チート転生テンプレもの   作:Reppu

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「つまり新型のレーザー蒸散塗膜の導入は難しいと?」

 

「不可能とは申しませんが、品質について現在の性能を維持する事は難しいと言わざるを得ません」

 

「具体的にはどの程度になるのでしょうか?」

 

「そうですね。環境に依存しますから明言は難しいのですが、防塵施設を用いたとしても50%程度が出れば御の字でしょう」

 

温くなった紅茶を含みながら俺はそう答えた。世に貧乏暇なしと言う言葉があるが、俺はこの世界有数の資産家であるはずなのに暇が無い。なのでこう言おう。戦争暇無しである。

 

「それでも小型種の照射には十分耐えられる。是非とも導入させて頂きたいのですが」

 

そう身を乗り出して興奮した面持ちで語りかけてくるのはソ連の外交官さんだ。東西の冷戦の影響で誤解されがちだが、この世界で日本帝国とソヴィエト連邦の仲は悪くない。これは俺の居た世界と第二次大戦の内容に若干違いがあるからだ。戦中対立した陣営となった両国であるが、この世界のソ連は最後まで不可侵条約を守り続けた。単純に合衆国の欧州への比重が重かったことに対する政治的な判断であった感は否めないものの、当時の日本帝国にしてみれば、直接戦った合衆国と最後まで条約を遵守し矛を交えなかったソヴィエト連邦という関係になったわけだ。この差はかなり響いたようで、今でもソ連に好意的なご老人も多いし、東西対立の際も合衆国は日本を取り込むためにかなり譲歩を強いられている。具体的に言えば海軍の戦艦だ。俺達の世界では大和が沈められた事もあるが、戦後賠償として残っていた最大戦力である長門が引き渡されているのに対し、この世界でも同じように持って行かれたのは長門でそれより高性能な大和型や改大和型はそのまま残されたし、建造途中であった紀伊型についても解体ではなく、むしろ建造に技術供与がされるほどだった。そんなわけでBETA大戦勃発後はかなり緊密な関係になっていて、北海道などでは一部避難民の受け入れをしていたり、樺太なんかでも共同で資源開発をしていたりする。中国の大慶油田がかなり危なくなってきているから両国ともかなり真剣だ。

 

「我が社としても前線で戦い続ける貴国の一助になるのであれば否応ありません。ついては円滑な支援のためにも一つお願いが」

 

「ナホトカへの設備投資の件ですね?最大限配慮させて頂くことをお約束致します。ですが、戦力の持ち込みとなりますと…」

 

そう言って顔を顰める外交官さん。まあ、自国に戦力をいれさせろという相手に対しては当然の反応だろう。国連軍とかならまだしも、うちは表向き日本帝国の一企業だしな。

 

「ではこういうのはどうでしょう?貴国にもご負担頂くと言うのは?」

 

「負担ですか?」

 

そう聞き返してくる外交官さんに俺は頷いて見せる。

 

「はい、負担です。貴国の企業との合弁会社を設立し、施設はその管理下とします。つきましては施設の防衛戦力を貴国から出して頂きたい」

 

「は?」

 

「貴国の現状からすれば、貴重な戦力を後方へ張り付ける事となってしまい申し訳無く思います。しかし我々としても折角投資した施設がすぐダメにされては困るのです」

 

都合の良すぎるこちらの言い分に目を白黒させている外交官さん。だが残念、既に前例を構築済みだ。

 

「実は同じ条件で韓国のキムチェク製鉄所様と同市に施設を建設中でして。ご了承頂けますと大変助かるのですが」

 

韓国軍は中国戦線に義勇軍を派遣しているが自国での戦術機生産能力が無く、経済的にも慢性的な配備不足に悩んでいた。そこで戦術機を安価で販売をする事を条件にキムチェク市への進出を提案したのだ。すげえ飛びつきようだったと言う事だけはここに記しておく。

 

「いや、しかしそれは」

 

うん、もう一押しかな?

