ファントムはいいぞ。私はイーグルに乗ってますが()
「いやあ、改めて直視するとこう、やっちゃった感が酷いね」
組み上げられた機体達を見ながら、我慢出来ず俺はそうルクレツィアに話し掛けた。
「完全なオリジナルは設計から運用までが長期化する事は明白です。実績のある母体が存在するならば積極的に転用すべきです」
「まあ、そうなんだけど」
最終工程の塗装を終えて駐機用のハンガーへ移動していく機体は、どれも俺の目には見慣れた機体だった。
「ウチの主力機はFAZZに更新、んでソ連に送るのはヤクト・ドーガと。いやあ、アナハイムエレクトロニクス様々だね」
外見は似ても似つかないこの2機であるが、内部構造、と言うより構成している部品単位で見るとかなりの部分に共通品が使われている。それはある意味当然で、この2機は同じ会社で設計、製造されているからだ。スポンサーや運用目的が違うので流石に全部一緒とは行かないが、それでも30%程度は同じ部品を使っている。
「FAZZの方はジェネレーターの高出力化に制御システムの更新、構造材の変更と推進器の変更。ダミーだった腹部ハイメガキャノンの実用化と胸部ミサイルのオミット、それから脚部推進器の増設に腕部ミサイルをビームガンへ変更。うん、これもう元はFAZZだった何かだな」
残ってるのは外観と特徴的な手持ちのハイパーメガキャノンくらいのものだ。それにしたって搭載しているジェネレーターを更新しているから一緒なのはガワだけだ。
「構造材料の変更によりベースとなりました機体の問題点は解決済みです。また頭部のダミーであったハイメガキャノンをセンサーへ変更、対BETA戦に最適化しました。推進器はミノフスキードライブに変更、推力は200%増となっています」
うん、ホントなんだこれ。
「肩のミサイルと背中のビームキャノンは取らなかったんだ?」
「ハイヴ内戦闘において頭上よりの奇襲が多数報告されていますので」
成程、納得です。
「左腕のミサイルはビームガン兼サーベルに変更か。まあ砲戦主体だしね」
「近接戦闘はサイドスカートに追加しましたビームガンにて行う事を想定しています」
言われて視線を送ると、確かに元の機体とサイドスカートの形状が違っていた。けれどSガンダムやゼータプラスのようなやつではなくて何というか短砲身の円筒型の砲塔みたいなのがくっついている。
「速射性と射角、また運用時の干渉低減から選定致しました」
まあ、BETAはMSみたいに耐ビームコーティングも金属製の装甲も持っていないしね。
「うん、良いんじゃない?もうアリス達には送っているの?」
「設計データはインダストリアル1へ送信済み、実機も現在6機が完成しています。2日後には調達を完了し実戦運用試験を開始します」
因みに今まで使っていた機体はばらして資源として再利用している。
「そろそろコロニーへも補給がいるかな」
「現在初期備蓄の23%を消費しています。現在の消費量ならば残り322日で全物資が枯渇します。100日以内に追加の物資を購入、あるいは地上より補給する事を推奨します」
「早く月を確保したいね」
何せ宇宙には資源地帯なんて無いからな。月が無理だと最寄りでアステロイドベルトとか効率が悪すぎる。
「それから、ヤクト・ドーガは、うん?あんまり弄ってないんだ?」
脚部のロケットエンジンを熱核ジェットホバーに変更しているのと、ファンネルラックを汎用のハードポイントに変更、肩装甲の背面側とバックパックに兵装担架を追加しているけれど、それ以外は概ね元の機体のままだ。むしろ装甲なんかは超硬スチールに変更されているからダウングレードされていると言っても過言ではない。
「ガンダリウム系合金では販売先にて損傷した場合修復出来ません。またあくまで本機はサイコフレームによる感応増幅が主眼に置かれた機体ですので過度の武装は不要と判断しました」
「…信用出来なそう?」
