ウマ娘×ワンピースSS   作:薩摩白熊

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海軍シチーさん蛇足編
頂上戦争から2年後までの間にこんなことやってたんじゃね?という妄想


海軍シチーさん④

 

──夢を見た。これまでで一番幸せだった頃の、忘れられない夢を見た。

 

早朝。いつも通り、朝に弱いアタシがボンヤリしながら部隊の詰所に入ると、上官に執務室に来るよう言われた。

 

今日の訓練のことかな?と思っていたら、開口一番「昇進おめでとう。本日付けで君は“大尉”だ」と告げられ、一瞬で眠気は消え失せた。

 

突然のことに驚くアタシに、上官──大佐はいつも通りに優しく微笑みながら、今夜の予定を聞いて来た。

 

昇進祝いに、ちょっとお高めのお店を予約しているらしい。え、マジ?

 

まさかの不意討ち気味のディナーのお誘いに、顔が熱くなるのを感じ「ああ、皆が大尉の昇進を祝いたいと言っていてね。勤務後に部隊の皆でお祝いだ」……うん、一瞬で頭が冷えた。

 

ハイハイ、そんなオチだと思っていましたよ。所詮は上司と部下だから?全然、残念とか思ってないし?子供じゃないんだから、特別扱いとか求めてないし?

 

アタシの内心に気付くことなく、大佐は微笑みながら少しだけ躊躇いつつ、金色の懐中時計を差し出しアタシの手に握らせた。

 

「これは私からの昇進祝いだ」と、渡されたそれに目を落とす。デザインはシンプルながら少々武骨で、見るからに頑丈そうな造りと、滑らかな優しい金色のコーティングか施されている。

 

その金色に見覚えがあって、もしやと思い「あ、ココ斑になってる」と鎌をかけると、面白いくらいに動揺した。相変わらず嘘吐けないね。

 

「嘘だよ。キレイに塗れてるじゃん」と伝えると、大佐は照れ臭そうに頭を掻いて「素人の仕事で申し訳ないけど、受け取って貰えると嬉しい」と白状した。

 

懐中時計をもう一度見る。明らかに実用性を第一に考えた代物で、普段ファンからアタシに贈られてくる高級品に比べたら、美的センスも値段も遥かに劣るだろう。

 

だけど、そのどれよりもこの懐中時計が一番輝いて見えて、何より嬉しかった。

 

油断すると頬は緩みそうで、耳と尻尾は今にも動き出しそうだったけど「ありがと、大佐。大事にするね」なんて、澄まし顔でお礼を言って。

 

我ながら凄く単純だ。さっきまでのちょっとした不満なんて消し飛んでて、心の中は信じられないくらい温かい気持ちで満たされていた。

 

しばらく互いに微笑いあって、そのまま本日の業務と訓練について打ち合わせを開始する。

 

ポケットに仕舞った金色の懐中時計の重さが嬉しくて、思わず笑みが溢れてしまう。いけない、いけない。ちゃんと真面目にやらないと。

 

まあ、その前に──

 

「ねぇ、大佐。こんなアタシだけど、これからもよろしくお願いします」

 

アタシの言葉に、大佐は子供みたいにキラキラした眼を細め「こちらこそ。これからもよろしく頼む」と微笑んだ。

 

──そんな大切な、悲しくなるくらい酷く優しい夢を見た。

 

 

その日、男は今日が己の人生で最良の日であると確信していた。

 

男の名は“鉄槌”のマンアーニ──所謂、“億超え”と呼ばれる賞金首にして、泣く子も黙るマンアーニ海賊団の船長である。

 

そんな彼は今、船長室にて目の前に置かれた宝箱の中身をうっとりした表情で見つめていた。

 

宝箱に収まる唐草模様の大ぶりな果実は、先日襲った商船に積まれていた食糧や金品の中でも特に価値の高い一品である。

 

──悪魔の実。

 

「海の悪魔の化身」とも呼ばれ、一口食べれば一生泳げなくなることと引き換えに、その実に宿る特殊な能力を手に入れることが出来るという不思議な果実。

 

その効力や希少性から、売れば1億ベリーは下らない値がつくとされる正しく「海の秘宝」。

 

自分で食べ更なる力を得るか、売り払って大金へ替えるべきか。この悩ましくも贅沢な命題を楽しみながら、マンアーニは実の表面を優しく撫でた。

 

