ウマ娘三部作Firstシーズン 片翼の撃墜王 ~イカロスの黎明~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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少女は再び立ち上がる

それを見ていた怪物は、本当は何を考えていたのか?



怪物との一幕

~ナリタブライアンside~

 

 

カツンッ、カツンッ、カツンッ…

 

 

地下バ道に蹄鉄の音が響く。

 

 

カツンッ、カツンッ、カツンッ…

 

 

ゆっくりと、だが確実に外の光が近付いてくる。

 

 

カツンッ、カツンッ、カツンッ…

 

 

それと共に、自らの内側が熱く熱くなっていくのを感じる。それは他ならぬ私の渇望。もっと、もっと強いやつと戦いたい。私はもっと、強くなりたい。それ故にレースの前はいつもこう。沸き上がる高揚が私の胸を焦がし、身体の奥の方がカラカラに乾いていく。

 

 

カツンッ、カツンッ、カツンッ…

 

 

乾く、どうしようもなく乾く。いつからかは分からないが、私は常に乾き続けている。もっと強く、もっと早く、私を満たしてくれる者を求め続け、気が付けば三冠ウマ娘などと呼ばれるようになった。だが…

 

 

カツンッ、カツンッ、カツンッ…

 

 

だが、そんな称号に意味はない。正確に言うならば、それは通過点の一つに過ぎない。

私が戦えば戦うほど、強くなれば強くなるほど、私の前に立ちふさがる者達もまた、強くなる。だからこそ、そうやって強くなった奴らを蹴散らして、また私は強くなる。その先に、私の癒えない乾きを満たしてくれる者がいると信じて。故に…

 

 

 

 

「…来てくれたんだね、ブライアンさん」

 

 

後ろからの声に、足を止める。今まで地下馬道に響いていた足音がピタリと止まり、あたりは無音となる。音がない故に無音。そのはずだが、それにも関わらず耳鳴りがする。静かで、あまりにも静かだったからか、聞こえない音が聞こえる気になってしまうのは、いったいなぜなのか?

 

 

 

 

「…先に勝負を持ちかけたのはこちらだ。ならば、お前が持ちかけた勝負を断るなど道理が立たない」

 

 

「あははっ、ブライアンさんそういうところは真面目だよね?」

 

 

 

 

こちらの返事に嬉しそうに応える少女の声に、だが私は振り返らない。それは傲慢だろうか?否。なぜなら…

 

 

 

 

「…だからね、マヤそんな真面目で良い人なブライアン先輩に、ずっとお礼がしたいって思ってたんだ」

 

 

カッカッカッカッカッカッ…

 

 

後ろにいた少女が蹄鉄を響かせて歩き始める。

 

 

「…マヤね、最初は本当に怒ってたんだ。

どうしてブライアンさんはあんなことするのかなって、マヤはあんなに辛くて辛くて仕方なかったのに、どうしてそんなに意地悪するのかなって。

だから、最初はブライアンさんが何をしたかったのか、マヤにはまったくわか・・らなかったし、わかりたくもなかった」

 

 

カッカッカッカッカッカッ…

 

 

「だけど、みんなといっぱいお話しして、リハビリも頑張って…マヤが考えられることを全部やって、ちょっとずつ、ちょっとずつでも進もうと頑張っている中で、マヤわか・・っちゃったんだ」

 

 

カッカッカッカッカッカッ…

 

 

さっきまでそれなりの距離があった少女との距離は、もうほとんど詰められている。このまま進めばいずれは少女は自分のすぐ近くまで来るだろう。だが、私は動かない。決して後ろを振り返らない。そんな状況をまるで気にせず少女は喋り続ける。

 

 

「はじめからよく考えるべきだったんだよ。

 

そもそもブライアンさんは弱いものいじめなんて絶対にしない。

ブライアンさんは、いつも強くなることだけを考えてる、まるで修行者みたいな人。弱い子に一切の感心を持たない強さに純粋すぎるほど純粋な人。

 

そんな人が弱いものいじめをするなんて、天地がひっくり返っても本来ならあり得ない。そんなことをするくらいなら、ブライアンさんはもっと強くなる方法を探すはず。そう、だから普通ならあり得るはずがないんだよ」

 

「…」

 

 

カッカッカッカッカッカッ…

 

 

「だからね、それならなんでマヤにあんなことをしたの?

