チート転生テンプレもの   作:Reppu

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「いやあ、あの攻撃機と言う奴は中々に便利ですな。大西洋を無補給で往復出来るとは。是非我が国でも移動用に導入頂きたいものです。おっと、失敬。これはお土産です」

 

そう言って渡された手のひらサイズのモアイ像を俺は流れるようにルクレツィアへ渡す。彼女は無表情で像をへし折ると中から出てきた盗聴器を握りつぶし、諸共ゴミ箱へと放り込んだ。

 

「一応防諜にも気を遣っていまして」

 

「ははは、手厳しい。そう言えば最近この辺りで良く行方不明者が出るそうですな?」

 

「海外の方には不案内な土地ですからね。迷う人もそれなりに居るでしょう」

 

不思議なことに迷った人物は大抵我が社の敷地内で見つかるので、ルクレツィアによる事情聴取の後お帰り頂いている。ただたまに、本当に見せられない所まで入り込んでしまった不幸な凄腕さんが居るのでそう言う人達は大変遺憾だが、こちらの戦力に改造させて貰っている。有って良かったAC系技術である。俺はティーカップを持ち上げると中身を口に含み、一呼吸おいてから本題を切り出した。

 

「それで、本日はどのような土産話を聞かせて頂けるのですか?」

 

「ふむ。お伝えしました通りの件でして、まあ合衆国の話になるのですが」

 

そう前置きして、目の前の男は少し前のめりになりながら目を細めた。

 

「時に伺いたいのですが、オルタネイティブ4に我が国の案が採用されたことはご存じですかな?」

 

「ええ、随分と急いだようですね。気持ちは判らないではありませんが」

 

オルタネイティブ4、人類のBETAに対するアプローチの第四段階目に相当する世界規模のプロジェクトだ。その目的はBETAとの対話による戦争の終結。これまでの計画で得られた情報から、特殊な機材を使いBETAとのコミュニケーションを図るというものだ。まあ失敗するんだが。連中は異星人が創った作業機械であり、人類というか炭素系生命体全てを自分達と同じ機械だと認識している。そして連中にとって創造主の異なる作業機械は排除対象でありその認識は覆すことが出来ないため、あれらとの和解という選択肢は人類に用意されていないのだ。

 

「5番目が随分と積極的に動いていますからな。かといって、4のみに人類の命運を賭けるのは些か心許ない」

 

「でしょうね」

 

俺は平然と言ってのける。因みにオルタネイティブの詳細は国連の最高機密であるため内容を知っている者はごく限られる。まあこのおっさんはこの程度でびびったりはしないだろう。

 

「長谷川様も同じ意見でしたか」

 

そう胡散臭く笑うおっさんを見て俺はちょっと考えてしまう。この人こんな態度で良くスパイが務まるな?

 

「あの内容は少々突飛ですからね」

 

オルタネイティブ4の根幹にあるのは因果律量子論という超理論だ。これはざっくりと説明すれば望んだ結果を引き出す能力という物が存在し、それによって世界へ干渉することで最善の未来へと到達出来ると言う理論だ。胡散臭いとは言ったものの、実はこの世界においてこの理論は本当に存在し、その能力を無自覚ながら行使できる人間もある程度選抜されている。つまりこの能力を使ってBETA相手に和平という最良の未来を引き出してやろうというのが計画の骨子なのだ。だが前述した通り、BETAは人類を対話の対象と認識していないし、そもそも連中に対話という概念が存在するかすら怪しい。そんなこともつゆ知らず人類は炭素系生物であるから生命と認識出来ないのではないかとして、狂気の決断を下す。

 

00ユニット。

 

生命反応0、生物的根拠0、故に00ユニット。BETAが対話相手と認識するであろう素体を創造し、そこに最高の因果律量子論能力者を素材として疑似生命体を生み出し交渉へ当たらせる。ごく普通の感性を持つ4の最高責任者はどのような苦悩の果てに決断を下したのだろう。それは彼女にしか解らない。だが、幸か不幸かこの世界で彼女はその決断をすることはないだろう。否、出来ないと言うべきか。

 

「我々としましても誘致した手前大っぴらには出来ませんが、全幅の信頼を寄せられる程彼女は何かを成したわけでもない。故に保険は必要だと考える次第でして」

 

