チート転生テンプレもの   作:Reppu

29 / 60
29

「やりやすくなって大変結構」

 

1996年1月。世間が御祭騒ぎと言っても差し支えのない雰囲気の中、俺は基地で上機嫌に笑っていた。昨年12月に実施した仮称H17攻略作戦は無事成功し、人類は初めてBETA相手に失地の奪還を成した。この件について国連軍からも大変感謝され、作戦後にまさかの参謀総長がやってきて涙ながらに手を取って礼を言われた時には、正直むず痒くなってしまった程だ。うん、邪魔者扱いしてごめんよ。その勢いでまさか同盟を打診されるとは思わなかったけど。取り敢えず内容はかなり好意的、というかこちらの独立性を完全に担保する内容で、要約すれば、今後君たちが行う作戦行動に国連は全面的に協力するよ!だからやる時は一声掛けてね。あ、承認がいるとかじゃないから連絡さえくれて、自分達だけでやるってのも全然OKです。特に間引きとか事後報告でも良いので積極的にやっちゃってくれてもいいのよ?と言う事だった。事前に連絡さえすれば他国領でも軍事行動可能とか大丈夫か人類。とか思ってしまうが、冷静に考えれば今回見せたこちらの戦力を考えればそうもなるわな。因みに戦力と言えば合衆国とソ連から高雄級を購入したいという熱心なラブコールを頂いたが、残念ながらお断りさせて頂いた。現状白龍も含めて宇宙戦艦組は本部とメンテナンスベースにしているアイランド5、それから宇宙のインダストリアル1以外でメンテナンスが出来ないし、部品の生産も時間が掛かるのだ。軌道爆撃に使う駆逐艦なんて予算がかけられなかったからパプア級を殆ど無改造でそのまま転用しているくらいだし。

 

「ミノフスキー物理学が浸透するまではまだ少しかかりそうだからなぁ」

 

この辺りは付き合いのある各国の学会に手当たり次第放り投げているが、おかげで大混乱を起こしている。連日質問攻めにされるもんだから、またルクレツィアの人数が増えた。

 

「それにどうにもならん問題もあるしな」

 

その問題というのがエネルギーである。宇宙世紀系技術においてミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉は極めて価値の高い技術だ。何しろMSに積み込めるサイズまで小型化した常温核融合炉なのだから、その利便性は計り知れない。うちで運用している艦艇はほぼ全てがこれを動力源にしているし、今後主力として運用予定の試製95式もこれを使っている。まあ厳密に言えば各国に開示した初期型ではなく、改良型熱核融合炉というもう一世代先のものを使っているのだが、ここでは重要な差異ではないので気にしないでくれて良い。んで、話を戻すと、こいつらはエネルギー源としてヘリウム3が必要になるのだが、はっきり言って今の我が軍は自前の分を生産するだけで一杯一杯なのである。良く勘違いされている方が居るが、ヘリウム3は別に木星でしか採れない物質ではない。月面の岩石に含まれているし、何なら地球上の大気にも存在する。ただしそれがとんでもなく微量なのだ。幸いうちはレアアースやレアメタルの確保を目的にマントル層まで資源採掘を行っているから、地殻プレートやマントル層に貯蔵されたそれを採取していたのだが、流石にこれ以上は賄いきれない。一応今月末には完成予定のミノフスキードライブ搭載型宇宙艦の2番艦を木星へ派遣、採掘施設を設置予定だが、そちらからの安定供給にはまだ数ヶ月は必要になるだろう。それでも年単位の時間が掛からないだけ驚異的なスピードだが。

 

「やっぱり失敗だったかなぁ」

 

そもそもこの問題は俺が現有戦力を転用すること無く先の作戦を決行するために艦艇を増産したことが原因だ。一応ルクレツィアの試算によれば、後3隻程増えても維持出来るそうだが、そうなると貯蓄は不可能だそうだ。採掘プラントを早急に増やしたいところだが、候補地に迷っているというのが現状だ。

 

「無難なのはメガフロートだけど」

 

メガフロートであれば土地の問題は殆ど無い。日本帝国政府への打診は要るものの、洋上国土開発計画という胡散臭い計画を国土管理省と共同で行っているから日本帝国の排他的経済水域内なら好き勝手に出来る。ただメガフロートに設置できる採掘ユニットは採掘能力が低いという欠点がある。現在は蓬莱以外の5基全てのメガフロートで採掘を行っているが、それでも本拠地の30%程の産出にしかならない。各国への供給なんてことになれば、日本の周囲がメガフロートで埋まってしまうかもしれない。なので出来れば陸地が望ましいのだが。

 

「国内の別拠点は民間施設が近すぎる。かといって国外だと持ち出しの時が面倒だし」

 

拠点を建設して暫く経つが、スパイは増えることはあっても減ることはない。そろそろ捕まりすぎて顔馴染みになりつつある奴までいる程だ。今のところ被害は出ていないが今後もそうとは限らないし、何より原作を考慮すれば妨害の為に拠点へ再突入型駆逐艦、要はスペースシャトルみたいな物に爆薬を満載して宇宙から投げつけてくるなんて事までしている。正直迎撃は問題ないだろうが、周辺に被害を出さずとなると難易度は跳ね上がる。国外の場合でもこの問題は付きまとうし、加えて生産した資源を拠点まで運ばなければならない。機体や艦艇に建造した状態で持ち出すと言う手もあるが、確実に軋轢を生むだろうからこの手は出来れば避けたいところだ。ああ、どっかに誰も居なくて好き勝手に基地建設しても怒られない場所とかないかなぁ。

 

 

 

 

