チート転生テンプレもの   作:Reppu

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「つまり世界各地で手綱が緩んでいると」

 

俺の言葉に対し、目の前に座った女性は達観した笑顔を浮かべながら頷いた。

 

「ええ、貴方達のおかげで我が国の計画は修正を余儀なくされました。それに付随していた我が社の計画にも影響が出るのは当然のことですね」

 

そう言って彼女は優雅に紅茶を飲んで見せた。

 

「難民解放戦線は南米とアラスカ。アラスカの方は国連のキャンプですかね?」

 

「でしょうね。ソ連側に入り込んでいる社員からの話ですと、あちらも御社の支援のおかげで随分と待遇が改善しているようですし、何より今更潜り込むとなればそちらの方が可能性があるでしょう。まあそちらでも上手く行くとは思えませんけれど」

 

国連が支援しているキャンプは主に北欧からの難民が主体だ。それも末期の文字通り着の身着のままで脱出したような層が多く、合衆国ですら持て余して国連に押しつけたような人達だからかなり扱いも悪かった。当初こちらにも移民の話を日本帝国を通じて持っていったのだが、反応が悪く流れてしまった。文字通りBETAに追われながら逃げてきた彼らにとって、地理的に少しでも連中の勢力圏に近づく事は抵抗があったのだろう。その後カンパニーが国連と同盟関係になったので大々的に食料や医療品の援助をしているから、少なくとも終末思想に傾倒するようなことは無いと思いたい。

 

「そちらの本社は何と?」

 

「主に長谷川様に情報を提供して恩を売ろうと言う勢力と、この状況を使って御社の勢力を少しでも削ろうという2つに分かれていますね。今のところ協力派がやや劣勢でしょうか」

 

「そちらとは話がついたものだと思っていたんだけどなぁ」

 

俺のぼやきに近い台詞に彼女は困った笑顔で応じる。

 

「大統領を先に引き込んだのが裏目でしたね、あれで計画強行派が根強く反発しています。最近では実験結果自体も妨害のためのプロパガンダではないかと疑っているようです」

 

「流石に合衆国お抱えの科学者を買収は出来ないよ」

 

「自分がしたことは相手もしてくる。そう考えるのが人間ですから」

 

「ああ、それは仕方ないね。それで、アラスカはそちらでなんとかなるのかな?」

 

そう聞くと彼女は無言で頷いた。それを見て俺は取敢えずアラスカの方はCIAに任せておくことにする。出来ると言うのだから期待くらいさせて貰うとしよう。南米の方も少々手が出しにくい。難民キャンプ向けとして支援物資は送っているが、大部分がキャンプの設営国に中抜きされている。なので近々こちらに引き取りたいのだが。

 

「となると問題は日本帝国国内だよなぁ」

 

民間向けの各種資源の供給や電力供給などで貢献した分、住民感情はそれ程悪くない筈なのだが、どうも俺達の事が気に入らない連中が結構いるらしい。目の前に座るCIAの工作員である彼女の口から出た情報だから、確度は折り紙付きだ。何しろ彼らはその反感を持っている連中を煽動して日本でクーデターを起こす準備をしていたから、内部情報を持ち出すくらい楽勝だ。んで、その情報によると、どうも俺が榊首相や煌武院のご当主とつるんで好き勝手やっているのが気に入らんらしい。まあ、本拠地を認めさせる際にも帝都襲撃を仄めかしたりしているし、応戦とは言え中隊規模の戦力を無力化しているから心象が悪いのはある程度仕方ない。でも機体の供与とか大陸派遣部隊への物資提供とか、結構協力してるんだけどなぁ。

 

「機体や物資に関しては最早賄賂扱いですね。尤も半分くらいは状況判断が出来ていますから、こちらが想定していた規模の反乱はまず起こらないでしょう。精々集まっても想定の3割に達すれば良い方かと」

 

それでもそんなに参加するんかい。

 

「あくまで彼らにとって最高の状況が揃ったならば、という仮定の上ですが」

 

「すっごく聞きたくないのに興味深い話だね」

 

そう返すと彼女は続きを口にした。

 

「そうですね。例えば大陸で帝国軍が大規模な被害を受けて、その原因が御社にあるですとか、あるいは人望ある中心人物が長谷川様の派閥によって更迭されるなどでしょうか」

 

何そのピンポイントで人名特定できそうな例え。思わず半眼になりながら彼女を見ると、すました顔で口を開く。

 

