ウマ娘三部作Firstシーズン 片翼の撃墜王 ~イカロスの黎明~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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少女が向かうのは終わりの地。
彼女にとっての大切な人が眠る場所…


お墓参り

「つきましたよ、マヤノトップガン殿」

 

そう言って足をとめる前方のお坊さんに、マヤはお礼を言う。

 

「ありがとうございます、和尚さん。わざわざ手桶まで運んでいただいて」

 

「ははは

なに、困った時はお互いさまですよ。それに…」

 

ここまで運んできた手桶を地面に置きながら、お坊さんは言う。

 

「…この人のお墓には、あまり訪ねてくる人がいないんですよ。

 

ですから、そんなところにお参りに来てくださる、あなたのような奇特な方を放ってはおけませんよ…」

 

「和尚さん…」

 

そう言って遠い目をするお坊さんだったけど、すぐに微笑んでマヤに頭を下げてくる。

 

「では、私はこれで。

お帰りになられる時には声をかけてくださいね。

手桶なんかは私のほうで片付けておきますので」

 

「何から何までありがとうございます。和尚さん」

 

だからマヤも、松葉杖ではあっても頭を下げようとしたんだけど

 

「いえいえ、良いのです!

なに、せっかくあの撃墜王、マヤノトップガン殿が訪ねてきてくださったのです。都の有名人に会えただけでも、この老骨には勿体ないくらいですよ!」

 

とそれを止めると、お坊さんは朗らかに笑い

 

「それでは、後はどうぞごゆるりとお過ごしください。

本当に何もない場所ですが…その代わりあなた方を邪魔するものもまた、なにもありませんので」

 

そう言ってくるりと背を向けてお坊さんは去っていく。50、いや60位の方なのかな?何にせよ、そのお坊さんの後ろ姿に、しばらくマヤは頭を下げる

 

「…本当にありがとう、和尚さん」

 

電車をいくつか乗り換え、何とか目的のお寺まで来たところまでは良かった。

でも、そう言えば今松葉杖だから、水を入れた手桶をお墓まで持っていけないと気付いて慌てるマヤに、あのお坊さんは声をかけてくれ、それだけでなくここまで来るのを手伝ってくれたのだ。

マヤ一人ならどれだけ苦労したか、と考えると頭が上がらない。

 

だからその感謝を込めて、しばらく頭を下げていたマヤだったんだけど、やがて頭を上げて振り返る。

すると、当然その場所には一つの墓石があるわけで…

 

それを見ると、少しだけ口の端が上がってしまう。なにせ…

 

「…今朝ぶりだね、トレーナーちゃん」

 

そう微笑むマヤが向かい合うお墓の主に、マヤは今日の夢で会っていたのだから…

 

 

・・・・・・

 

 

「ところでさ、トレーナーちゃん」

 

久しぶりに向き合うトレーナーちゃんに、マヤは質問を投げ掛ける。

 

「…今マヤが話してるトレーナーちゃんってさ、多分本物だよね?」

 

そんなことを言うものだから…

 

「おいおい、なに馬鹿なこと言ってるんだ?

ここが夢だってことくらいお前だって分かってるだろ?なら、そこに出てくる登場人物だって…」

 

「夢、って言いたいんでしょ?トレーナーちゃん?」

 

トレーナーちゃんが慌てたように言葉を紡ぐのを、あえてマヤは遮る。

 

「でもね、別におかしなことでもないんだよ?

夢の中で死んだ人に出会うなんて話。別に珍しくもないでしょ?」

 

わざわざ夢幻能なんて古典を持ってこなくても、せめて夢の中でだけでも死んだ人に会いたいっていう想像力は、世界共通のもの。

だから、メジャーなものからマイナーなものまで、その手の話は探せばいくらでも出てくる。

 

「まだあるよ?

夢は記憶の整理だっていう説が成り立つなら、その夢の中でトレーナーちゃんが言う台詞も、これまでマヤが聞いたことある台詞のリフレインになるはず。

でも、以前マヤが見た夢の中のトレーナーちゃんの台詞はそのどれにも該当しない」

 

「…」

 

「流石にマヤでも、今までにトレーナーちゃんと交わした言葉の全部を覚えている訳じゃないけど…

少なくとも、もしあの時のトレーナーちゃんが夢だったとしたら、あの時みたいにマヤの現状への言及なんて絶対にできない。

だって、もうその時にはトレーナーちゃんは死んでるんだから。

知ってるはずがないんだよ」

 

そう言うと、トレーナーちゃんはすかさず反論する。

 

「…い、いやマヤ。夢ってのは荒唐無稽なものだろ?それなら…」

 

だから

 

「うん、そうだね。

確かに夢で死者に会えるって話があるからって、今ここにいるトレーナーちゃんがそうであるっていう証拠はないよ。

 

それに夢が記憶の整理なんてのもあくまでも一説。予知夢や白昼夢なんていう、それでは説明がつかない現象もある以上、根拠としては弱いよね?」

 

あえてその反論を肯定すると、トレーナーちゃんは安心したように胸を下ろす。

 

「…ハァッ、全く相変わらずヒヤヒヤさせるな、マヤは」

 

そして

 

「大体マヤ、お前が今言ってたのはあの時の俺の話だろ?

