チート転生テンプレもの   作:Reppu

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「その、今、何と?」

 

目の前の男が口にした内容が理解出来ず。否、理解を拒絶した佐伯中佐はそう聞き返した。執務机の向こうで目を泳がせながらしきりに汗を拭っているのは彼女の上官であり、件の連中との接触を指示した人物でもある。つまり彼女からすれば絶対の上位者であり、その人間の発した言葉は、彼女に対する絶対の権限を持っている。それを考慮するならば、発言を再度繰り返させるなど、帝国軍人としてあるまじき行為と言えるだろう。

それを理解していても、そう聞き返さざるをえない内容だったのだが。

 

「…先の大陸での試験結果に軍は非常に満足している。その上で昨今の緊迫した世情を考慮するならば、斯様な高性能機の大量配備は急務である。ついては国内各メーカーでのライセンス生産を先方に伝えて欲しい」

 

欲しい、などと言っているがそれは命令である。その事実に佐伯中佐は目眩を覚えた。

 

「無論こちらとしても最大限の配慮をする。承諾して貰えるなら勲一等旭日大綬章を軍の連名で奏上させて貰うし、政威大将軍閣下との拝謁も叶うだろう。もちろん無官という訳にはいかないから陸軍の方で佐官待遇で迎えようじゃないか」

 

馬鹿か。喉まで出かかった言葉を彼女は強引に呑み込む。

 

(上層部は先日の彼らの発言をもう忘れたとでも言うのか!?)

 

成程、帝国国民にとって受勲は末代まで語り継げる栄誉であるし、政威大将軍閣下との拝謁など譜代武家であろうとも一生にあるかないかという特別な対応だ。格式は劣るが軍が佐官待遇で受け入れるというのも異例な内容であり、譲歩しているように見える。

だがそれは、あくまで帝国国民の価値基準でだ。ここの所の友好的な態度に勘違いしてはいけない。敵対的な行動を取った時、彼らはこう言ったではないか。

 

邪魔するならば国ごと滅ぼす。

 

彼らにとって、自分達はその程度の価値しかないのだ。礼節をもって接してくれているのは正しく彼らの慈悲に縋っているだけに過ぎない。そんな存在が寄越す勲章や要人との会見に如何程の価値があるというのか。権威に意味が見いだされない場合、そこにあるのは戦術機一機分にも満たない金銭的価値のみである。上層部はそんなはした金で彼らの技術を奪ってこいと言っているのだ。まだ一人で光線級吶喊をしろと言われる方がマシだろう。それなら死ぬのは自分だけで済む。

 

「とても成功するとは思えません。少なくともライセンス生産を提案するのであれば、あちらから許可の条件を提示頂くのが筋ではないでしょうか?」

 

「そんな猶予がないことは君も良く解っているだろう?昨年のインド亜大陸失陥によりBETAの勢いは増している。南からも侵攻が始まれば中国の戦線は5年と持つまい。そうなれば次に蹂躙されるのは我が国だ。そうならぬよう、なんとしてもあの機体が必要だ」

 

「それは十分理解しております。既に彼らから供与の打診も受けているではないですか。徒に刺激すればそれすらも手からこぼれ落ちる可能性が―」

 

「その通りだよ佐伯中佐。彼らからの供与のみに頼るなら、彼らの気分次第でいつでもそれは打ち切られる危険をはらむという事だ。同盟国の合衆国ですらそうしたのだぞ?営利目的の連中など更に信用出来ん」

 

帝国は戦術機導入の際、世界的な戦術機不足を受けて米国からの購入順を下げられたという苦い経験を持つ。だが合衆国にしてみれば、カナダに降下ユニットが落着したという事実から国内の防衛能力を強化すると言うのは当然の流れであり、当時人類に戦術機を唯一供給できる本土が同じ後方国家であった日本より優先されるのは当然の合理だった。しかしそれが呑み込めるほど人類は未だ一丸にはなっていなかったのだ。

 

「とにかく、彼らの技術を手に入れるためであればあらゆる手段が肯定される。それを念頭に行動したまえ、佐伯中佐」

 

少将のその言葉に、佐伯中佐は帝都が火の海に包まれる未来を幻視した。

 

 

 

 

『本日、帝国議会では徴兵に関する修正案が可決され―』

 

「ん?お客さん?佐伯中佐だけじゃなくて?」

 

ラジオを聞きながら艦の艤装を眺めていたら、ルクレツィアがそう声をかけて来た。基地内に居る時は常に誰か一人がくっついている。何でも緊密な情報伝達がどうとかこうとか言っていた。正直通信で事足りると思ってしまうのだが、ルクレツィアが主張するからにはこうした方が良いのだろう。

 

「はい、生体パターンから過去来訪記録のない人間が三名、佐伯中佐に同伴している模様です」

 

はて、中佐の大隊の新人とかかな?

