チート転生テンプレもの   作:Reppu

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赤く染め上げられた“野分”が疾走る。手にしているのは120ミリ突撃砲と長刀、戦術機の装備としては別段特別ではないものだ。

 

「こっの!」

 

機体はFAT装備を外した標準仕様。多少運動性は向上するがそれ程劇的なものではない。つまりFCSの想定を超える動きなんて出来ていない、いないはずだというのに。

 

「なんで当たらない!?」

 

『はっはっは!狙いは悪くないが素直すぎるな!』

 

豪快な笑い声と共に、爆ぜるような速度で急接近してきた赤い野分が長刀を振るう。ギリギリ盾で受け止めたが、受け止めた盾は上半分をバッサリと持って行かれた。ウッソだろお前!?

 

「ちい!」

 

兵装担架を展開して弾幕を張る。まさか120ミリの射撃がこんなに遅く感じると思う日がやって来るとは思わなかった。

 

『良いぞ、良いぞ!そうでなくては!』

 

射撃は避けられる、だが接近戦はもっと悪手だ。何せアレに乗っているのは斯衛軍の大将なのだ。しかも随分とテンションが上がっておられる様子。うっかり17分割くらいされかねない。

 

(かといってこのままでは。ええい、ままよ!)

 

俺は覚悟を決めて接近する。射撃を当てる極意は一つ。当たる距離まで詰めれば良い!俺の意図を察したのか赤い野分は停止して突撃砲を投げ捨てる。そしてその行為に俺の目が一瞬、そう、本当に一瞬だ。逸れた瞬間最大速度でこちらへ突っ込んできた。

 

「なぁっ!?」

 

『ふむ、ちと踏み込みが足りんかったか。これは儂の負けかな?』

 

突き出した突撃砲は切り飛ばされ、咄嗟に展開した武装担架の突撃砲がコックピットをロックした。だが、俺のコックピットへも長刀が逆袈裟で寸止めされていた。うん、相打ちと宣言したいところなんだけど。

 

「いえ、私の負けですね」

 

兵装担架に装備している120ミリ突撃砲の砲弾はAPHE弾、これでは直撃させてもコックピットは破壊できない。対して相手は盾も切り裂く長刀だ、止められなければ確実に切り裂かれていただろう。破片による損傷なんて狡いことを考えず全弾APDS弾にするべきだったな。

 

『ふむ。ではここは譲られておくとするかの。良い鍛錬になった。また頼むぞ!』

 

そう豪快に笑う紅蓮大将をモニター越しに見つつ、俺は溜息を吐いた。正直二度とやりたくない。

 

 

 

 

シミュレーターの成り行きを見守っていた斑鳩崇継少佐は安堵の溜息を漏らした。

 

「素晴らしい腕前ですね、長谷川殿は。まさか紅蓮大将にあそこまで食い下がるとは」

 

実機の納入に先駆けて斯衛へカンパニーからシミュレーターが納入されることとなり、デモンストレーションとして紅蓮大将と長谷川社長との対戦が組まれたのだ。シミュレーション上とは言え、試験の動作では無く戦いを想定した実戦の機動は“野分”の性能が現在斯衛が運用している“瑞鶴”を歯牙にもかけない物であると兵へと強烈に植え付けた。これで頑なに否定していた連中も膝を屈するだろう。だが斑鳩少佐は全く別のところで安堵していた。

 

「良い衛士だ、だが無敵というわけでは無いか」

 

「それは仕方ありません。相手はあの紅蓮大将なのですから」

 

確かに紅蓮大将は無双、と呼ぶに相応しい技量の持ち主だ。唯一互するのは同じく斯衛大将の神野大将くらいだろう。そしてたとえその二人であっても斯衛の手練れが複数人で掛れば殺すことが出来る。

 

(無論それは最後の手であるが)

 

僅かな接触ではあるものの、斑鳩少佐は長谷川誠二を善良な人間であると理解出来た。更に言えば二面性も無く、人としての善行を正しいこととして行える人間であるとも認識している。人として見た場合、彼はとても好ましい人物だ。だがそれはこの日本帝国という国家にとって有益であるという事とは同義ではない。

 

「野分と言えば、例の件はどうなったかな?」

 

そう何気なく聞くと、彼の腹心は淀みなく答えた。

 

「はい、昨日カンパニーへ向けて正式に謝罪と購入の申し入れがあったと」

 

「そうか、長谷川殿はどうされたのか?」

 

「当面は我が国の需要に応えるのが手一杯であるとして、ライセンス生産を提案したようです。更に欧州への販売を許可されたとか」

 

「欲が無いな」

 

