ウマ娘三部作Firstシーズン 片翼の撃墜王 ~イカロスの黎明~【完結】 作:DX鶏がらスープ
…その日を決して忘れない。
※注意
史実だとこのレースの後にけがをするウマ娘が、
その未来を先取りしてケガをします。
その際ケガの種類が少し変わっているため、
少しショッキングな描写になっているかもしれません。
ご注意ください。
それから、お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
それではどうぞ!!
「はぁっ、はぁっ」
「おおっと、ここでレースが動き始めました!本日の1番人気ナリタブライアン選手が徐々に加速していく!続いてそれを追うように、3番人気のマーベラスサンデー選手も上がっていきます!」
…体が重い、脚が動かない
「はぁっ、はあっ」
「一方本日の2番人気マヤノトップガン選手はいまだに馬郡の中で動きが見えません!果たしてここから逆転の目はあるのでしょうか!?」
…肺が痛い、呼吸が苦しい
そんな中マヤは走る。
得意の先行策は、スタートに出遅れてしまい、潰えてしまった。
それならと思いブライアンさんをマークするも、解説の人が言うように、あの人はもうここにはいない。
今ここにいるのはマヤだけ。バ群に阻まれ、インコースに閉じ込められたマヤにとって、さながらここは棺の中で…
(…無理…だったのかな?)
そんな棺の中で、マヤは空を見上げる。だけど…
(…やっぱりマヤは…)
棺の中にいるマヤに、青空を掴むことはできない。だから、マヤにはあの憎らしいほどに青い空に、手を伸ばすことさえも出来なくて…
(…一人じゃ、走れないのかな?)
レースが始まる前の、ブライアンさんとの地下バ道でのやり取りを思い出す。
(「…去れ、マヤノトップガン。全身全霊で挑めない状態で勝てるほど、このレースは甘くない」)
ブライアンさんがそう言うのも無理はない。
確かに、今のマヤは全力を出せるような状態じゃない。
まず第一に、体の調子が戻りきっていない。
ここ数ヶ月、マヤは頑張った。ネイチャちゃんやテイオーちゃん、他にもたくさんの人達に頭を下げて、なんとかして体調を戻そうと、頑張った。でも、URAファイナルの頃の状態まで、マヤは身体の調子を戻せなかった。これが第一。
例えば100m走をしたとして、小学生が大人に勝てるのか?そういう問題だ。万全の状態のG1ウマ娘と、今のマヤの体には差がある。それは流石に小学生と大人ほどのものじゃないし、それも本当にわずかなものだけど、それでも確実に差がある。だからこそ、力の絶体値という意味合いでそれが一つ。
もう一つはレース勘の鈍り。マヤはトレーナーが亡くなってから今日まで、一度もレースに出ていない。もちろん、練習で皆に併走を頼んではいたけど、それでもこのレースという戦場から半年以上離れていたのは致命的だ。だからこそ、久しぶりに体感する戦場において、以前ほど勘が働かない。わからない。だから、これが2つ目。
そして最後の一つは…
(あぁ、やっぱり…)
そう、最後の一つは、ここまでの日々で、マヤが克服したと思い込んでいたもので…
(…やっぱり…やっぱり)
今日のレースにおける、最大の敗因となるであろうものを思うと、胸が張り裂けそうなほどの悲しみが襲ってくる。涙が内から溢れてくる。
…あぁ、なんてマヤはバカだったんだろう。
それは簡単な真実。子供でも分かるほどの、実に簡単な真実。それは…
(…トレーナーちゃんがいないレースは寂しいよ…)
「さあっ!いよいよナリタブライアン選手が2番手に上がってきました!
