チート転生テンプレもの   作:Reppu

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蓬莱山、あるいは蓬莱島。中国の神仙思想に登場する場所で、それは大陸の東の海にある山とも島とも言われている仙人の住処だ。神様転生なんて滅茶苦茶があるくらいだから、もしかしたら実在するかもしれないが、それを探そうとかいう酔狂な計画では無く、難民受け入れ用の民間向けメガフロートの建造計画のことだ。こいつは既にアイランド1から3までのノウハウとポイントを使って、四国沖の日本帝国の経済水域ギリギリに箱は完成していたりする。アイランド1と同サイズのメガフロートを20程連結したもので、総面積は大凡東京都の四分の一程になる。一応200万人を不足無く収容出来る施設と生産能力を備えているというのが売り文句だ。現在日本帝国軍経由で政府に働きかけて貰っていた。進捗はあまり宜しくないと報告を受けていたんだけど。

 

「弱者救済の心意気、大変感動致しました。煌武院家も是非協力させて頂きたく存じます」

 

「大変有り難い申し出です。しかし煌武院様、私達は御家へ何を差し出せば良いのでしょう?」

 

ただより高い物はない。至言である。チートで大抵のことは解決出来るが、言われるままに何かを提供し続けるのは危険だ。俺の知っている彼女は高潔で良心的な人物であるが、永遠にそうだとは限らないし、力に溺れないという保証も無い。そうなったとしても俺ならば物理的に止めることは出来るだろうが、そんなことはしたくない。

 

「無用です。ですが強いて挙げるなら、このままの活躍をお願い致したいかと」

 

そう言ってころころと笑う煌武院様。成程、成程ね。恐らく既に彼女は政威大将軍になる事が内示されているのだろう。だが彼女が今のまま将軍職に就くには幾つか問題がある。まず一つが軍との意識の齟齬だ。国際協調路線を取りつつも、国家の発言力を高める事に注力している榊首相と懇意にしている彼女であるが、榊首相は軍部に嫌われている。彩峰中将の一件がまだ起きていないから、そこまで決定的な確執を生んでいないが、少なくとも協力的とは言い難い。そして煌武院家は内向きと言ったように五摂家の中では斯衛軍との繋がりが薄い家だ。つまりこのまま彼女が政威大将軍になったとして、日本帝国の軍事力に影響力の無い指導者になってしまう。近しい者がこれらの手綱を握れれば良いのだが、見た限り望みは薄いだろう。紅蓮大将は武人すぎて政に首を突っ込むとは思えないし、斑鳩少佐に至っては目的が同じだから同道しているだけと言った感じだ。あれは利用価値がなくなったら躊躇無く捨てるタイプと見た。なので彼女は双方に影響力を持ちつつある俺と懇意にする事で、不足している軍部への影響力を補強したいのだろう。ならば俺の答えは簡単だ。

 

「承知しました。有り難くお受け致します」

 

貴女が今のままで有る限り。胸中でそう付け加えながら頭を下げる。俺があっさり呑むとは思わなかったのか、彼女は少し驚いているようだ。

 

「では早速一つご協力頂きたい事がございます。北アフリカ並びに南米にあります難民キャンプを日本へ誘致したいのです。ご助力頂けますでしょうか?」

 

「アフリカと、南米ですか?随分と遠方になりますね。理由を伺っても?」

 

ここは素直に言っておこう。

 

「既に両大陸は欧州の亡命政府を受け入れており、経済的な余裕の無い状態です。難民も見捨てられず受け入れはしたものの、物資の配給もままならず難民は困窮しているとのこと。早急に手を打たなければ、厄介な事態を引き起こすでしょう」

 

「厄介とは?」

 

「最悪武装蜂起、少なくともテロリズムには走るでしょう」

 

断定的な俺の言葉に煌武院様は目を見張る。

 

「そんな、このような時に人同士で争うなど…」

 

本気で言ってんのか?