そう言って鎧衣氏は懐から封筒を取り出した。

 

「HI-MAERF計画、長谷川様ならばご存じですな?」

 

「随分と昔に中止になったと記憶していますが」

 

戦略航空機動要塞開発計画。長ったらしい名前であるが、要するに空飛ぶ巨大超兵器でハイヴを吹っ飛ばしてやろうというステキ計画である。だが特殊な主機と粗末な制御コンピューターの悪魔合体により、実機の起動試験において搭乗したパイロット全てをシチューへ変えるという事故を起こす。その後色々と試行錯誤はしたもののコンピューターの性能不足という抜本的な問題を解決出来ず、今日までお蔵入りとなっている。

 

「ええ、致命的な問題を解決出来ず埃を被っているのですが、長谷川様ならば何か冴えたやり方をご存じでは無いかと思いまして」

 

そう言いながら彼はルクレツィアへ意味深な視線を向ける。確信はないだろうが、彼はルクレツィアが人間ではないと察しているのだろう。これ程小型で高性能なコンピューターは地球上でここにしか存在しない。そして問題の解決には彼女より遥かに劣るコンピューターで事足りる。大体HI-MAERF計画の機体は100メートルを超える超巨大機だ。容積も供給電力も余裕があるからF-4J2に使っている学習型コンピューター辺りを複数搭載すれば直ぐにでも解決するだろう。

 

「ああ、そう言う」

 

そこまで考えて俺は根本的な間違いに気付く。そう、F4-J2のOSは彼らにとって完全なブラックボックスなのだ。何せ接続端子の規格すら既存のコンピューターと違うし、当然動かしているプログラムも全く違う。今頃必死で解析しようとしているだろうが余程の天才でも年単位の時間が必要だろう。

 

「技術提供は構いません。ですが第5の連中を合衆国は抑えられるのですか?」

 

合衆国はしばしばヒュドラにたとえられるようにその巨体に複数の行動する頭脳、つまり組織群で構成されている。この中で現在最も彼らにとって理想的な戦後を目論んでいるのが第5計画派、所謂G弾推進派だ。そんな彼らにとって、実はG弾に依らないハイヴ攻略方法の確立は非常に都合が悪い内容だったりする。それは地図を見れば解るだろう。現在地球には17のハイヴが存在する。そしてその全てはユーラシア大陸を中心として欧州、インド亜大陸、アラビア半島に集中しているのだ。これが何を意味するのか。その答えは簡単で、仮に強力な環境汚染や、攻略時に大量のG元素を消費しない戦術でハイヴが落とされた場合、G元素と言う戦略物資の確保で合衆国を含む現在の人類を支えている経済圏は大きく遅れを取ることになってしまう。故にG元素が国連の名の下に共同管理扱いとなっている今の内に使い切ってしまう、あるいは残っていたとしても採取困難な状況に持ち込みたいと言うのがG弾推進派の狙いだ。捕らぬ狸の何とやらではあるが、現地球の主要経済圏全てがそちら側という状況を考慮するとその行動力は軽視出来ない。金を持っている連中の既得権益を侵そうとする者に対する彼らの行動は排除以外存在しないからだ。

 

「むしろ今が最大の好機でしょう。他ならぬ貴方達のおかげでね」

 

鎧衣氏の愉快げな言葉を聞いて俺は納得する。成程、実用化にこぎ着けてはいるもののG弾は未だ実戦での使用実績は無い。そして俺が持ち込んだ技術はどれもG元素に依存しないものばかりだ。これらの技術でG元素由来の技術に対抗可能ならば資源価値は大きく下がる。その上でHI-MAERF計画機を実戦投入出来たなら、大戦終結までに国連が共同管理するG元素の多くを米国が確保出来るだろう。そうなれば例え国内にハイヴが無くとも各国に先んじて技術開発が可能であるし、何よりも宇宙開発競争で既に一歩抜きん出ている合衆国は同機を使って地球外のハイヴからG元素を確保しても良いのだ。

 

「そうなると戦後は合衆国の一人勝ちですね」

 

俺が試すようにそう口にすると、鎧衣氏は苦笑を浮かべつつ応じた。

 

