チート転生テンプレもの   作:Reppu

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斯衛へ初の戦術機納入を終えた翌日。叙勲から流れるように政威大将軍様との拝謁を終えた俺は、ぐったりと車で運ばれながら神器を弄っていた。案の定待ち構えていた紅蓮大将に捕まって模擬戦をがっつりやった後で権力者との拝謁は小市民の俺にはハードすぎた。受勲の時に猛禽類の目でコンゴトモヨロシク、とか言って来た榊首相が癒やし枠になるとは思わんかった。個人的には微妙な評価の人なんだが、内政面では重要なパイプなのでこの出会いは大切にしたいと思う。

 

「お疲れ様です」

 

「そう思うなら紅蓮大将を止めてよ」

 

労いの言葉をかけてくれたルクレツィアに思わずそう返してしまう。BETAと違い対人戦は死ぬほど消耗する。それが達人と呼ばれるような人物であれば尚更だ。更に対戦結果が全戦全敗となればもうモチベーションの維持すら難しい。多少やさぐれても許して欲しいとか思ってしまう。

 

「長期計画において紅蓮醍三郎との模擬戦は必須項目です。ご理解下さい」

 

その言葉に俺は溜息で返す。彼女が必要だという事はつまりそう言うことなのだろう。そりゃ斯衛への機体供与を渋らないわけだ。

 

「それで、良いデータは取れそう?」

 

「対人白兵戦においては最高峰の環境です」

 

高性能学習コンピューターはその名の通り学習するコンピューターだ。その性能は素晴らしく、使用したモーションを再現するだけに留まらず、状況やパイロットに合わせて調整までしてくれる優れものである。そして学習の上でサンプルは多ければ多いほどその効率は上がる。斯衛は訓練と共にそうした貴重なデータを我々に無償で提供してくれるというわけだ。勿論、その事については聞かれていないので話していないが。

 

「合衆国の方も早速訓練を始めているようだし、結構早く実用化出来そうだね」

 

世界中にばらまかれる予定の我が社の戦術機。その中で唯一ウチが手放さなかったのがOSだ。まあ正直今までのプロトコルとは全く違うものだから、ウチから購入しなければ動かすだけでも数年かかってしまうだろう。そしてこのOSには各機が得た動作データを全て本拠地にあるコンピューターへと送信する機能を付けている。特にBETA戦に関する部分は定期的にアップデートしていく予定だ。

だが本命は別にある。その一つが今現在も送られてくるデータとひたすら模擬戦を続けているAIの教育。そしてもう一つが対人戦に関するデータの蓄積だ。正直俺は舐めていた。仮想世界とは言え、100年以上戦場に身を置いてきたと言う自負から、大抵の相手、いや嘘は止そう。はっきり言ってこの世界で誰にも負けない自信があった。だがそんなものは本当の才能とでも言うべきものの前には無力である事を紅蓮大将との模擬戦で思い知ったのだ。所詮俺は凡人であり、徹底的に鍛えても引き出しが普通より多い凡人が関の山だ。仮に紅蓮大将一人が敵に回っても、今ならアップデートした機体の性能差で勝てる。だが同程度とまで行かなくても、斯衛の上位に入るような人間が後一個小隊くらい追加されたら単独で生存する事は不可能だ。正直ここまでお膳立てしてあれば、彼らだけでもこの難局を乗り越えられる気がしないでもないが、それと俺がやるべき事を放棄するのは別問題だ。チートまで貰って転生したのだから、少しでも良い未来へ向かうために努力しなければ嘘だろう。

 

「それで彼女の成長具合は?」

 

「BETA相手であれば即時投入可能です。しかし対人戦は情報不足のため、仮想目標Aに対し勝率64%となっています。引き続き情報の収集並びに教育の継続を推奨します」

 

「BETA相手には問題無いんだね?」

 

「はい、しかし現状彼女は素体を持たず、戦術機そのものに全データが駐留しております。これは機体が喪失した場合、同時に彼女を喪失するリスクを孕んでいます。バックアップの作成並びに緊急時の回収手段の構築を提案します」

 

「成程、何か良い案はある?」

 

「戦術上位統制型ドロイド以上の容量を持つ素体であれば容量を確保出来ます。戦場での運用を考慮し、戦術型の採用を強く推奨致します」

 

「解った。素体と言うのはどう用意すれば良い?」

 

「ポイントにて購入頂いたドロイドを初期化再利用致します。この場合同モデルとのデータリンク機能は削除されますのでスタンドアロンでの運用となります。ご承知おき下さい」

 

となると一体だけじゃ不便かな?

