その日、とある世界の地球担当の神様は途方に暮れていた。
神様は頑張った、可愛い子供たちを守るため神器を送り込んだり、語り掛けてきた子供に助言を送ったりした。
しかし、神器は何故か使われずに大切に保管されたり見世物にされ、助言を送った子供は悉く心の病院に回収されてしまった。
そして人類の30%が地上を去り、その面談結果を聞いて遂に膝をついて首を垂れた。
曰く、全員が異世界での転生を希望。
無理もない。何時終わるとも知れない化け物との闘争にすり減らされた心が安寧を求めるのを誰が止めることが出来ようか。
神様は優秀だった、だからそんな子供たちの気持ちも解ってしまった。解ってしまったら止められなかった。
そうして優しい優秀な神様は悩んで、悩んで、頑張って、頑張った結果、もうどうやっても自分では子供たちを救えない事実に行きついてしまい、心が折れてしまった。
神様は優秀だったが、万能ではなかったのだ。
すっかり信仰の力は弱まり、奇跡も満足に起こせなくなった神様が、それでも見捨てられず、ただその世界に寄り添っていたころ、別の所で悪魔が悩んでいた。
悪魔はここの所の騒動で随分と羽振りが良くなっていた。人の負の感情を糧とする悪魔にとって現状は正に特需といった状況だった。
あまりにも膨大に入り込んでくる負の感情、その量に目がくらんだ悪魔は、いつもと毛色が違う事に気付くのが遅れてしまった。
人が増えないのだ。
生まれてくる命の量は少し減少しているが、それでも種が絶えてしまうようなものではない。
単純に消費される命の量が、生まれてくる命の量を圧倒的に上回ってしまっているのだ。
悪魔は困ってしまった。人類が居なくなってしまっては失業である。しかし悪魔には人類を救うなんて技術は無い、それは対立している神の仕事だからだ。
そしてその神はと言えば、すっかりふさぎ込んで世界を眺めるしかしていない。
なので悪魔は、この世界の存続のために、自らの失業回避のために乗り出した。
まず悪魔は、幾人かの知人に賄賂を渡し、それぞれが担当している世界に、自らの世界を題材とした作品を送り込んだ。
多くの悲劇によって紡がれるその作品は盛大に負の感情を作り出し、悪魔界隈で久しぶりのキラーコンテンツとして幾多の世界に出荷されるようになる。
外貨を存分に稼いだ悪魔は、次にそれを手土産に神に取引を持ち掛けた。
実は、ちょっとした良い話があるんだが。
「ふぐおおおおおぉぉぉ」
長谷川誠二は、久しぶりにプレイしたゲームのクライマックスに涙腺を決壊させていた。
社会人になって早10年、小学生の頃に再放送で見たガンダムを切っ掛けに邁進してきた彼は、未だにどっぷりとその道に浸かっている。
「おのれぇぇ、べぇたぁー…許さん、ゆるさんぞぉ」
画面では醜悪な化け物を吹き飛ばした主人公が今、その巣窟からシャトルで脱出するムービーが流されている。桜花作戦のクライマックスだ。
最近になり、遂に戦術機を自ら操作出来るゲームが発売される嬉しさと、ちょっとした懐かしさを感じ、HDDの奥に眠っていた原作ゲームを久しぶりにプレイしていたのだ。
相変わらずゲーム性など皆無の紙芝居ではあったが、ストーリーは悪くない、悪くないのだが。
「ひぐ、ふぐ、みんな、みんな逝っちまう、こんな終わりが…こんな終わりがぁ、タケルぅぅ」
萌えも燃えも大好物の誠二にとって、大好物であるそれはしかし、ある一点において彼の感情を逆なでる。
死ぬ、とにかく死ぬ。出てくるキャラクターはどいつもこいつも美少女なのだがそれが死にまくる。
燃えは好きだが鬱耐性が皆無に等しい彼にとって、それは耐え難い苦痛でもあった。それを乗り越えられたのは単に敵対しているBETAという存在のおかげだろう。
なにしろこのBETA、敵対勢力として厄介ではあるが単体としてみれば大した戦力では無い。どこぞの怪獣王のようにミサイルも大砲も、挙句SFトンデモ兵器でも歯が立たないなんてことは無く、デカい奴でも大砲で、小っちゃいやつなら歩兵の銃で倒せてしまう。
そう、特殊な技術も特別な力も無い誠二でも、道具さえあれば倒せてしまう。
なので彼は妄想で、二次小説で、とにかくBETAを殺しまくり、死ぬはずだったヒロインたちをメアリー・スーもドン引きのレベルで救いまくり、心の平穏を確保していた。
そんな彼にこの機会が訪れたのはある意味必然だったのかもしれない。
