ウマ娘三部作Firstシーズン 片翼の撃墜王 ~イカロスの黎明~【完結】 作:DX鶏がらスープ
今回のレースが何のレースかは、次の話で明示しますが、
それでも描写から感づく方はいるかと思います。
ですから先に謝罪しておきますが、
そのレースの一番人気の馬をナリタブライアンと交換しています。
そのとある馬のファンの方々には申し訳ありません。
それから、誤字報告をしてくださる皆さん、
いつも本当にありがとうございます。
作者も可能な限りチェックしているつもりなのですが、
それでも見落としがあるのは本当に申し訳ありません。
そんなこの小説ですが、
是非今後も読んでくださるとうれしいです。
ジリリリリリリリリリリリッ!!
…目を開ける
今が朝だということを認識すると共に、目覚まし時計を止める。
基本マヤは朝起きるのが苦手だ。だから、普段なら目覚ましを止めてもそのまま二度寝に持ち込むんだけど…
(…今日はそういうわけにもいかないよね)
そう思うと共に布団をはね除け、ベッドから立ち上がる。
ここは京都のとあるビジネスホテル。自分の部屋ではないから、当然同居人のテイオーちゃんもいない。
つまり、カーテンの隙間から差し込む朝日が、同室のテイオーちゃんの睡眠の邪魔になるということもない(もっとも、いつも朝早くから自主練しているテイオーちゃんが、マヤより遅く起きることなんて絶対ないけど)。
だからこそ、マヤはカーテンを一気に開け放つ。一瞬眩しさに目が眩んだものの、そこに広がるのは雲一つない青空。
日本晴れ。まさにその言葉通りの空をしばらく眺めていたマヤは、くるりと後ろを向く。するとテーブルの上に置いてあったカレンダー、4月27日と書かれたカレンダーに目が行く。それはとりもなおさず今日の日付であり、そして…
(…ブライアンさん)
それを見てマヤは少しだけ、数ヶ月前の彼女とのやり取りに思いを馳せるが、しかし途中でやめる。何故なら…
(…色々と迷惑かけてごめんね、ブライアンさん…だけど)
着替えを終え、荷物の準備も終えて、ドアの前に立つ。
扉とは、古来より境界を仕切るものだ。吸血鬼が招かれなければ家の敷居を跨ぐことが出来ないように、それそのものが内と外を区切る境界であると言っても良い。であるならば、ビジネスホテルの固く冷たい扉が、言葉通りの意味で、外の世界と部屋の中を隔てているというのも当然のことだ。
だからこそ、マヤはドアノブを捻る。閉じきった世界から、外の世界へと一歩踏み出す。そして…
(…マヤは勝つよ。ブライアンさん)
そう思いながら、マヤは光溢れる外の世界へと一歩を踏み出す。それは今日の戦い、マヤにとって自身の運命を定めるための最後の戦いもまた、今この瞬間から始まったということであり…
・・・・・・
「お~い!テイオー!こっちこっち~!!」
「ちょっ、ちょっと待ってよネイチャ~!」
恐ろしいまでの晴天の下、ごった返す人混みをかき分け、こちらにやって来たテイオーが、肩で息をしている。
「ぜぇっ、ぜぇっ」
「ちょっとなに息切れしてるのよ、テイオー。ずいぶんとまた大げさね?」
いつも生意気で、元気一杯のテイオーにしては珍しく弱っている様子だったから軽口を叩いてみたんだけど
「ぜぇっ、ネ、ネイチャこそ…
ぜぇっ、ど、どうしてそんなに平然としてるの…ぜぇっ、わ、ワケワカンナイヨー!」
などと言われたので、流石に困惑する。
「え?いやだって、別に長距離のレースをしてるわけでもないんだし、このくらい余裕でしょ?」
そう言うと
「この人混みを!一切止まらず!普通にすり抜けるネイチャがおかしいんだよ!」
とテイオーが言うので、アタシは周囲を見回す。確かに、周囲には本当にものすごい数の人がいる。それこそ東京の朝の通勤ラッシュに勝るとも劣らない状態で人々がすし詰めになっている。
そう、アタシ達は今京都競バ場にいる。
と言うのも、今日この場所で行われるレースにアタシとテイオーの共通の友人が二人も出場するからだ。
と言うわけで、ちょうど週末なのを良いことに、新幹線や電車を乗り継いで、アタシ達は泊りがけでここ京都の地にいると言うわけだ。
そして、いよいよ今日のレースのパドックが始まるということで、少しでも前の方に行こうと二人で人混みに飛び込んだ結果がこの有り様なのだが…
「まぁ、確かに物凄い人混みだけど…単に人が多いだけだし、殺意や憎悪が飛んでこないだけでも大分マシだよ。このくらい血で血を洗うあの商店街のバーゲンセールに比べたら全然…ね?」
「…ネイチャ、キミの言うバーゲンセールって、一体どこの魔界の一丁目のことなんだい?」
テイオーが真顔で聞いてくるが、アタシは答えず、つーっと目線を反らして遠い目をする。そしてそんなアタシを見てテイオーが怯えているが…いや、本当にあれは、あの戦場に立ったことのある人間にしか分からないし、分かってはいけない。少なくとも、あんなラグナロクじみた地獄の戦場のことなんて、一般人が知る必要は一切ない。
…テイオー…世の中にはね、知らなくて良いこともたくさんあるんだよ?