流石は三冠ウマ娘!果たしてこのまま行ってしまうのでしょうか!?」
解説の声がどこか遠くから聞こえてくる。世界から色がなくなっていく。
マヤの死を看取るバ群の棺は相変わらずの強固さを誇り、空だけが、憎らしいほどに青く透き通っている。
だから…
(あぁ…このまま)
そうこのまま…
(…マヤもトレーナーちゃんのところに行ければ)
只でさえ力が入らない脚から、致命的なまでに力が抜けかける
…このまま終わってしまえば…
(「マヤノが走り続ける限り、マヤノのトレーナーさんは今、そして未来でも、ずっとマヤノの側にいる。そう思わない?」)
「…!?」
世界の色が戻ってくる。踏み散らかされた土の匂いも、マヤ達の横を通り抜けていく風の感触も、ナリタブライアンさんとマベちんのデッドヒートを実況する解説の声も、マヤの体を走る熱も、全てが、全部が戻ってくる。
そしてマヤの脳裏に溢れ出すのは…
(「だから、友達が困っていたら助けたいし、悩んでいたら相談にのってあげたい。
それはアタシにとって、全然迷惑なんかじゃないし、むしろマヤノの悩みを共有できないことの方が、アタシには悲しいよ」)
たいせつな友達が…
(「やっと起きたんだね!マヤノ!!
…良かった!良かったよぉぉっっ!!うわぁぁぁぁあん!!」)
マヤノのことを…
(「…それだけは、忘れちゃいけないよ、マヤノ」)
想ってくれた記憶で…
「…!!」
そして、刹那にも満たない永遠の瞬間を駆け抜けた、最後の記憶は…
・・・・・・
風が吹く
グラウンドのわきの森の木々が、葉を揺らす。
いつしか、誰もいなくなっていたグラウンドは静かで、それを見下ろす校舎、その屋上にある貯水槽もまた、静寂に包まれている。だが…
「あ、あはは…」
そんな静かな場所だからこそ
「そっ、そっか。マヤが、マヤが悪いんだね?マヤが普通のウマ娘じゃないから…」
この人が告げた言葉を、まるで世界が肯定しているみたいに思えて…
「う、うん。ごめんね、トレーナーちゃん。こんなこと聞いて。
じゃ、じゃあマヤはそろそろ…」
マヤは立ち上がる。
そして、歪む視界に映るこの人から逃げるように、その場を去ろうとした時に…
「…まぁ、待てマヤノトップガン」
「な、何!?マ、マヤは…マヤは…!!」
「…何か勘違いしてるようだから、もう一度だけ言うぞ?」
後ろを振り向く。この人はまだこちらに背中を向けたままだ。
そう、マヤを引き留めたこの人の言葉は…
「そうだ君の夢は叶わない。
…あくまでも、今のままならな」
なぜかやけに大きく聞こえた。
だからこそ
「…どういうこと?」
マヤはついその言葉の先に興味を持ってしまう。立ち止まり、振り返ってしまう。だからこそ、マヤはその言葉の先を聞いてしまう。
「なぁ、マヤノトップガン。君の夢はキラキラな大人なウマ娘になること…さっきの言葉から察するに、これで良いんだな?」
「…うん」
「なら一つ聞きたいんだが、どうしてその夢を信じてやらないんだ?」
「…え?」
思いもよらない言葉にマヤは驚愕するも、
「そ、そんなことないもん!マヤは自分の夢を疑ったことなんてないもん!」
慌ててマヤは反論する。
そうだ、マヤにとってそれは本当に大切なもの、たどり着きたい到達点だ。
あの日見たウマ娘のお姉さん達は本当に輝いていたから。天才だって誉められても、灰色一色でつまらないものだったマヤの世界に、初めて色を与えてくれたものだから…だから!
「マヤもあんな風になりたい!キラキラした大人のウマ娘になりたい!」
マヤはあの日から一度だって…
「その夢を!信じなかった日なんてないよ!!」
そう心から言えるからこそ…
「だったらどうして!!」
こちらを見ないままに、続くトレーナーさんの言葉に
「君はこんなところで!泣きそうな顔しながらレースを見てるんだ!!」
二の句が告げない
「そ、それは…」
マヤが模擬レースに出れないから…と言いかけたマヤの言葉を遮るようにこの人は続ける。
「模擬レースに出れないからか?
