトップガン、君は彼女の友人だろう。最後まで見てあげてはどうだね?その方が彼女も喜ぶと思うのだが」
だからこそ会長の言ってることも分かる。別にマヤだってネイチャちゃんが勝ったことを喜んでいないわけじゃない。むしろ、あんなに頑張ってたネイチャちゃんが、やっと望んだものを手に入れることが出来たんだ。マヤも心からお祝いしたいって思ってる。だからさっきまでマヤもウイニングライブを見てたんだけど…
「…ううん、もうこの場所にマヤがいる意味はないよ、会長」
「ほう?」
でもそうやってネイチャちゃんのライブを見てて、マヤは思ったんだ。
「あそこには今、たくさんの人達がいる。そして、そこにいる人達は皆ネイチャちゃんを応援してくれている。
だったら、わざわざマヤが残ってる意味はないかなって」
そう、今行われている有馬記念のウイニングライブ。そこにはネイチャちゃんが今まで走ってきた中で、彼女の走りに惹かれ、応援してきたすべての人達が集まっている。
それはネイチャちゃんのトレーナーさんや家族はもちろん、彼女の実家のバーの常連客や、トレセン学園の下町の商店街の人々、遠征先で仲良くなった人々や、これまで彼女を応援し続けたファンの皆、その全てが今あそこにいる。そして、そんな全ての人達と一緒にネイチャちゃんは今、生涯最高のキラキラを共有している。それはまさに彼女の今まで歩んできた証そのもの。幾度もの苦難と試練を乗り越え、今この場にたどり着いた、彼女の生きざまそのものなのだ。だからこそ…
「…別にマヤはネイチャちゃんが嫌いなわけじゃないよ?
ただ、マヤがあそこからいなくなっても、他の皆がマヤの分までネイチャちゃんの晴れ姿を見守ってくれるって話。
それならマヤが途中で抜けても大丈夫。
きっと今マヤがいなくても、ネイチャちゃんはこれまでで1番キラキラできるから…」
…だからこそ、マヤはそんなウイニングライブの会場から途中で抜け出してきた。
なるほど、確かに自分は彼女の友達だし、彼女が祝ってほしい人達の中に確実に自分も入っているのは分かってる。
事実、マヤも本心から祝福したいと思ってるけど…それでもやはり、今回の主役はネイチャちゃんなのだ。ならその勝利の喜びは、いつも近くにいる友達よりも、これまで純粋に彼女を応援してきた人達に譲るべきだろう、そう思うのだ。
それに、今ここにいる人達に比べて、マヤはまたネイチャちゃんに直接会う機会はいくらでもある。そして、直接その時にお祝いを言うこともできる。それなら、別に今という時に拘る必要はない。
もちろん、ウマ娘にとって最高の晴れ舞台であることは分かっているから途中まではマヤもちゃんと見ていたんだけど…そういうわけで、マヤは途中で抜け出すことにしたのだ。
それに…
「…それにね、会長。マヤわかっちゃったんだ」
真っ直ぐ会長の目を見てマヤは言う。会長は何も言わないけど、目で続きを促してくる。
「あのレースと、そしてライブを見て、ようやくマヤもわかったんだ。マヤが今まで何のために走ってきたのか、マヤがこれから何のために走らなきゃいけないのか。そして…」
イルミネーションが静かに光る正門の前の空間にいるのは、今はマヤと会長の二人だけだ。だからこそ、必然的にそこは閑散としていて寂しい場所なのだが、目の前に立つ会長の存在感はそんな場所であっても微塵も揺るがない。それこそまるで、荒涼とした野原の真ん中に佇む広大で頑強な門のようだ。
汝、証を見せよ。然らずばここは通さぬ。
そんな確たる意志を持って目の前に立っている会長の目を真っ直ぐ見つめて、マヤは言った。
「…今、マヤが何をしなければならないのか、それがわかったの。だからお願い会長、そこを退いて」
「…」
ワアアアアアァァァァッッッ!!