…まぁ、それはともかく
「でもちょっと普段見ないくらいに人がたくさんいるってのはそうね。一体何人の人が今日のレースを見に来てるのかな?」
そう言ってアタシは再び、周りを見渡すが、人の数が多いのは変わらない。むしろ全体を見たことでいかに人が多いのかがより理解できる。
人 人 人
天候に恵まれた今日の京都競バ場には、それこそいちいち数えていたら人という文字がゲシュタルト崩壊しそうなほどの人数が詰めかけ、レースの開催をいまかいまかと心待ちにしている。
「どうだろうね?さっきそこに置いてあったリーフレットだと、ここって約12万人を収容出来るらしいんだけど…この様子じゃその倍くらいはいるかもね」
そして、やっと復活したらしいテイオーが言うように、その人数は並みのものではない。実際12万人が収容できるレース場がギッチギチに詰まってるなんて、流石にそうはないだろう。それは余程このレースに対する世間の関心が高いということであり…
「あ!ネイチャ、パドック始まるよ!!」
隣のテイオーの声で我に帰る。そして、アタシがパドックに目を向けると
「4番マヤノトップガン選手」
ワアアアァァァァァァァッッッ!!
パドックの中央に進み出て、マヤノがポーズを決めている。その様子は特に気負うところのない自然なもので、笑顔で観客の人達に手を振っているところからも、精神的にも絶好調であるところがうかがえる。
「あっ!マヤノがこっちにも手を振ってるよ!お~い、マヤノ~!!」
「ちょっ!テイオー!恥ずかしいからそんな子供っぽいことしないでよ!」
そしてそんなマヤノに周囲を気にせず大声を出してマヤノに手を振るテイオーを、アタシは慌てて諌めるが
「おっ、出てきた!頑張れー、マヤノトップガン!!」
「応援してるぞー!!」
そんなテイオーの様子が気にならない位には周囲の人々も応援に熱が入っている。
そう、これが今日のレースに世間の注目が集まる理由の一。URAによって新設された、史上始めての試みであるURAファイナル。その初代女王にして、最近ほとんど表舞台に出てこなかったマヤノがようやく表に出てきたのだ。ウマ娘ファンなら絶対に見に来る。ましてや…
「8番ナリタブライアン選手」
ワアアアァァァァァァァッッッ!!
そのウマ娘がパドックに現れた瞬間、マヤノの時に勝るとも劣らない歓声が爆発する。
「よっ、三冠ウマ娘!!」
「今日も良いレースを見せてくれよ!!」
そしてこれが理由そのニ。ミスターシービー、シンボリルドルフなどに次ぐ、最新の三冠ウマ娘ナリタブライアン。間違いなく最強のウマ娘の一人にして、同時に幾度もマヤノと激突を繰り返してきた終生のライバル。そんな世間でも有名な二人の、最高のライバル対決をしばらくぶりに観戦できるのだ、ウマ娘を知る人物ならこの対戦カードは絶対に外せない。
そしてそれに加えて…
「14番マーベラスサンデー選手」
ワアアアァァァァァァァッッッ!!
