ウマ娘三部作Firstシーズン 片翼の撃墜王 ~イカロスの黎明~【完結】 作:DX鶏がらスープ
今回の話で現在の状況が大体わかると思いますが、
相変わらず空気が重いです。
もしかしたら今回の方が鬱っぽいかもしれません。
あと、少しだけ流血表現があります。
…別に作者は愉悦部ではないですよ?
単純に展開上必要だからこうなっているんですよ?
―時間は少し遡る―
「あっ、ナイスネーチャン!」
「ナ イ ス ネ イ チ ャ !!
何回言えば分かるのよ、アンタは!?」
「にひひっ、今日も絶好調だね!」
寮の廊下で出会うなり、ふざけたことを抜かしおったお気楽極楽娘、トウカイテイオーの頭に、アタシは無言でチョップを喰らわす。
「イッターイ!何すんのさネイチャ!!」
「だまらっしゃい。次同じこと言ったらネイチャさん必殺の右ストレートが飛ぶからね」
「ぶーぶー。ネイチャのいけずー」
…そりゃアタシだって、1回2回言われた程度ならこんなことはしないけど、この元気溌剌娘はことあるごとにそれを言うものだから、流石に温厚なネイチャさんもキレるというもの。
仏の顔も三度までとはよく言うけど、逆に3回越えたらその顔は地獄の閻魔もかくやというものになっていてしかるべきなのである。よってアタシは悪くない。ノットギルティ!
…まぁ、それはさておき
「テイオーは朝練?」
「勿論!サイキョーのウマ娘たるテイオー様は、休日でもトレーニングを欠かせないのだ!」
「へいへい、それはご立派なことで…。でも珍しいね、朝練にしてはまだちょっと早いと思うけど?」
言いながらアタシは廊下の窓を見る。一応日は出てるけど、時刻はまだ6時にもなっていない。まぁ、平日なら別に珍しいことでもないんだけど、流石にテイオーでも休日はもう少し寝ている。大切なレースが近いなら話は別だけど、いくら私たちウマ娘がレースに全力を尽くしているとは言え、年がら年中気をはりつめている訳でもないのだ。
「いや~、実はフジキセキ先輩がもう起きててさ。別に気にしなくても良いって言ってくれてはいるんだけど、流石に先輩が起きてる横でボクだけ寝てるわけにもいかなくてさ~」
「あ~…なるほどね」
言われて納得する。確かに寮長である先輩なら休日でも早起きしててもおかしくないし、いかに気にしなくても良いと言われても、自分達の先輩が起きて色々していたら、流石にそのまま寝ているというのは心情的に気まずいだろう。まして、今のテイオーのように一時的に同じ部屋に住まわせてもらっている立場なら尚更だ。
…そう、今テイオーはこの栗東寮の寮長であるフジキセキ先輩の部屋に一時的に部屋を移している。諸事情でしばらく部屋から出ていかざるを得なかったテイオーに、ちょうど一人部屋だった先輩が部屋を貸しているという状態なのだ。そして、そのテイオーが期間限定とはいえ部屋を移さなければならなかった理由は…
「そういうネイチャこそ随分早いじゃない。別にボクみたいに朝練って訳でもなさそうだけど、キミこそどうしたんだい?」
なんて考えていたら、テイオーもアタシに質問をしてくる。
まぁ確かに、朝練ならまだ納得できる理由ではあるが、そうでなければ休日の早朝から何してるの?と不思議に思うのは別におかしなことではない。
「別に大したことじゃないよ。アタシは…」
「マーベラス☆待たせてごめんね、ネイチャ!!」
アタシが答えようとすると、後ろから声が聞こえてくる。振り替えると、こちらに走ってくる同室のマーベラスサンデーが見える。見えるが…
「ちょっとマーベラス、しっー!まだ朝早いんだから、あんまり大声だしちゃダメ!!」
「あっ。ごめん、ネイチャ」
流石に休日の早朝から大声でマーベラスするのだけは止める。ちょっとだけマーベラスが凹むが、こればっかりは寮なので仕方がない。
「あっ、おはようマーベラス!キミも今日は早いね!」
「あっ、テイオー!おはよう!マーベラスはね、今からネイチャととってもマーベラス☆なことをしに行くんだ★」
「…へー、マーベラスなこと?」
「そう!マーベラス☆なこと★」
とそこで、マーベラスに気付いたテイオーが彼女に挨拶をし、マーベラスもそれに応えて二人は話し始める。
まぁ、さっきの大声を反省して声のボリュームを落として話してるのは偉いんだけど、いかんせん彼女の発言がマーベラス過ぎて、テイオーは途中でついていけなくなる。そんな彼女のために、アタシはすかさず説明した。