 

「ああ、当然こちらの都合で警備頂く訳ですから、滞在頂く際の費用はこちらで負担させて頂きますし、装備についても都合させて頂こうと考えております」

 

合衆国との技術盗用の一件が片付いて以降、俺はアジア一帯に向けて積極的にF-4J2のセールスを掛けている。条件はウチの工場の誘致あるいは地元企業との合弁企業の設立だ。今のところ順調でむしろ供給不足が起きている。なので初期導入分については日本帝国と合衆国の企業に結構な数を負担して貰っている。迷惑料としてウチが割高で購入してから送っているのでわりと現在両国は空前の戦術機バブルを迎えていたりする。まあ俺の場合現地の金とかあっても使わないし、基本根拠地の従業員は賃金ゼロというブラック企業も裸足で逃げ出す職場環境なので、むしろ還元先が出来て有り難いくらいだ。

 

「一度持ち帰らせて頂いても?」

 

難しい顔でそう聞いてくる外交官さん。

 

「勿論ですとも。軍事となれば国家の重大事、納得のいくお取引には時間も必要でしょう」

 

そう笑って俺は答えた。

 

 

 

 

陰鬱な表情でティーカップを眺め続ける佐伯中佐を見ながら、ルクレツィアは夕食のメニューを考えていた。鍛え上げられた主人は日々の激務やドロイドである自分達でも嫌になるような高温多湿なこの国の気候にも不満を言わず出されたものを食べてくれる。だが不満を言わないからそれで良いでは従者失格であろう。たとえ主が口にしない部分でも快適な環境を提供出来てこそである。戦略支援システム型ドロイドの職務範疇から逸脱している行為であるが、全ルクレツィアから問題提起がなされていないため今後も変更の予定は無い。

 

「その、気を遣わせてすまないな」

 

「いえ、構いません。どうされたのですか?」

 

ある程度良好な関係が構築できたと見なされた相手への応対は基本的にルクレツィアに一任されている。交渉担当用ドロイドの導入も検討されたが、結局の所最終判断を下すのがルクレツィアであるため、ならば余計なポイントを消費する必要は無いという判断である。ルクレツィアが聞き返すと、佐伯中佐は再び沈黙しカップへ視線を戻してしまう。その様子に彼女は疑問を覚える。ここの所日本帝国は順調に国力を伸ばしているし、国内情勢も安定している。軍についても野分の配備は順調に進んでおり、佐伯中佐の隊は再編も合わせていち早く野分で完全充足した大隊となっていたはずだ。

 

「実は君たちの行動が少々問題になっている」

 

「どの行動でしょうか?」

 

何しろ現在のカンパニーは非常に手広く物事を扱っている。行動と言われるだけでは如何にルクレツィアであっても特定は難しかった。

 

「一件目はインド亜大陸への派兵の件だ。BETAとの戦闘は基本的に国連主導の計画に沿って実施されるのは知っているだろう?」

 

統括されず、各国が自国優先のBETA戦闘を続けた結果BETA支配地域の拡大を招いたとして1979年に国連がバンクーバー協定として対BETA戦争は国連が主導で行う事が決まっている。各国の交戦権は自衛、あるいは集団的自衛のみに限定されているのだ。

 

「無論存じております」

 

当然その事はルクレツィアも知っている。知ったことでは無いが。

 

「我が国に対して国連から正式に抗議が届いている。事前連絡も無くどう言うことだと」

 

「さて、私どもは地中海までの航路調査中でしたので存じ上げません。随分と減ったようですし共食いでもしたのでは?」

 

当該する地域は何故か彼らの活動中強力なジャミングが発生していたため通信が満足に行えず、更に狙ったように濃密な雨雲が発生していたため監視衛星での観測も全てが終わった後だった。因みにコロニー建造技術によって、カンパニーには任意に雨雲を作り出す技術が存在するが知っている人間はルクレツィアの主人だけだ。

 

「成程、知らんか。BETAの生態はまだ未知な部分が多いからな、そんなこともあるかもな」

 

そう言って佐伯中佐は諦めた表情で紅茶を一口飲むと再び口を開いた。明らかにその言い訳は無いと言う態度であったが。

 

「二件目は宇宙の話だ。コロニーや掃海艇の連絡が遅れたのは済んでしまったことなのだが、掃海艇を見た国連が少々騒いでいてな」

 

その言葉だけでルクレツィアは理解する。武装した艦艇を流石に民間船とは庇いきれないと日本帝国政府から泣き付かれた為に、あの艦艇は帝国軍籍になっている。カンパニーとしてはIFFを強制的に入手しても良かったのだが、主人の基本方針が可能な限りは配慮するであるため受け入れたのだ。どうやらその際に提出したデータに国連軍が目を付けたらしい。

 

「拠点と艦艇を供与しろと?」

 