それなら出れば良い。飛び入りでもなんでも無理矢理に出て、そこを走ってる奴ら全員ぶち抜いて実力で黙らせれば、他の奴らは何も言えなくなる。
現に一番最初に会った時、君はそれをしようとしていただろう?」
「そ…」
それは確かにそうだけど…
「む、無茶苦茶だよ!トレーナーちゃん!!」
そうだ。そんなの力業が過ぎるし、仮に成功したとしても、責められこそすれど、誉められることなんて絶対にない。
確かにマヤが一度それと似たようなことをしようとしたのは事実だけど…それだってあまりにも学園がレースに出させてくれないから、それに対する鬱憤からあんなことをしただけで…
「あぁ、そうだな。
それなら正規の手段で出るしかないな?」
そう考えていると、この人はそう続ける。
「模擬レースに出るにはトレーニングをしなければならない。それならトレーニングをする、当たり前のことだ。
じゃあマヤノトップガン、君は何故それをしない?模擬レース、出たいんだろ?」
「それは…」
…トレーニングがつまらないから、そんな言葉が脳裏を過るが…
「なるほど?確かに君は天才だ。しばらく一緒にいてそれは嫌と言うほどにわかった」
またしても、その言葉を遮るようにこの人は続ける。
「だからきっとマヤノトップガン、君には普通のウマ娘達以上に、トレーニングがキツいんだろうな。
そのなんでもわかってしまう抜群の才能、それこそが逆に君の首を絞めている。
なんでもすぐに理解して、真似できてしまうからこそ、トレーニングというある意味では無為なことの繰り返しに意味を見いだせないんだろうな」
そう、この人の指摘は当たっている。
マヤは大抵のものはなんでもわかっちゃうから、すぐにそれが真似できるようになる。どころか、全体が理解できてしまうからこそ、改良すらできてしまう。
だからこそ、マヤは思う。
(この人も…怒るのかな)
そうだ。マヤはこの言葉の後に続く言葉を知っている。
「やらなきゃいけないんだからやりなさい」
「みんなやってるんだからやりなさい」
「君にはやる気がないんだね」
マヤの境遇を知った人は皆がこういう。皆がそうやってマヤを責める。
マヤだって頑張りたいって思ってるのに。それでも何度試してもあまりにも退屈すぎて、出来なくて…そしてそれをマヤにやる気がないからだと言われて…
だからこの人もそんなことを言うんだと、マヤは思ってたんだけど…
「だったらさ、なんでそれをつまらなくないものに変えないんだ?
意味があるって分かるものにしようとしないんだ?」
そんなぜんぜん予想すらしていなかったことを言われたものだから…
「………え?」
思わず呆けてしまうマヤに、この人は更に語る。
「だってそうだろ?
教科書読んでるだけが勉強じゃない。
歴史の教科書ひっくり返すよりも、歴史の漫画を読んだ方が楽しいし、楽に覚えられる。
辞書とえんえんにらめっこするよりも、何かどっかで小説でも買って読む方が、簡単に言葉を覚えられるし国語の勉強にもなる。読む本次第では、社会の勉強にだってなるかもな。
俺はおかしいこと言ってるか?」
「…う、ううん」
そんなこと、マヤは一度だって考えたことがなかったから…
「だからな、マヤノトップガン要するに君の一番の欠点は考え方なんだ」
思わずこの人の背中をまじまじと見てしまう。
相変わらずまだこの人は後ろを向いてるけど…
「君は良い子だ、マヤノトップガン。
だからこそ、君は現実に絶望した。
普通のやり方に自分を合わせることができない。だから、現状を打破できない。そう、心のどこかで君は思ってる。
故に、俺は今のままじゃ君は自分の夢を叶えられないと言った。
自分を信じれないやつに、夢を叶えることなんてできないからな」
その背中が語る話は、なぜか理に敵っていたから…
…だからこそ
「…それじゃあマヤにどうしろって言うの!?」
マヤは問わずにはいられない。
「そうだね!トレーナーちゃんの言う通りだよ!!
確かにマヤは現実を諦めてたかもしれない!普通のやり方に合わせようとしすぎてたかもしれない!