「大したことじゃないよ、テイオー。ただ二人で散歩に行くってだけだから」
「散歩?」
「そう。たまたま二人とも全く同じ時間に起きちゃって、でも寝直すには微妙かな~、なんて思ってたからね。ちょうど二人とも今日は予定がなかったみたいだから、たまには二人で朝の散歩なんてのも乙なものかなって思ってさ」
「マーベラス☆」
そう、かくいうアタシも休日は普段ならこの時間帯はまだ寝ているのだが、何故か今日はふと目が覚めてしまった。
そして、それは同室のマーベラスも同じだったようで、全く同じタイミングで目を覚ましたアタシ達は、せっかくだから二人で一緒に何かしないかという話になり、その結果として、天気も悪くないので二人で朝の散歩に行くことにしたのだ。
「へー、仲良いんだね二人とも」
そういう諸々のことの経緯を一通り話すと、テイオーはどうやら感心したらしく、しきりに頷く。
「まぁね。それにせっかくの休日なんだから、たまにはこのくらいはね」
「マーベラス☆
そうそう、ネイチャはとっても良い子なんだよ!
マーベラスが忘れ物したときはいつも届けてくれるし、マーベラスが調子が悪いときも、しょうがないな~、なんて言いながらも助けてくれる!ホントにホントにマーベラス☆な子なんだよ!」
「ちょっ!?マーベラス!そんなことは言わなくて良いから!!」
「…ほほぅ?」
慌ててマーベラスの口を塞ぐが、時既に遅し。話を聞いていたテイオーは、非常にいやらしい笑顔でニマニマしながら話しかけてくる。
「にひひっ、いや~本当に仲が良いんだね~、ネイチャ達は」
「…~っっ!!」
恥ずかしさで顔が赤くなる。別に何か悪いことしている訳じゃないんだけど、それはそれとして普段のマーベラスとのやり取りをからかわれて、顔から火が出そうなほどの羞恥に襲われる。
…だから、本当に悪気はなかったんだ。
「そ、そうね。まぁ、確かにアタシとマーベラスは仲良く過ごしてるよ。
…で?テイオー自身はどうなのさ?別にケンカしたとかは聞いたことないけど、マヤノとはうまくやってるの?まぁあの子は結構気分屋だから、今のアタシ達みたいに一緒に朝の散歩なんてことは…」
「…!ネイチャ!!」
「…!!」
そこで気が付き、慌てて自分の口を押さえるが…もう遅い。
そう、別にアタシには悪気なんてこれっぽっちもなかった。ただ、普段の自分の行動をからかわれて恥ずかしくなり、そのちょっとした仕返しにテイオーにも同じことを聞いてみただけ…
アタシが恥ずかしがらされた分、テイオーも恥ずかしがらせてやれ、という悪意のない、ちょっとしたイタズラみたいなもののつもりだったんだけど…
「…うん、そうだね。マヤノは確かに気分屋だし、おまけに結構な寝坊助だから、今のネイチャ達みたいに早朝から一緒に散歩をする、っていうのはちょっと難しいかもしれないね…あはは…」
「…ご、ごめんテイオー!…アタシ…そんなつもりじゃ…!!」
「…ううん、ネイチャは悪くないよ。…むしろこっちこそ、からかちゃってごめんね」
アタシは慌てて謝るけど、普段の生意気な雰囲気が消え、困ったような笑顔で言うテイオーには、もう何も言えない。アタシ達以外誰もいない廊下に静寂が満ちる。
…あぁ、そうだ。自分はなんてバ鹿なことを言ってしまったんだろう。テイオーは今マヤノと一緒の部屋にいないことなんて、分かっていたことじゃないか。そして、その理由だってアタシは…
…その時だった。
「…ぁぁああぁぁぁぁぁぁああああァァァっっッッッ!!!!」
静まり返った廊下に絶叫が鳴り響き、アタシ達は硬直する。それは今いる廊下に繋がるとある部屋の中から聞こえるものだったが、比較的防音がしっかりしている栗東寮において、部屋の外にまで聞こえるそれは、恐らく部屋の中でなら尋常ではないものに違いない。聞く者の魂を削るような、血を吐くような絶望と後悔と悲しみに溢れた絶叫。それはちょうど今、目の前で話をしているトウカイテイオーが元々いた部屋から漏れ出すものであり…
「マヤノ…」
「…っ!!」
「…!テ、テイオー、あんた…!!」
マーベラスがそれを聞いて悲しそうに俯くが、ふとテイオーを見たアタシにとっては、正直それどころではない。慌ててテイオーに駆け寄り、アタシがとった彼女の手は、血で真っ赤になっている。…簡単な話だ。彼女はあまりにも手を強く握りすぎて、爪で自分の手の平を傷つけてしまったのだ。
「…?