「…ふむ。俺様自身が食うのもいいが、手下の誰かに褒美として食わせてやるというのも…無し、ではないな」

 

海賊というコミュニティにおいて、信賞必罰は非常に重要だ。

 

更なる己の強さや、1億ベリーの収入は惜しいが…手柄を挙げた手下に恵んでやるのも良くない、わけではない。

 

手下供はマンアーニの度量に深く感服し、より励むようになるだろう。船長としての立場で考えると、これは得難い機会だと言えなくもない。

 

正直、惜しくないわけがない。

 

だが、この海において泳げないというデメリットは小さくない。何より船長としての求心力は、こういうことの積み重ねだ。

 

──よし。これは次に手柄を立てたヤツにくれてやろう。

 

そう考え宝箱の蓋を閉じると同時に、船長室の扉が勢いよく開き──妙に小綺麗な格好をした手下の一人が、慌てた様子で入ってきた。

 

「馬鹿野郎!ドアが傷むからゆっくり開け閉めしろっていつも言ってなくはないだろうがっ!」

 

「スンマセンお頭!でも大変なんです!実は海軍が来たんです!」

 

かなり興奮しているのか、船長に一喝されて尚怯むことなく手下は海軍の襲来を告げる。

 

「何っ!?数は?接敵まではどれくらいだ!?」

 

「それは、ああもう間に合わない!じゃあ、伝えましたからね!」

 

相当切羽詰まっているのか、手下は大慌てで出て行ってしまった。

 

結局、何一つ分からない状況に舌打ちしつつ、宝箱にしっかり鍵を閉めマンアーニは甲板へ急いだ。

 

 

甲板へ出てすぐ、マンアーニは困惑した。

 

何故か手下全員が妙に小綺麗な格好をし、こちらに背を向けキレイに整列している。

 

周囲を見渡すと、遥か遠くに海軍の船らしき影が見えるが、動いている様子はなく手下供もまるで気にしていない。

 

どういうことかと訝しげに思いながら、手下供の視線のその先に目を向け──マンアーニは大きく目を見開いた。

 

「よし、と。サインこんな感じでいい?じゃあ次の人ー」

 

──女神がいた。

 

見事な金色の“尾花栗毛”に、絶世と呼んで尚賛美が足りないと思える美貌。頭の上でピコピコ動くウマ耳に、ゆらゆらと揺れる尻尾もまた黄金の如く輝いている。

 

曰く、百年に一人の美少女ウマ娘。

曰く、海軍に咲く黄金の花。

曰く、今世界で最も有名なモデル。

 

海軍本部所属、“金砂”のゴールドシチー大佐。

 

そんな超有名ウマ娘が、各々一張羅を着た手下供一人一人と丁寧に握手し、その服にサインを描いていた。

 

「い、一体なにが…」

 

鼻の下を伸ばし締まりの無い表情で握手をしてもらう者。サインを描いてもらった服を脱ぎ額縁に入れる者。握手した手やサインを愛しげに眺める者。

 

そんなあり得ない光景に、マンアーニは茫然と呟いた。

 

「あ、お頭。最後尾はこっちッス」

 

「──いや、アホか貴様らっ!!」

 

暢気に列の整理をする手下を殴り飛ばし、並ぶバカ供を掻き分け進む。

 

途中もみくちゃにされながらも何度か手下を怒鳴りつけ、何とか先頭へとたどり着く。

 

「おい海軍!一体どうやってここまで来やがった!?というか何だこの状況はっ!?」

 

近くで見たゴールドシチーの姿に、思わず握手とサインを頼みそうになった内心を誤魔化し問いを投げる。

 

問いの答えはあっさり返ってきた。

 

「どう、って。普通に船から走ってきただけだよ。あとはまあ、ファンサービス?」

 

肩を竦める姿すら画になる美貌に圧倒されながら、マンアーニは吠えた。

 

「テメーら!海軍相手に鼻の下伸ばしてんじゃねぇっ!!」

 

船長からの叱責に、浮かれていま手下達がハッとした表情で慌てだす。ようやく理解が及んだらしい。幹部含め、彼の手下にはバカしかいなかった。

 

しかし、幸い相手は一人。海軍の船も遥か遠くで停止している。

 

「コイツは完全に孤立してる。囲んで捕らえろ──そしたら、後でお前達にも“使わせてやる”」

 