またも歓声が上がる。会場の熱狂までは流石にここまで届かないが、それでも声だけは届く辺り、本当にライブが盛り上がってるのは分かる。
ネイチャちゃん、恥ずかしがりすぎて爆発してなきゃ良いけど…
そんな思考がふと脳裏をよぎる。
…ネイチャちゃんは強いウマ娘だ。でも、それをネイチャちゃん本人は頑なに認めようとしないから、ネイチャちゃんはいつも自己評価が低い。だから、ちょっと誉められただけでも彼女は顔を真っ赤にして全力で否定してくる。
それを考えると、目の前の何万人という観客からエールを送られているであろうネイチャちゃんは、今頃どうなっているのかな…なんて考えた時だった。
「…なるほど」
ポツリと呟くと
「わかった。ならば行くが良い」
そう言うと会長はすっと脇により、道を開ける。
「…いいの?」
「良いも何も、ここは天下の公道だ。別に私の私有地でもなんでもない。故に私が君の通行の邪魔をして良い理由など、もとからない。それに…」
そこで、会長はフッと微笑む。
それは、現れてから今に至るまで、一切の感情の色をマヤに見せなかった会長が始めてマヤに見せた笑顔で…
「今の君なら、きっと大丈夫だ」
「…!!」
会長の前を通りすぎ、正門のゲートを潜り抜ける。ここを抜ければ後は走るだけだ。だけどその前に、マヤは一度だけ振り返ると
「会長…ありがとう!」
「あぁ、健闘を祈ろう」
佇む会長に頭を下げると、今度こそ外に向かって駆け出していく…
・・・・・・
シンボリルドルフside
「…これで良かったんですか?会長…」
マヤノトップガンが出ていくのを見つめていると、後ろから声がした。
だから私は振り返ってその声の主の問いに答える。
「あぁ、これで良かったんだよ。エアグルーヴ」
「…」
そう言うと声の主、生徒会副会長のエアグルーヴは何とも言えない表情を浮かべ、私と同じようにマヤノトップガンが去っていった方向を見つめる。外はもうすっかり暗くなっている。
したがって、とっくに寮の門限も過ぎているが…まぁ、流石にこういう時に外出届を出していないということはないだろう。とすると、後は無事に帰り付くことを祈るのみだ。
「…正直、私は彼女が心配です」
私がぼんやりと彼女のことを考えていると、エアグルーヴがぽつりと呟く。
「…確かに、彼女とトレーナーのケースは珍しいものです。
トレセン学園ではトレーナーとウマ娘の契約破棄はそれなりにあることですが、それでも流石にどちらかの死別という形でのものは滅多にありません」
それはそうだ。トレセン学園は日本一のウマ娘の名門にして、同時に日本屈指の伏魔殿。故に、そこで行われるウマ娘達の生存競争は熾烈を極めるものであり、途中で脱落する者も多い。
そしてこの場合、当然その脱落者はレースに勝てないものであり、それは例えトレーナーが付いていても変わらない。故に途中で心が折れ、自らトレーナーに引退と契約破棄を提案する子は毎年一定数存在する。
また、トレーナーの方にしても一身上の都合などによりやむを得ず契約破棄に至るケースもそれなりに存在する。それらを考慮すれば、ウマ娘とトレーナーの契約破棄というのは、そう簡単に行えるものではないが、実は全体として見れば珍しいものでもないのだ。
だが、それでもその契約がどちらかの死亡により破棄されることは滅多にない。だからこそ…
「ですから、それにより彼女が部屋から出てこなくなったと聞いた時も、驚きはなかったというのが私の感想です。
むしろ同情しました。
まだ精神的に幼いところがみられる子だっただけに衝撃は大きかったでしょうし、彼女は件のトレーナーにかなり懐いていたそうでしたから、なおさらです。
…ですが」
そこで彼女は一度口ごもると、また話し出した。
「…だからこそ、心配です。
正直私は普段は彼女と関わりがあまりないので、彼女を深いところまで理解できているかと聞かれると、疑問が残ります。