それがずっと引っ掛かってたんだけど、まぁつまりはそういうことなんだよね」

 

 

足音が止まる。

少女は自分のすぐ後ろ、それこそ触れれば届くほどの距離にいるのを感じる。そして…

 

 

 

 

「ねぇ、ブライアンさん。ブライアンさんは多分、マヤのことを心配してくれてたんだよね?だからあんなことをしたんだよね?」

 

 

 

 

「…!」

 

決定的な一言に思わずピクリと反応しかけてしまうが、気合いで押さえ込む。そしてその間も少女の弁は続く。

 

「ブライアンさんってさ、ものすっごく強いウマ娘だけど、走ること以外は結構不器用だよね?だからあんな方法しか取れなかったんでしょ?」

 

…正解だ。不器用な自分にはあれ以上の解決策が思い浮かばなかった。

 

「ピンチからの覚醒、もしくは安寧を脅かす敵への反抗心の芽生え…そのあたりが狙いでマヤに強引にレースをさせたんでしょ?

少年漫画みたいだけど、あれ以上マヤを放っておいたら身体より先に、マヤの心が死んじゃう。

そう思ったからこそ、例え負の感情由来のものになったとしても、まずはマヤを奮起させるところから始めないとって思ったんだよね?

多分、最終的には自分が皆から悪役として罵られる覚悟で」

 

…正解だ。例え後に周りから罵られようとも、私はこの少女を再び奮起させたかった。

 

「だってそうじゃないと説明つかないよ。フジ先輩から聞いたけど、ブライアンさんマヤが茫然自失になってた時も、部屋の中で暴れてた時も、果てはマヤが部屋に閉じ籠ってる時も、何回もマヤの部屋に尋ねて来てくれたんでしょ?

…正直なところトレーナーちゃんが亡くなってから1週間位は本当に記憶がないんだけど、そんな中でもネイチャちゃん達と顔を合わせないようにこっそりお見舞いに来てくれてたんでしょ?」

 

…正解だ。いくら私でも、流石に身内の死で悲しむ人間に対して同情できないほど情がないわけではない。故に、最初は人並みに普通にこの少女のことを心配していたのだ。

 

「そんな人がたかだかマヤを壊すためだけにあんなことをやるはずがないよ」

 

そう締め括るこの少女の言葉に、アタシは薄く微笑む。

 

…なるほど?確かに天才と言われるだけのことはある。私の思惑はほとんど全て読み解かれている。ここに関しては素直に流石と言っておこう。

 

だが…

 

「…だったら」

 

「…」

 

そう、だったら…

 

「…だったらなんだ?マヤノトップガン」

 

そこで私は始めて後ろを振り向く。そこには静かな目でこちらを見つめる、マヤノトップガンがいて…

 

「なるほど、確かに貴様の言っていることは全て正しい。私はお前が心配だったからこそあんなことをした。それは事実だ。だがな…」

 

改めて私はこの少女の体を見る。

マヤノトップガン。私と死闘を繰り広げてきた至高のライバル。

長きに渡る巡礼の旅。強者を求めて彷徨い歩き続けた、苦難の道のりの先に得た、私の渇望を満たしてくれた少女。その少女は今…

 

「マヤノトップガン、一つ答えろ。お前本当に私に勝つ気があるのか?」

 

「...」

 

一目見ただけで分かる。こいつは精神的には完全に立ち直っている。そして、私を一度下しただけに、その内にあるレースの理を侮ることも出来まい。だが…

 

「結局お前は全盛期の頃まで身体の調子を戻すことが出来なかった。いや、恐らくそれもあと1ヶ月もあれば完全に戻すことが出来ただろう。だが、今この瞬間においてそれは叶っていない。8割、良くて9割程度しか復調していない。それはつまり、今日のお前は本気ではあっても全力ではないということに他ならない」

