チート転生テンプレもの   作:Reppu

26 / 60
26

強い風に煽られながら、粛々と艦隊は進む。高気圧に覆われた12月のベンガル湾は天気は良いが波は高い。青い顔をしている国連軍の少将に対してカンパニーの代表を名乗る男は気を利かせた風を装い話し掛けてきた。

 

「お加減が悪い様でしたら、自室でお休みになられては?」

 

解って言っているだろう。そう飛び出しかけた言葉を無理矢理呑み込むと、精一杯の作り笑いを浮かべて少将は答える。

 

「いえ、心配無用です。それ程揺れも酷くありませんからな」

 

主力艦17隻、戦術機揚陸艦54隻、攻撃機揚陸艦44隻という聞いた事も無いような大艦隊を目の前にして平静で居ろと言う方が難しい。その動員数は欧州で実施されたハイヴ攻略作戦であるパレオロゴス作戦に劣るもののその内訳は遥かに強力だ。彼は自分がここに立つ事になった経緯を改めて思い返す。

 

「作戦そのものは特に目新しい事はありません。典型的な包囲殲滅です」

 

“金床作戦”と銘打たれた資料と共に現れた女性は国連軍の御偉方相手に平然とそう言い切った。事実着任前に確認した作戦計画概要は極めて凡庸で作戦立案に携わったことがある者ならば誰にでも思いつけるという印象だった。問題は誰もが思いついても実行に移せないような内容であると言う事だが。

 

「本作戦は仮称H17の攻略を目的として4つの軍による包囲殲滅を行います。ベトナム領ハノイより西進、重慶との連絡を遮断する第三軍。旧バングラデシュ領チッタゴンより東進しボパールとの連絡を遮断する第二軍。そしてH17を直接打撃する第一軍と軌道爆撃並びに補給物資投下による支援を行う航宙艦隊です」

 

言葉程簡単な事ではないと説明を受けた誰もが顔を顰めた。BETAが人類の戦術を学習することはこれまでの研究で判明している。そして自身の所属するハイヴへ帰還が困難な場合において別のハイヴへ移動する事も確認済みだ。つまりハイヴ攻略の前提条件として、攻略の際に使用した戦術が露見しないためにはBETAを一匹たりとも逃がすわけには行かず、学習されて対応される前に攻略しきる必要がある。その時間はこれまでの観測から最短で14日、最長で19日である。前例こそあるものの、欧州で実施されたパレオロゴス作戦は散々な結果に終わっている。その理由の一つが動員できる兵力による包囲網の構築速度だ。基本として戦車を中核とした機甲戦力によって実行されるが、包囲網を構築しきるだけの機甲戦力を人類が保有していないため、補填として自動車化された歩兵及び野砲が投入された。当然これらの機動力は機甲戦力に劣るため構築速度が鈍化、最終的に包囲環が完成するまでに2ヶ月を要し、その間に各国の軍主力は30%近い損失を被った。当然その様な状況でハイヴを陥落せしめるだけの体力が残っているはずも無く、突入し内部データを持ち帰るという実績のみを残して作戦自体は失敗した。勿論この結果は戦訓として人類全体に共有されているはずなのだが。

 

「包囲における最大の課題は如何に素早く包囲環を完成させるかです。その点において機動力に劣る歩兵、野砲の存在は足かせに他なりません。当然これは先鋒である機甲部隊にも適用されます。その為本作戦では現有戦力において最も速度に優越した部隊として戦術機部隊による包囲を実施します」

 

何を馬鹿な。口にはしないものの聞いた誰もがそう内心で呟いた。成程理屈は正しい。確かに速度と殲滅力を兼ね備える兵科は戦術機しかないだろう。だがその包囲環を完成させるのに一体何機の戦術機が必要になると思うのか。そもそも機動力と瞬間火力に優れる一方で戦術機は足を止めて守るという戦い方に対し致命的に向いていない。特に継戦能力の低さは如何ともし難く、防衛線では頻繁な補給のために常に予備を同程度確保する事が強いられる。つまり戦術機だけで戦線を構築しようと考えるならば、最低でも倍の数を用意しなければならないという事だ。そんな生産能力が人類にあったならユーラシアから蹴り出されるなどという屈辱を受けていない。

 

「とは申しますものの、遺憾ながら我々にも無限の生産能力があるわけではありません。そこで補助戦力として戦術機に随伴可能なカンパニー製攻撃機“鍾馗”を投入致します」

 