だけど!!」
そうだ、確かにこの人の言うことには一理ある。環境が悪いなら、その環境を変えれば良い。それは真理で、今まで思ってもみなかったことだ。それでも…
「実際に模擬レースに出れないのは事実だし、トレーニングがつまらないのも事実なんだよ!それなら…!!」
そう、それでも現実は残酷だ。どんなに取り繕ったって模擬レースにマヤが出られないのは変わらないし、トレーニングが退屈を通り越して苦痛なのも変わらない。どれだけ都合の良いことを言ってもそれだけは変わらない。だからこそ…
「あぁ、だからこそ俺達がいるんだ」
そう言ってこの人はマヤの方に始めて振り向く
「模擬レースに出れない?OK、わかった。出られるようにしてやろう。
トレーニングがつまらない?OK、わかった。とびっきり楽しいトレーニングを山ほど用意してやろう
他にも悩み事や心配事があったら遠慮なく言ってこい。全部聞いてやる。
それが俺達トレーナーの仕事で、それこそが俺達の存在意義だ」
カツカツと靴の音を響かせながら、この人はマヤの方に近づいてくる。
「だからさ、マヤノトップガン」
そして、珍しくサングラスを外したその瞳は、本当にまっすぐにマヤのことだけを見ていて…
「君が本当に夢を敵えたいと思うなら、キラキラしたオトナのウマ娘になりたいというのなら、
俺と契約してくれ
この手を取ってくれ」
そう言ってマヤに手を差し出すものだから…
「…どうして?」
思わず漏れるのは
「…どうしてマヤのために、そこまでしてくれようとするの?」
純粋な疑問。
あぁ、そうだ。確かにマヤはこの人としばらく同じ時間を過ごした。だからこそ、この人はマヤにとって知らない人じゃないし、この言葉にうそも偽りもないことなんて、とっくにわかってる。だけど…
「…マヤは優等生じゃないよ?
他にもいっぱい良い子はいるよ?」
そう、客観的にマヤのことを見るなら、勉強の成績こそトップなものの、授業中にはよく居眠りしてるし、宿題だって全然出さない問題児。
おまけにトレーニングもサボりまくって、模擬レースにも出れない不良生徒だ。多分気性難ってやつなんだと思う。
だから、それを考えればもっと良い子はトレセン学園にはたくさんいる。きっとマヤより性格が良くて強い子だって、探せばいるはずだから…
「…ホントにマヤで良いの?ホントのホントに?」
聞きたい。ホントにこんな自分でも良いのか。つまらない、それだけの理由でトレーニングをさぼりまくる放蕩娘を、なぜわざわざ選ぶのか、その理由を。
だからこそ、この瞬間をマヤは良く覚えている。
「当たり前さ。
そもそも君ほどの才能の塊を放っておくなんてあまりにももったいなさすぎる。トレーナーなら誰もが自分で育てたいって思うはずさ」
沈み行く夕陽をバックに、佇むトレーナーちゃんの姿を
「それに、そこそこの時間を一緒に過ごしてみて、お互いの相性も悪くないって思った。
正直最初は初対面で俺を吹っ飛ばしたウマ娘ということで戦々恐々としてたんだが…話してみると根は素直な良い子だってことがわかった。
それなら多少気性難でも、話せば分かる。きっとうまくやっていけるって思った。そして、何より…」
サングラスを外したその目の優しさを
「俺はな、君達ウマ娘に夢を諦めて欲しくない。
かつて俺に夢を与えてくれた君達が、自分の夢を諦めるところなんて絶対に見たくない。その為にトレーナーになったんだ。
だから…」
そして…
「マヤノトップガン、だからこそ俺は君と共に歩みたい。君の夢を応援したいんだ。
…キラキラしたオトナのウマ娘になりたいって?上等だ!すごい夢じゃないか!!
どうせなら、見たやつの目が焼けるくらいの光を放つ、スーパースターウマ娘を目指そうぜ?
だからさ」
トレーナーちゃんが微笑む
「一緒に夢を叶えないか?」
誰もいない屋上の更に上、貯水槽の上でそうマヤに自分を売り込むトレーナーちゃんのその姿に、この人となら何かできるんじゃないか、ってマヤは思ったから…
・・・・・・
「…!!」
ワアアアァァァァァァァッッッ!!
「さあっ!先頭ではナリタブライアン選手とマーベラスサンデー選手が競り合っている!すごい接戦だ!果たして勝つのはどっちだ!!」
会場に響く実況の声と、待機を震わせる観客席の熱狂。
長かったレースも既に終盤。はるか前の先頭ではブライアンさんとマベちんが鎬を削り、一方マヤはいまだにバ群のなかだ。
だけど…
(…関係ない!)