「サンダーク中尉個人はともかく、上位の命令系統は信用に値しません。そして任務に忠実な彼は軍人としてみた場合、信用出来ません」
党中央に統制されていない地方派閥の計画だから命令次第では敵対も十分ありうる。その場合において攻撃対象が俺達ならばともかく、他国だったら止める術が無くなってしまうのは避けたい。頼むから仲良くやってくれないかなぁ。
「超兵生産計画においても催眠処置内に我々への攻撃パターンが組み込まれています。最低でも上位命令系統との関係切り離しが必要です」
「解った。完成後の個体については脳洗浄処理をお願い。ああそうだ、例の爆弾については?」
結局反乱などのリスクを盾に自壊機能の削除は拒絶された。いや、反乱されんような運用しろよと言いたいが、権力欲に取り付かれた彼らからすればどんな滅茶苦茶な命令でも実行してくれる強力な兵士が必要なんだろう。まあ知ったこっちゃないが。
「遺伝情報は書き換え済みです」
安心してくれ。俺達と仲良くしている内は良い思いが出来るさ。けど障害になるならこの兵士生産システムは俺達が有効に活用してやるから、ゆっくりしてくれていい。共産主義者は無神論者らしいから良い検証ができるだろう。あんまりしたくないけど。
「ヤクト・ドーガは、取敢えず検証用として3機。出来次第ナホトカ行きだね」
既にサイコフレームがESP発現体の能力を増幅することは確認済みだ。問題はこれがプラーフカとやらに何処まで影響を与えるかと言う事だ。
「未来視によって最善の行動を選択し続ける、ねえ?」
自身の思考をイメージとして他者に伝えるプロジェクションという能力と、他者の思考をイメージとして、感情を色として読み取れるリーディングという二つの能力を相互に使用する事で空間における未来から流れてくる負の情報を受け取り、結果として最善の未来を擬似的に選べる状況を作り出せるらしい。多分ニュータイプの時が見える発言的なアレなんだろう。更にそれを集団で共有する事で擬似的に無敵の部隊を作り出そうと言うのがП-3計画の目的らしい。だがこれ、結構問題がある。一つ目はESP能力の要求値が高いこと。このせいでプロジェクション能力者は幼体固定という人格形成を阻害する処置がされるし、余計な感情がノイズとなってしまうリーディング能力者はロボトミーも真っ青な外科的処理により感情を抑制されるだけでなく、文字通り機体の制御コアとして不要な部分はそぎ落とされて機体に繋がれる事になる。最小で最大の効果を狙ってるんだろうが、これ絶対失敗する未来は覆せん訳だから、結局のところ理想としているような少数でのハイヴ攻略なんてのは絵に描いた餅に過ぎない。その上高負荷の機体運動に耐えるために脳みそだけ取り出して生命維持装置なんかで強引に生かそうなんてすれば、機材としての寿命も1~2年が限度だろう。はっきり言って効率が悪すぎる。
「やっぱりちゃんとパーフェクトソルジャーを造ろうか」
そう俺が言うとルクレツィアが恭しく頷いた。人工子宮も培養装置もハッキング済みだからな。彼女達には是非健やかに人類最強の衛士に育って頂こう。そんなことを考えながらHLVを何機か購入し、地下の建造ドックへ呼び出す。
「取敢えず10基用意したから資材を詰めて打ち上げようか。回収後は合衆国に供与しちゃって」
返事はまだ貰ってないけれど手付金とでも言って送ってしまおう。ただで貰えるなら向こうも文句を言うまい。要らないって言われてもそれはそれで使い道があるから困らないし。
「ソ連と合衆国はこんな所かな?後は東南アジアか」
先月末、ビルマ領マンダレーにハイヴの建設が始まってしまった。俺の知るスケジュールとほぼ変らないから何故かと思ったら、俺達が間引いた分インド方面の国連軍がサボったらしくBETAの個体数が予定より減少していなかったためだ。史実よりインド方面軍の人的被害が出て居ないので許容範囲と思うことにする。でも折角だからこの機会は利用させて貰おうと考えている。
