チート転生テンプレもの   作:Reppu

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「もう着いちゃったの?」

 

船が減速するのを感じ取った妹が残念そうにそう口にした。久しぶりに聞く妹の不満そうな声にメリエム・ザーナーは思わず笑ってしまった。化け物共に故郷を追われて既に10年近くが経つ。当初は難民キャンプとは言うもののそれ程困窮していたわけではなかったため、妹も同年代の子供の多い環境で明るく過ごしていた。だが、最初の避難場所であったロードス島にBETAが迫り、辛くも逃げ出した先で待っていたのは、足手まといに向ける冷たい視線と、ごく僅かな施しだった。少ない物資を奪い合い難民同士での諍いは絶えず、身寄りの無い子供、老人と言った弱者から死んでいく残酷な世界。櫛の歯が欠けるように遊び相手を失っていった妹は次第に笑わなくなり、与えられたテントから出る事も少なくなった。でもそれはある意味幸運だったかもしれない。自分達に少しでも食事を与えるために、監視の軍人やキャンプ内に暴力で君臨していた男相手に媚びて股を開く母を見ずに済んだのだから。いや、聡い妹の事だ。もしかしたらそう言うことを察して母が悲しまぬよう敢えて見ないようにしていたのかもしれない。だがそんな生活も破綻の兆しが見えてきていた。配給される食糧は減らされることはあっても増えることはない。母を抱いていた男達も、自分達が飢えてまで女を抱こうとは考えなかった。日に日にやつれ、思い詰めた表情をする母を不安に見つめていたあの日、唐突に手は差し伸べられた。

日本という極東の地で、移民を募っている。

如何にも胡散臭い誘い文句だったが、何故か誰もが手を挙げた。当然のように母も手を挙げていて、不安になった彼女はその理由を母へと問うた。

 

「日本人はとても優しくて慈悲に満ちた人々なの。きっと私達を助けてくれるわ」

 

そう言いながら母は100年以上前に起きた海難事故と日本人の対応を聞かせてくれた。だが、それを聞いてもメリエムは不安を拭えなかった。

 

「100年も前の話じゃない。それにそんな人達なら、何故今まで助けてくれなかったのよ」

 

そう翻意を促すが、状況は更に悪化する。日本帝国の難民受け入れを受けて、エジプト政府が彼女達の居る難民キャンプの解体を決定したのだ。それを聞いた瞬間、実は難民を切り捨てるために日本帝国とエジプトが共謀したのではとすら考えた。近くの国ですら自分達を足手まといだと邪険にするのに、何故遠い、それこそ地球の反対側と言えるような場所にある国が自分達を助けてくれるのか。不安と恐怖で気が狂いそうになる彼女のもとに現れたのは、海を埋め尽くすような数の船舶と、ダークグリーンの軍服――野戦服と言うのだそうだ――を着た日本帝国の派遣部隊だった。彼らの対応は極めて紳士的で、船もこれまで住んでいた難民キャンプのテントよりも遥かに上等なものだった。その上病院船までもが同道しており、病気の人や怪我人の手当てまで始めたのだ。

 

「もう大丈夫ですよ」

 

母が検査の結果性病に罹っている事が判明した時は大いに取り乱したが、そう告げられた瞬間、メリエムはとうとう緊張の糸が切れて泣き出してしまった。大勢の前で晒した醜態は未だ記憶に新しい。その後の船での移動も天国かと思う程だった。朝昼晩としっかりとした食事が提供されたし、船内も危険区域や操船に邪魔になる場所を除けば移動は自由。幸運にも生き残ることが出来た小さな子供達は連日のように大きな船内を探検していた。その上船内では常に見回りの人が居て、トラブルが無いか、困っている事は無いかと確認してくれる。メリエムはロードスの英雄と同じく敬意を払うべき軍人が存在するのだと強く思った。そしてその17日に及ぶ船旅も、今日で終わる。

 

「慌てず、ゆっくりと移動して下さい。当船はこの後移動しますので手荷物など忘れ物が無いよう、十分ご確認下さい」

 

公用語とトルコ語で繰り返されるアナウンスを聞きながら、メリエムは妹と手を繋ぎ船から降りる。そして目の前に広がる光景に感嘆の声を思わず漏らしてしまった。

 

「凄い」

 

背はあまり高くないが、多くの建物が建ち並び、近くには公園のような場所もある。少し視線を横へと向ければ、大きな森がありその先は霞んで見えない程だ。山や整備されていない河川が存在しないことが、なんとなくこの場所が人工の島であるという証明のように思えたが、事前の説明も無く連れてこられていれば、ここがその様な場所であるなどと一目で見抜ける者は居ないだろう。

 

「全然揺れないよ?」

 

そう不思議そうに聞いてくる妹に思わずメリエムは笑ってしまう。この人工島はメガフロート、筏のように海に浮いているのだと教えられていたから、当然船のように揺れると考えていたのだ。紅海を抜けた辺りで船酔いを経験した妹はずっと揺れていたらどうしようなどと困っていたが、どうやら杞憂で済みそうだ。

 

「頑張ろうね、母さん」

 

そんな言葉が自然と口から出る。今の自分達が与えられた幸運の上に居る事を彼女は自覚していた。だから頑張ろうと心に決める。この幸運を逃してしまわないように。そして助けてくれた彼らが、自分達を助けて良かったと思ってくれるように。

 

 

 

 

「アフリカからの移民船団の第一団が到着しました。航海中の死者、疾病者はおりません」

 

