ウマ娘三部作Firstシーズン 片翼の撃墜王 ~イカロスの黎明~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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前回のあらすじ

突撃今日の晩御飯!

…実際あの世界のセキュリティ技術ってどうなっているんでしょうか?
ウマ娘なら鍛えてなくても、木造のドアくらいなら粉砕できそうですよね?

流石に設定的にウマ娘がそういう乱暴なことをすることはないと思いますが、
それでも生半可なセキュリティなら蹴破ってきそうですよね。物理的に。




パンドラの箱

「ブ、ブライアン!これはいくらなんでもやりすぎだ!流石にここまでされると寮長として見過ごす訳にはいかない!!」

 

部屋に入ってきたフジキセキ先輩がナリタブライアン先輩の腕を掴む。外には早くも大勢の野次ウマが詰めかけており、すでに騒ぎになっている。当然だ。いくら連日のマヤノの騒ぎで絶叫には慣れているとはいえ、早朝から寮の一室でいきなり謎の爆音が鳴り響いたのだ。気にならないはずがない。

 

「キミにはしかるべき罰をうけてもらう!覚悟は良いな!」

 

だからフジ先輩が激昂するのは無理もないが、ブライアン先輩は特に動じた様子もない。

…というか、フジ先輩を無視してマヤノに話始める。

 

「…どうした?何とか言ったらどうだ?」

 

「…」

 

「おい!聞いているのかブライアン!!」

 

無視されるとは思っていなかったのか、フジ先輩はブライアン先輩の腕を引いて向き直らせようとするが、それでも全然彼女は先輩の方を見ようともしない。その視線は一点のみを見ており…

 

(…マヤノ)

 

そして、その燃えるような視線にさらされて、久しぶりに会うアタシ達の友達はベッドの縁に座り込んでいる。

…その状態はハッキリ言ってヒドイものだった。もともとくせ毛だった髪はさらにボサボサになっており、枝毛もあっちこっちに出来ている。頬は痩せこけ、目の下にはひどい隈があり、堕ちくぼんだ目には以前のような明るい輝きは一欠片も残っていない。

…だが、生きてる。そんな状態であろうと、マヤノは、アタシ達のかけがえのない友達はまだ生きてる。

そんなマヤノを見てアタシは…

 

(…マヤノ!)

 

…アタシは思わず涙ぐんでしまう。

周りを見ると、マーベラスやテイオーも、同じように涙ぐんでいる。

…あぁ、思えば最後にあったのはいつになるのか…たった一月の話でしかないはずなのに、随分長い間彼女と会ってなかった気がして…

 

でもそんなアタシ達の感傷などお構いなしに事態は進行する。

 

「…っ!いい加減に…」

 

「…ごめん、ブライアンさん」

 

だから、流石にこの状況で無視され続け、いい加減我慢が出来ず本気でブライアン先輩に掴みかかろうとしたフジ先輩も、その言葉で動きを止める。

 

「…マヤね、わか・・んないんだ。

今までどうやって走ってきたのかも、これからどうやって走れば良いのかも…」

 

マヤノは構わず続ける。

 

「…トレーナーちゃんが死んじゃってから、マヤわか・・んなくなっちゃった…」

 

何時しか部屋は静かになっていた。あんなにざわざわとしていた野次ウマたちも、気が付くと押し黙っており、外にもその静けさは伝染している。そんな針を落とした音さえ聞こえそうな静寂の中で、マヤノは言葉を紡ぎ続ける。

 

「…だからきっと、こんな今のマヤと走っても、きっとブライアンさんは満足できない…キラキラできない…

だから…」

 

マヤノが手元にあるくまの人形を握りしめる。人形に隠れてその顔は見えないけど、その声は少し震えていて…

 

「…ごめんなさい、ブライアンさん。…マヤ、もうなにがなんだかわか・・らない。もう走れないの…」

 

…それは明確な拒絶。マヤノはブライアンさんの誘いを明確に拒絶した。

 

「マヤノ…」

 

そんなマヤノの告白を聞いたアタシ達は二の句が継げない。そう、今マヤノが言った言葉は、実質的に引退も考えて良いほどの現状を表す言葉。

 

「もう走れない」

 

…マヤノがトレーナーの死で心に大きなダメージを負っていたのは十分に理解していたつもりだったけど、そんなアタシ達でもまさかここまで深刻な話が出てくるとは予想も出来ず、絶句するしかない。

 

そして、それを聞いてどう思ったのかは知らないが、これまでじっとマヤノのことを睨みつけていたブライアンさんのプレッシャーが不意に消失する。

 

「………そうか」

 

そしてそれまで頑なに無視し続けていたフジキセキ先輩の方に向き直ると、ブライアン先輩は不意に頭を下げた。

 

「…この度の件、まことに申し訳ありませんでした。責任の所在は全てわたしにあります。どのような罰も受け入れます」

 