「国連からの回答は何だって?」
「準備不足を理由に難色を示しています。東南アジア各国は歓迎していますが、戦力の供出は期待出来ません」
あそこらへんは金がないしなぁ。
「問題は参加戦力の不足?」
「インド亜大陸反攻作戦の失敗から国連は及び腰です」
「フェイズ4のハイヴと造り掛けを比べてどうするんだよ」
面倒くせぇ。いいやもう。
「承認しないなら地中海に展開している部隊を航路確保の為にアダマン海へ転進させると伝えて。それから今後の資源供給の不足を鑑みて国連軍への機体供給も絞らせてもらうとも」
別に嫌なら手伝ってくれなくて良いからこっちの邪魔はしないで欲しいなぁ。
合衆国ニューヨークにあるそのビルの一室は緊張に包まれていた。居並ぶ男達の表情は一様に渋面であり、既に季節は冬になろうとしているのに、頻りに額の汗を拭き取っている者も居る。
「それで、日本帝国はなんと?」
最も上座に座った男、議長がそう口にした。交渉役である男は声が震えるのを抑える事が出来ないまま、相手の回答を告げた。
「承認が得られないならばシーレーン維持の為に地中海の戦力を東南アジアまで下げるそうだ。資源供給量の低下も懸念されるから国連軍への装備供給に関しても絞ると」
「我々を脅迫するつもりか!」
忌々しげに怒鳴りながら交渉役の対面に座ったインド亜大陸担当の男が机を叩く。
「仕方あるまい。現に我々は彼らに大きく依存している。それは厳然とした事実だ」
その横で鼻を鳴らしたのは北アフリカ担当だった。彼は現在の地中海が日本帝国抜きでは維持すら覚束ない事を十分に理解している。特に陸上戦艦の価値は何物にも代えがたく、あれが姿を消せば再び戦線はスエズまで押し込まれるだろう。そうなった時にアラブ諸国とアフリカ諸国が国連に対しどのような評価を下すかは想像すらしたくない。
「協力の必要は無いと言っているのですし、いっそやらせては。少なくとも間引きにはなるでしょう?」
ハイヴの成長速度は一定ではない。5年程かけて1フェイズ程度の場合もあれば、ボパールのように僅か1年で2フェイズ以上進む場合もある。ハイヴが若い程攻略が容易であることは間違いが無いし、たとえ失敗してもBETAの個体数が減れば成長速度は鈍化する。それ故の発言であったがその意見に議長は首を振る。
「我々の採択を問うている時点で失敗すればその責任は我々のものになる。それでいて単独での攻略が成功すれば戦果は彼らだけのものだ。どちらに転んでも我々の立場は悪くなる」
今日までに実施した国連軍主導の反攻作戦は悉く失敗に終わっている。この状況下でもしも一国によるハイヴ攻略などが実現したなら国連の権威失墜は確実であり、そうなればバンクーバー協定を批准する国家は居なくなる。その先に待つのは統制を欠いた戦闘による人類の消耗である事は明らかだ。
「妥協点を見いだすべきでしょう。どの道ここで承認せずにハイヴの成長を見過ごせば我々の傷になる。最悪彼らが暴発すれば、それこそバンクーバー協定は形骸化します」
「致し方、あるまいな」
大きく溜息を吐き、議長は決断を下した。
試製95式戦術機(FAZZ)
カンパニーがF-4J2のノウハウを元に製造した新型戦術機。第一世代から続いていた戦術機の概念から完全に逸脱した機体であるため、同機を新第一世代と呼称する向きもある。駆動方式にモーターを採用する事でF-4J2に見られたエネルギー変換ロスが緩和されると共に高い反応性を獲得している。
本機の特徴はなんと言っても実用化された小型核融合炉である。既存の燃料電池やガスタービンでは足元にも及ばない大出力を獲得した本機は、戦術機として初めて荷電粒子砲(カンパニー商標:メガ粒子砲)を装備している。これによりハイヴ攻略における最大のボトルネックであった兵站線の維持が大幅に緩和されることは明白であり、戦術機によるハイヴ攻略を命題としているユーラシア各国から高い期待を寄せられている。