チート転生テンプレもの   作:Reppu

32 / 60
32

「ああ、やってられんねえ。BETAと戦っている方がずっと楽だ」

 

ソファで頭をかきながら俺はそう不満を漏らした。そもそも俺は一般人だぞ、天才相手に交渉なんか出来る脳みそなんて持ち合わせて居ないんだ。先ほどまで話していた相手が出て行ったドアを睨みながらそう恨み言を呟く。

 

「無視すれば良いのでは?」

 

護衛として控えていたハヤタがそう言ってくる。

 

「ああいう覚悟を決めている手合いは袖にした方が厄介なんだ。それこそ敵認定なんかされたらあらゆる手段で邪魔してくるぞ」

 

正攻法が駄目なら搦手、それも駄目なら非合法な手だって使ってくる事は間違いない。

 

「しかし彼らの戦力で我々をどうにかするのは不可能です」

 

「俺達はね」

 

だけど遣り様なんて幾らでもあるんだ。今の俺達に不満を持っている連中は決して少なくない。そして俺達への嫌がらせならば、狙うのは俺達自身でなくてもいいのだ。例えばメガフロートや関連施設で事故を起こして、不安を煽ると同時にこちらの信用を失墜させるとか、嫌がらせの方法はいくらでもある。技術一つを盗む為でもそのくらいは平然とやってのけるだろう。理性的に振る舞っていた彼女でさえ、追い詰められれば“緊張感を取り戻させるために”なんて言う理由で恣意的に事故を起こすのだ。冷静でない連中が何をするかなんて想像も付かないし、彼女の頭脳と伝手ならばそんな連中を動かす事だって造作も無いに違いない。

そして実害が出てしまえばこちらも対応せざるを得ない。最も簡単な方法は物理的な排除だが、これをやったが最後、俺は人類にとってBETAの次の敵になるだろう。救いに来て滅ぼすとか笑い話にもならん。

 

「まあ、今後の事を考えれば彼女達の存在は有益なんだ。支援するのは間違いじゃない」

 

現状俺達は月のハイヴからフェイズ6相当のハイヴについての情報を入手している。投入出来る戦力が限られているから完全ではないものの、現在人類が使用しているヴォールクデータよりもかなりオリジナルハイヴに近いデータだ。だが出所からすれば公表が難しいし、その部分を偽って仮想のデータとして世に出しても、実測されたヴォールクデータに取って代わる事は出来ないだろう。

 

「サイコフレームによるリーディングとプロジェクション能力の増強は証明されたから、こっちも供与すれば、頭脳級からハイヴ情報の引き抜きが出来る筈だ」

 

問題は直結した場合ほどではないがこちらから情報が漏れるリスクがある点だ。一応マンダレーを攻略した際のBETAの行動から、推論という形で反応炉が通信機能を持つBETAであるという情報を提出したが今のところ反応は宜しくない。唯一食いついたのが香月女史だけだ。既に香月博士の下にはトリースタ、今は社霞と名乗っているはずの彼女が合流しているから、上手く行けば彼女達を隠れ蓑に情報の開示も出来るだろう。

 

「案外それより先にソ連が動くかな?」

 

南方で損害を出した為か、このところソ連領でのBETAの動きが活発だ。軌道上からの偵察情報によれば、カシュガルからかなりの数が北進しているとの情報も入っている。過去の状況からすれば、この規模の移動が起こった場合にハイヴの巣分けが起きるから、座視するという選択肢は採りづらいだろう。事実俺達にも協力の打診が来ているし。ただ気になるのがボパールや重慶だ。昨年の陽動でそれなりに数を減らしたのだが、その後の個体数の回復が緩やかなのだ。にもかかわらずそちらへの移動は殆ど確認されていないのはこれまでの行動からすれば不自然に映る。前回の間引きから間隔が短かったためだと言うのが国連軍の結論だが、連中がそこまで馬鹿だとは俺には思えない。

 

「警戒は必要だな。中国とインド方面の軍に警告を、それからムラマツに緊急時には艦隊の展開を許可するって伝えておいて」

 

「了解しました」

 

後は出たとこ勝負になってしまうかな。厄介な事にならなければいいけれど。

 

 

 

 

「忌々しい宇宙人共め」

 

指揮車の窓ガラスに打ち付ける吹雪を見ながら、ブラート・リトヴィネンコ中将はそう吐き捨てた。二月のシベリアは未だ厳冬期であり、軍事行動を行うのに全く向いていない。何しろ平均気温は-25~-35度、内陸部ともなれば-50度にも達する。その様な環境では歩兵は勿論の事砲兵も運用に大幅な支障が出る。特に彼の率いる部隊の多くは自走化されていないためその傾向が顕著だ。

 

「彼らの支援が取り付けられたのは不幸中の幸いでしたな」

 

そう言って同じように外を眺めているのはブドミール・ロゴフスキー中佐だ。日本のカンパニーという企業と太いパイプを持ち、今回の作戦に際しても戦力の供出を勝ち取ってきていた。資本主義の権化である営利組織と手を組む事に多くの理想家達は顔を顰めたが、リトヴィネンコはむしろ彼を評価していた。思想というそれよりも相容れない部分で対立する西側諸国の助力を得る事は更に危険であったし、そうした国家の思惑に振り回されている国連を頼る事もまた祖国に弱みを作る行為だ。それに比べれば純粋に営利目的のみで動いている集団の方が余程与しやすい。