「良いぞー!マーベラス!」
「今日もマーベラス(?)な走りを楽しみにしてるぞー!!」
その他の出場者にしても、かなりの精鋭ぞろい。錚々たる顔ぶれが集っており、その中でも特に最近調子の良いマーベラスが先の二人に次ぐ注目を集めている。
(なんと言うか、まぁ…)
そんな風に盛り上がるパドックを見ていると、流石にアタシでもため息が出てくる。そう、今日のレースはまさに、ウマ娘ファンにとって垂涎ものな対戦カードと選手達、それらを全部詰め込んだ、ファン必見の豪華欲張りセット。
だからこそ、今日のこの競バ場の熱狂も納得が出来る。今日のレースではすごいものが見られる、誰もがそう思うのも無理はない。が…
「…マヤノ大丈夫かな?」
隣でマーベラスにも手を振っていたテイオーがぽつりと呟く。
そう、それこそが問題なのだ。
マヤノはトレーナーさんが亡くなってからしばらくの間、レースから遠ざかっていた。そして、その最初の方は、練習どころか命に関わるレベルで体調を崩していたので、そのリハビリにより健康な体を取り戻すための時間が必要だったのだ。
無論彼女が今日までに練習をしていないわけではない。むしろ、これまで以上に熱心に、まるで何かを掴んだかのような強い意思を宿して彼女は今日までただひたすらにトレーニングを積み重ねてきた。それを他ならぬアタシはよく知っている。
だけど、そこに至るまでにあった衰弱期間とリハビリ期間が確実にそれらに割くための時間を削っている。有り体に言えば、同じぐらいの期間休んで復帰したウマ娘達よりも、実質的には練習時間が取れていないということなのだ。だからこそ…
(…)
アタシもテイオーに心配するなと安易に返すことが出来ない。
…誤解しないで欲しいのだが、アタシはマヤノのことを信じてる。
あの子はきっともう大丈夫。何故なら目が違う。トレーナーさんの死の悲しみに囚われ、光のない目をしていた時よりも、自分の走る理由を失い悩んでいたときよりも、ずっと生気に溢れた力強い目を、今のマヤノはしている。それこそ、何か偉業でも成し遂げてくれるのではないのか、そんな風に思うほどに今の彼女は気迫に満ち溢れている。だから、精神状態に関しては全く問題ないし、それこそ一皮向けて前よりも頼もしくなったとさえ思える。
それだけに、身体のコンディションが完璧でないのが悔やまれる。恐らくURAファイナルズ当時、いやそこまで行かなくても、最低でもブライアン先輩と死闘を繰り広げていた頃、そのくらいに身体が仕上がっていれば、マヤノはこのレースを圧勝できただろう。それは推測ではなく確信。そのくらいマヤノの精神的な成長は著しく、だからこそ…
(…マヤノ)
アタシは両手を握りしめる。
パドックを見る限り、今日のマヤノは絶好調だ。身体に無駄な力みがなく、ほどよい緊張感と気迫がその身体に漲っている。それはほとんど完璧、ないし理想に近いコンディションと言えるだろう。今のマヤノなら、自分の実力を100%フルに発揮することも不可能ではないだろう。
だが、それだけでは足りない。仮にも今日のレースはG1クラスであり、集うウマ娘達も精鋭ぞろい。であるならば、その戦いは心技体の全てが満ち足りていなくてはならず、逆に言うとそのどれかが欠けているだけでも大きなディスアドバンテージを被ることになる。そして、その点マヤノの仕上がりは完全とは言えない。心と技は全く申し分ないが、体があと少し、ほんの少しだけ足りない。例え100%の実力を出すことが出来たとしても、力の絶対値に不足がある状態では、それは本来の全力を出せないということと同義である。故に…
「…その在り方を信じてはいるものの、彼女が潜在能力を十全に発揮しきれるかどうかが心配で安易な返答ができない、か。
成る程、確かに客観的かつ正確な分析だ。
流石といったところだね、ナイスネイチャ」
突然後ろから聞こえてきた声に驚き、慌てて後ろを振り向く。するとそこには…
