チート転生テンプレもの   作:Reppu

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1995年11月。地中海全域に広がる欧州南部の戦線は非常に落ち着いていた。同年9月に行われた日本帝国の大規模な難民移送に伴って展開された艦隊の一部が海域維持の為に残留したからだ。この艦隊は戦力もさることながら、その維持を完全に自己完結していた事も大きい。どころか難民移送の為に再度船団が到着する度に大量の物資と弾薬が齎され、アラビア半島に展開する聖戦連合軍に至ってはかなりのお裾分けを受けている。

 

「おかげでこっちはイベリアに集中できるのだけど」

 

モニカ・ジアコーザ中尉は飛行甲板から眼前に広がるバレアス海を眺めていた。欧州連合の技術実証機実戦運用部隊、レインダンサーズがマヨルカ島を根拠地として動き回らずに出撃を繰り返すようになって一月程が経過した。転戦を続けていた以前に比べれば状況は好転していると言える。投入される戦地が常に同じであることは、地形把握において有利であるし、休息を揺れない大地で行えるのは有り難い。だが彼女の中に言いようのない感傷が生まれたのも事実だった。

 

「バレアレス海の景色も悪くないが、地中海がやはり恋しいかな?中尉」

 

そう言って部隊長のヒュー・ウィンストン大尉がモニカへマグカップを差し出してきた。そこからは潮風に負けずに芳醇な香りが漂っていた。

 

「最近危惧している事がある。今月一杯で日本帝国の難民移送が完了するそうだ」

 

そう言うと大尉はマグカップの中身を旨そうに啜った。

 

「つまりこの贅沢な暮らしとも今月でおさらばと言う事だ。靴下の煮汁を再び舌が受け付けてくれるか不安で仕方がない」

 

靴下の煮汁とは、合成食品であるコーヒーモドキをアメリカンで煎れるという最低の汁物の蔑称だ。信じられない事に欧州方面軍の前線では慰安用の嗜好品として供給されている。

 

「随分と贅沢に慣れてしまいましたね」

 

同じように渡されたコーヒーを啜りながらモニカは力なく笑った。彼らが飲んでいる本物の、それもイタリア人が煎れたコーヒーは掛け値無しに旨い。最初に支給された時には同僚のパブロ少尉が思わず涙ぐんだ程だ。だがその旨さが寧ろ今の彼女を苛んでいた。

 

「物資に戦力、今のこの海は日本帝国におんぶに抱っこですね」

 

一月程前に増援として現れた日本帝国のF-4J2はモニカのプライドをへし折った。レインダンサーズはその名の通り欧州連合が開発した最新の戦術機である技術実証試験機“タイフーン”を実戦運用を通してブラッシュアップする事を目的とした部隊だ。近接格闘を主眼に設計された本機は前線の要望に応えた正しく欧州を奪還するために生み出された機体である。彼女がこの機体で戦場を駆けるようになって1年近くが経つが、その間確かな手応えを感じていたのだ。あのF-4J2が現れるまで。

 

「否定は出来んな。連中が居なければ俺達はシチリアかジブラルタルのどちらかを失っていたかもしれないし、それを防ぐためにとんでもない代償を払っていたかもしれない」

 

シチリア島からアフリカ大陸までの距離は140キロ、ジブラルタルに至ってはたったの14キロだ。イベリア半島の半分が既に均され、南端部までBETAが姿を現わしつつある現状はアフリカ大陸の生産能力を生命線に大陸沿岸の島嶼部で間引きを続ける欧州各国にとって悪夢というべき現実であったし、アラビア半島への海路と言う兵站線を喪失する事は、事実上スエズの陥落を意味していた。否、筈だった。

 

「解っているんです、ただの感傷だなんて事は。でもっ」

 

戦場におけるF-4J2の働きは正に圧倒的という言葉に尽きた。あの機体の文字通りの格闘戦に比べれば、タイフーンのそれは子供騙しにすら見える。それはまるで自分達の努力、命がけの行動が全否定されたような感覚をモニカに与えた。無論それが嫉妬による見当違いな恨み言である事を頭では理解している。しかしそれに感情が追いつくかは別問題だった。