その言葉で欧州担当の国連軍指揮官は唸った。地中海及びイタリア半島における同機の活躍を大量の報告書と配備嘆願から彼は良く知っていたからだ。生産性に優れるとも聞いているし、もしかすれば自分達が想像しているよりもずっとマシな陣容が整えられるのでは。そう考えた彼は少しだけこの案に興味を示し、質問を投げかけた。

 

「成程、あの機体が高い性能を持っていると言うのは報告を受けている。具体的にはどの程度投入するおつもりか?」

 

「現在予定しております数は19個師団です」

 

「…は?」

 

事も無げに口にされた数に会議室が一瞬しんと静まりかえる。だが特に気にした風も無く日本帝国の代表としてやってきた彼女は言葉を続ける。

 

「こちらは主に戦術機が展開した間を埋める事を想定しています」

 

「待て待てっ!19個師団!?」

 

思わずと言った表情で声を上げた議長に対し、彼女は不思議そうに首を傾げる。

 

「お渡ししました資料に投入戦力については記載済みですが」

 

その言葉に、今まで机のインテリアと化していた作戦計画概要を全員が慌てて捲り始める。そしてそこに書かれた数字に慄然とする。

 

「戦術機10個師団?」

 

「F-4J2にて完全充足しました師団を投入致します。こちらは改良モデルのFAT装備に換装した機体となっており、戦地での弾薬補給問題を解消しています」

 

さらりと投げ込まれた爆弾に再び沈黙が訪れる。F-4J2で完全充足した師団。その価値が解らない人間はこの場にいない。それも例のFATとか言う重装備状態だと宣う。しかもそれが10個師団。成程そんなものがあればこの強気も頷ける。

 

「すまない、この師団の構成を伺っても良いだろうか?」

 

恐る恐ると言う風情でそう切り出したのはロシア担当の指揮官だった。師団は一般的に2個連隊、216機で構成される。しかしそれはあくまで通例であり、厳密に定義されているわけでは無い。例えば余裕のある合衆国では師団長直轄として更に1個中隊12機が付くし、逆に戦力が慢性的に不足している東南アジア諸国では1個連隊に1個大隊規模の戦力を追加した増強連隊というような規模で師団を名乗らせている。二次大戦の例まで挙げさせてもらえば、戦力が払底したドイツ機甲師団は大戦末期、それぞれの機甲師団の内訳は1個戦車大隊だったというような、指揮官からすれば笑えない笑い話まである。彼らが戦力を過大に見せるために、その様な欺瞞とも言える手を使っていないとも限らない。自身の常識を守る為に彼は敢えてそう問いかける。

 

「構成内容は国連軍の定義します規模に準じています。攻撃機も同様の構成を当てはめております」

 

「あり得ない!そんな数どうやって生産したんだ!?」

 

戦術機2160機、攻撃機に至っては4104機。世界最多の単一機種生産数を誇るF-4の累計生産数が凡そ5000機である事を考えれば如何にその数字が異常か解る。何しろF-4は20年以上の現役期間での話であるのに対し、F-4J2は表舞台に現れてから僅か8ヶ月しか経っていないのだ。攻撃機については最早異常などという言葉ですら生ぬるい。

 

「企業努力です」

 

彼女のその言葉で彼らは漸く理解した。この作戦を求めているのは日本帝国などでは無い。全世界を逆さにしても出てこないであろう生産能力と技術力を擁した正体不明の集団、カンパニーが望んだ事なのだ。そして目の前の女性も日本帝国の代表などでは断じて無く、カンパニーから送り出された人物なのだと。

その結論に達したならば、彼らの行動は迅速だった。まず“金床作戦”の実施は認める。と言うよりも認めるほかに選択肢が無い。元々その方向で話は決まっていたのだからそれは大した事では無かったが、それ以外は問題が山積だ。当初単独で実施するなどという話は荒唐無稽であり、国連の仲介で東南アジア諸国からの戦力供出を願い出てくると彼らは考えていた。だが相手は文字通り単独でハイヴ攻略を行うだけの戦力を揃えており、求めていたのは本当に承認だけだと言うのは彼らにとって完全に想像の埒外だったのだ。だが幾ら彼らが優れた装備と圧倒的な戦力を有していたとしても、容易に首を縦に振れない事情が国連軍側にもある。故に妥協点として彼らは幾つかの提案を出すこととした。