そもそもあの時の俺と今の俺が連続している根拠がない以上、前提からして間違ってるぜ?」

 

そんなことを言うから…

 

「うん、そうだね。トレーナーちゃん。ならさ

 

どうしてその、今目の前にいるトレーナーちゃんが、前の夢のことをあの時・・・、だなんて言えるの?」

 

「!?」

 

絶句するトレーナーちゃんにマヤは追撃する

 

「そうだね。確かに夢は荒唐無稽なもの。だから、その中でトレーナーちゃんが何を言っても、どんな行動をしてもおかしくはない。だけど…」

 

「…」

 

「おかしいよね?確かに夢は荒唐無稽であることが本質だけど、だからこそ、一つ一つの夢に連続性なんてない。

良い夢を見ていたから、もう一度眠ってその夢の続きが見たい。そう思っても、基本的にできないでしょ?

ならさ…」

 

そう言ってマヤはトレーナーちゃんの方を見る

 

「どうして今目の前にいるトレーナーちゃんは、前の夢の記憶を持ってるの?」

 

「…そ、それは…」

 

さっきまでは、まるでピンチを免れたとでもいうように心底ほっとしていたトレーナーちゃんが、今度はまるで、秘密がバレて怒られる前のように、冷や汗をだらだら流している。

 

「言っとくけど、言葉のあやなんて言っても無駄だからね?

そもそも最初にマヤは言ったよね?

 

久しぶり・・・・、って。

 

今更取り繕っても言質は取れてるんだよ?」

 

「!!

お前、すでにあの時から!!」

 

トレーナーちゃんが再び絶句するのを尻目に、マヤは最後の証拠をトレーナーちゃんに叩きつける。

 

そう、それこそがマヤが今目の前にいるトレーナーちゃんを、マヤの夢でなく本人だと確信した理由で…

 

 

「…それにね、トレーナーちゃん知ってる?夢の中って感覚が曖昧なものなんだよ?」

 

そう、夢かどうかが分からないときに、自分の頬をつねるという表現があるが、それこそまさにその典型。夢の中では感覚が鈍いことを逆手に取った事実確認の方法であり、故に

 

「それを利用してわざとマヤの感覚を欺こうとしていたみたいだけど…不思議だよね?その割にトレーナーちゃんの香水だけははっきりと香ったんだ」

 

「…!?」

 

そう、確かにあの時トレーナーちゃんを抱き締めた時、マヤの腕に返ってきた感触は希薄なものだったけど…

 

「ホントに不思議だよね?トレーナーちゃんの腕の感触、抱き締めた体温、その全てが希薄だったにも関わらず、それだけはビックリするくらい鮮明に感じられたんだよ?ならさ…」

 

あの匂いを、トレーナーちゃんの匂いを、他ならぬマヤが間違えるはずなんてないから…

 

「その匂いはどこから来たんだろうね?」

 

だからマヤは…

 

「…ねぇ、もう良いでしょ?トレーナーちゃん。いい加減素直になろうよ?トレーナーちゃんは…」

 

決定的な一言を…

 

「今目の前にいるトレーナーちゃんの正体は…」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

「ふぅ、これで綺麗になったかな?」

 

墓石に水をかけ、雑巾で汚れたところを拭いたマヤは、そうひと心地つく。

 

確かに足を怪我している今のマヤの状態では普段ほどには動くことができないけど、それでも膝立ちになれば墓石の掃除くらいはできる。

だから、ついさっきまで一生懸命手桶に入っている水を墓石にかけたり、雑巾でその水を拭いつつ、細かいところにつまった埃やゴミを取っていたんだけど…

 

 

ぐ~

 

 

「…あ」

 

周りには誰もいないとはいえ、女の子としては恥ずかしい音がお腹から鳴ったので、少し顔を赤くする。

 

ふと時計を見てみるともうお昼であり…

 

「…じゃあ、ちょっと休憩しようかな?」

 

そう言ってマヤは少しお墓から離れたところにハンカチをひいて座る。そして持ってきたリュックサックに入れていた、途中で買ったおむすびを食べ出すんだけど…

 

「…ホントに良いところだよね…ここ…」

 

その途中で心の声が思わず口から出てしまう。

 

マヤが今いるこのお墓は小高い丘の天辺にある。

だからこそ周りが良く見えるんだけど、そうは言ってもここは結構な田舎。だから見渡す限り田んぼや畑しか広がっていない。でも、だからこそ静かで落ち着いた場所で…

 

 

 

ピーヒョロロロロロロロロ…

 