 

「隊長は悔しくありませんか?」

 

「悔しいに決まってるだろう?我が国の開発者は何をしていたんだと文句だって言いたい。けれどそんな事はこれまでだって有ったし、これからもある事だろう?」

 

言葉の意味が解らず聞き返そうとした矢先に警報が鳴り響く。

 

『前線司令部より緊急出撃要請、総員即時発艦態勢にて待機せよ!繰り返す―』

 

「クソッ、中尉を口説こうとすると毎度これだ!タイミングを考えろ異星人共。中隊各員、警報は聞いたな?総員機内にて待機、ブリーフィングは着座後に行う!」

 

通信と肉声の両方でヒュー大尉の声を聞きながらモニカは自機へと走る。有り難い事に停泊する余裕を得た事で常に機体は即応待機状態におかれているので、乗り込むだけで準備が整う。網膜投影システムが起動し視界が開けた瞬間、遠方に編隊を組み半島へと向かう機影を見つけた。

 

『インペリアルネイビーのレイヴンか』

 

『相変わらず早いね、しかもあの低高度。羨ましいよ』

 

『私はあのノワキがいいわね。同じ第一世代改修機だってのにトーネードの遅さと来たらないったら』

 

隊の機体が次々と起ち上がり通信がにわかに活気づく。

 

『淑女並びにどうでもいい男諸君。仕事の時間だ、私語を慎め。マドリード近郊を徘徊していた一団が南下を始めた。我々はムルシアに上陸後連中の側面を突く。各機出撃!』

 

出撃の号令と共に8機のタイフーンと4機のトーネードが次々と空へ舞い上がる。現在彼らが居るパルマからムルシアまでは350キロ、凡そ一時間程の距離だ。飛行を開始して暫くすると、後方から追いついてくる機影があった。

 

『こちらは日本帝国海軍所属第254戦隊第1中隊、海口正勝大尉だ。HQより支援要請を受けた。貴隊を援護する』

 

「ユーロファイタス国連派遣部隊ヒュー・ウィンストン大尉だ。支援感謝する」

 

ヒュー大尉が感謝の言葉を述べると、インペリアルネイビーの野分が12機レインダンサーズの後ろに付く。どの機体も一目で解る重装備だがその動きはタイフーンと互角か、それ以上にも見える。暫し無言の飛行が続くが、陸地が見えた時点で日本帝国軍機が加速する。

 

「おい!」

 

その速度は素晴らしく、見る間にタイフーンすら置き去りにされる。レインダンサーズの面々が到着した時には、僅かに見えていたBETAは全て処理されていた。

 

『光線級は確認出来ず。すまない、余計な事をした』

 

「いや、市街地に潜伏している可能性を考慮するべきだった。だが出来れば一言いってくれると助かる」

 

『了解した』

 

その後は目的地まで匍匐飛行での移動という事になったのだが、その道中は極めて順調だった。何しろ目に付くBETAは前衛を申し出た日本帝国軍機に瞬く間に処理されてしまうからだ。

 

『こちらの機体の方がレーザー蒸散塗膜の性能が高い。壁役には適任だろう』

 

それは厳然たる事実だった。レインダンサーズの機体にも日本帝国から供与された同様の塗料が使われているが、設備の問題からその性能はカタログスペックの40%程度に落ちている。それでも光線級の射撃に複数回耐えられるのだから、既存のものと比べれば雲泥の差だ。

 

『お姫様気分ね、退屈で欠伸が出そう』

 

隊内通信でそうぼやいたのはトーネードを駆るナディア・マンツェル少尉だ。現戦力の中で最も運動性の劣る彼女らは部隊の真ん中で厳重に守られている。そしてこの状況を良しとするような連中は衛士には向いていない。

 

『紳士の顔を立ててやるのも淑女の務めだぞ、ナディア』

 

ヒュー大尉が笑いながら窘めるが、モニカもまたナディアと同じ気持ちだった。成程、彼らの行動は理に適っている。しかしこれでは自分達はお荷物だと言われているのと同義ではないか。

