チート転生テンプレもの   作:Reppu

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梅雨も明けて日差しの力強さが増した頃、基地の前に黒塗りの高級車が停められた。面会の打診から僅か3日で斯衛から人が送られてきたわけだ。

 

「さてさて、どなた様がいらっしゃるやら」

 

そう言いながら俺は資料の入ったファイルを片手に応接室へと移動する。今日も今日とて護衛に付いてくれたハヤタと共に部屋に入って俺は秒で後悔した。

 

「お初にお目にかかる。斯衛にて大将を預かっておる、紅蓮醍三郎と申す」

 

「同じく斯衛軍少佐を拝命しています。斑鳩崇継と申します」

 

「煌武院家当主を預かっております。煌武院悠陽です。よしなに」

 

なんか、とんでもないのが、来ちゃったぞ?俺の知っている姿より幾分幼いけれど間違いなく悠陽様だ。やべえ、ちょっと感動してきた。

 

「ご、ご丁寧に有り難うございます。カンパニー代表を務めております。長谷川誠二と申します」

 

そう言って俺は頭を下げる。斑鳩少佐はまあ解る、この人確か武御雷の開発に関わってた筈だから、斯衛に導入する戦術機の選定とかを請け負っているんだろう。だけど煌武院悠陽?彼女はまだ政威大将軍になっていないし、徴兵年齢にも達していないから斯衛にも所属していない筈だ。んで極めつけが紅蓮大将?このおっさんギャグ時空の存在じゃなかったの?え、大将ってほぼトップじゃん。二重の意味でなんでここにいるの?

 

「ふむ、随分と出来上がっておるな。長谷川殿はその年で随分と研鑽を積んだ様子」

 

無遠慮にこちらを眺めていた紅蓮大将が太い笑みを浮かべながらそう俺を評した。ええまあ、多分現地球上で俺よりBETAと戦い続けている人間はいないでしょうからね。曖昧な笑みを浮かべると、何故か一歩踏み出してきた紅蓮大将が楽しそうに口を開いた。

 

「おまけにあの機体。年甲斐も無く血が騒いで仕方ない。どうだろう、一手指南頂けまいか?」

 

なんですこの戦闘狂。半眼になって横にいる斑鳩少佐を見ると、彼は困った表情で紅蓮大将を止めてくれた。出来ればもっと早く止めて頂けませんかね?

 

「大将閣下、申し訳ありませんがそのくらいで。長谷川殿もお忙しいでしょうし、本題をお話ししませんと」

 

「おお、そうであった。すまぬな、長谷川殿!」

 

そう言って豪快に笑うとソファへどっかりと座り込む紅蓮大将。なんだろう、俺このおっさん苦手だわ。

 

「いえ、それで本日はどのようなご用件でしょう?」

 

そう俺が水を向けると、紅蓮大将の横に静かに座った斑鳩少佐が口を開く。こっちが交渉口らしい。

 

「先日は斯衛への機体導入の件、了承頂き有り難うございます」

 

「いえ、お気になさらず。こちらとしても渡りに船のご提案でしたので」

 

これは本心だ。帝国軍が無茶を言ってきて、それを俺が呑んだ瞬間から日本帝国が抱える戦術機は全てウチ製の機体に置き換えられることが決定した。まあ国家の危急と国際貢献を盾にとんでもねえ値段をふっかけて来やがったのを呑んだんだから、いまさらやっぱなしは難しい。そんな事になれば生産ラインを無償で供与した各社に俺が代金を請求するから、確実にメーカーから恨みを買う上に、俺の協力も失うことになるからだ。しかしここで面倒なのが斯衛軍の戦術機だ。こちらは城内省が独自に予算を組んで導入しているから、帝国軍の意向で更新は出来ない。そうなると各メーカーは既存の生産ラインを維持しなければならないし、最悪独自調達などと言い出されたら“野分”を生産する傍らで新型機の開発と生産ラインの立ち上げを行わなければならない。最新モデルでは無いが一応各社にCAMシステムは供与しているので、設計出来る人材が居れば出来んことはないだろうが、そうなると年単位で時間を食う事になる。出来上がる頃にはウチが新型を出して居るだろうから確実に陳腐化しているというおまけ付で。そんな訳で余計なリソースを使って欲しくない俺としては、好条件な提案であった事は間違いないのだ。