…あ、あはは。ごめんネイチャ。こんなカッコ悪い姿見せちゃって…
…迷惑ついでに頼みたいんだけど、この指外してくれないかな?自分じゃ力抜けなくて…」
「…っ、あんたって奴は本当に…!」
力を入れすぎて自分で元に戻せなくなったテイオーの指を、一本ずつマッサージしながら元に戻していく。その間もテイオーの手からは血が流れ続け、ぽたっ、ぽたっ、と廊下の床に落ちていく。それはまるで彼女の悔し涙のようで…。
「…うん。ありがと、ネイチャ。」
「まったく…あんたにまで何かあったら困るんだから…気を付けてよね、本当に…」
なんとか全部の指を元に戻し、マーベラスに頼んで部屋から取ってきてもらった包帯を巻くと、テイオーはアタシにお礼を言ってくれる。だが、その笑顔にはやはりまだ何処か影があるし、本質的な問題は一切解決していない。廊下にはまだ、胸をかきむしりたくなる位悲しい泣き声が響いている。すると、アタシがテイオーの手を診ている間ずっと黙っていたマーベラスがぽつりと呟いた。
「…ねぇ、ネイチャ。アタシ達に出来ることって、ホントに何もないのかな…?」
大きな目にいっぱいの涙を貯めて答えを待つマーベラスに対して、アタシは…
「…」
何も…言うことが出来ない。気が付くと廊下は静まり返っている。あれだけの絶叫が響いていたのにも関わらず、それでも誰も出てこないのは、流石に廊下越しなら扉を閉めれば音を遮断できるのと、もう一つ。皆がこの絶叫にそろそろ慣れはじめているからだ。
…そう、テイオーのルームメイトであるマヤノトップガンが自分の部屋に引きこもり、泣いて暮らすようになってから、もう一月が経つ。そして、彼女がこうなってしまった原因はただ一つ。彼女のトレーナーさんが亡くなったからだ。
…正直、学園内での彼女のトレーナーさんの評価はそこまで高くなかった。真夏であっても長袖のくたびれた黒いスーツに黒いサングラス、黒い中折れ帽子という、全身黒ずくめの不審者スタイルを貫く彼は、はたから見るとあまりにも胡散臭く、それに加えてそのどこかカッコつけた言動からはダメな男の匂いがはっきりと漂っていた。顔は悪くなかったが、誠に遺憾ながら、その第一印象は残念な人というのが、学園のトレーナー、及びウマ娘達の総意であったのは間違いない。
また尚悪いことに、良いウマ娘を見かけると、すぐに走っていってそのポンコツ臭溢れるハードボイルド(笑)な言動で勧誘することから、学園の大半のウマ娘たちに気持ち悪がられ、ぶっちゃけ奇人変人の類いとして、学園内では有名だった(なおこれに関しては、マヤノが不機嫌になるため、ある時期から控えるようになった模様)。
でも、アタシやマーベラス、テイオーのような、マヤノと親しいウマ娘は皆知っている。
確かにあのトレーナーさんは正直かなり残念な人だった。
…と言うか彼の愛バのマヤノにすら、
「ねぇ、トレーナーちゃん。トレーナーちゃんはいつも、どうしてそんなダサい格好してるの?」
などと、たまに不思議そうに聞かれていたあたり、そこに関しては誰も否定できないだろう。
…だけど、それでも彼と一緒にいる時はいつも、マヤノは幸せそうだった。
勿論二人の道のりが常に順風満帆だったわけではないだろう。レースに負けて二人で悲しむことだってあっただろうし、意見が噛み合わずに喧嘩をすることだってあっただろう。実際、アタシも偶然そんな場面に出くわしたことはあったし、トレーナーさんと喧嘩したマヤノの相談にのることも何回かあった。