 

『丘陵地帯を抜けるぞ、高度に注意!肌を焼きたかったら帰ってビーチで焼け!』

 

『嘘でしょ!?』

 

ヒュー大尉の警告と共に機体が丘陵を越え、平野部に飛び出した瞬間見えた光景にレイチェル・ナイトレイ少尉が叫んだ。

 

『畜生!HQの奴らっ!何が一団だ!?旅団規模の浸透じゃないか!』

 

『途中の集団が合流したのか!?レインダンサーズよりHQ!当該のBETA群は旅団規模に拡大中!至急増援を!』

 

珍しく焦った声でHQへと確認を行うヒュー大尉に気を取られていると、日本帝国軍機から通信が入る。

 

『不味いぞ、連中こちらに気付いたようだ。一度後退するか?』

 

「駄目!」

 

その問いにモニカは反射的に叫んでしまう。小規模だが頻繁にBETAが侵入してくるイベリア南部は十分な防御陣地が築けていない。この規模のBETAであればジブラルタル要塞は落ちないだろうが、不味いのは要塞を無視して南下する個体が相当数発生する事だ。海峡を挟んで支援砲撃を行うため、ジブラルタル南のアフリカ北部沿岸には海岸ギリギリまで砲兵陣地が構築されている。

 

「ここで引いたら海峡の砲兵陣地に確実に被害が出る!要塞で抑えきれる数まで減らさないと!」

 

『との事だが、ウィンストン大尉。貴隊の総意と受け取って構わないか?』

 

冷静に聞き返してくるあちらの隊長にヒュー大尉は一瞬言葉をつまらせるが、一呼吸した後いつもの調子で口を開いた。

 

『ああ、ウチのじゃじゃ馬がすまんね。だが我が隊の総意と受け取って貰って構わない。そちらはどうする?』

 

そう問えば、今までの何処か抑揚の無い口調が嘘のように海口大尉は獰猛に笑いながら答えた。

 

『そちらがやるというなら是非もない』

 

『良い返事だ、では行こう!』

 

その言葉でそれぞれの機体が素早く動き出す。だが先ほどまでとは明確に行動が異なっている事にモニカは気付く。

 

(こっちに張り付いている機体が無い?)

 

日本帝国軍機はそれぞれが小隊規模で固まりBETA群へと突入していく。それはつまりこちらを護衛するような意図はないと言う事だ。だが却ってそのほうがモニカには好印象だった。何故ならモニカは衛士なのだ。戦士であって、断じて庇護を求め守られるだけの存在では無い。

 

『C小隊、前方D個体群にかましてやれ!』

 

『『了解!』』

 

ヒュー大尉の指示の下4機のトーネードが纏まって突っ込んでくる突撃級へ向けて誘導弾を吐き出す。垂直に打ち上がったそれは、機体からのレーダー誘導に従い目標へと襲いかかる。音速で飛翔したそれは着弾と共に目標を速やかに肉片へと変えた。だが仕留め切るには些か火力が足りなかった。

 

『っフラットシザース!』

 

かけ声と共に部隊が左右に分かれ突撃級をやり過ごす。突進速度こそそれなりに高速だが旋回性能に劣る突撃級はその動きに追随出来ず、無防備な背をこちらへと晒す。

 

「喰らえ!」

 

手にした突撃砲から36ミリ弾が吐き出され次々と突撃級を屠っていく。自らが無力で無い事を証明するようにレインダンサーズの面々はBETAを屠り続けるが、少しずつ、しかし確実に綻びが広がっていく。

 

(数、数が減らない!?)