 

「その上で再度お願いしたく参りました。斯衛向けに調整した機体の供給、伏してお頼み申し上げる」

 

え、やだよ。

 

「その件については既にお断りしたかと思いますが」

 

「そこをなんとか曲げて頂くことは出来ないだろうか?」

 

その物言いに俺は違和感を覚えた。俺の知る斑鳩崇継と言う人物は、奸雄と評される類いの人間だ。崩壊後の世界で機会を窺い日本帝国の実権を握るなど計略に長けた人間であり、同時に旧弊的な物事を蔑視する合理主義者でもある。そんな人物が理も利も説かずにただ頭を下げる?そんな無様を果たして本当にするだろうか。

 

「逆に伺いたいのですが。そこまで専用機に拘るのは何故でしょう」

 

俺の問いに答えたのは横で腕を組み成り行きを見守っていた紅蓮大将だった。

 

「斯衛は将軍家の守護を預かる身ゆえ、軽々に数を増やせん。現在では一般より才ある者を受け入れているがそれでもその数は2個師団程度よ。数が揃えられぬなら質を求めるは道理であろう?我らは刃の切っ先なれば、研ぎ澄まされてこそ民を安んじられるというもの」

 

斯衛は全ての民の模範となるべし、だったか。その通りで彼らは常に先鋒や殿として投入される。彼らの戦闘能力が高ければ高いだけ後続の被害は減るし、当然そうなれば後方はより安全になるだろう。

 

「家柄、幼少より我らは何らかの武を嗜むでな。相手と切り結ぶのが性に合うのよ。どうだろうか、斯衛専用機の件、今一度お考えいただけまいか?」

 

言っていることは一見理に適っている。だが、それは彼らの理屈での話だ。

 

「失礼ですが、紅蓮大将。民とは?」

 

「決まっておろう。この日の本に住まう者全てである」

 

「成程。ご事情は理解致しました。その上で申し上げます。どうしても専用機が良いと仰るのでしたら他を御当たり下さい。弊社では対応致しかねます」

 

そう言って俺は笑顔で頭を下げた。部屋を沈黙が支配する。だが不思議と圧は感じなかった。

 

「ひとつ、お伺いしても?」

 

それを破ったのは幼い声、発したのは煌武院様だった。

 

「なんでしょう」

 

「民の暮らしを安んじる上で、斯衛が力を欲する理はご納得頂けた様子。なれば慈悲深き御社が断るは理に合わぬと見ますが」

 

そう柔らかい笑顔で質問してくる煌武院様。慈悲深いって、それ誰のことですかね?

 

「仰っている意味が判りかねます。我々は営利団体です。儲けにならないことなど致しません」

 

「自社で専売出来るものを他社へも渡し、労働力にならない難民を受け入れる為に莫大な費用を投じて都市を造る御社がですか?」

 

「それは近視眼的な評価ですね。長期的に見ればこれが最も我が社に利益を生む戦略です。何せBETA相手では商売が出来ませんから」

 

そう俺が言うと、煌武院様は少し目を見開いた後、楽しそうに言葉を続ける。

 

「では利を求めるならば、何故此度のお話を蹴られるのでしょう?斯衛の専用機となれば、条件は厳しくなりましょうが、相応の代金は支払うはず。御社にとって富も名誉も手に入る好機と見えますが?」

 

「総合的な判断です」

 

「伺っても?」

 

勘弁してくれよ、腹芸とか領分じゃないんだ。色々と面倒になった俺は思っていることをぶちまける事にした。最悪喧嘩になるかもしれんが、こっちにはハヤタがいるしな。

 

「手前味噌ではありますが、弊社の開発しました“野分”は優秀です。これが世界に広まれば、戦いは一変しましょう。その為には一機でも多く、一秒でも早いほうが良い」

 