突然のブライアン先輩の謝罪に、周囲がざわめき始める。それは、いままでろくに相手をされなかったにも関わらず、いきなり素直に謝罪されたフジキセキ先輩も同様であり、

 

「あ、あぁ。…理解しているなら良いんだ。…うん」

 

さっきまでの激昂を維持できず、少々動揺しながらも、彼女はブライアン先輩の謝罪を受け入れる。

…と

 

「どけどけぇ!ヒシアマねぇさんのお通りだぁっ!!一体全体なんの騒ぎだいこりゃあ!!」

 

野次ウマたちの中からよく通る声が響き渡る。人の波を掻き分け、野次ウマの群れの中から出てきたのは、この栗東寮と対になるもう一つの寮の寮長であるヒシアマゾン先輩だ。

 

「うちの寮の子達から、隣の寮で何か騒ぎが起きてるって聞いてね!フジ!一体これはどういうことだい!!」

 

「…ああ、ヒシアマ。実は…」

 

気が付くと、事態は沈静化しかけていた。ブライアン先輩はドアを蹴破ってまでマヤノの部屋に突入し、マヤノにレースをさせようとしたが、結局それはマヤノに拒絶され、ブライアンさんの思惑はくだけ散った。

部屋の入り口では相変わらず野次ウマたちがざわめいているが、部屋の中ではフジ先輩とヒシアマ先輩が情報整理とこれからの対応について話し合っている。それにこれほど事が大きくなったからには、じきに生徒会のメンバーも話を聞き付けてやってくるだろう。

まだ誰も具体的な行動は起こしていないが、状況はすでに終わりを迎えつつあった。

 

そんな中、フジ先輩に謝罪を終え佇んでいたブライアン先輩はもう一度振り返り、マヤノに話しかける。その顔はどこか悲しそうで、それはまるで何かを諦めきれないようで…

 

「…本当に、それで良いんだな?」

 

「…」

 

水を向けられたマヤノは答えない。彼女はただ人形を抱きしめ俯いている。そんな彼女の様子をしばらく見ていたブライアン先輩は、ふとマヤノから目線を反らすとポツリと言う。

 

「…そう…か」

 

「…」

 

一瞬だけ。本当に一瞬だけ、先輩の顔にはまるで泣き出しそうな、親に捨てられた子供のような表情がよぎるが、次の瞬間にはもうその顔はいつものクールな顔にもどっている。

 

「皆下がれ!生徒会のエアグルーヴだ!」

 

「…それじゃあブライアン。生徒会室まで同行を願おうか」

 

「…ああ」

 

事態を聞き付けたのか、副会長のエアグルーヴ先輩がその場に駆けつける。そしてフジ先輩とヒシアマ先輩の話し合いは終わったらしく、事態の収集を図るべく、ブライアン先輩を駆けつけたエアグルーヴ先輩と共に生徒会に連行しようとしている。野次ウマ達も、事態の終息を察したのか、その内の何人かは既に解散の準備に入っている。世はなべて事もなし。早朝に起きた事件は、特に何か厄介な妨害に会うこともなく、順当にエンドロールまでの道のりを辿っていく。

 

「…ちっ、これではこちらの骨折り損だ」

 

「…」

 

だから、もし…

 

「…トレーナーが死んでしまったことには同情するが…まさかそれだけでここまで腑抜けるとはな…」

 

「…」

 

もしブライアン先輩がこのまま大人しくフジ先輩達に連行されていたら…

 

「…全くあのトレーナーも罪な男だ。せっかくの愛バを、才能の塊を自分の死で台無しにしてしまうなど…トレーナーの風上にも置けんやつ…」

 

「…」

 

この話はこのまま綺麗にエンドマークを…

 

「…本当に度し難い。思えば以前から悪い噂のあるトレーナーだったが…はっ、まさしくその通りだったわけだ。あんなダメ男、もしかしたら実はアイツには釣り合いがとれていな――…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ねぇ…今…

 

 

 

    なんって…言った?」

 

 

 

 

              

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――…!!」

 

「…なっ!!」

 

「…えっ!?」

 

弛緩し始めていた空気が一瞬で凍りつく。部屋の中にいた面子は勿論のこと、部屋の外にいた野次ウマたちまで即座に何も言えなくなる。先程マヤノが話していた時の沈黙とは違い、その場には動いたら死ぬと感じるほどの、恐ろしいまでの緊迫感が満ちる。

そのあまりにも異様な雰囲気に、アタシ達はもちろん、ブライアンさんや寮長達、あの生徒会副会長エアグルーヴ先輩でさえ、その場から一歩も動けない。そして…

 

 

 

「…ねぇ、ブライアンさん…

 

…マヤ、よく聞こえなかったから…もう一回言ってよ…」

 

 

 

 

そんな張り詰めた空気の中で、小さな声があたりに響く。その穏やかな、それでいて地獄の底から響いてくるような声には、今まで感じたこともないような純粋濃縮された憎悪と憤怒と殺意がこれでもかっていう位にパンパンに詰まっていて、

思わず声の方向を向いたアタシは…

 

「ひっ!」

 

…そこに修羅を見た。

いつの間にかマヤノはベッドから下りて立ち上がっている。そしてとても静かに、連行されかけているブライアンさんの背中に、(言葉遣いだけは)この上なく穏やかに質問を投げ掛けているのだが…

 

(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!