そう表面上斑鳩少佐は笑ってみせるが、内心穏やかではなかった。野分の生産体制が現在最も整っているのは日本であるが、元来資源が乏しくその多くを輸入に頼っている状況であるため生産数は伸び悩んでいる。特に希土、貴金属類は完全にボトルネックとなっており、国内供給の8割をカンパニーに依存している状態である。この状況下で米国が本格的に生産を開始すれば、これらの市場価格が高騰する事は火を見るより明らかで、国内産業のカンパニー依存は間違いなく加速するだろう。日本としては長期的には確実に悪い方向へと向かっている一方で、困窮しつつある国にしてみればカンパニーは貴重な外貨獲得手段だ。その上最近では低迷している食品産業にも参入し買収や企業再生まで行っている。ここでカンパニーを攻撃する事は、日本の経済界を敵に回すのと等しい行為だ。

だからこそ、長谷川社長が無敵ではない事は極めて重要な意味を持つ。

 

「出来るなら、良い関係を続けたいものだ」

 

呟いた言葉に答える者は居なかった。

 

 

 

 

「謙虚と言ったかな?我が国では馴染みない文化だが悪くはないね」

 

外交努力の結果を確認しながら合衆国大統領は上機嫌でそう口にした。

 

「全くです。ユーラシアにいる異星人共にも学んで欲しいくらいです」

 

そう返す副大統領に肩を竦めて見せると、大統領は再度確認の意味を込めて報告の内容を読み上げる。

 

「F-4J2には我が国の特許侵害は認められない。この件に関し製造元へは正式な謝罪と、機体の購入を提案。しかし生産能力の超過を理由に断られる。その後先方よりライセンス生産の打診があったと」

 

「既に確認用として送られてきていた製造機器一式は返却不要とのことでマクドネル社に敷設を開始しています。また同工作機械を製造するためのマザーマシンについても購入契約済みです」

 

「素晴らしい。彼らは世界をよく理解できているようだね」

 

「ええ、今次大戦を我が国は失敗しました」

 

副大統領の言葉に彼は深く頷いた。BETAと言う脅威を理解しつつも大戦当初合衆国の動きは緩慢だった。ソ連との人類同士による最終戦争を恐れた当時の合衆国首脳部は月面での反省を活かせず、当事国に対応を一任するという愚を犯したのだ。そして度重なる敗走とユーラシア大陸の大半を失陥するに至り、彼らは確信する。人類は統一されなければならないと。

 

「だがまだ挽回出来る。コイツがあればあの胡散臭い爆弾に頼る必要も無いだろう」

 

合衆国はG弾、BETA由来の物質を主原料とした特殊な爆弾を開発している。既に起爆実験にも成功したそれは核を上回る性能を示し、以後合衆国の対BETAドクトリンの中核となっている。だがそれは戦術機によるハイヴ攻略の見通しが立たず、人的損耗が高すぎる現状を考慮しての結果であり。当然ながら合衆国の人間全てが賛同しているという訳では無い。公的な立場でこそ明言しないが、私的には反対派である大統領の友人でもある副大統領は思わず苦笑を浮かべながら口を開いた。

 

「やはり許せないかい?マイケル」

 

「当然だろう、原材料が敵の巣にしかない物で戦おうなんて言うのは、相手の国の武器を当てにして戦争をすると言っているんだぞ?コメディアンなら絶対に口に出来ないジョークだよ」

 

副大統領の言葉に鼻息も荒く大統領は答える。そもそもG弾運用による最終的な着地点についても彼は気に入らなかった。何しろG弾には人類に解決不能な問題。即ち使用した一帯の植生を完全破壊するという致命的な副次効果が報告されているのだ。例えBETAを駆逐出来たとしても祖国を不毛の大地にされれば、次は合衆国が人類の敵になってしまう。加えて問題の解決方法が再生技術の確立ではなく、地球からの逃亡だと言うのだから元軍人である大統領の感覚からすればとても勝利と呼べる代物では無かった。

 

「では、F-4J2の量産は最優先事項だな。そうなると例の件も呑むしかないか」

 

「欧州への優先的な販売権まで譲歩されてはね。難民の1万や2万は安いものさ」

 

そもそも合衆国は現在世界で最も裕福な国家ではあるが、それでも何も出来ない人間というのは重荷でしか無い。それを態々引き取ってくれるというのだから、素直に送り出すべきだろう。輸送コストは掛るが、それも大幅に譲歩されたライセンス料や無償供与が約束された生産設備に比べれば微々たるものだ。

 

「やれやれ、やることは山積みだな」

 

新型戦術機の大量配備、ドクトリンの大幅な転換、そして欧州への売り込み。どれも容易な仕事では無く、暫く多忙が続くことは明らかだ。それを見越して漏らした副大統領の言葉に大統領は笑いながら応じた。

 

「国民を騙して逃げる算段をするよりは遥かにマシな仕事さ。そうだろう?」




合衆国にも、良心はありまぁす!
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