 

そう、潔くこの世界から去ろうとした私に、レースへの未練を生んだこのウマ娘は、今日のレースにおいて全力を出すことは敵わない。

9割方復活しているなら良いではないかというか?それで勝てるほどレースは甘くないし、何よりそんな腑抜けた覚悟で来るような奴を、私は許さない。

 

だからこそ…

 

「それで私を倒すつもりなのか、倒せるつもりなのか?」

 

だとしたら…

 

私は目の前の少女を睨み付ける。それこそ普通のウマ娘なら、いや歴戦のウマ娘でも震え上がるほどの眼光をもって私は目の前の少女を睨み付ける。

 

「…以前お前自身が言った言葉をそのまま返してやろう」

 

…あぁ、そうだ。こいつのことが心配である。それは事実だ認めよう。私とて人の子、敬愛すべきライバルに対してそのくらいの情はある。だが、私にとって本当に大事なのは…

 

「今のお前と走っても、私は自分を燃やし尽くせる気がしない…お前の言葉を借りるなら、キラキラすることが出来る気がしない」

 

故に

 

「…去れ、マヤノトップガン。全身全霊で挑めない状態で勝てるほど、このレースは甘くない」

 

そうだ。私にとって大切なのは、強いウマ娘と全身全霊で戦い競い合うこと。だからこそ、私はトレーナーを失い、自分の道をも同時に失いかけたこいつに酷くイライラした。

 

どうしたんだマヤノトップガン!?あの日のお前はもっと輝いていた!熱く燃え盛っていた!だからこそ、私はお前とのレースが楽しかった!またこいつと燃えるような時間を楽しみたい!そう心から願ったからこそ、私はまだ少しだけ走り続けようと思ったのに!?

 

詰まるところ、私の考えていたことはそういうこと。だからこそ、私は奴の部屋に乗り込むようなバカな真似まで試みた。全ては、私の渇望を満たしてくれた、この小さな少女に立ち直ってもらうため。こんなところで折れるには、その才気はあまりにも惜しかったから。

 

故にこそ、今度は私がこいつを拒絶する。勝負それ事態を否定する。お前ではその場に上がることすらおこがましい、そう言っていると言うのに…

 

「…」

 

こいつは一瞬きょとんとしたかと思えば

 

「…ふふっ…ふふふ」

 

「…」

 

「あはははははははははっ!!」

 

腹を抱えて笑い始める。

 

「…何がおかしい」

 

それはそれは嬉しそうに、年相応の笑顔で笑い続けるこいつに問うも、なかなか回答は帰ってこない。しかし、一通り笑い終えたこいつの第一声は…

 

「…ブライアンさん、あなたは本当に優しい人なんだね?」

 

「…なに?」

 

今の話のどこにそんな要素があったというのか、

そんな疑問はお見通しなのか、こいつは続ける

 

「だってそうでしょ?要するに、今のお前では全力は出せん。

今回は見逃してやるから、次までに調子を整えてこい。こういうことでしょ?

 

勝負を挑んだのはマヤの方なのに、

今のマヤの状態を見て自分からそんなこと言ってくれる人なんてそうはいないよ」

 

そう言うとこいつは微笑み

 

「うん、だからこそだよ。そんな優しいブライアンさんだからこそ、マヤはずっとお礼を言いたかったんだ」

 

そして

 

「ありがとうブライアンさん。マヤのことを気にかけてくれて。経緯はどうあれ、あなたがマヤを模擬レースに引きずり出していなかったら、今のマヤはいない。だからこそ、マヤはブライアンさん、あなたにとっても感謝してるんだ」

 

そう言い、頭を下げたこいつはしかし…

 

「…だからブライアンさん。マヤは今日も負ける気はないよ」

 

次に頭を上げた時には、その目はまるで別人のような強い意思の光に満ちていて

 

「ついでにさっきの質問にも答えるね。今日のマヤに勝つ気があるか?当然YESだよ。だから…」

 

そう言ってこいつは歩き出す。私の後ろから私の横、そしてついには私の一歩手前に出てふりかえる。そして

 

(…!!)