「あくまで独り言ですが我が国に世界の盟主を気取る器は無いでしょう。ならば精々勝ち馬に恩を売り、その後の立場を固めた方が賢明だ。尤も、貴方達が協力して下されば話は別でしょうが」

 

「過分な評価を頂き恐縮ですが、我々のような一企業には大きすぎる話ですね」

 

俺の言葉に鎧衣氏は大して気落ちした風も無く肩を竦めた。

 

「それは誠に残念です。それで本件は承諾頂けたと考えて宜しいのですかな?」

 

その質問に頷きかけて俺は少し考える。技術支援でHI-MAERF計画を再開させる、これは良い。だが問題は本当にそれだけでG弾推進派を止めきれるかだ。

 

「…ちょっと、弱いか?」

 

「は?」

 

HI-MAERF計画機の特徴はムアコック・レヒテ機関というG元素を用いた抗重力機関、要するに重力制御装置を使っている事だ。こいつから発生するラザフォード場と呼ばれる重力場で機体の制御を行いつつあらゆる攻撃をほぼ完全に無効化、力場形成時に発生する大量の電力を兵器の稼働に転用。ガンダムも真っ青の火力を誇る荷電粒子砲をぶっ放すという、どこぞの怪獣王のように硬くて強いを地で行く奴なのだ。

ここで重要なのはこいつの動力源であるML機関だ。このML機関とG弾は原子炉と原子爆弾の関係と同じと言える。どちらも反応を制御した場合は動力源であり、制御を放棄すると爆弾になる。そして制御しない方が遥かに簡単でコストも安いと言う点も同様だ。

その上で重要となるのが前述したラザフォード場に対抗する最も簡単な方法が、同じくラザフォード場をぶつけて相殺するという手段なのだ。つまりHI-MAERF計画機を運用出来ない国家にとって、合衆国の機体を止めるにはG弾という選択肢しか残されていないのである。故に現状のまま戦後を迎えたら、各国は復興もそっちのけでG弾の開発に邁進したうえにデイアフターな世界に突き進む可能性が極めて高い。この場合G弾がぶち込まれるのはBETAではなく合衆国になるだろうが。最悪現在の人口であれば宇宙への移民も不可能では無いがそれは後ろ向きすぎるだろう。どうせなら前向きに倒れたいのが人情である。

 

「ルクレツィア」

 

俺の言葉に反応し、後ろに控えていた彼女は一度恭しくお辞儀をした後部屋を出て行く。置いてけぼりを喰らって素の表情を見せるという珍しい鎧衣氏を肴に暫し待つと、少々大きめのノートPCを持って彼女が戻ってきた。受け取って中身を確認し、考えていた通りの情報が入っている事に満足しつつ笑顔でそれを鎧衣氏へと押しつけた。

 

「これは?」

 

「我が社で開発しました荷電粒子砲、うちではメガ粒子砲と呼んでいますがね。それの設計図と、G弾の同時運用に関するシミュレーションデータです」

 

唐突に渡された爆弾に鎧衣氏が固まる。いいね、実にチート主人公ムーヴじゃないか。

 

「宜しければ参考にでも。ああ、シミュレーション結果はかなり正確だと自負していますから、ご友人方にも是非見て頂いて下さい」

 

これでもまだ使うと決断したら仕方がない。その時は悪いが物理的に排除させて貰う。

 

「これは、本当なのですか?」

 

シミュレーションの画面を見つつ顔を強張らせる鎧衣氏に俺は平然と言い放つ。

 

「あくまでシミュレーションです。ですが、我々はこの世界で最も進んだ科学力を持った集団だという事は頭の片隅にでも置いておいてください」

 

彼は黙って画面を見続けていた。




凄腕さんについて
鎧衣氏が見せられない場所以前に捕獲可能であるように、実際には敷地内に入った時点で人間程度ならば即座に捕獲可能である。しかしながら敵対的な勢力に優秀な諜報員が存在すると言う事は、間接的な被害(ルクレツィアの管理外である提携企業や協力組織、あるいは敵対的な組織の構築など)を受けるリスクが高まる。このため敵対的かつ一定以上の技量を持つ人材は積極的に間引かれている。警備体制の不備と説明しているため、主人公は悲しい出来事と諦めている。

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