そう言って俺は紅蓮大将を見る。

 

「紅蓮閣下は先ほどこう仰いました。民とは日の本に住まう者だと。それはつまり、貴方方に専用機を開発しても、守られるのはこの国の人間だけだという事になる。悪いとは言えません。人は万能では無い、自ずとその手で守れるものには限りがある」

 

最後に斑鳩少佐を見る。彼は黙ってこちらを見返した。

 

「私は商人です。民とは私にとって大切なお客様です。そして私のお客様とは、この世の全ての人間です」

 

再び俺は頭を下げる。

 

「ですから、大変申し訳ありませんが皆様のご要望にはお応えできません」

 

「それでも頼む、と言ったら?」

 

そんな俺に向かって穏やかな声で斑鳩少佐がそう聞いてくる。だから俺ははっきりと口にした。

 

「応えられません以上、お取引は出来ません。他を当たって頂きたい」

 

「つまり機体の供給はしない。と言う事かね?斯衛を敵に回すことになるやもしれんが?」

 

念を押すように紅蓮大将が口を開く。俺は頭を下げたまま答えた。

 

「はい。ですがその場合はお覚悟を。社の損失を黙って見過ごすほど私は出来た人間ではありません」

 

再び沈黙が部屋を支配する。だが今回はそれ程長くは続かなかった。

 

「この辺りで十分でしょう。紅蓮大将」

 

「うむ、これだけ覚悟を見せられれば皆も説き伏せられよう。お顔を上げて頂きたい、長谷川殿」

 

良く解らず顔を上げると、そこには楽しそうに笑う三人が。え、どゆこと?

 

「不躾な態度を取り不愉快な思いをさせたこと、深くお詫び申し上げます。長谷川殿」

 

そう言って頭を下げる斑鳩少佐。その意図を図りかねていると紅蓮大将が説明してくれた。

 

「先日の機体供給の件でな、斯衛内に反発があったのよ」

 

曰く、斯衛軍は伝統的に専用の装備を身につける事となっている。それを破るだけで無く、あまつさえ帝国軍と同じものを使えなどとは侮辱である、と。

 

「嘆かわしい事よ。我らは斯衛、侍ぞ。軍場において弓が無くば槍、槍が無くば刀、たとえ無手でも顎を使ってでも敵を討つことこそが我らの務め。それが武具の善し悪しで喚くとは」

 

いや、むしろそこまで割り切れる人の方が少数派じゃないですかね。

 

「そもそも精鋭などと嘯かれていますが、斯衛にBETAとの実戦経験を積んだ者などごく僅か、それも殆どが帝国軍から引き抜いた一般枠です」

 

そして彼らは大陸を生き延びた衛士に勝利し安心を得るのだそうだ。彼らより良い機体に乗って、対人戦という自分の得意分野で挑んでおいて、だ。

 

「あの機体は未熟な斯衛には必ず必要となる。何としても導入せねばならん。故に一芝居付き合って貰うことにしたのよ」

 

機体の性能自体は認められている、ただ自尊心が邪魔をしているという状況を打開するための訪問だと言う。紅蓮大将自ら赴き説得しても、聞き入れずあまつさえ要求を通そうとするならば供給を拒否する。その言葉が欲しかったのだと言う。

 

「流石にアレを見せられてなお“瑞鶴”に乗り続けられる意気地は無いでしょうから」

 

つまり俺はダシに使われたって事ね。まあいいさ。それでこっちの予定が狂わないなら許容しよう。さて、でもそうなると一つ解らない事がある。

 

「お二人の理由は理解致しました。ですが、では煌武院様は何故?」

 

煌武院は五摂家の中でもかなり内向きで、その分政には影響力がある。けれど今のところウチとは接点が無いはずだけど。

 

「榊殿より大変興味深いお話を伺いしまして。御社が進めている蓬莱計画。その一助が出来ればと参りました」

 

そう笑う彼女に、俺はつくづく彼らを侮っていたことを思い知らされる。うん、武家こええ!

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