 

これはヤバい!マジでヤバいって!!)

 

アタシの背中から冷や汗がダラダラ流れる。人間ってこんなに体に水分があるんだって、人体の神秘を実感できるほどの量の冷や汗が流れたような気がするが、だからといって、今迂闊なことは出来ない。絶対に出来ない!何故なら…

 

(怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!

 

えっ、何?何なのマヤノ!?あんたマジでキレるとそんなになるの!?)

 

…何故なら立ち上がったマヤノの顔が「無」だったから。無表情ではない。感情があまりにも高ぶりすぎて、逆に顔に何の表情も浮かんでいないように見える。言わば激昂の臨界点を余裕でぶち抜いてしまったが故の、次元が違いすぎて認識ができないからこその完全なる「無」がその顔に浮かんでいたから。

そのぽっかりと口を開いた洞窟のような、あまりにも空虚な目を見ることが出来ず、思わず近くにいたテイオーやマーベラスを確認すると、彼女達もアタシと同じく全身から脂汗をダラダラ流しながら硬直している。

 

…そう、基本的にマヤノは怒ってもあんまり怖くない。無論程度にもよるが、わりと子どもっぽい性格のマヤノは怒り方も比較的単純で、せいぜい「ネイチャちゃんのばーかばーか!」なんて可愛らしい悪口を吐くのが関の山。また怒ってもちゃんと謝れば許してくれるので、いや~、チョロいな~、なんてこれまでは思ってたんだけど…

 

(こ、これはちょっと洒落にならないよ…

いくらネイチャさんでも、これは流石に…)

 

それだけに、今のマヤノの怒り方は、普段のそれとあまりにも落差が大きすぎて…

…この子だけはマジで絶対に本気で怒らせちゃいけないと自分の認識を全力で訂正しつつも、ここでアタシはふと気付く。

 

…あれ?

確かにこの怒り方は本当に予想外で、あまりにも怖すぎるけど…そもそもなんでここまでこの子は怒ったんだっけ…?

そんな疑問がふと浮かび…

 

「…ねぇ、ブライアンさん。前言を撤回するね…」

 

「…ほぅ?」

 

などと考えていると、マヤノがまた何かを言い始める。それを聞いて、大瀑布のようなとんでもないプレッシャーをマヤノから一身に受けるブライアン先輩は、冷や汗を流しながらも口の端を少し上げた。何故なら…

 

「…するよ…レース…」

 

「…!!」

 

「…マヤ…ブライアンさんとレースするよ…」

 

それはブライアン先輩がマヤノに言って一度は拒絶されたことであり…

 

「…そこでマヤは…ブライアンさんを倒すよ…」

 

…その時のマヤノの目には、あまりにも危険すぎる狂気に由来するものとは言え、その目に炎が宿っていたからだった。

 

 

 




Q.死ぬ前に言いたいことはある?

A. え、えっとですね。

ナリタブライアンさんはアプリと同じくマヤちゃんとライバル関係にあったんですが、その間マヤちゃんだけを見ていたんです。
自らの渇望を満たしてくれたマヤちゃんのことを、心の奥ではものすごく高く評価していたんです。

ただ、その分彼女はマヤちゃんのトレーナーちゃんのことはアウトオブ眼中だったんです。もちろんマヤちゃんにトレーナーが付いていることは知っていましたし、普通に学園内でも出くわすことはあったので、お互いに面識もありました。でも、ナリタブライアンさんは、マヤちゃんには興味があってもそのトレーナーちゃんには興味がなかったんです。

ですからマヤちゃんと距離が近く、彼女のトレーナーちゃんと直接話す機会もそれなりにあったネイチャさんやテイオーさん等と違い、彼女はマヤちゃんのトレーナーちゃんについてよく知らなかったし、だからこそ、その評価もトレセン内の噂に聞く程度のものでしかなかったんですよ。はい。

Q.なるほど?つまりは彼女があんなことを言ったのは、彼女がマヤちゃんのトレーナーちゃんについては悪評しか知らなかったからだと、そういう人物だと思い込んでいたからだと、お前はそういうのだな?

A. へ、へい!おっしゃる通りで!!

Q. だが許さん。死ぬがよい

A. そ、そんなー!ギャ、ギャアァァァッッッ!!



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