「その通りだ。あれほどの艦艇を運用出来るならもう少し国際協力をして欲しいとな」

 

現在国連は宇宙軍を保有しているが、この内訳は随分と偏っている。それは当然の話で、金の掛る宇宙軍を維持出来る国家が少ないからだ。BETA大戦以前から宇宙軍を擁していた合衆国と対抗するべく設立していたソ連の2国が全体の8割を支えており、他国は多くても数隻分の費用を供出し、合衆国から駆逐艦を購入し運用しているというのが現状である。当然日本帝国も例外では無い。

 

「その、具体的にはコロニーへの駐留許可、それから駆逐艦の分担数を増加、最後に就役している掃海艇と同型艦を一隻国連宇宙軍へ参加させて欲しいそうだ」

 

青くなりかけた顔と震えた声で佐伯中佐が国連の要求を伝えてきた。それを聞いてルクレツィアは日本帝国に対しては妥当な要求であると納得した。整備と補給の為に一々地球に艦を降ろすのは非効率であるし、整備が可能な宇宙施設を管理運営出来るだけの国力があるのなら艦艇の分担が増えるのは当然であるし、バンクーバー協定を遵守するのであれば宇宙戦艦への参加要請も要求過多ではない。問題があるとすれば、前提となる装備全てがカンパニーの持ち物であるという点だろう。

 

(拒絶も応戦も容易ですが、ご主人様は望まないですね)

 

そう考えルクレツィアは頬に手を当てると溜息を吐く。目の前で佐伯中佐が露骨に恐怖の表情を作ったが気にせず彼女は口を開いた。

 

「現在建設済みのコロニーは工業専用のため駐留は認められません。駆逐艦の分担数については独自の戦力を供出することで代替出来るか交渉ください。掃海艇については承知しました。1隻ならば都合致します」

 

ルクレツィアは淀みなく答える。事実購入したコロニーはコロニー建設用の物であり、労働力の大半はドロイドであったため内部に人が住むことを想定していない。駆逐艦に関しては購入となると値が張る上に彼女の基準からすれば気の毒になるほど低性能であるため、主人に用意して貰った方が全員が幸せになれる。掃海艇についても既にコロニー内に建造ドックが完成しているので、1隻と言わず10隻でも提供可能であるが、現状そこまで国連という組織に肩入れをしてやる意義がない。予想外の色よい返事に佐伯中佐は安堵の表情を浮かべる。

 

「コロニーの駐留は許可頂けないか?」

 

その質問にルクレツィアは素直に答えた。何しろ佐伯中佐は弁えている人物だ。今後もこちらとの重要なパイプ役として昇進してもらい、是非とも軍内の発言権を高めて貰う必要がある。

 

「あのコロニーは工業用で居住スペースが狭いですし、空調に関しても最低限の洗浄しかしておりません。長期の滞在は不可能な環境です」

 

ルクレツィアの言葉に偽りが無いと理解出来たのか、佐伯中佐は残念そうに頷く。

 

「いや、無理を言っているのは理解しているつもりだ。そういう事情ならば納得するだろう」

 

佐伯中佐の表情から即座にルクレツィアは言葉を紡いだ。

 

「しかし、多少の事に目を瞑って頂けば対応可能ですが」

 

基本的に軌道艦隊に所属する人間は国のエリートである。彼らに対し恩が売れると言う事は長期的に見て主人のプラスであるとルクレツィアは判断した。

 

「多少の事、いったん持ち帰らせて貰って宜しいか?駆逐艦の件と併せて上の判断を仰ぎたい」

 

「承知しました」

 

そう言って頭を下げるルクレツィアに対して申し訳なさそうに佐伯中佐が声を掛けて来た。

 

「その、いつも申し訳無い。小官に出来る事など何もないかもしれないが、必要であれば何でも言って欲しい。助力は惜しまない」

 

そう言って頭を下げた後帰って行く彼女を見送りながら、ルクレツィアは初めてこの世界の住人に好意を抱いた。そのせいとは言わないがルクレツィアの提案を聞いた主人は思いのほか機嫌良く許可を出す。

そして日本帝国はルクレツィアの提案を全面的に呑んだ結果。新しいコロニーが突如としてもう一基宇宙に浮かぶという多少の事に全力で目を瞑ることになる。なお佐伯中佐の胃薬の量が増えた事との因果関係は今のところ報告されていない。




メイドさんの善意が佐伯中佐の胃をダイレイクトアタック!
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