「米国からの難民受け入れも並行して実施しています。現在までに全体の37%を受け入れ済み。後催眠処置を受けた人物は現在まで114人確認しました。隔離後洗浄作業を実施します」

 

「輸送船団は現在アイランド5へ移動中。到着は1時間後です。整備及び物資の積載完了は翌朝0800です」

 

「紅海及び地中海に展開中の第一艦隊の残弾が50%を下回りました。移民船団の再出発にあわせて補給物資の輸送を提案します」

 

「東南アジア諸国よりメガフロートの購入及び亡命政府樹立支援の打診が来ています。また欧州諸国からも購入の打診がありました」

 

「月面攻略部隊より、月BETA群が光線級の戦力転用を開始したとの報告がありました」

 

「インダストリアル1にてミノフスキードライブ搭載型一番艦が完成しました。ユノー獲得艦隊の支援としてアステロイドベルトへ派遣します。二番艦の完成は3ヶ月後です」

 

「月でのG元素確保はどうなってる?」

 

「現在攻略中ですがアトリエには未到達です。到達予定も不明です」

 

アトリエとはハイヴ内に存在するG元素の製造及び貯蔵施設のことだ。月攻略部隊は順調に拡充していて、今では2個大隊規模になっているんだけど、まだまだ難しいようだ。まあ月のハイヴは軒並みフェイズ5以上だからな。

 

「月攻略部隊向けに新型機を開発することを推奨致します」

 

「流石に限界かぁ」

 

月攻略部隊に配備している機体は新技術を獲得する度にアップデートをかけている。そのため既に地上で運用している機体と比べたら、F-4J2だったものくらい変更されている。ただ、幾ら新素材などを用いても形状上存在する制約は受けてしまうから、どうしても限界というものは存在してしまうのだ。ぼやきながら俺は神器を取り出して起動する。結構な数の技術を解除したが、そろそろ辛くなってきた。それというのも上位の技術になるほどポイントの消費が激しくなり、それでいて解放出来る技術は少なくなる。加えて技術的な脅威度が高いと判断されるものは特に高くなる傾向があり、マブラヴ世界由来の技術でも第7世代戦術機以降は宇宙世紀技術からみても文字通り桁違いの数字を要求される。

 

「最悪月の攻略は一時中断かな」

 

ここの所解ったこととして、俺が戦わなくてもポイントは稼げると言う事実がある。ただ結構条件がシビアで、取得できるのは俺がポイントで呼び出したユニットがBETAを倒した時に限られるのだ。このユニットとは所謂ルクレツィア達のようなドロイドの事で、機体の方は適用されない。ついでに言えば同じドロイドでも、生産設備で製造したものは対象外になる。どこで見分けてるかは知らないが空気を読んで欲しい。おまけにドロイドによる獲得ポイントは俺が直接倒す場合より遥かに低いから全然貯まらない。ビーム兵器に更新していなかったら弾薬の消費で赤字になっている程だ。

 

「でも今の内に新しいプラットフォームは用意すべきだよね」

 

最低でも太陽系からBETAを駆逐する必要がある以上、F-4でゴリ押すのは不可能だろう。

 

「運動性と機体容積に余裕があるモデルを推奨します」

 

「んな無茶な」

 

容積がでかいと言う事は質量もでかいという事だ。当然運動性とはトレードオフになる。だけど運動性を重視して小型にすると発展性が損なわれる。この辺りは難しい所だ。

 

「設備、艦艇等更新が困難な装備の長期利用を鑑み、機体全高は現行戦術機との差を10%未満とする事を推奨します。また戦闘データから機体に固定の火砲を装備することを薦めます」

 

「ああ、それは確かに」

 

外装式にすれば不要な際にパージが楽だとか、交換が容易と言ったメリットがあるけれど、一方で固定式に比べサイズが大型化してしまったり、火力が低かったりというデメリットも存在する。またハードポイントをワンクッション挟む必要があるから、接続不良とかそもそも衝撃などを受けて喪失してしまうと言ったリスクもある。実弾だと機体容積を大幅に使ってしまう上に現地での補給が難しいという問題もあるが、宇宙世紀の機体ジェネレーターに直結式のメガ粒子砲であればそれも最小限で済む。今のところ宇宙世紀の技術は130年代相当のものまで取れているから、性能的には十分な物が用意出来るだろう。

 

「となると、あの機体かなぁ」

 

そう言って俺はある機体をポイントで購入し、そのデータをCADへと放り込む。こうしておけば後はルクレツィアが好きに弄れるからだ。

 

「折角だからアリス達にも意見を聞いておいてよ。一番使うのは彼女達だろうし」

 

「承知しました。確認次第試作機の開発を実施します」

 

「後は何かある?」

 

「帝国情報省の鎧衣左近様よりアポイントメントが取られています。合衆国についてお話がしたいと」

 

「へえ?」

 

悠陽様繋がりで顔見知りになったんだけど、あのおっさんジェームス・ボンドばりに情報を仕入れてくるな。こっちを上手く使ってやろうっていう魂胆はアリアリだけど、人類に有益な内は乗ってやろうじゃないか。

 

「良いよ。会おう、いつになる?」

 

「出来れば今すぐが良いですな、ついでに助けて頂けると大変有り難い」

 

声がした方を向くと、無表情のアラシにつままれて揺れているトレンチコートの胡散臭い男がそこに居た。




ほのぼの回。
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