まず比較的安全な戦域になんとか旗下の戦術機大隊を参加させ、部隊の連携を理由に指揮官を送り込む。当初は師団規模で戦力の提供を申し出たのだが、すげなく相手に断られたためだ。なので彼らは他方面からの増援遮断の為にインド、中国方面での陽動作戦を実施する事とし、そちらへ戦力を集中する事になる。

 

「挟撃されては包囲も何もないでしょう」

 

その日より陽動準備の為に幾日かが使われることとなり、そして作戦は決行の日を迎える。暦は12月の半ばを過ぎ、クリスマスが目前に迫っていた。

 

 

 

 

「へえ?やっとやる気になったかい」

 

司令部を通して国連からの命令を受領したホアン大佐は愉快そうな表情でそう笑った。F-4J2の獲得を強く主張した彼女のおかげで中華戦線は早い段階で同機の獲得に成功しており、その功績が認められる形で彼女の旗下の部隊は優先的にF-4J2が配備されていた。当然強力な部隊である為に激戦区へ配置転換されたものの、現在まで戦死者0という輝かしい戦果を挙げている。

 

「適度な間引きなんてのは飽き飽きしてたんだ。ここらで古参の意地ってやつを見せようじゃないか」

 

そう彼女は獰猛に嗤う。

時同じくして同様の命令を受け取ったドゥルーブ大将は眉間に寄った皺を指先で懸命にほぐしていた。

 

「追加の輸送船が大量に来る訳だな」

 

スリランカ島に押し込められたインド方面軍の状況は芳しくない。航路の安全確保の為という大義名分の下行われている日本帝国の善意の協力と支援物資が無ければ、とっくの昔に彼もスリランカ島を枕に死んでいただろう。国連軍の指揮官として恥じ入ると共に、上層部へ強い失望を彼は覚えていたが、一方で国連軍が現状の維持だけで手一杯である事もよく理解していた。

 

「思い切った賭に出る。だがまあ、乗りたくなる気持ちも良く解るな」

 

マンダレーのハイヴが本格化したならば、東南アジア諸国が耐えることは叶わないだろう。これ以上の失地と戦線の拡大は人類の許容範囲を超えている。その中で示された光明を逃さないことも、指揮官としての資質であろう。

 

「この程度で返せる借りではないが、少しでも返さなければ増えるだけだしな」

 

すっきりとした表情でそう呟くと、彼は物資の分配と部隊の編成を考え始めた。




備考

「金床作戦」作戦計画概要

目的
ミャンマー領マンダレーに構築されつつある仮称H17の攻略、破壊。

参加戦力
第一軍:陸上戦艦12 戦術機2個師団 攻撃機3個師団
第二軍:航空母艦2 航空巡洋艦3 戦術機4個師団 攻撃機8個師団
第三軍:戦術機4個師団 攻撃機8個師団
低軌道艦隊:航宙駆逐艦20 掃海艇2 輸送艦5

戦術機計2160機、攻撃機計4104機
これに加え戦術機及び攻撃機輸送のため戦術機揚陸艦135隻、攻撃機揚陸艦114隻を用いる。

作戦内用
第一段階
ベトナム領ハノイより第三軍が北西方面へ侵攻、H16との連絡を遮断。
旧バングラディシュ領チッタゴンに第二軍が揚陸、東進しH13との連絡を遮断。
これによりインドシナ半島に展開するBETA群を孤立させると共に半島への封じこめを行う。

第二段階
包囲完成と共にミャンマー南部より第一軍がエーヤワディー川を北上、旧マンダレー南西80キロ地点に揚陸後、H17へ向け攻勢を実施する。揚陸30分前に同地域に対し第四軍による軌道爆撃を実施、敵戦力の漸減をはかる。

第三段階
侵攻する第一軍がハイヴ到着と共に、第二軍、第三軍は半島へ向け侵攻を開始、戦線を縮小し機動予備を抽出しつつ同地域のBETA殲滅を行う。到達が確認され次第、同区域に対し第四軍輸送艦による補給コンテナの投下を実施する、適宜補給を行いつつ前進を継続する。

第四段階
H17に存在すると推定される反応炉を破壊。これを制圧する。この後第一軍は更に北上し第二軍、第三軍と残存BETAを挟撃、殲滅完了を持って本作戦を終了とする。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。