 

それは久しくこいつから感じてなかった威圧感。絶対にお前を逃がさないという思いの込められた重圧。

あぁそれこそまさに、あの忘れもしない有マ記念の時に、こいつが放っていたものそのもので…

 

「ブライアンさん、先に行ってるね・・・・・・・

 

傲慢にも私に勝負を挑んだ挑戦者のくせに、自分ではない。お前こそが挑戦者だと背中で語るその姿は正しく私の求める強者の姿そのもので…

 

故に

 

「…面白い」

 

知らず頬を伝っていた冷や汗を私は拭う。気が付くと奴はすでに消えていた。あたりには、まるで今のやり取りが夢か幻だったかのような沈黙が漂っている。恐らく言葉通り先に行ったのだろう。であれば…

 

「その状態でも私に勝てると、あくまでもそう言うのなら…」

 

…容赦はしない

 

私はさっきよりも遥かに熱く滾るものを抱えて、地下バ道の外へと踏み出す。

 

そして…

 

 

・・・・・・

 

 

「さぁ、2枠4番マヤノトップガン選手、今日の2番人気です」

「菊花賞ウマ娘にして初代URAファイナル女王の冠を持つ強豪ウマ娘です。しばらくレースに出てこなかったためか、2番人気の位置に甘んじていますが、その実力はまさにトップクラス。間違いなく今日の主役の一人と言えるでしょう」

 

マヤノがゲートに入るのをアタシは見守る。解説が言うように、彼女の今日の人気は2番人気。実力と実績だけなら1番人気に選ばれても可笑しくないのだが、ブランクと今だ現役の三冠ウマ娘ナリタブライアンの存在から、今日はこの位置に収まっている。それでも…

 

(…マヤノ)

 

アタシは信じる。そうだ、それでも彼女ならやってくれるって、アタシは信じてる。なぜならアタシは彼女の友達だから。あの子の今日までの道のりを、アタシは見てきているから。故にアタシは信じる。あの子のことを。だから…

 

(マヤノのトレーナーさん…)

 

あなたも見るべきだ。自分の愛バの走りを。

あなたがいなくなって、それでもあがき続けた彼女の出した答えを、他ならぬあなただけは見届ける義務がある。

だからお願い、マヤノの走りがあなたにまで届きますように…

 

そんなことを考えている内に、全ての出場するウマ娘達がゲートに入る。後はスタートするだけだ。

 

緊張の一瞬。数万人が集う今日の京都競バ場も、流石にこの瞬間ばかりは静まり返る。気が付くと誰もが声も出さずに黙り込んでいる。ごくりと、誰かが生唾を飲む音が聞こえた気がする。そして…

 

「…来る」

 

ルドルフ先輩がそう言った瞬間

 

「…!!」

 

ついにゲートが開く。

そう、今この瞬間に始まったのだ。

 

あらゆるG1の中でも特に長い歴史と権威を持つ春のG1レース。

中央競バの平地G1の中でも最も長い距離を走らなければならない、とある名家の悲願でもあるレース。

春と秋、その二回に渡って栄誉と伝統を併せ持つたった二つの盾を競い合うレース、その一つである今日のレース。すなわち…

 

 

 

春の天皇賞

 

 

 

その火蓋が切って落とされたのだった。

 

 

 




個人的なナリタブライアンのイメージって、
基本的にあんまり他人に興味がないけど、一度認めた相手にはものすっごいツンデレになるっていうイメージなんですよね。

具体的にいうとツン99%でデレが1%くらいの(そこまで行くともうツンデレではなくツンドラなのでは?)。要するに、かなり不器用な人ってイメージなんです。だからこそ、ああいうやり方でしかマヤちゃんを心配できなかったんだと思うんですよ。

…だからね、ブライアンさん?とりあえずその拳を下ろしましょう?
作者だって、別に好き好んであなたを意地悪な人みたいに描きたかったわけではないんですよ?だからね、話し合いましょう?お願いだから話し合いま――…






…音声記録はここで途絶えている








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