ですが、以前ブライアンが彼女にレースを挑んだ時の状態はひどいものでしたし、最近はようやく外に出ることが出きるようになったとはいえ、彼女の知り合いからは、彼女から以前ほどレースへの情熱が感じられなくなっていると聞きました」
そして心配そうな顔をして私にエアグルーヴは問う。
「本当に我々は彼女を行かせて良かったのでしょうか…
ともすれば最悪…」
「いや、彼女は大丈夫だよ。エアグルーヴ」
彼女はもう二度と走ろうとしなくなるのでは…
そう言いかけたエアグルーヴを私は遮る。
「さっきの目を見たかい?あれは自分の道を見つけた者の目だよ。あれならきっと彼女は大丈夫だ」
そう、確かに最初彼女に言ったことは本当だ。
我々はトウカイテイオーやナイスネイチャ、彼らのようなトレセン学園の生徒達の戦いを見るためにこの中山を訪れ、そして偶然彼女を見つけた。
だから我々は彼女を観察していたのだ。トレーナーを亡くし、走る理由もなくした不安定なマヤノトップガン、彼女と直接話し、その現状を確かめるために。もっとも…
(あれなら大丈夫だな)
と密かに嘆息する。
あぁ、もっとも私が声をかけた時、彼女はすでに何かを決意していたように思えた。そしてそれは、後ろ向きなものではなく前向きなものであり、故に前に踏み出すことを決めた挑戦者の目を彼女はしていた。だから私は彼女を信じる。信じられる。
それに…
「それにな、エアグルーヴ。あの子はかつて、ブライアンを救ったんだ。私でさえも救えなかった、あのブライアンを」
そう、それがもう一つの理由。あの子はかつて、自身の限界を悟ってレースの世界から去ろうとしたナリタブライアンを、その純粋さと走りで救ったことがある。何度私が説得しても、考えを変えることが出来なかったブライアンを、彼女はいとも容易く救ってしまったのだ。私はそれを覚えている。だから…
「例え翼を失っても、イカロスにはまだ足がある。地平線の彼方にある太陽に向かって、歩き続けることができる足がね。ならば…」
私もまた、マヤノトップガンが通っていったゲートをくぐり、正門の外に出る。12月の空気は冷えきっており、骨の髄まで染み入るような寒さが私を襲う。だが、見上げた広大な夜空には星が輝いている。ひとつひとつは小さくても、それが無数に浮かぶその空は、まさに星の海といった言葉が相応しいもので…
「信じよう。彼女もまた、歩き続けられることを。
なに、かつてあの子はブライアンを救ったんだ。そして、それが出来る子だから、ブライアンは彼女に惹かれたんだ。ならばそんな彼女がこのまま起き上がらないなんてことがあるはずがないだろう?」
私は詠う。満天の星空の下、翼を失い地に落ちた、かつての勇者の復活の預言を朗々と寿ぐ。
…そうだ皇帝とはすなわち王の中の王。そして、王とは古来より神から王権を託された者をさす言葉。それならば、皇帝と呼ばれる私の言葉は、神より授かった神聖なる預言の言葉でなくて何であろう。そして神の言葉、すなわち福音の役割は…
「自分を幸せに出来ない者に、人を幸せにすることは出来ない。
ならば逆説的に、人を幸せにすることができる者は、自分をも幸せにすることができるという言説が成り立つはずだ。であれば…」
冬の空はどこまでも、どこまでも透き通っていて…
「君ならもう一度立ち上がれるよ、マヤノトップガン。
心配するな。ダイダロスだって相当しつこく生き続けたんだ。ならば、息子のイカロスもそうでない道理はないだろう?」
ピークを迎えたウイニングライブの歓声が、そんな空に吸い込まれていったのだった…
ちなみにとある事情のため、
この世界のエアグルーヴとマヤちゃんにはほとんど面識がありません。
理由は…直接描写することはありませんが、そのうち分かると思います。
まぁ勘の良い方はもうお気づきだと思いますがね…
それから、そこ!ルドルフ会長のことを黙示録の偽預言者みたいとか言っちゃダメ!
(実は作者もちょっと思ったけど)せっかく頼れる皇帝として頑張ってくれてるんだから、ちゃんと肯定してあげないと…
あっ…
エアグルーヴのやる気が下がった!!