 

「程度の差はあれ、この国でも人同士争っているではないですか。命の危機が差し迫っていればその行動が過激になるのは必然です。誰だって死にたくは無いのですから」

 

それにもう一つ特殊な事情がある。それがキリスト教恭順派と呼ばれる組織の存在だ。彼らはBETAという脅威の前に人類はその信仰、人種、思想の垣根を越えて協力、慈しみ合わねばならないという耳心地の良い教えを説き、急速に信者を獲得している。それは当然の事で、教えを説いて回っているのが難民キャンプだからだ。虐げられている人間に、お前達は虐げられている、本来の権利を奪われていると囁けば賛同を得るのは容易い。しかも彼らはキリスト教などと名乗ってはいるが、同宗教と何ら関わりの無い組織だ。あくまで自分達の都合の良い手駒を作る手段として名乗っているに過ぎない。では彼らの目的とは何か?これは推測ではあるが、恐らく現地球秩序の破壊。もっと局所的に言えば合衆国並びにソビエト連邦の崩壊だろう。何故その様な思想にたどり着いたのかは俺には解らない。だが、現実的な問題としてそれによって引き起こされる混乱で多くの犠牲者が出ることだけは理解出来る。

 

「ですが今ならまだ間に合います。無論不満はあるでしょう、故郷を遠く離れ見知らぬ異国、それも地球の反対側まで来いと言うのですから。ですがここならば、彼らは彼らの望む人としての生が望める」

 

人として当たり前の生活を望む。それは一見当然の権利に思える。だが残念ながらそうではない。弱者が当たり前に生きることが許されるのは、世界に余裕がある時だけだ。そしてBETAとの戦いでユーラシア大陸を失陥し、なおも戦い続ける人類に、今の人口を支えられるだけの余裕は残念ながら存在しない。だがそれを説いたところで無意味だ。人は持っていた権利はあって当たり前のものだと認識している。そしてそれは世界が如何に変ろうとも不変であると誤解しているのだ。

 

「難民の受け入れそのものは出来ましょう。受け入れ先があるのなら宣言するだけで事足ります。けれど現実的に移動する手段が無ければ意味が無いのでは?」

 

インド亜大陸のH13、そしてアラビア半島のH9の存在によって人類は欧州アジア間の海路についても大きな制約を受けている。日本からエジプトまでの航路は凡そ1万5千キロ。足の速い輸送船を使っても移動だけで15日ほどかかる。更に他の難民キャンプを巡るとなれば2ヶ月は覚悟しなければならないだろう。幸い東南アジアの油田地帯が残っているため燃料は確保出来るだろうが、何せ万単位の人を運ぼうという計画だ。日本としても難民保護のためだけに輸送船をそれだけの時間拘束されるのは厳しいし、人類側からの妨害も考慮すれば護衛も必要になる。幾ら後方国家と言ってもそれだけの労力を捻出するのは現実的ではない。そう、普通なら。

 

「メガフロート建設の際に物資輸送目的の艦艇を弊社で建造、保有しております。当面手空きの船ですから、こちらを使えば凡その問題は解決出来ると考えております」

 

乗員も全員ドロイドだから忠誠心もバッチリだし、何よりスパイが入り込む余地も無い。

 

「念のため駆逐を1~2隻都合して頂ければ幸いですが」

 

「一度榊殿にお話ししましょう。実施はいつ頃を?」

 

「遅くとも年内中に実施できればと」

 

そう俺が言うと煌武院様は小さく、しかし確かに頷いた。

 

「現地との調整はこちらが受け持つと言う事で宜しいのでしょうか?」

 

「むしろそうして頂いた方が話が早いでしょう。一企業の代表ではあちらの面子も立たないでしょうし」

 

言いながら斯衛の二人を見ると、両方苦笑を浮かべていた。いえ、当てこすりとかじゃないっすよ?