「…ルドルフ会長!?」
「え!?カイチョーなんでこんなところにいるの!?」
アタシと一緒に振り向いたテイオーも驚いているが、アタシ達の周囲の人々も流石にざわついている。
そう、今アタシ達に後ろから話かけてきたこのルドルフ会長、シンボリルドルフ先輩は、今パドックにいるナリタブライアン先輩と同じ三冠ウマ娘であり、かつそれを無敗で成し遂げたという偉業を誇る、まさにウマ娘の中のウマ娘。
皇帝、七冠ウマ娘などとも呼ばれる彼女は、まさに生きる伝説のようなうま娘なのだ。そんな人がなぜここに、というアタシ達の思考を読んだのか、ルドルフ会長は苦笑しながら答えてくれる。
「何、深い意味はないよ。私はトレセン学園の生徒会長であり、それはつまりトレセン学園の生徒達全員の代表であると言っても良い。そして、それを名乗るためにはそんな生徒達のことを知っておかなければならないと思い、レースを見に来たというだけのことだよ。
流石に私とて全員のレースを見るのは不可能だが、それでもウマ娘にとって至上の価値を持つレース、最低でもG1はどうにか隙を見つけてこうして見に来ているのさ」
そうルドルフ会長は嘯く。
「そしてだからこそ、私は昨年の有馬記念も直接この目で見せてもらった。故に…」
そこで言葉を切り、ルドルフ会長は私に向き直ると微笑む
「おめでとう、ナイスネイチャ。素晴らしいレースだったよ、誇ると良い。君は我々が尊敬すべき立派なウマ娘だ」
「…!…あ、ありがとうございます…」
そう真っ正面から誉められたものだから、アタシも流石に少し照れてしまう。
まさかあのルドルフ会長がアタシのレースを見ていてくれて、しかも直接その祝福の言葉をかけてくれるなんて、と思うと歓喜と誇らしさで胸が一杯になる。
だからそれ以上何も言えなくなってしまったアタシの代わりに…
「…それで?そんなカイチョーはボク達になんのようなの?」
頬を膨らませて、いかにも不機嫌です、と言わんばかりのテイオーがルドルフ会長に問いかける。
…まぁ、確かにルドルフ会長が大好きなテイオーからしたら、自分が負けたレースのことで、大好きなルドルフ会長が自分以外のウマ娘のことを褒めているのだ。テイオーからしたら面白くはないだろう。
そんな膨れっ面なテイオーの若干の抗議交じりの質問に、またもルドルフ会長は苦笑しながら応えた。
「いや何、今日のレースのパドックを見物していたらたまたま君達が視界に入ってね。何やら興味深い話をしているようだったから、声をかけてみたということだ。驚かせてしまってすまなかったね」
「い、いえ!そんな滅相もない!!」
そう頭を下げるルドルフ会長に、アタシは慌てて手を振る。確かに彼女が話しかけてきたのには驚いたが、話を聞いてみれば至極まともな理由だったし、その上アタシなんか直々に先のレースの結果を褒められたのだ。そんな人を邪険にする理由など一切ない。それに…
「…それで、ルドルフ会長は今日のマヤノのことどう思いますか?」
「…ふむ」
アタシがそう聞くと、ルドルフ会長はそう呟くと、少し思案する。
そう、それにルドルフ会長がアタシ達の会話に興味を持って話しかけてきてくれたというのなら、是非とも彼女の意見も聞きたいというのが本音だ。今のマヤノが彼女にはどう見えるのか、それは果たして…
「…まぁ、概ね君が分析したものと同じだな。気迫は十分だし、経験も豊富。だが体が本調子でない以上、彼女にとって苦しい闘いになるということは誤魔化しようのない事実だろう。
だが…」
そこで彼女は一旦言葉を切ると、アタシ達を改めて見ると
「君達だって知ってるだろう?あの子が今日ここに至るまでにどれほど頑張ってきたのか、どんな思いで戦ってきたのか。
…ならば、我々がするべきことは一つだ」
そう言ってパドックが終わり、その場から去っていくマヤノの後ろを見ながら彼女は言った。
