チート転生テンプレもの   作:Reppu

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1995年8月。今年に入って2度目の間引き作戦を実施した中国戦線は、かつてない程活気に溢れていた。5月上旬に実施された前回の間引きにおいて試験投入されたF-4J2が日本帝国で正式に採用され、大陸派遣軍に投入されたからだ。数こそ1個大隊であったが、その戦果は凄まじいもので投入された戦区のみでこれまでの間引きと同等の損害を与えていた。加えて韓国義勇軍が同じくカンパニーから獲得していたF-4J2の中隊を投入。こちらでは新戦術の模索として、AL弾による準備射撃を行わず、戦闘開始直後に光線級吶喊を実施するという前代未聞の作戦が試みられた。結果は極めて良好で、当該戦区ではまさかのAL弾使用数0という成果を打ち立てた。それだけでも快挙であったが、更に注目されたのが韓国義勇軍の装備だった。F-4J2にはFAT装備と呼ばれる武装を増強した形態があるのだが、経済的に余裕のない韓国軍では増大する弾薬消費を賄いきれないと判断し、採用を見送っていた。そのため各機に一門づつ120ミリ突撃砲は装備されていたものの予備弾倉は無く、それ以外は全て標準的な戦術機と同様の装備構成だったのだ。この事実に生産設備を持たない国々は驚愕する。あくまでF-4J2の戦果は搭載する火力を背景にしたものというのが各国の認識であったからだ。特に第三世代機の開発を進めていた欧州諸国とソ連の衝撃は凄まじく、即刻購入の打診と工場誘致の提案がカンパニーへと届けられる。

一方でこれらを苦々しく見続けるしか無い国家も存在した。その一つが聖地回復を掲げる聖戦連合軍参加諸国だった。元はアラビア半島に存在したこれらの国家は、二次大戦後の化石燃料の消費増大に伴い多くの富を得ていたが、BETAによる国土失陥に伴い急速に資本をすり減らす事になる。参加している将兵の士気が高かった事が寧ろマイナスに働き90年代に入った頃には人と物双方で限界を迎えつつあった。

そんな彼らに妙な依頼が舞い込んだのは件の間引きから4日ほど経った日のことだった。

 

「はあ?スエズを通りたい?」

 

元々スエズ運河は欧州とアジアを繋ぐ海路の要衝だった。しかしBETAの西進に伴い欧州各国が次々と地図から消え、更にはインド亜大陸がBETAに呑まれた現在ではその役目を失って久しい。

 

「そちらの間引きが終わった3日後を予定しております」

 

日本帝国の使者を名乗る胡散臭い男を前に、聖戦連合の指揮官は頭を掻いた。

 

「別に我々は構わんがね。だが安全を担保しろと言っているなら話は別だ」

 

そう言って指揮官は鼻を鳴らす。

 

「羽振りの良い貴国と違ってこちらは色々と手一杯なんだ。万一があってもこちらでは面倒を見きれない」

 

何とも情けない話だと、言った本人である指揮官は思った。聖地回復を唱えておきながら、自分達は取り返すどころか押し込まれている。挙句その後方を通りたいと言う者達に、庇ってやる余裕すら無いと言う始末だ。

 

「成程、しかし困りました。こちらは輸送船ですから自衛もままなりません。そうなりますとこちらである程度戦力を用意する必要がある」

 

その台詞で司令官は使者の言いたいことを察した。

 

「ああ、是非そうしてくれ。どうせなら手伝ってくれても構わんよ」

 

「おや?宜しいのですか?」

 

そう惚けて見せる使者に司令官は負けじと返してみせる。

 

「勿論だ。聖地回復を手伝ってくれるというなら誰でも歓迎さ。後でここは我々の物だ、なんて言い出さない限りはね?」

 

こうしてその日の会話は和やかに終わる。しかし司令官は使者の言葉が本当であるなど考えてすらいなかった。護衛用の戦力を持ち込むことに対する交渉だと認識していたからだ。だが真実は言葉通りの意味だった。

 

「この度は受け入れ感謝致します。艦隊を預かっておりますムラマツと申します」

 

そう手を差し出してきた手を握りながら、司令官は悪い夢でも見ているのかと自分を疑った。

 

「申し訳ありません、少々大所帯でして」

 

その言葉に司令官は頬を引きつらせながら頷く。海運の要衝であったこともありスエズには多くの大型船が停泊していた時期がある。司令官も幼少の折、幾度か目にした事があったがその頃と変らぬ程の、否、寧ろ多くすら見える艦艇が増援としてやって来るなど、誰が想像するだろうか。

 

「これが全て増援だと?」

 

震える声で確認する司令官にムラマツと名乗る男は更なる非現実を突きつけてくる。

 

「はい、洋上戦力は以上になります。とは言え殆どが補給艦と揚陸艦ですが」

 

成程、確かに艦隊を構成する大多数はムラマツの言う通り補給艦と揚陸艦だ。だがそれは戦闘用の艦艇が僅かであると言う意味ではない。何しろ全て合わせれば200隻近い艦艇が揃っているのだ。どう見ても主力戦艦だけでも8隻いるのだから、何も知らない者が見たら一大決戦でも始めるのかと疑っただろう。

 