「長谷川誠二さん、残念ですが貴方は死んでしまいました」
やつれてくまが濃く浮かんだ青年が、スチール製の事務机の向こうでそう告げてきた。
「え?は?」
久しぶりの休日を満喫していたと思ったら、突然良く解らない場所に立たされた俺は完全に混乱していた。
死んだ、自分が?待ておかしい。自分は休日を楽しんでいただけだ。
何やら某サイトで定番化している転生っぽい雰囲気を出されているが、トラックに撥ねられた覚えも、急死に至る持病を抱えた経験も、強盗が押し入ってきた記憶も無い。
残っている記憶は冷蔵庫から取り出したドリンク片手にゲームをしていたものだ。
「ええ、はい、その…死因はエナジードリンクの飲みすぎです」
「oh…」
そう言えば眠気覚ましにカフェインタブレットも数個放り込んで飲み干していた事を思い出す。いやはやネットなどで書かれていたものの、まさか自分が当事者になるとは。残念な死にざまに後悔より先に呆れと笑いが込み上げてきた。
「なんとも、情けない話ですね。その、それでこの状況はどういった?」
「ご想像通りでほぼ間違いありませんよ」
ああ、つまりあれか、転生という奴か。
特に善行も悪行も積んでいる自覚は無かったが、これはつまり、幸運と言うべきだろうか?いや、死んでいるのだから不幸ではあるはずなのだが。
「ありがたい事です。それであの、詳細なんて聞かせて頂けるんでしょうか?」
「ええ、勿論です。とても、そうとても重要ですから」
そう言って青年は語りだす。
曰く、自分は別世界の地球の管理神をしている。異世界と言うよりは平行世界に近いそうで、魔法は無いが、とある理由で一部の科学がこちらより進んでいるらしい。
そのとある理由とは、宇宙の彼方からやってきた炭素系生体土木機械による環境破壊及び地球生命体への殺傷行為だそうだ。
いや、はっきり言おう。BETAに侵略されている地球がピンチなので平行世界から戦力を募集しているのだそうだ。
「BETAですか」
「BETAです」
「あの、申し訳ありませんが、それでしたら白銀武が何とかするのでは?」
その世界の事は良く知っている、というか、先ほどまで遊んでいたのだから忘れようが無い。ただ、あの世界ならハッピーエンドとは言い難いものの彼の活躍で未来に希望がある世界になるのではなかっただろうか。
「残念ですが、白銀武は現れません」
そもそも、俺たちが知っている物語は、神様の世界を舞台にしているが詳細が異なる。
その最大にして最悪の相違点が白銀武、つまり作品の主人公である彼が存在しないという事だ。
おかげで異世界の知識を得られなかった香月夕呼は00ユニットを完成させられないし、鑑純夏は助けを求めないから、因果導体も生まれない。オルタネイティブ4はあっさりと打ち切られ人類は宇宙へと逃げ出す、その先がBETAだらけの世界とも知らず。
「あの、それは、詰んでいるのでは」
「ええ、正攻法では、もう不可能でしょう」
そう言って青年は腕を組むと、忌々し気に語りだす。
「ですが、これは管理規定特3項が適用できるのです」
管理規定特3項、なんでも知的生命体の魂に関する規定で、要するに神様たちの運営における緊急避難ルールなのだそうだ。
「本来ならば、文明の未発達な状況で用いられるのですが」
惑星に循環する魂が規定量以下となり世界の維持が困難であると承認された場合にのみ、異世界から神器を与えられた“勇者”の召喚が許可される。
尤も、成熟した文明でそれをやるのは管理者が凄い運営下手だったと認識されるため、良くて更迭、最悪神格をはく奪されるらしい。
「それでも、私は救いたいのです、子供たちを」
神としてはまったく失格ですが。と自嘲気味に続ける青年に、思わず泣きながら了解の旨を伝える。元々熱い展開は大好物であるし、死んだ命、もう一花咲かせられるなら悪くない。それが自身が救いたいと思った世界だなんて、正に運命と言うやつでは無いか。
「その、それで、私はどの様な能力が頂けるのですか?それとも選べるんでしょうか?」
その言葉に少しだけ表情を明るくしていた青年が、申し訳なさげに眉をよせた。
「お渡しできるのは、これ以外無いのです」
そう言って机の上に置かれたのは、見慣れた携帯ゲーム端末だった。
もうすぐProject MIKHAILが出るぞ!
と言う事で昔書いたチート転生ものを供養投稿。