 

「確かノワキの製造元だったな」

 

ソ連としてもナホトカに合弁会社を設立し大々的に機体を供給してもらっている。距離が近い事もあり、リトヴィネンコの指揮下の戦術機部隊は多くが機種転換を終えており、その性能は彼の目からしても出色の存在だ。あの機体がなければリトヴィネンコはBETAの移動を黙って見送るか、あるいは部下に多大な犠牲を強いる結果となっただろう。逆に言えば機体の配備が交戦を決意させたのだから前線の将兵にとっては不幸と言えるかもしれないが。

 

「完全充足の1個連隊と低軌道艦隊の投入を承諾して貰っています。加えて例の飛行戦艦の投入もです」

 

「あのモニュメントを吹き飛ばした艦か、頼もしいな。我が軍に直ぐにでも欲しいくらいだ」

 

参加出来るのは1隻のみとのことであったが、砲兵戦力が心許ない現状では非常に有り難い増援だった。購入について本国からも強く働きかけているようだが、流石に交渉は難航している。

 

「致し方ない事とは言え、兵には苦労をかけるな」

 

隷下の戦力は以前より充実はしているものの、十分と言うにはほど遠い。多くの地を失ったとは言え、未だに広大な土地を抱えるソ連が受け持っている戦線は広く、何処でも戦力は不足している。リトヴィネンコの担当している極東と北極圏のソ連軍が確保しているクラスノヤルスク地方はソ連領において未だBETAに蹂躙されていない貴重な土地だ。今回のBETA侵攻に対して、これ以上の領土失陥を許容出来ないとした党中央はリトヴィネンコの下へ配備されるはずだった攻撃機を全て北極圏側へ回していた。彼からすれば戦力を切り取られた訳であるが、この差配についてはある程度許容していた。

 

(こちらは光線属種を排除出来れば航空戦力が投入出来るからな)

 

ノギンスクに建設されたH10からの距離が近く、航空戦力による打撃が行えないあちらに可能な限り戦力を割り振る事は戦術上正しい判断だ。加えてノワキの登場で光線級吶喊の成功率は飛躍的に向上している。そしてカンパニーからの増援を踏まえれば、むしろリトヴィネンコの方が戦力に恵まれているだろう。

 

「それにしても俄に信じがたい話だな」

 

カンパニーから送られてきた事前資料を思い返し、リトヴィネンコは思わず身を震わせる。ノワキで完全充足した1個連隊もさることながら、気軽に低軌道艦隊の投入を決定できるカンパニーの軍事力と生産能力は凄まじいの一言に尽きる。何しろ宇宙軍というのはBETAに一方的に攻撃を出来る唯一の軍でありながら、その莫大な運用コストの為に多くの国家が編成を断念しているのだ。事実艦隊と呼べるだけの数を揃えられているのは合衆国と、彼らの祖国だけだ。だが彼の心胆を寒からしめるのはそれだけではない。

 

「誤記を疑ったが、これは間違いないのだな?」

 

「はい、問い合わせましたが間違いないと」

 

「流石、あんなものを浮かべる連中だと言う事か」

 

軌道爆撃に参加する艦艇の数は20隻。これについては2ヶ月前のハイヴ攻略にも参加していたためそれ程の驚きはなかった。しかし、開示された艦艇の性能は彼らの想像を遥かに超えていたのだ。

 

「搭載重量8000tか。BETAよりも彼らの爆撃の方が被害が大きいかもしれんな?」

 

現在低軌道艦隊の主力を担っている再突入型駆逐艦のペイロードが500t程である事を考えれば、彼らの保有している自称航宙駆逐艦は10倍以上のペイロードを持っている事になる。極端なことを言えば、彼らの20隻とは通常の低軌道艦隊200隻分なのだ。この上彼らは掃海艇と名乗る、明らかに宇宙空間での戦闘を想定した艦も保有している。加えてそれらを地上に降ろす事無く整備・補給可能な拠点まで持っているのだ。これは地球上の全ての国家が文字通り頭上を押さえられている事を意味している。軍事に少しでも明るい者ならば、最早大勢は決している事が理解出来るだろう。遺憾ながら後は彼らの勘気に触れず、何処まで彼らの近くに陣取れるかが今後の国際社会における序列となる。そして不幸中の幸いはカンパニーの代表が、思想や宗教と言った部分で他者の優劣を付ける者ではなく、更に言えばとんでもないお人好しと言う点だろう。行動原理も思考も単純であるから、彼の欲するところを推察する事は難しくなく、その意に沿っている限り祖国の存続は約束される。

 

「いかんな、目の前に敵がいると言うのにその先を夢想するなど」

 

そもそも国家の行く末を考えるなど軍人の本分から逸脱している。そう考えリトヴィネンコは頭を振り、CP要員に告げた。

 

「総員警戒を厳に、祖国の母なる大地をこれ以上一歩たりとも奴らに踏ませるな」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。