“陸の人魚”とも称される見目麗しいウマ娘は、かの天竜人も求めて止まない希少品である。

 

そこいらの島の町娘や娼婦とは比べ物にならない、天性の美しさを持つ種族であり、ゴールドシチーはその中でも尚極上といえる存在だ。

 

本来であれば手が届くことなどあり得ない。だが現実として、あのウマ娘が──ゴールドシチーが目の前にいる。

 

一瞬で目の色を変えた手下供に、内心「現金なヤツらめ」と悪態を吐きながら、マンアーニはゆっくりと後方へ下がった。

 

──ウマ娘の身体能力が高いことは周知の事実である。

 

特にその脚力は他の追随を許さず、地上最速の種族とまで称される程だ。

 

そしてそんなウマ娘達の中でも、一部の際立った者は“海渡り”──所謂、海上を走ることができるという。

 

即ち、ゴールドシチーの言葉を信じるならば、彼女もまたその“一部の際立ったウマ娘”の一人ということになる。

 

芸術品ような見た目に騙されてはいけない。仮にも、海軍本部において大佐という肩書を持つ女だ。

 

まず手下供で囲んで疲弊させ弱らせてから、幹部達と自分で捕らえればいい。

 

ウマ娘、それもかの有名なゴールドシチーならばさぞ高く売れるだろう。そして、売る前に色々と役得があっても罰は当たるまい。

 

手下供も同じ考えなのか、先程まで握手やサインで無邪気に喜んでいたとは思えないほど卑下た笑みを浮かべ、哀れなウマ娘を取り囲んでいる。

 

「あー、うん。まあそうなるか。自主的に投降してくれたら、それが一番だったんだけどね」

 

残念。と軽口を叩くゴールドシチーに、近くにいた手下達が襲いかかり──彼女に触れられもせず、互いに縺れて頭をぶつけ気を失った。

 

それを見た周囲は、何できずに自滅した間抜けな役立たず供に罵声を浴びせ、次は自分だと飛び出し──今度は互いの拳が、蹴りが、互いの顔面にめり込み意識を飛ばす。

 

その後も、似た光景が繰り返された。

 

勢いよく飛びかかろうとし、転んで数人まとめて頭を打った者達。

 

縛って捕らえようと縄を持ち出し、味方を巻き込み身動きが取れなくなった者達。

 

多少の傷は仕方ないと剣や銃を抜き、見事に同士討ちをする者達。

 

その中を、ゴールドシチーは堂々と歩を進める。

 

まるでランウェイを行くように。肩で風を切り、どの角度からでも最高の自分を“魅せる”ように。

 

──海軍本部所属“金砂”のゴールドシチー大佐。

 

高度な見聞色の覇気の使い手にして、“視線誘導”の達人。

 

彼女が行っているのは、原理そのものは至極単純。

 

見聞色にて周囲の意識を読み取り、モデル業で培った“魅せる技術”を用いて、意図的に相手の行動を制限した上で誘発させる。

 

彼女の表情や所作の一つ一つに目を奪われれば、自覚の有無に関わらず反射的に誘導された動作を行ってしまう。

 

彼女の見聞色に囚われれば、例え周囲から一斉に斬りかかろうが、銃弾を見舞おうが意味を為さない。

 

制限された動作に移った時点で、既に彼女は回避を終えている。

 

指の隙間を通り抜ける細かな“砂金”のように、彼女を捉えるのは至難を極める。

 

この状況は、そんな彼女の技術のちょっとした応用によってもたらされた。

 

緻密な動作制限と細かな行動誘発を繰り返し、自らは手を出すことなく同士討ちを発生させ、周囲の海賊達の悉くを無力化する。

 

彼女には、一撃の下に艦隊を食い破る神威など無い。大地を砕き、天を裂く暴力は持ちえ無い。

 

それでも、彼女には彼女にしかない確かな才覚と、何より積み重ね磨いた武器がある。

 

「──ハイ、お疲れ」

 

左右からそれぞれ棍棒と斧で殴りかかって来た海賊の手下を同士討ちさせ、ゴールドシチーは最後の一人であるマンアーニに向き直る。

 

驚愕に言葉を失う海賊団の船長に、シチーは優しく語りかけた。

 