 

「武装の有無は?」

 

「佐伯中佐を含め全員非武装です」

 

ならいいか。

 

「じゃあ応接室に案内して、すぐ行くよ」

 

「かしこまりました。ただし保険として護衛を帯同させることを推奨します」

 

その言葉に俺は素直に頷く。本来の業務とはちょっと外れるけど、そこは我慢して貰おう。

 

「解った。じゃあハヤタを待機させておいて」

 

ハヤタは現在編成中の戦術機大隊の大隊長兼第一中隊長として購入した戦闘用のドロイドだ。指揮官用の高級ユニットでルクレツィアと同じく外観は人間そっくりになっている。問題は一緒に購入した第二・第三中隊長用のドロイドも同じ顔だという事。人前に出る可能性が非常に高いから、区別するように髪型を弄ったり眼鏡をかけさせたりして誤魔化している。因みにそれぞれアラシとイデという名前を付けた。工場用のツナギからスーツに着替えて応接室に行くと既に客人は中に通されており、入り口にはハヤタが立っていた。

 

「待たせたね」

 

「いえ、問題ありません」

 

「じゃあ行こうか」

 

そう俺が言うと、ハヤタがドアを開き先に室内へ入る。戦闘用と言うだけあって対人戦も可能らしい。

 

「失礼。お待たせしました、佐伯中佐。本日はどのようなご用件で?」

 

出来るだけフレンドリーに話し掛けてみる。何故かと言えば佐伯中佐がすげえ形相だから。顔面にありありと決死の2文字が浮かんで見える。

 

「いえ、こちらこそ突然お邪魔して申し訳ありません」

 

「中佐なら大歓迎ですよ。それで、失礼ですがそちらの方々は?」

 

俺の言葉に軍服ではなく一般的なスーツに身を包んだ女性が三人、笑顔で答えた。

 

「初めまして。光菱より参りました新名と申します」

 

「同じく河崎より参りました。浦木です」

 

「お初にお目に掛ります。富嶽の賀東と申します」

 

そう言って綺麗なお辞儀をする三人娘。

 

「ご丁寧にどうも。カンパニー代表兼開発主任を務めております長谷川です」

 

挨拶は実際大事なので、条件反射的に俺も名乗って頭を下げる。しかし、揃いも揃って国内の戦術機大手メーカーの人間か。なんとなく状況がつかめてきたぞ。

 

「開発主任!?では、あの戦術機、F-4JXは長谷川様が設計なさったのですか!?」

 

おっといきなり様頂きました。興奮した表情でそう告げてくる新名さんにちょっと驚きながらも肯定する。

 

「正確には改良ですね、基本設計はファントムのままですから」

 

などと白々しい嘘を吐く。外観のレイアウト以外何一つ共通のものがないからな。

 

「ご謙遜を。世界各国でF-4の改修は行われましたが、あれほどの機体を見たことはありません。長谷川様は間違いなく戦術機史に名を刻む事になるでしょう」

 

そう言ってくるのは浦木さん。新名さんよりは声音こそ落ち着いているが、こちらも興奮した様子だ。

 

「大陸での試験のログは拝見しました。正に鎧袖一触とはこのことかと、胸のすく思いでしたわ」

 

そう言って艶然と笑って見せる賀東さん。どうしよう、ヨイショが止まらねえ。

 

「三人ともそのくらいで。実は長谷川様、折り入ってご相談したいことがあって本日は不躾ながら訪問させて頂きました」

 

咳払いをした佐伯中佐がそう彼女達を止めたあと、そんな風に切り出してきた。

 

「どうしました、随分と改まったご様子ですが」

 

「先日の試験結果を軍は非常に高く評価しております。F-4JXの本格的な導入について準備を進めております」

 

「有り難いことです」

 

こっちの生産体制も整ってきたしな。さっさと日本帝国の戦力底上げは実施してしまいたい。

 

「ですが少々問題が。軍は早急に機種転換を図りたいと考えております。あの機体は既存の機体と操作方式が異なりますし、従来機との互換性も低いですから、進めるならば一気にしてしまいたいのです」

 

「道理ですね」

 

そう、俺の作ったファントムモドキはコックピット周りをMSに準じたもので設計している。これには幾つか理由があるが、その最たるものは二つ。現行コックピットの耐G性能の不足と、衛士適性のハードルの高さである。耐G性能の低さはパイロットの負担に直結し、長時間の運用に大幅な制限がかかる。それだけでなく、戦闘時の緊急回避の速度にも影響してしまうから生存性を考慮したら無視出来ない要因だ。そしてもう一つの理由である衛士適性については、コックピットと言うよりはその操縦形式によるものだ。