だけど、それ以上にアタシがマヤノの口から聞いたのは、彼女のトレーナーちゃんがすごいって話や、彼との楽しい思い出ばっかりだったし、何より彼と一緒にいた3年間、マヤノは常にレースを楽しんでいた。
また彼も、言動こそふざけていたが、常にマヤノのことを考えて行動していた。それは彼の行動を少し見れば誰にでも分かることだったし、彼の数少ない友人の一人であったアタシのトレーナーさん曰く、模擬レースに出られなかったマヤノを模擬レースに参加させるために、彼はあらゆるところを走り回って、最悪土下座も辞さずに、色々な人に頭を下げてまわっていたらしい(もっともこれに関してはマヤノも知らないみたいだけど、本人も秘密にしているみたいだから、アタシたちも敢えてマヤノの前では話題に出していない)。
それほどまでに、あのトレーナーさんは自分の愛バであるマヤノの幸せのために尽くす人だったし、それが分かっていたからこそ、マヤノも彼を心から信頼していたのだと思う。
大多数の人達から見たらとんでもない人だったかもしれないけど、マヤノにとって、彼は最高のトレーナーさんだったのだ。
…だからこそ、そんな彼が死んだ時、マヤノはこれ以上ないほどにショックを受けた。
彼女のトレーナーさんの死因は交通事故だったそうだけど、それを確認しに行って病院から帰ってきたマヤノは、普段の天真爛漫な様子が嘘のように、びっくりするくらいの無表情で、アタシやテイオー、マーベラスがいくらなだめすかしても完全に上の空。それはもう酷い有り様だった。
でも、多分その段階ではマヤノ自身が混乱して何が起こったのかが分かっていなかった。いや、本当は分かっていたけど、それを心が必死に認めまいとしていたんだろう。だから、お葬式が終わり彼の死を彼女の心までもが受け入れてしまった瞬間に、マヤノは決壊した。
…それでも最初は皆彼女を励まそうと必死だった。アタシもマーベラスも、そして何よりテイオーが必死に彼女を励ました。
特にテイオーの献身は本当に凄かった。ルームメイトっていうのは勿論あったのだろうけど、声が枯れるまで泣き、力尽きるように眠りに落ち、そしてまた起きて獣のような声で慟哭する彼女と、同じ部屋で1週間も過ごし、その間彼女を慰め続けるのと並行して、食事から風呂から何から何まで、彼女の全ての世話をたった一人でやりきったというのは、筆舌に尽くしがたい快挙だ。アタシでも同じことは出来ない。
本人曰く、
「ボクが三冠を取れなかった時、無敗記録を破られてしまった時、3回目の怪我でウマ娘としての人生を諦めかけた時、マヤノはそんな一番辛かった時でもいつもボクの側に何も言わずにいてくれた。
後からマヤノに聞いたら、ボクならきっと立ち直れるって信じてたから、あえて何も言わずに、それでも一人ぼっちにしないために側にいてくれたんだってマヤノは言ってた。
だから次はボクの番。一番辛い時に一緒にいてくれた恩人を、今度はボクが助けるんだ!」
とのこと。
そんな真っ直ぐすぎるテイオーのお陰で、本当に一番危なかった時期をマヤノはなんとか乗り越えることができた。あの乱れようから察するに、もしテイオーがいなかったら、あの時点でマヤノは狂い死んでいたかもしれないと考えると、本当に彼女には頭が上がらない。
だけど、いくらテイオーでも流石にそれが限界だった。1週間本気で狂い暴れる続けるウマ娘を押さえ込みきったテイオーは完全に憔悴し、このままでは共倒れになると危惧したフジキセキ先輩が、強制的に彼女をマヤノから引き剥がし、自分の部屋に放り込んだあたりから、マヤノは一人部屋になった自分の部屋に引きこもるようになった。