「祈ろう。彼女が全力を発揮してその不利を覆せることを。自らが出した答えが正しかったのだと、私達に最高の形で証明してくれることを。
…他の誰がどう言おうと、それを心の底から信じてあげることが出来る。それが友人というものではないのかね?」
気がつくと、あれほどいた周囲の人達はすでにほとんどいなくなっていた。それも当然のことで、今行われていたのはあくまでもパドック、今日のレースに出走するウマ娘達の御披露目に過ぎない。故にそれが終わった以上ここにいる意味はなく、後はレースが始まるのを観客席で待つのみ。だからこそ、多くの人はすでに移動を開始しており、この場にはすでに人がほとんど残っていない。
そして、ルドルフ会長の言葉を聞いたアタシとテイオーはまるで天啓でも授かったかのような衝撃に、思わずはっと彼女の方を見る。
…確かに考えてみればその通り。なるほど、確かに今日のマヤノは完全な本調子という訳ではないだろう。だが…
「…ルドルフ会長、ありがとうございます」
そう言ってアタシは、姿勢を正して彼女に頭を下げる。
その通りだ。それでも、アタシは彼女が今日まで歩んできた苦難の道のりを知っている。そして、その中で必死にあがき、答えを得たこともまた知っている。であるのならば…
「…お陰で目が覚めました」
アタシがマヤノの為に、大切な友人の為に出来ることなど一つしかない。
「…アタシはマヤノを信じます。きっと大丈夫だって、自信を持って言い切ります」
それは無根拠な類推でも、高慢ゆえの過信でもない。アタシがこれまで、自身の目でマヤノを見てきたからこそ言える、彼女の生きざまに対する絶対的な自信。それでこそ…
「…アタシはマヤノの友達ですから」
そう、アタシはルドルフ会長の目を見ながら言う。
そうだ。友達のことを信じてあげられなくて、何が友達だ。アタシはマヤノのことを掛け替えのない大切な友達だと思っているし、多分マヤノもそう思ってくれている。だからこそ、彼女はアタシに自分の悩みを打ち明けてくれたし、有馬記念でもアタシのことを応援してくれたんだと思う。
ならば、次はアタシの番だ。他の誰がマヤノを否定しようと、アタシはマヤノを肯定する。その悲しみを、嘆きを知っているから。そして、そこから這い上がろうと、必死にあがく姿を知っているから。だからこそ、アタシはマヤノを信じる。マヤノがアタシのことを信じてくれたように、今度はアタシもマヤノを信じるんだ!
そんな覚悟を込めた目で見つめると、ルドルフ会長は微笑む。
「フフッ、良い目をしている。
…あの子もこんな友人を持てて、本当に幸せ者だな」
そう呟くと、どこか遠い目でここではないどこかをルドルフ会長は見つめる。
それはまるで、過去の自分を見ているような、得ることが出来なかった日々に思いをはせるような、そんなどこか寂しげな目で…
「…ありがとう、カイチョー。お陰でボクも目が覚めたよ。
それでそれで!当然カイチョーもマヤノのことを応援してくれるんだよね?じゃあせっかくだし、ボク達と一緒にレースも見ようよ!!」
そう明るく切り出したテイオーの言葉に、ルドルフ会長は我に帰り、申し訳なさそうに話し出す。
「…ありがとうテイオー。気持ちはありがたいし、一緒にレースを見るのも構わないんだが…
すまない。今の私はシンボリルドルフである前に、トレセン学園の生徒会長なんだ。だから、特定の子だけに入れ込み過ぎるわけにはいかない。
無論彼女のことを応援していないわけでもないんだが…立場上ハッキリと彼女を応援すると公言するわけにはいかないんだ」
とルドルフ会長は申し訳なさそうにしている。
まぁ、確かに彼女の言うことはもっともだ。一個人としてならともかく、今の彼女にはトレセン学園の代表としての立場がある。それを考えれば、公平性という観点から特定の選手だけを応援するということは避けるべきなのだろう。
「え~、そんな~…」