「いや、これ程の援軍に来て貰えるとは夢にも思わなかったもので」

 

なんとかそう答える司令官に、しかしムラマツは笑いながら更なる爆弾を落とす。

 

「既に難民保護の輸送船団は本国を出発しておりますから、この作戦は失敗は出来ません。明朝には陸上打撃群も到着します。間引き作戦に合わせアカバ湾を北進。アカバ空港跡に揚陸後砲撃支援を行う予定です」

 

「り、陸上打撃群?」

 

更なる増援の報と共に聞き慣れない単語が飛び出す。脳が許容限界を迎えつつある司令官は指揮官としての矜恃だけでそう聞き返した。

 

「ええ、カンパニーが開発した所謂陸上戦艦と言う物ですね。単純にホバークラフトを巨大化して戦艦砲を積んだだけのものではありますが、火力は確かです」

 

簡単に言うなと悲鳴を上げたくなるのを司令官は懸命に堪えた。艦砲は強力であるがその巨体故に陸上での運用は極めて困難だ。勿論全く不可能とは言わないが、任意の射点に到達させるだけでも莫大なコストを要求するため、大半の国家は採算が合わないと見送る代物だ。それを目の前の男はこともなげに出来るとした上に、組織だって運用しているとまで言ったのだ。次世代の革新的な戦術機、そんな生やさしい物ではない理不尽を突きつけられ、司令官はとうとう考えるのを放棄した。

 

「…支援、感謝する」

 

「恐縮です。ああ、そうでした。弊社の社長から言伝がありまして。砂漠地帯での新型のレーザー蒸散塗膜のデータが欲しいので、貴軍で運用しています戦術機に塗装させて頂けないかと。無論費用はサービスさせて頂くとのことなのですが」

 

ムラマツの言葉に司令は乾いた笑みを浮かべたまま、黙って頷いた。

 

 

 

 

「全揚陸艦艇、所定の位置に就きました」

 

「搭載攻撃機の最終点検を実施中。全艦完了は2時間後の見込み」

 

「輸送艦より簡易塗装設備の荷下ろしが完了しました。現在展開中、1時間後には運用可能です」

 

自身の預かる艦へと戻ったムラマツへ次々と報告が舞い込む。それを確認しながらムラマツは静かに頷いた。

 

「遠征ならば戦術機より都合が良いな」

 

そう彼が評したのは艦隊の主力として預けられた攻撃機だった。月面の掃除開始によってポイントの確保が容易になった主が、これまで取得ポイントが高く手を出していなかったAC系技術を取得し、出向してきている娘達に設計させた物が攻撃機と呼ばれるこの兵器だった。この兵器は下半身がホバリング機能を有するフロート脚と呼ばれる構造を採用しており、立体的な運動性は戦術機に劣る一方、平面移動に関しては遥かに省力で高い運動性を発揮出来る上、その操作系は既存の戦闘機やヘリに近いが遥かに簡単であるからだ。更にこの機体では幾つかのパーツを共通の規格で設計し、組み合わせによって多機能を獲得するという概念を採用している。浮遊していると言う性質上大型の砲とは相性が悪いものの、既存の戦術機よりも搭載能力に優れ、装備を変更すればあらゆる特化任務にも対応出来る柔軟性は既存の戦車やヘリで戦う人間に大きな福音となるだろう。

 

「何より場所をとらんのが素晴らしい」

 

全長12メートル、全高4メートルというサイズは戦術機より小型だ。事実今回輸送に使用した津軽級揚陸艦は大隅級戦術機揚陸艦をベースに設計された物だが、ほぼ同じサイズで倍以上の36機を運用出来る。当然同機にはレーザー蒸散塗膜と超硬スチールが採用されているので生存性も申し分ない。強いて問題があるとすれば、戦車級などの小型種に集られた際、排除する手段がSマインに依存しているため回数制限がある事と、弾薬を射耗した場合に戦闘手段が体当たりくらいしか無い事、ヘリと比べてもやや割高である事だ。それでも戦術機に比べれば四分の一の値段であるが。

 

「まあ、その辺りの使用感も今回の作戦で報告出来るだろう」

 

そう言って彼はネットワークを介して陸上打撃群の位置を確認する。この部隊を預けられているのも彼と同型のドロイドであり、便宜上別の個体名称を頂いているが基本的には同一の存在である。

 

「陸上打撃群も問題なし。実に楽な仕事だな」

 

主の前で自らの能力を披露できないさみしさはあるが、この程度の仕事であれば誇る程のことでは無いし、何よりこれから幾らでもあるだろう。それに本拠地で製造されている新型艦もこの遠征が終わればムラマツの旗下に編入されることとなっている。全力で戦える日はまだ先だろうが、その時を想像してムラマツは微笑んだ。

 

「いかんな、気が逸っている」

 

まずは目の前の仕事を着実に片付ける。そう思いながら彼は帽子を被り直した。

翌月、無事難民が日本へとたどり着くと同時に、アラビア半島へBETAの封じこめが成功したとの報が全世界へ発信される。BETAに対し大きく失地を回復したというこの報せは人類にとって大きな希望となった。

だがそれを恨む者が動き出していることを長谷川誠二はまだ知らない。




流石にキツくなってきたので投稿頻度を下げます。ごめんね。
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