もちろん、アタシやマーベラス、他にも皆でマヤノのことを励ましに行ったし、フジキセキ先輩も寮長としての立場も込みで、彼女を外に出そうとあれこれ手を尽くして頑張った。でもアタシ達の努力も空しく、日に日にマヤノは衰弱していく。何時間もずっとベッドに座り込み、じっとひたすら虚空を見つめ続け、そして時たま感情を爆発させては、また死んだような目で座り込む…そんな状態ではアタシ達も手の付けようがなくて、結局今はそっとしておいた方が良いということで、現状維持に甘んじるしかないという状況だ。
…一応ドアの前においた食事だけは、少しだけだけど食べてくれるから、当面の餓死の心配はないと思うけど、それでもそんな状況で必要カロリーを十分に摂取できているはずもなく、またたまにマヤノの世話に行っているフジキセキ先輩曰く、どうもろくに睡眠もとっていないという話らしい。正直そろそろお医者さんを呼ぶレベルかもしれない。そんな明らかにトレーナーさんの死から立ち直りきれていないマヤノを外に出すのはまだ無理があって…
アタシはマヤノの部屋の扉を見つめる。その扉は今同じ廊下にある別の部屋の扉と全く同じものだけど、アタシにはそれでいてマヤノの部屋とこちらの廊下を区切る、絶対の境界線に立ち塞がる固い固い壁のように思える。それが悔しくて、情けなくて、アタシもテイオーほどではなくても、両手をぎゅっと握りしめる。
…アタシだってマヤノの友達だ。だから、友達が苦しんでいると言うのなら、助けたいと本心から思う。でも乱れ狂うマヤノを一週間も押さえ続けたテイオーでもマヤノを救えないというのなら、他に一体誰があの子を救えるというのだろうか…?
…分からない。アタシ達はどうすれば良いんだろうか…。
そうしてアタシ達三人はその場に立ち尽くす。あたりには静まり返り、聞こえるのは鳥の鳴き声くらい…そのはずだった。
(…ん?)
遠くから人の声が聞こえる。
最初に気付いたのはアタシだったけど、テイオーとマーベラスもすぐに気付いたようだ。
別に会話が聞こえること自体はおかしなことではない。確かに少し早い時間だけど、フジキセキ先輩のように、起きている人は起きているだろうし、そんな人達が廊下に出て話していても、これもまたおかしなことではない。ウマ娘の耳なら、静かな場所なら別の階の会話がある程度聞こえるということも可笑しくはない。
しかし、その声は明らかに争っている声であり、しかも段々と今アタシ達のいる階に近づいているような…
「…!!」
「…!!」
謎の声は、どうやら上の階からするらしく、次第に階段を下りる音も一緒に聞こえてくる。
「や…、ブラ…!そ…こと…!マヤ…が…、お前…わか…!?」
「…だ…こそ、…意味…あ…」
声がこちらに近づいてくるのは間違いないようで、階段を下りる音も、話し声も段々と鮮明になってくる。
(…え?一体何事?)
突如として近づいてきた謎の声に、思わず顔を見合わせるアタシ達の反応を無視して、事態は進行する。
「だからって、まだ早すぎる!もう少し待つべきだ!!」
「…これ以上待っていては手遅れになる。第一…もうわたしが待てん。」
階段を下りきり、ついに謎の声の主がアタシ達の前に姿を現す。一人はここ栗東寮の寮長であり、現在テイオーが居候させてもらっている部屋の主でもあるフジキセキ先輩。そしてもう一人は…
「…!!
あぁ、ネイチャ、テイオー、マーベラス!!