そのあたりの理屈を聞き、テイオーはしょんぼりする。具体的に言うと、さっきまでブンブン振られていたしっぽが力を失って垂れており、ペタンと耳も垂れている。それに対して慌ててルドルフ会長も言葉を足した
「まぁ、特定個人の応援という立場を取れないだけで、さっきも言った通り一緒にレースを見るのは問題ないんだ。
だからテイオー、君からの誘いは嬉しく思うし、ぜひ一緒にレースを見させて欲しい」
「ホントッ!?」
「あぁ、本当だ」
そうルドルフ会長が返すと、テイオーは途端にその場でピョンピョンと跳ねて喜び始める。
「わーいわーい!カイチョーと一緒だー!!」
さっきまでの落ち込みようが嘘のように、テイオーはしっぽを勢いよく振りながら全身でその喜びを表現している。
…知ってたけど、本当にこの子ルドルフ会長のことが大好きだな~、と感慨深くその様子を見守っていると、アタシと一緒にそんなテイオーの様子を見守っていたルドルフ会長が、ふと何か思い出したような顔をしてこちらを向く
「…あぁ、そうだ。一緒にレースを見るのは良いんだが…ナイスネイチャ」
「あっ、はい。なんでしょうか?」
そう声をかけられ、慌ててルドルフ会長に向き直るアタシだったが、声をかけてきた彼女の顔は、どこか優しげで…
「…実は私には今日何人か連れがいてね。まぁ、別に最初から一緒に来たのではなく、ここで偶然出会ったのだが…ともかく、私だけでなくその子達とも一緒にレースを見たいのだが、構わないだろうか?」
「…?
えぇ、別に構いませんが…」
「そうか、恩にきる。…それでは少し待っていてくれ、呼んでこよう。実は君達の姿を見て、その子達を置いてここに来てしまってね。断りは入れてあるから、近くで待っているはずなのだが…」
いぶかしむアタシに背を向け、ルドルフ会長がその連れ達を探しに行こうとした時のことだった。
「カイチョーさ~ん!どこですか~!パドックはもう終わりましたよ~」
「会長ー!会長ー!早くしないとレースが始まっちゃうぜー!」
「うーん、どこ行っちゃったんだろう?この辺って行ってたのになー?」
何人かの集団の声がこちらに近づいてくる。そして、ルドルフ会長を見つけるなり、彼女の周りを取り囲む。
「あ~、カイチョーさんこんなところにいたんですね~?探しましたよ~?」
「いや、すまない。つい話が盛り上がってしまってな」
「全くだな。これからは気をつけてくれよな?会長。
それよりも会長!早く観戦席に行こうぜ!もうちょっとしたらレースが始まっちゃうぜ!」
「あぁ、そのことなんだが、ほら。また知り合いを見つけてね。彼女達に一緒にレースを見ないかと誘われたんだが、皆も良ければ彼女達と一緒にどうだ?」
そうルドルフ会長がその集団にアタシ達のことを告げると、彼女達の目が一斉にこちらを向く。そして…
「あ、あんた達は…」
「あれ?キミ達は…」
アタシとテイオーは、思わぬ顔との遭遇に呆気に取られるのだった。
ちなみに、ナイスネイチャの通うバーゲンセールはマジもんの人外魔境です。
明らかに世界観が違います。
具体的に言うと、一見すると普通の優しそうなおばちゃん達が、卵1パック(税込み105円 6個入り)を固有〇界っぽい力やら“創〇”っぽい力やら、〇解っぽい力やらを駆使して奪い合うような場所です。
個人的には星〇光とか破段顕〇の方が好きなのですが、他にも小宇〇っぽいものを燃やすおばちゃんや、一子相伝の暗殺拳法である北〇神拳っぽいものの使い手のおばちゃん、〇タンドっぽいものを使うおばちゃんなどなど、より取みどりです。
…ここウマ娘の世界だよね?
なお、そんな修羅道みたいなところからこぶし一つで生還するネイチャもネイチャですが、
このバーゲンセールの常連であるアイネスフウジンは、
オーバー・トップ・〇リア・マインドっぽいものの使い手で、リミット・オーバー・アクセル・シンク〇っぽいもので呼び出したシューティング・〇ェーサー・ドラゴンっぽいものと共に、戦場を最速で駆け抜けるそうです。
…ここウマ娘の世界だよね?