正月というのは武家にとって実に多忙な日である。主家への挨拶に始まり親類縁者、繋がりの深い家ととにかく挨拶の行脚が続く。それが終わっても今度は祝いの席があり、出席に準備にと多忙を極める。戦時にこのような事が出来るという時点で恵まれていると言うべきなのだが、それでも忙しいという事実は変らない。そして面子に生きる彼らは、戦時故に殊更そうした縁起を大切にしていたから、その手間は増えることはあっても減ることはない。

 

「新年おめでとう。呼び立ててしまってごめんなさいね。唯依」

 

「明けましておめでとうございます。気になさらないで下さい、恭子様」

 

そう返したものの、唯依の心中には疑問が湧いていた。譜代武家である篁家の娘として厳しく育てられた唯依は年に比べて早熟だ。それだけに周囲の視線や仕草といったものに敏感である。それが普段から目を掛けてくれている人物であるならば尚のことだ。

 

「早いものね、唯依も来年には高校生か」

 

「気が早すぎますよ、恭子様。まだ一年以上先の話ではないですか」

 

「あら、でもその為にもう準備をしているのでしょう?参考書を随分買っていると聞いたけれど?」

 

そう返されて唯依は頬を赤くした。恭子は五摂家の崇宰家の人間であり、斯衛にて青を纏う女性である。言わば唯依にとって彼女は目指すべき目標であり、憧憬の対象だった。故に自らの努力が認められた喜びと、隠していた秘密がばれた羞恥とがない交ぜになった瞳で彼女を見つめ返す。

 

「少しでも早く学んでおきたくて。その、私は不器用ですから」

 

そう口にする唯依に対し恭子は目尻を下げながら応じる。

 

「敵を知り己を知れば百戦危うからずや。基礎の基礎、けれどそれがちゃんと出来る事が貴女の美徳よ。胸を張りなさい」

 

そう言われ思わず下を向いてしまった唯依は、次の恭子の言葉に身を強張らせた。

 

「けれど、残念だけど多分その教本は使い物にならないわ」

 

「恭子様?」

 

「唯依も聞いた事があるのではないかしら?カンパニーと名乗る企業の事」

 

「は、はい。帝国軍と斯衛の戦術機を一新させた企業ですよね?食料や医療関係にも手を広げていると聞いています」

 

恭子の言葉に、唯依は慌てて自らの知るカンパニーについてを口にする。そこで初めて恭子の顔が苦く歪んでいることに気がついた。

 

「正確に言えば一新せざるを得なかったのよ。それこそ帝国軍が昨年導入した不知火を捨て、斯衛が開発中の機体を放り出してまで揃えなければならない程あの機体とそれまでの機体には隔絶した差があったわ」

 

目を伏せながら恭子は続ける。

 

「そしてこの数ヶ月で食料自給率も大幅に改善しているし、医療品の値段も安定している。今この国は我が世の春を謳歌しているわ、カンパニーに依存すると言う形で。でもその相手は今世界に目を向けている」

 

その言葉で唯依は大凡の事情を察する。先日国連軍が一企業と同盟関係を表明するという異例の事態があった。その少し前には人類が初めてハイヴを攻略するという歴史的快挙も起こっている。そしてそれらの中心こそカンパニーであり、彼らが海外へ指向していることは明白だった。だが、それを恐れている人々も確実に存在した。

 

「戦後社会ではカンパニーとの関係がどれだけ深いかが重要になってくる。既にソ連や合衆国は彼らと技術提携をしているわ。対して我が国は彼の関心を引ける物を何一つ持っていない」

 

今の日本帝国の立場は、彼らが最初に拠点を構えた場所を国内に有しているというだけだ。たったそれだけの事で相手が断らないのを良いことに今まで随分と無心をしてきたが、今更になって彼らが自分達などどうでも良い存在だからこそ寛容に接してくれていたと言う事に気付いたらしい。

 

「利を是とする相手に、物もお金も用意出来ない。だから情で縛る、ですか?」

 

生まれながらに高潔と責務を求められるのが武家であるとされる。だがそれは彼らが政争やそれに付随するパワーゲームと無縁であるという事では断じてない。寧ろそう言ったものを駆使したからこそ今日の立場があるのであり、見栄えの良い金科玉条は権力を確立した後、その正当性を訴えるために後から付いて来ただけのものだ。そんな彼らの常識からすれば、権力者に媚びを売るために、娘を差し出すなど文字通り日常茶飯事の事だ。

 

「貴女達ばかりに泥を被せてご免なさい」

 

篁が譜代となったのは明治後期であり、それ以前は二半場の立場だったと聞く。元々武器拵えという武具の整備・開発などを生業とした家で急速な近代化に伴い重要性が増した結果であったらしい。当時の価値観からすれば家格の昇位など前代未聞であり、その事から篁は不正に家格を手に入れた家として今日まで謂れ無い誹謗も受けてきた。恭子が謝罪したのも、その背景を知りながら、再び国の為に権力者へすり寄ったという汚名を被せることに対してだろう。唯依は一度口を引き結んだ後、気付かれぬよう一呼吸して笑顔を作った。

 

「その程度の事で国が安んじられるなら、それこそ安いものと言うものです」

 

武家の娘は自由な婚姻など望めない。まして唯依は篁の当主となる事が決まっている身だ。家を保つ事こそが最優先されるため、両者の関係や相性などというものは優先順位に挙がることすらない。

 

「ごめんなさい。…さしあたり4月から貴女達には新型戦術機の衛士育成モデルとしてカンパニーで学んで貰います。宜しくお願いね」

 

その言葉に唯依は黙って頷く。だが、彼女はこの時重要な言葉を聞き逃していた。そう、恭子は貴女達と口にしたのだ。友人一同と籠絡要員として送り込まれることになった唯依は大いに慌て、そして向かう先で運命と邂逅する事となるのだが。それはまた別の話である。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。