チート転生テンプレもの   作:Reppu

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仮想空間で2機の戦術機が絡み合うように動きまわる。均された大地から推進器より発せられた炎に炙られ周囲には砂埃が舞い上がる。その凄まじさが、如何にそれらの機体が圧倒的な推力をもって機動しているかを伝えてくるが、操る当人達にそれを悠長に観察する余裕は無かった。

 

「こっのぉ!」

 

『そう簡単に!』

 

左腕のビームガンから連続して放たれたビームは、機体を掠めるものの有効打を与えるまでには至らない。お返しとばかりに同じように放たれたビームをユウヤ・ブリッジスは危なげなく回避しながらも、舌打ちを堪える事が出来なかった。

 

(やりづらい!)

 

彼らが操っている試製95式は砲戦重視というよりも砲戦に特化した機体だ。既存の機体と一線を画する圧倒的な推力のおかげである程度誤魔化されてはいるが、本来この様に対象と接近して巴戦を繰り広げるような運用は不得手としている。では何故双方共にこの様な戦い方を選んでいるかと言えばその理由は単純だった。

 

「これも当たらないのかよ!!」

 

『外れた!?』

 

ユウヤが母と共に日本にやってきて既に4ヶ月。そこから彼がカンパニーの研修生となって3ヶ月が経っている。一日八時間の教育課程はほぼ全てがシミュレーションか実機の操縦訓練に充てられていて、研修という名から想像するような座学が殆ど無い生活を送っている彼の操縦技能は、既に衛士として十分通じる水準に達している。対する教官も試製95式が配備された直後から乗っているため、衛士も機体もユウヤより経験が豊富だ。結果遠距離での撃ち合いにおいて射撃精度で不利となるユウヤが肉薄、強引に距離を取ればそこを火力で押し切られると判断した教官が格闘戦に付き合うという形で今の状況は形成されていた。だがその均衡も徐々に崩れ始める。

 

「あっ!?」

 

『そこぉ!』

 

つばぜり合いとなった瞬間、教官機が頭部バルカン砲を発砲。不幸にもユウヤ機のメインカメラが損傷し、一瞬視界を喪失する。その隙を逃さずに教官は膝蹴りでユウヤ機の姿勢を完全に崩すと即座に後退、モニターが回復したユウヤが見たのは迫り来るハイメガキャノンの閃光だった。

 

「…また負けた」

 

「一応教官だからね、そう簡単には負けらんないなぁ」

 

シミュレーターから降りて項垂れるユウヤに対して、スポーツドリンクの入ったボトルを差し出しながらそう笑い掛けて来たのは、対戦相手であった浦木教官だった。ドリンクボトルを受け取りながらもユウヤは不満げに言い返す。

 

「そんな事言っても教官達だってあの機体に乗り始めたのは俺が来た後じゃないか。なら搭乗時間は大して変らないだろう?」

 

「そうだね、私達もこればっかりやっているわけじゃないから、多分100時間も差は無いかな?」

 

「このやり方で俺は強くなれるのか?」

 

今日だってギリギリの勝利だったと笑う浦木に対し、ユウヤは渋面を作ると愚痴を溢す。それは焦燥感から出た言葉だった。彼は負け続けている教官が本職で無い事も知っている。故に自身が衛士として成長出来ていると言う実感が湧かなかったのだ。

 

「なってるよ。最初は一方的だったのに今じゃかなり追い詰められてる。こっちの機体だってユウヤの行動を学習している上に少なくとも数十時間のリードがあってだよ?」

 

「数十時間って、そんなに変わるものですかね?」

 

「ユウヤはこの機体を過小評価しているね」

 

そのユウヤの言葉を浦木教官は指を振りながら否定した。

 

「これに搭載されているコンピューターは既存のそれとは文字通り次元が違うの。経験を反映して自身の動きを改善するという点に関して言えば人間よりも上なくらいだよ。乗れば乗るだけ賢くなって、しかもその衛士に最適化されていく。数十時間という時間は両者の間に絶対の壁を作り出すのに十分過ぎる時間だよ。むしろそんなハンデを背負っているのにもうすぐ私を下しそうなユウヤが弱くて成長していないなら、私の立つ瀬が無いなぁ」

 

そう言って彼女は笑う。ユウヤには伝えられていない事だったが、浦木を含め各社から出向していた3人はこの世界において有数の戦闘経験者と言える。無論それらはシミュレーション上での事ではあるが、連日レクリエーション感覚でフェイズ6のハイヴへ突入を繰り返す彼女達の戦闘経験は間違いなく並の衛士を超えている。そんな人間に戦術機に乗り始めて半年にも満たないユウヤが既に追いつき始めていると言う事自体が異常なのであるが、その事実に気付くのに必要な客観的な判断材料を彼らは持ち合わせていない。故に出てくる結論は更に明後日な方向へと進んでいく事となる。

 

「物足りないって言うなら私達がやっているシミュレーションにも参加してみる?」

 