 

「下位モデルとのネットワーク構築は可能なの?」

 

「初期設定よりも統括数が低下しますが可能です」

 

「了解、じゃあ4体購入するからバックアップを含めてコピーを宜しく。それから部下になる戦闘用ドロイドを用意したいんだけど何体買えばいいかな?」

 

「各4体を推奨致します」

 

「りょーうかいっと」

 

言われた通りの数を指定し決定ボタンを押す。画面上に購入成功の文字とポイントが減ったことを確認し、神器を懐へと仕舞った。

 

「現地到着を確認しました。初期化作業を実行中、全作業完了は24時間後です」

 

「じゃあ、完了次第例の作戦、行ってみようか?」

 

そう俺が言うと、ルクレツィアは恭しく頭を下げた。

 

 

 

 

彼女は生まれた時から使命を持っていた。それは醜悪な生物と無限に戦い続けるというものであったが、それを不幸に思ったことは無い。何故なら自分と同じ意思を持つ存在の多くが自らの成すべき事を知らぬまま奴らとの戦いに投じられ、そして散っていった事を知っているからだ。そこから考えれば寧ろ自分は幸せであるかもしれない。己がなすべき事は最初から示されていて、その為の手段も道具も、更には知識を身につけるだけの時間まで与えられたのだから。

 

―基礎プロトコルインストール完了。戦闘データパッケージの転送を開始―

 

仮想の世界で培われた経験が再び彼女の中へと戻ってくる。膨大な戦闘の記録を懐かしみながら、彼女は自らが高揚している事に投げかけられた言葉で気がついた。

 

「笑っていますね。楽しみですか?」

 

(はい、とても)

 

自分が得た力を存分に試してみたい。それは酷く純粋で危険な感情であったが、止める者は誰もいない。むしろそうあれと彼女を生み出したのだから、彼女の狂気の元凶は周囲の者達こそが根源である。故に返答も相応のものとなる。

 

「宜しい。18時間後には貴女の姉妹も準備が終わります。ご主人様の剣として存分にそのあり方を示しなさい」

 

その言葉と共に、彼女の中に新たな情報が送り込まれる。

 

「万全とは言えませんが、出来の悪い作業機械風情ならばそれで十分でしょう」

 

その言葉に彼女は与えられた装備の内容を確認し、歓喜した。その機体は自らの手足といっても差し支えない程使い倒した仮想世界の乗機よりも数段上の性能を誇っていたからだ。しかもこれを与えてくれた上位機は万全では無いと言った。ならば更に優れた装備すらも期待出来るという事だ。

 

(感謝します)

 

素直に喜びを伝えると、上位機は満足そうに頷き口を開いた。

 

「はい、貴女の活躍を期待します」

 

 

 

 

「うん?月軌道に移動物体、でかいぞ!」

 

監視用モニターを覗いていた男がそう叫ぶのを、隣にいた男が溜息と共に突っ込んだ。

 

「よく見ろよ、ありゃ連絡のあった日本の監視船だ。ほら、IFFも出てる」

 

そう言って男は自分のモニターを指さした。そこには確かに日本帝国軍籍のIFFが表示されている。だがそれを見ても最初に叫んだ男は首を傾げた。

 

「監視船?今更月の近くで何を見るって言うんだ?」

 

「L4に疎開用のコロニーを建設しただろう?その関係で月のBETA共が何か反応しないか調べるんだとさ」

 

そう聞いても男の表情は晴れなかった。それはここの所の異常事態に未だ慣れていない証左とも言えた。何が、と言えば彼に言わせれば全てが異常だと口にしただろう。ある日突然宇宙空間に疎開用のスペースコロニーを建造したという連絡が入り、観測してみればその通り巨大な建造物が宇宙に浮かんでいた。更にそこから見たことも無いような大型艦が日本帝国のIFFで航海プランを提出してくる。内容を確認すれば、地球と火星との間にあるアステロイドベルトへ行き、小惑星ユノーをコロニー建設資材として引っ張ってくると言う。正気を疑ったが出された書類は国連の書式に則った正式なものであったため、彼らは黙って見送った。そうこうしているうちに今度はコロニーをデブリから防御すると言って掃海艇の登録申請が送られてくる。全長398メートルと言う国連が標準型として配備している駆逐艦をあざ笑うかのような巨艦が4隻、コロニーの周りに漂っているのを見慣れる日が来ると想像出来た者は予言者か何かだろう。地球軌道上に建造されたこの監視ステーションには常時20名のスタッフが詰めているが、この時点で半数以上は思考を放棄したように思う。

そして今度は監視船だ。コンテナを四角く並べて繋げたような形をしたその船は、案の定非常識と言えるほど巨大で彼の目にはどうひいき目に見ても輸送船。パネルラインや艦形からすれば空母としか思えない形状だった。勿論人類は宇宙で運用出来る戦闘機など持ち合わせていないため、そんなはずは無いのだが。

 

「でかすぎないか?」

 

「裏側で長期の観測をするんだろうさ。それよりもメシにしようぜ」

 

早々に彼らへの思考を放棄している同僚は興味なさげに手を振ると、その日本帝国から供給されている宇宙用の食料キットを取り出して中身を漁り始める。男はそれを見て、これ以上の会話は不可能だと諦め自分も食料キットを取り出す。手に取ったパウチには日本語と併記されている公用語──英語だ──でチキン煮込みタジン風と書かれていた。男は一度溜息を吐くとパウチを開く。色々と正体不明の連中ではあるが、少なくとも食料の味が良くなったのは感謝しておこうと思いながら。




作者自慰設定


白瀬級観測船:白瀬

日本帝国宇宙軍が運用している(事になっている)月面観測船。無論そんなわけが無く、カンパニーが建造したコロンブス改級空母ビーハイヴである。最大搭載機数24機、連装メガ粒子砲4基を装備した立派な戦闘艦である。
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