 

 

見上げると、遮蔽物がないせいか、いつもより遥かに広く、そして高くまで広がる青空を、一匹の鳶が気持ち良さそうに飛んでいる。春の陽気の下、晴れた空はどこまでも、どこまでも、青く深く澄み渡っている。

 

そんな気持ちの良い空を眺めていると、ふと視界に薄桃色の花びらが映る。だから、その花びらが飛んできた方向を振り返ると、マヤのななめ後ろ、すなわちトレーナーちゃんのお墓の後ろにある桜の木に行き当たる。その桜の木があまりにも見事に咲いていたから…

 

「…まったく。ホントにトレーナーちゃんは、いつこんなところを見つけていたのかな?」

 

なんてちょっと呆れる

 

そう、ここは実はトレーナーちゃんの実家の墓ではなく、生前にトレーナーちゃんが死んだらここに埋葬してくれと遺言を残していた場所だ。

 

マヤも直接会ったことはないけど、トレーナーちゃんは両親とかなり仲が悪かったらしい。

だから生まれ自体はかなり良い方だったらしいけど、完全に両親とは絶縁状態にあり、死後その墓に入ることを許してもらえなかったらしい。トレーナーちゃんのお墓に人が来ない理由のひとつがこれだ。

 

だから、当初は彼をどこに埋葬するかということで紛糾したらしいんだけど、何故かトレーナーちゃんはこの土地にすでにお墓の権利を持っており、発見された遺言状にもここに埋めてくれと書かれていたから、トレーナーちゃんは今ここに眠っているのだ。

 

吹き抜けていく爽やかな風を感じながら、マヤはおにぎりを頬張る。眼下にはホントに田んぼや畑しかなくて、何にもない。

だけど、だからこそこうして静かにのんびりするには最適な場所で…

 

(…オトナの人たちは、あの人が死後に親の墓に入れてもらえないことを見越して用意をしてた、って言ってるけど…)

 

マヤが思うに、それは多分半分間違ってる。

もちろんそういう理由もあったんだろうけど、あのトレーナーちゃんのことだから恐らく…

 

(「良い男なら、人生の終着点にもこだわるものだぜ?マヤ。

 

どうよ、良い場所だろ?ここ?

こういう平和で静かな場所こそ、良い男の墓標に相応しいところなんだぜ?」)

 

なんて言うに違いない。

 

(カッコつけだったからな…)

 

まぁ、あんまり本人が思ってるほどにはキマってなかったけど…

でも、そう言い張るトレーナーちゃんの姿がありありと目の奥に浮かぶ。

だからこそ、それが少しおかしくて

 

「…ふふっ」

 

思わず笑ってしまう。

 

あぁ、だからこそ…

 

「…けじめはつけなきゃね」

 

そう言ってマヤは食べ終えたおにぎりの包装を、コンビニでもらったビニール袋の中にいれて口を縛る。

そしてそれをリュックサックの中に入れると、また松葉杖を使って立ち上がり、敷いていたハンカチもまたその時に回収してリュックサックの中に入れ、さらにその中からまた道具を取り出す。

 

こんな風に、昼御飯の片付けと午後からの作業の準備をしていると、気が付くと、空を飛んでいた鳶はどこかに飛び去っていた。

 

だけど、

 

(このために、マヤは今日ここに来たんだしね)

 

そう思いながら、マヤは早速作業に取りかかる。

とは言え、一番大変な墓石の掃除が終わっているのだ。後は古い花と新しい花を交換して、お線香をあげるだけだから、言ってもそんなに時間はかからない。

 

(…ホントはお墓の周りの掃き掃除もしたいけど…)

 

流石に今の状態では無理だ。残念だけど、そこに関してはさっきのお坊さんに頼んでおこう。

 

そう思いながら、線香に火をつけ手を合わせる。

 

 

 

静かだ

 

 

 

元々周りに何もないのと、参拝客がマヤしかいないのを合わせて、周囲からは人工の音が一切しない。だからこそ、木々のざわめきの音くらいしかしないため、あたりはとても静かだ。

 

そんな中

 

「…ねぇ、トレーナーちゃん」

 

マヤは口を開く。

 

「…マヤね、今日はトレーナーちゃんに話したいことがあって来たんだ」

 

これまでのことを、今からのことを話すために、そして…

 

「…聞いてくれるかな?」

 

何よりも、前に進むためのケジメをつけるために

 

ザァッー

 

と風が吹く。それに揺られる桜の木から、無数の花びらが飛んでいく。

 

その様子を見ながら、マヤは今朝の夢の続きに思いを馳せた。

 

 

 




大切な人の墓前で彼女は何を語るのか。

短いですが、次回で第4部完結です。

…そして、本当に申し訳ないですが、
また日が空きます。
次回は24日の夜の予定です。
度々日が空いて申し訳ないですが、よろしくお願いいたします。

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