衛士を目指す者にとってあまりにも有名な言葉である“死の8分”。初陣の衛士の平均生存時間を示したそれをシミュレーション上とは言え超える事が出来れば、少しは自信に繋がるのではないかと浦木教官はあまり考えずに提案する。

 

「良いんですか?」

 

「仮想標的相手の成績は十分だし、対人戦の動きを見る限り動作の基本は出来てるもの。まああくまで私達が時間外でやっている遊びみたいなものだし」

 

目を輝かせながら何度も頷くユウヤを見て、提案した甲斐があったと浦木は満足する。だが、この時彼女は失念していたのだ。衛士の初陣で想定される戦場はまかり間違ってもハイヴ攻略戦などではなく、加えてその規模がオリジナルハイヴと同等であることなどまずあり得ないという事を。後にユウヤはそのシミュレーションのごとく、ハイヴ内で死の8分を超える事となるのだが、それはまだ先の事である。

 

 

 

 

「つまり、御社で運用している最新型は供与頂けないのですね?」

 

柔やかに念押す目の前の女性に対し、俺は素直に告げる。

 

「試製95式は文字通り未だ試作機の段階を抜け出していません。申し訳ありませんがご依頼頂いた数を用意する事は不可能です」

 

「随分慎重なのですね?ハイヴ攻略にそれなりの数を投入したと聞き及んでいましたが」

 

「機体性能の確保とマスプロダクション化は別問題ですし、それなりの数しか持ち込めなかったと言うのが実情ですよ」

 

俺がそう返すと彼女は目を細めて笑う。

 

「何も一括で渡して欲しいなどとは申しておりませんわ。そして我々の選んだ選抜部隊は厳しい任務に就く事になります。少しでも良い機体を揃えたいと考えております。それでもご協力頂けませんか?」

 

そら彼らのためには協力してやりたいけどさ。

 

「率直に申し上げれば、私は貴女方の計画に懐疑的です。私はあの宇宙人共と和平が結べるとは考えられない」

 

ぶっちゃけあいつら自分自身すら生物と定義してねぇし。

 

「これまでの計画をご存じな長谷川様ならば問題点もご理解頂いていると思っていたのですが」

 

「無論理解していますよ。彼らは人類とコミュニケーションを取れない。だから貴女はその手段の構築を行っている。ですがね、私はその先の話をしているのです」

 

「交渉が失敗すると?」

 

「相手が知的生命体であるから、我々と同様の倫理を持っているなどと言うのは幻想でしかありませんし、我々人類だって繁栄のために邪魔な他の種族を根絶やしにしてきたではないですか。何故人類がそちら側にならないと貴女は断言出来るのです?」

 

「それは彼らが知的生命体であるからですわ。そして我々は動物と違い解り合おうとするだけの知性がある。これは大きな差だと認識しています」

 

この世界が“あいとゆうきのおとぎ話”な世界だったなら、あるいはそれでも良かったかもしれないけどね。

 

「その知性を持ち、互いに同じ言葉を喋り、あまつさえ同じ種族でありながら利害が合わぬと殺し合った生き物を私はよく知っていますよ」

 

「ええ、私も知っています。ですがその生物が理性で絶滅を回避した事も知っています」

 

理性とは大きく出たね。

 

「認識の相違ですね。あれは理性で止まったのではない。屈服させるだけの武力が足りなかった為に終わっただけに過ぎません。それに考えてみて下さい。既に完全勝利がちらついている中で、態々負けている連中の言い分を聞いて終戦するメリットが何処に存在するのです?」

 

「それは…」

 

そら人類が初めて出会った地球外生命体だ。期待したくなるのも解らんでもないさ。だが残念ながらBETAはそんな上等なものじゃない。

 

「無遠慮に人の家に入り込んで、あまつさえそこの住人を食い殺すような連中に私は理性も善性も感じられない。彼らへ送るべきなのは言葉ではない、砲弾です」

 

そこまで言って一呼吸おくためにカップの中身を飲む。コーヒーのフリをした砂糖とミルクを飲み干し、すこし冷静さを取り戻した俺は妥協点を提示する。

 

「ですが奴らから情報を引き出すと言う点については私も賛成です。直ぐには難しいですが、先ずシミュレーターを納入させて頂き、機体については後日必要分を用意するというのはどうでしょうか?」

 

「後日、と仰いますといつ頃になりますかしら?」

 

「あれの動力は少々特殊でして。安定供給を約束できるのは半年後より先になります。我々としても装備の更新を考えていますから、早くて年内。遅ければ1年後でしょうか」

 

「…承知しました。その様にお願いします。シミュレーターについては?」

 

「そちらは1週間も頂ければ。ああ、それと練習機として野分を一個中隊分供与させていただきます。ご笑納ください」

 

「有り難うございます。ご期待に添えるよう最大限努力致しますわ」

 

そう笑顔で応じる彼女に、俺は手を差し出しながら口を開いた。

 

「実り多き成果を願っていますよ。香月女史」

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