戦術機はその制御に間接思考制御という方式を用いている。これは衛士が機体に行わせたい動作を思考したタイミングで衛士用強化装備、即ちあのエロスーツが生体電流や筋肉の動作などを検知し戦術機側へ伝達、パイロットは最後の動作承認をフットペダルとスティックで行うのである。つまり二足歩行兵器である戦術機を十分に動作させるにはその行動を衛士本人が自分の体に覚え込ませる必要があり、その為に衛士の養成課程の多くは歩兵としての訓練となる。

で、ここからが問題。歩兵としての技能は一朝一夕に身につくわけではないからそれに最適化した訓練を年単位で施す訳だが、この課程を合格後に受けるのが件の耐Gを中心とした適性試験である。それに合格すると晴れて衛士の卵となるわけであるが、試験に落ちた場合、そこには歩兵訓練のみを施された人員が残るのである。当然人類に余剰なんてものは残されていないから、彼らも戦場へ送られることになるのだが、ここから更に転換訓練を受けて、戦力化して、などとやっていると数年単位の養成期間が必要となってしまうのだ。転科できるならまだマシで最悪歩兵として戦場に放り込まれるのだ。もったいねぇ!

人的資源の量が神器の動作に影響を及ぼす以上、余計な出費は抑えたい俺としては、当然このことが見過ごせるはずもないので、より簡便かつ転換も容易なMSのコックピットを採用した次第だ。エロスーツという人類の宝を闇に葬る事となった大罪は敢えて背負おう。その事で枕を濡らしたことは俺だけの秘密である。

 

「ですから、軍では貴方方の生産能力に不安を抱いております。最低でも月産200機は達成頂きたいのですが」

 

「は?200?」

 

一月で2個大隊分用意しろ?しかもそれが最低ライン?

 

「勿論無理は承知しております。ですから次善案として彼女達の社でライセンス生産を行わせて頂きたいのです」

 

成程、そうきたか。

 

「確かにすぐさま月産200は難しい。ですがご存じの通りF-4JXは少々特殊な機体です。言いたくはありませんが、いかに技術に優れるとは言え各メーカー様でも生産は容易ではないのでは?それに万一トラブルが発生したとして、私どもで対応出来る範囲も限られます」

 

そう口にした瞬間背筋に悪寒が走る。原因は直ぐに判った。佐伯中佐の目だ。あれは獲物が罠に掛った事を確信した狩猟者の目だ!

 

「はい、その為に彼女達を連れてきました。生産に支障が無いよう長谷川様の下で十分に経験を積ませて頂きたいのです。その間の指導に関しましては、長谷川様に一任したいと各社からの言質も頂いています」

 

つまりこう言うことね、お前の技術が欲しいから教えてくれ。その見返りとしてその子達は好きにしてくれて構わないよ、と。佐伯中佐の言葉を聞いた後、三人へ目を向ける。新名さんは笑顔で立っているが少し頬が赤らんでいる。浦木さんは顔を赤くしながら恥ずかしそうに俯き、賀東さんは色気全快で流し目を送ってきた。これは本人達も理解して送り込まれているな。

…ハニートラップじゃねえか!




登場人物紹介

新名菖蒲
光菱重工から出向してきた技術者、ハニトラ1号。メカフェチで戦術機大好き。自分の設計した戦術機が軍で活躍するのが夢。その為には割と手段は選ばない性格。

浦木香花
河崎重工から出向してきた技術者、ハニトラ2号。戦術機が大好きなため新名とは気が合う模様。因みに乗るのも好きなので衛士資格を持っており、テストパイロットも務められる腕前を持つ。噂の最新機に触れられると聞いて二つ返事で了承した。その後自分がハニトラ要員だと知って狼狽するも、新型機に触れるという誘惑には勝てなかった模様。

賀東愛鈴
富嶽重工から出向してきた技術者、ハニトラ3号。中華系ハーフで三人の中では最も自分達の立場を理解している人物。実は本職は設計者では無く営業、斯衛向け戦術機の開発で行き詰まっていた同社が技術盗用を狙って送り込んだ人材である。しかし速攻でルクレツィアに露見し、現在残る二人に支えられながら技術習得を行っている。会社には救援を要請したが無視された模様。なのでちょっと長谷川のことを恨んでいる。自覚は無いが機械の操作に長けており、新型戦術機の操縦に最も早く慣れたのは彼女である。
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