スッとマヤは後ろに退く。すると、マヤの位置が下がる代わりに、マヤの体はバ群の包囲から解放される。
そう、無理に前に行こうとするから馬群に囲まれるのであって、後ろにいく分なら道はある。
そしてだからこそ、バ群を抜け出すことが出来れば…
(…見える!)
そう、行き止まりでなければ道はある。だからこそ…
「いっくよぉぉぉぉおおおおおおっっっ!!」
大地を目一杯踏みしめ、それで得られる推進力で、前に出る!
「うおおおおおおおおぉぉぉぉおおおっっっ!!」
「ああっと!ナリタブライアン選手が少しずつですが前に出始めています!マーベラスサンデー選手ここまでか!?」
前の方ではついにブライアンさんがマベちんを破ろうとしているらしい。だけど!
1人、2人、3人、流星となり地を翔るマヤの視界の端を、何人ものウマ娘達が流れていく。そして…
「…!!な、なんということでしょう!?
お、大外から一人のウマ娘が突っ込んで来ます!」
遂に先頭を射程圏内に納める!今まで差しや追い込みなんて、練習でしかしたことがなかったけど、それでもぶっつけ本番で成功させる。それが、マヤにはできる。何故なら…
(...わかる...今のマヤにはぜんぶがわかる!!)
自分の体の動かしかたも、どのルートが最適なゴールまでのルートなのかも、周りのウマ娘たちがどんな風に筋肉を動かしてるのかも、なにもかもぜんぶがわかる!だから…
「外から!外から!外から!
恐ろしいスピードで突っ込んで来ます!もうすでに、先頭争いをしていたナリタブライアン選手やマーベラスサンデー選手も目と鼻の先です!!
あれは…あれは!!」
先頭との差が縮まっていく。あれほど遠くにあったブライアンさんの背中が、もう触れれば届きそうなほどに近くにある。
だからこそ、勝てるってマヤは…
ぼきっ
「…え?」
世界から色と音が消える。時間がいきなりスローモーションになってゆっくりになる。
突然の出来事に愕然とするが、不意に悟る。今の音がどこから来たのか、分かってしまう。だからこそ…
(…ここまで…か…)
10000分の1の早さで流れる時間の中で、マヤは思う。
(…ごめん、トレーナーちゃん)
それはトレーナーちゃんへの懺悔であり、そして自らへの後悔。そして、ようやくトレーナーちゃんのところに行けるという安堵――…
(…くやしいな)
…では…ない。
(…やっと…わかったのに)
そうだ
(…マヤの…走る理由)
マヤは
(…だから)
まだ………………走りたい!!
だからこそ…
「頑張れぇぇえ!!マヤノぉぉぉっっ!!」
あぁ、そうだ。有マ記念の時とは逆に、今度はネイチャちゃんの声が、
「いっけぇぇぇ!!はしれぇぇぇええ!!」
テイオーちゃんの声が
「ぶちかませぇ!マヤノぉぉっっ!!」
「マヤノちゃーん!ボーノだよー!!」
「もうちょっとだよぉ!頑張れマヤノちゃーん!!」
かつてブライアン先輩を倒すために協力してもらったヒシアマゾン先輩や、ネイチャちゃん達と一緒にマヤのことを気遣ってくれたボーノちゃんとカレンチャン、他にもたくさんの友達や、応援してくれる人達の声が聞こえるから…
ダンッ!!
言葉と共に、おそらく折れているであろう足を、それでも強引に地面に叩きつける。
「…!?!?」
当然その瞬間に、稲妻のごとき痛みの奔流が全身を駆け巡る。あまりの痛みに、頭が真っ白になり意識が飛びかける。
…だけど!!
不意に視界に広がるのはどこまでも続くような青い青い蒼穹。
そしてそんな蒼の世界の真ん中に浮いているの一束のブーケ。
色とりどりの、幸せな二人の未来を祝福するその幸福の花束は、
今まで気が付かなかっただけで、ずっとそこにあったものだから…
(あぁ、そっか…)
それを見た瞬間にマヤは理解する。わかってしまう。
(ずっと…そこにいたんだね…)
夢を自分から捨てない限りは…そんないつかの言葉が脳裏をよぎる。
ならマヤの…マヤがしなければならないことは!!