出会って早々悪いんだけど、このバ鹿を止めるのを手伝ってくれないか!」
「…誰がバ鹿だ」
そう、もう一人は意外なことにナリタブライアン先輩だった。予想外の人物の登場に困惑するアタシ達だったが、そんなアタシ達を無視するかのように、ブライアン先輩は1人でずんずん廊下を歩いていく。それを見て、まずは状況を把握しなければならないと、慌ててアタシは二人を追いかけ、フジ先輩に状況を確認する。
「えっ?えっ?一体どうしたんですか、フジ先輩!?」
「どうもこうもないよ!ブライアンがさっきいきなりワタシの部屋に押し掛けてきたと思ったら、マヤノの部屋の鍵を貸して欲しいだなんて言い出してね!理由を聞いたら、マヤノを外に連れ出してレースをさせるって言うんだ!」
「えぇっ!?」
そんな無茶な!只でさえ今のマヤノを外に出すことすら危ういのに、そんなマヤノにレースなんて出来るわけがない!
「なんでそんな無茶を…」
「知らないよ!理由を聞いても、”だからこそだ”、とか、”やればわかる”、だとかそんなことしか言わないんだ!!」
「そんなむちゃくちゃな…」
この人は一体何を考えているのだろうか…?それはともかくブライアン先輩を止めないと!フジ先輩の説明を聞いたアタシはブライアン先輩に後ろから抱きつく。
「やめてください、ブライアン先輩!マヤノはまだ…」
「…うるさい、邪魔をするな」
「うわぁっ!!」
そうしてブライアン先輩の足を止めようとするけど、逆にアタシは引きずられてしまう。駆けつけたマーベラスとテイオーも加勢してくれるけど、結果は同じ。確かに廊下を歩くスピードは落ちたけど、三人まとめてブライアン先輩に引きずられていく。
(な、なんなのこの人は!?)
いくらウマ娘だからって、同じウマ娘3人の妨害をものともせずに歩き続けるなんて、普通ではない!一体なんなのだ、この先輩は!!
そうこうしている内に、ブライアン先輩はマヤノの部屋の前にたどり着いてしまう。だが、先のフジ先輩との話から察するに、彼女はマヤノの部屋の合鍵は恐らく持っていない。なら…
「…ここまで来て、一体どうやって部屋の中に入るつもりですか?先輩」
「…フッ、知れたこと。中に人がいるなら部屋の鍵は開けられるはず。であるのならば話は簡単だ。出てくるまでノックをするだけだ」
「あなたはっ…!」
こんな局面でなんてふざけたことを!
「いい加減にしてください!マヤノはまだ、外に出られるような状態じゃないんです!」
「そ、そうだ!いくら先輩だからって、マヤノを傷付けようって言うんならボクも許さないよ!」
「マヤノを傷付けないで!」
三人で叫ぶが、ブライアン先輩は一顧だにしない。そのままノックをしようと…
(「…マヤ、もうどうすれば良いのかわかんないよぉ…」)
…え?
「い、今のって」
「…マヤノ?」
「な、なんで…?」
とても、とても小さな声だったが、確かにあれはマヤノの声で…でもなんで?さっきの絶叫並みの大声ならまだしも、あんな小さな声が聞こえるものなの?周りが静かだから?ドアの前に立っていたから?それとも…?
突然聞こえてきたマヤノの声にアタシ達3人は困惑しきりだ。だが…
「お、おい!ブライアン!お前一体何をするつもりだ!!」
「…そこまで」
「えっ?」
「そこまで堕ちたか!マヤノトップガァァンッッ!!」
気合一閃
爆音と共にマヤノの部屋のドアが吹き飛ぶ。その光景に、アタシ達は呆然とする。
…確かに、確かにウマ娘の力でならドアを蹴り飛ばすことは出来ないわけではないだろう。だけど、普通そんなことする?この人ホントになに考えてるの!?
呆気にとられるアタシ達だったが、そんな状況でもノッシノッシと部屋に入っていくブライアン先輩を追ってアタシ達は慌てて部屋の入り口をくぐる。
すると当然その部屋の主がいるわけで…
「…ブライアン…さん?」
「…そんな顔をしているお前に朗報だ」
マヤノトップガン…
久しぶりに見るアタシ達の友達は…
「…マヤノトップガン。今すぐわたしと模擬レースをしろ」
何故かブライアン先輩に、無謀な勝負を挑まれているのだった。
うちのトレセン学園にはナリタブライアンがいないので、正直この人のキャラクターはかなり難しい…
メインストーリーと個別ストーリーを見て勉強はしているのですが、こういうキャラクターで大丈夫なのかが心配ですね…