 

「では、そのように。良き報が届けられるよう頑張りましょう」

 

そう笑う彼女に、俺はもう一度頭を下げたのだった。

 

 

 

 

「あれ?社長どうされたんです?」

 

研修室と名付けられた監獄に彼女達を放り込んだ張本人が姿を現わしたのは、時計が午後の8時を指した辺りだった。本来の職場であればとうの昔に退勤し、上司の胡麻擂りとして夕食に付き合っている頃であったが、現在の職場はここからが本番と言える時間だった。体調を崩さぬ範囲であれば研修室を好きに使用して良いとの許可を得た残りの二人が、目の色を変えて入り浸っているからだ。同じく研究熱心な設計者という触れ込みで出向している彼女としては一人休むわけにも行かず付き合うことにしている。幸いにして彼女は才媛であり、二人には及ばないものの本来の目的であった技術の取得は出来ていたし、結果としてこの自習時間でより理解を深めることが出来ているため無駄ではないのだが。

 

「昨日提出して貰った課題でちょっと話したい事があってね」

 

課題。基礎学習が終わったとして彼女達に次に与えられた仕事が、この研修室にあるCADを使って指定された兵器を設計することだった。もっとも、設計とは言うものの彼女達は必要なパラメーターを入力することが主で、入力後はCAD側が過去のデータベースを基に勝手に描き上げてくれる。後は出来上がった候補から最も適していると思われる物を選択するのみだ。

 

「確か戦闘ヘリを代替可能な攻撃機、でしたよね?」

 

戦闘ヘリは戦術機に次いで対BETA戦において重要な戦力である。展開力、継戦能力など様々な点で劣るものの、戦術機に比べれば安価で整備性も高い。だが、衛士ほどではないもののパイロットに求められる水準は高く操作も複雑だ。これは戦術機の補助戦力という側面が強いため、機体価格を抑えるために戦術機のような高価な制御コンピューターを搭載していないからだ。

 

「うん、三人とも良く出来て居ると思う。それでちょっと相談なんだけど」

 

そう言って社長と呼ばれた男は柔やかにとんでもない事を言ってくる。

 

「今度ウチの主導で難民を迎えに行くんだけど、そこで君たちの機体を試してみない?」

 

「「良いんですか!?」」 「正気ですか!!??」

 

思わず叫んだ後、自分だけが違う言葉を発していたことに気付き賀東は慌てて咳払いをした。その上で自分の意見をしっかりと述べることにする。

 

「長谷川社長。私達は設計者ですがまだ御社の技術に触れて日が浅く、経験不足である事は否めません。そんな私達が課題程度で設計した機体に人の命を預けるのは些か短慮ではないでしょうか」

 

「そうかな?私はそう思わない。何故なら君たちが課題程度と手を抜いていない事を知っているからだ」

 

そう言って男は賀東を見据える。彼女は怖気を感じ、一歩思わず下がってしまった。

 

「それに私は使わない物を試しに描いてみろ、なんて楽な課題を与えたつもりも無いよ。何せ君たちは既に一人前の技術者だからね。シミュレーションの結果も良好だとルクレツィアから報告も受けている。なら、これは我が社の商品として通用するという事だ」

 

その言葉に今更ながら賀東は言いようのない興奮を覚えた。これまで仕事とは彼女にとって退屈では無いが、楽しいものではなかった。求められていたのは能力よりも容姿であり、人間性よりもその容姿を如何に活用できるかという表面上の取り繕いであったからだ。

 

「まあ、どうしても嫌だと言うなら無理強いはしないけど」

 

その言葉が彼女にとって最後の一押しになる。

 

「いえ、私の機体も参加させて下さい。ですが、少しだけお時間を頂けませんでしょうか。今の私達であれば、提出した物より更に良い物を提供できると思います」

 

彼女の宣言に男は嬉しそうに頷く。

 

「解った。では期日は前回と同じく3日後にする。それまでに出来上がらなかった場合は、今提出されているものを使うよ」

 

後に彼女達が生み出した攻撃機はBETA戦役における死者を半分に減らしたとまで絶賛されることになるのだが、それはまだ暫く先のことである。

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