目の前のブーケをマヤはつかみ取る。
同時にそこから空がさらに高く、蒼く、どこまでも澄み渡っていく。
それはまさしく無限の空。
鳥でさえも自らの居場所を見失う、そんな一人で飛ぶにはあまりにも広すぎる空。
けど!!
マヤはつかみ取ったブーケを握りしめる。
強く、強く握りしめる。
そして――
(お願い!力を借して!!)
目はつぶらない。
その代わりにマヤはしっかりと顔を上げ、無限の彼方をまっすぐに見据える
もうマヤは迷わない!だから!!
そんな爆発する青の色彩の彼方に向けてマヤは…
「テイク…オォォォォォォフ!!」
飛び出す!!
ワアアアァァァァァァァッッッ!!
「マヤノトップガン選手!マヤノトップガン選手!大外から突っ込み今ナリタブライアン選手と並んでおります!ここからどうなるのか!!」
足が痛い!
折れた足は痛すぎて感覚もなくなってるけど、
それでも一歩大地に踏み込むたびに、全身に稲妻のような白い衝撃が走る!
「…おおおおおおおおおおおおお!!」
隣にいるブライアンさんが吠える!
もうこの人は前だけしか見ていない。
絶対にマヤなんかに負けない、そんな意思がひしひしと伝わってくる!
だけど!
「あああああああああああああっっ!!」
痛みを押し殺し、動かない足を無理やりに動かして、マヤは進む!
マヤだって負けるわけにはいかない!なぜなら!!
(決めたんだ!前に進むって!!)
――その瞬間にマヤの体が光に包まれる。
そして、その答えを見つけたんだ!
だから!!
――そして、その光を突っ切った先で、マヤが着ていたのは…
(ここでそれが正しいって!!)
――淡いオレンジの、幸せなお嫁さんが着るような、きれいなウエディングドレスだったから――
「証明、するんだぁぁぁあああ!!」
「…!!」
その最後の叫びとともに、ついにマヤは――
ワアアアァァァァァァァッッッ!!
「か、かわした!かわした!かわした!
ついにマヤノトップガン選手がナリタブライアン選手をかわしました!!」
ブライアンさんをかわし先頭に躍り出る。
「…っ!!」
もう体は限界だ。
全力の果ての、さらにその先を出したマヤは、
もうほとんど気力だけで走っているような状態だ。
正直、いつ倒れてもおかしくない。
けど…
「いっけぇぇぇ!!」
「マヤノォォォォォォ!!」
「頑張れぇぇぇえ!!」
みんなの声が聞こえるから…
観客席の皆はもちろん、一緒にレースを走っているマベちんや他の子からの声も聞こえるから…
「…ああああああああああああああああああ!!」
倒れるわけにはいかない!
絶対にゴールしなきゃいけない!
その思いだけでマヤは走り続ける!!
…そして
ワアアアァァァァァァァッッッ!!
そして、そんなみんなの声に背中を押され、遂にゴールに飛び込む瞬間…
「…!!」
誰かと、すれ違ったような気がして…
(…これって…)
かすかに、どこかの森の中みたいな匂いがした気がしたから…
「…見事だ」
すぐ後で小さく微笑みながらブライアンさんが言ったことなんて、マヤにはその時全然聞こえなくて…
「一着マヤノトップガン選手!!マヤノトップガン選手!!激闘を制したのはマヤノトップガン選手です!!
伝統と栄光の春の盾!それを手にしたのは!最後ですべてを持って行ったこの小さな撃墜王!マヤノトップガン選手です!!」
ワアアアァァァァァァァアアアアアアアアアァァァァァッァァアァァァァァァッッッ!!
大歓声の中、マヤはその場に崩れ落ち、意識を失ったのだった。
少女は走り切りました。
これで第3部完結です。ここまでお付き合いくださりありがとうございます。
さぁ物語もいよいよ終盤
もがき苦しみ走りぬいたその果てに、少女が手にした答えとは?
次回より、かなり短いですが、最終章第4部開幕です。お楽しみに。