 

無論旅団規模のBETAと言うものはたかだか戦術機2個中隊で殲滅できる程容易な相手ではない。だとしても周囲の死骸からすればかなりのハイペースで減らしているはずだ。事実突撃前衛であるモニカは既に弾薬の殆どを使い切っており、残すのは耐久限界間近の長刀と36ミリが1マガジンだけだった。しかし事態は更に悪化する。

 

『HQよりレインダンサーズ。当該区域に更なる増援を確認した。光線級属種を含む有力な集団が南進中、注意されたし』

 

『巫山戯るな!増援は!?』

 

あまり聞かないヒュー大尉の怒声が状況の深刻さを伝えてくる。しかしモニカも同様の気持ちだった。既に弾薬は尽きかけているというのにBETAの圧は一向に減る様子を見せない。この上光線級が加われば許容量を超える事は火を見るより明らかだった。

 

『現在支援部隊を編成中、暫し戦線を維持されたし』

 

無情な指示が出た瞬間、中隊全体へと秘匿回線が繋げられる。送ってきたのは海口大尉だった。

 

『突然済まない。現状が芳しくない事は全員の共通認識だと思うがどうだろうか?』

 

『ああ、全く同感だね。あの石頭共は俺達をスパルタンか何かと勘違いしているらしい』

 

『貴官らの奮戦具合からその意見には同意したいが、残念ながら弾薬も推進剤も有限だ。そこで奥の手を使いたいのだが、見て見ぬ振りをして貰えると大変助かる』

 

『ほう!この魔女ばあさんの釜をひっくり返してくれるのか?大歓迎だ幾らでも目を瞑ろう!』

 

『協力感謝する』

 

秘匿回線が切れると同時に離れた位置に居たノワキから照明弾が打ち上げられる。意味が判らずレインダンサーズは戦い続けたが、変化は直ぐに訪れた。

 

「BETAの流れが変った?」

 

遂に突撃砲を撃ちきり長刀のみで戦っていたモニカは周囲のBETAの密度が減っている事に気付いた。慎重に視線を動かせば、それまで南進していたBETAが東へ向けて進路を変えている事に気がついた。

 

『一体何が?』

 

ヒュー大尉が疑問を口にした次の瞬間、答えが目の前へと躍り出る。

 

『レイヴン!?』

 

『なんて数っ!』

 

稜線の向こうから100に届こうかという数のレイヴン、日本帝国軍が補助戦力と言って持ち込んでいた攻撃機が姿を現わす。どの機体も派手に砲弾をばらまきつつ、襲いかかってくるBETAを次々とひき殺しながら、BETAの津波を引き裂いていく。その様子は普段見せる一撃離脱に徹した賢しい鴉の姿では無く、歩兵陣地を正面から食い破る重騎士の突撃だった。しかし彼女達を驚愕させたのはもっと別の事だった。レイヴンから発射される誘導弾が光線級に迎撃されたかと思った瞬間、日本帝国軍のF-4J2が躊躇わず飛翔し、レーザーを浴びながら光線級吶喊を行ったのである。しかも連続して発せられる爆発の度に誘導弾への迎撃が減少している事実が、攻撃の成功を語っていた。

 

『マジかよ…』

 

呆然とパブロ少尉の呟く。HQから再び通信が入り味方増援が出撃したのは、BETAが狩り尽くされた後の事だった。




作者の自慰設定

95式支援攻撃機:鍾馗 通称:レイヴン
ハニトラ娘3人によって共同開発された支援兵器。ヘリの代替と聞いたが別のものも取って代わってしまって構わんのだろう?という良く解らないノリで設計されている。構造材並びにレーザー蒸散塗膜はF-4J2と同様であるが、AC系技術の導入により各パーツをコンポーネント化する事で汎用性と整備性を両立させている。制御系には現行戦術機程度のコンピューターが用いられており、カンパニー基準では質素なものになっている。またマニピュレーターや補助腕、兵装担架といった複雑な構造を全て廃しているため戦術機に比べ安価で生産性が高い。一方常に浮遊している性質上反動の大きい火砲とは相性が悪く、戦術機に比べ運動性で劣る。加えて運が悪くは無い限り破損こそしないが要撃級以上の大型種を体当たりで殺傷する事は難しい。この性質はハイヴ攻略において著しく性能を制限される事を意味しており、本機があくまで平野部における露払い並びに補助戦力という意図で設計されていることが窺える。
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