「今からでも投降する?まあ海賊は捕まったら打ち首確定だけどさ、監獄での扱いくらいなら便宜を量れるよ」

 

どうする?と軽い調子で尋ねるウマ娘の海兵に、マンアーニは無言で背負っていた鉄槌を叩き付けた。

 

今まで数多の敵対者を染みに変えてきた一撃は、しかし当然のようにシチーの真横に振り下ろされ船床に穴を空けるのみに終わる。

 

「──能力者、ではないよな?」

 

「どうかな」

 

そもそも海の上を走っているのだから能力者なわけはないが、何事にも例外は存在する。

 

能力者であれば、例え自然系であろうともこの海楼石製の“鉄槌”で仕留めてきたが、反応からしてどうやらこの海兵は違うらしい。

 

信じ難いことに、あの奇妙な技は悪魔の実の能力ではなく、全く別の技術のようだ。

 

警戒心を露に、マンアーニは再度“鉄槌”を振りかぶる。

 

ウマ娘は希少品で、特にこのゴールドシチーは想像もつかないほど貴重だが、仕方ない。

 

手足の一本でも潰して捕らえられるか、或いはこの船の染みが一つ増えるか。どうなるかは運次第だが、最早無理に“生かして捕らえよう”とは考えていなかった。

 

大上段に構えられた“鉄槌”が、唸りを上げて振り下ろされる。

 

それを見て、シチーは左手の掌を上にゆっくりと自身の頭上に掲げ──轟音。

 

──手応え有りっ!!

 

柄から伝わる感触に、マンアーニは狂暴な笑みを浮かべ──その表情が凍りつく。

 

「──“鉄塊”」

 

不動のまま、無傷でマンアーニの“鉄槌”による一撃を防ぎきったゴールドシチーの姿。

 

そして、衝撃に耐えきれず無惨にも柄が半ばからへし折れた自身の分身とも言える“鉄槌”の姿。

 

唖然とするマンアーニに対して、シチーは僅かに腰を落とし、開手した両掌を相手に向けつつ上下に構えた。

 

「ちょっと痛いよ?ウマ娘武術、奥伝『第壱號級重衝──』」

 

背筋を走る悪寒に、マンアーニは何とか身を守ろうとするが、それはあまりに遅過ぎた。

 

「『──槃震燦災』」

 

瞬間、マンアーニの全身を凄まじい衝撃が駆け抜け──そのまま意識を失った。

 

 

気絶した海賊達を手早く拘束し、持ってきていた発煙筒で遠く離れた仲間の船へと合図を出す。

 

様子見するだけと言っておいて、一人で海賊を拿捕したため補佐官に怒られるだろうが、今回ばかりは仕方ない。

 

合図を見て、大慌てでこちらに向かってくる船を尻目に、海賊船内を物色する。

 

宝物庫──外れ。

食糧庫──外れ。

船長室──当たり。

 

宝箱に付けられた南京錠をネジ切って外し、中身を確認する。

 

目当ての品──悪魔の実。当たりだけど、外れ。この実じゃない。

 

「どこにあるんだろ──“シャラシャラの実”」

 

かつてのアタシの上官──大佐が食べた、その身を“砂金”へと変える自然系の悪魔の実。

 

海軍の資料室に残されていた写真で、見た目は分かっている。大佐がマリーフォード頂上戦争で死亡し、もう十分な時間が経っている以上、既にどこかにあるはずだ。

 

襲われた商船の積み荷の中に悪魔の実がある聞き、大佐権限全開で出動したわけだが、結果は空振り。

 

これで何回外れを引いたっけ?と指折り数え、お目当てを見つけたとしてアタシは一体どうしたいのか考える。

 

大佐と同じ悪魔の実を食べて強くなりたいのか?

 

大佐の遺品を手元に置いておきたいのか?

 

それとも、単純に誰かの──特に海賊の手に渡るのが嫌なだけなのか?

 

相変わらず答えは出ない。出ないが、この失せ物探しを止めるつもりも、今のところない。

 

──見聞色の範囲に、見知った気配を複数感知する。

 

どうやら船が着いたらしい。相当急いでいたようで、焦りの感情を色濃く感じる。

 

補佐官のお小言を予見しつつ、悪魔の実入りの宝箱を小脇に抱え部屋を出る。

 

まあ今回は残念だったけど、運が向くまで気長に探すと致しましょう。

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