「大陸派遣軍を指揮していらっしゃる彩峰中将は、人間的には非常に優れた方と聞き及んでおります」

 

「つまり軍人としては不適当だと」

 

俺の言葉に彼女は笑みを深くする。

 

「人望、指揮能力共に平時の将ならば問題無いでしょう。けれど想定外の状況において、彼は致命的な欠点を持っていると我が社は評価しています」

 

彼女の言に俺は沈黙せざるをえなかった。事実原作において、彼はその失態を犯している。仮にこの戦争が人類同士のものであったらなら、彼の行いは軍人として正しく、評価されるべき行動だっただろう。軍人とは民を守る為に存在するのであり、その為に武器を持つのだから。だが、BETA相手となれば話は別だ。何せ同じ戦争とくくられているが、片方は命がけの交渉であるのに対し、もう一方は生き残りを賭けた生存競争なのだ。そこには戦えるか否かで、命の価値に明確な差が生まれる。はっきり言おう。戦える人間一人を犠牲にするならば、その100倍は救わなければ割に合わない。それがBETAと戦う戦場の実態だ。その上命じられた任務を放り出してとなれば、最早庇いようがない。軍は集団を統率して運用する事が大前提なのだから、下が勝手に動いてしまったら組織としての体をなさなくなってしまう。そう言う理屈よりも自身の信念を優先するのであれば、確かに軍人には向いていないのだろう。問題はそうした義だとか仁といったものを優先する人物の方が、日本では兵の受けが良く、名将と称えられる点だろう。俯瞰して見れば明らかな失態に対する処罰であっても、兵士の反発を招くのは確実だ。なんかすげえ爆弾抱えた気分になってきたぞ?

 

「我が国は御社を高く評価しております。お迎えする用意はいつでも調っております事をご承知おき下さい」

 

完璧な営業スマイルでそう告げてくる彼女に、俺はカップで表情を隠すことで応じる。それにしてもこのスパイ、最近もう捕まるの前提で侵入してませんかね?

 

 

 

 

「野分もとんでもなかったですが、雷は正に規格外ですね」

 

訓練を終えた鋭谷少尉は、スポーツドリンクを口に含みながら大岳大尉にそう話し掛ける。目を細めつつ先ほどまで自分達が使っていたシミュレーターを眺めていた大尉は短く息を吐くと彼の声に応じた。

 

「大陸で撃震に乗っていたのがウソのようだな」

 

「…あの時にコイツが。いえ、せめて野分があれば」

 

その言葉に思わず鋭谷はそう漏らす。彼等の所属していた隊は大陸派遣軍の中でも優秀な部類であり、それだけに損耗が激しい部隊の一つだった。1年間の派遣期間で構成員の7割が替わり、その内二度と顔を見ることが出来なくなった戦友の数は、両手では足りない。

 

「それは言うな」

 

語気を強めて放たれた大岳大尉の台詞に、鋭谷は視線を握ったボトルに落としながら沈黙で応じた。

 

「雷にも野分にも、俺達が大陸で学んだ戦訓が活かされている。それだけでも十分に、価値のある事だったんだ」

 

大岳大尉の言葉に、鋭谷は思い出すように口を開いた。

 

「戦術薬物がまともになるまでは酷かったそうですね。自分達の時ですら随分と“悪酔い”が出ていましたが」

 

BETAとの戦闘における心理的ストレスは尋常ではない。当然だろう、先ほどまで隣で戦っていた仲間が悲鳴を上げながら食い殺される様を見て平静を保てる人間など、まず存在しないからだ。こうしたストレスを強引に押さえ込む事を目的に各種薬剤が使用されるが、当然のようにこれらの効果は個人差がある。そして薬剤が効かなくても、効き過ぎても大抵はまともな最期にはならない。

 

「野分に更新されてからは使用量が10分の1以下だそうだ」

 

「冬期の戦闘も難儀しました。低温で機体の動きは制限されるし、おまけにあの視界不良。新入りがいつ地面とぶつかるかとヒヤヒヤしましたよ」

 

悪天候下における空間失調はベテランでも起こりうる。特に複雑な機動を取る戦闘中ならばなおのことだ。地面にぶつからないまでも、誤って高度を上げすぎレーザーに焼かれた新入りの悲鳴を鋭谷は未だに忘れることが出来ない。

 

「昨年の冬期作戦における事故機は0だ。0だぞ?整備の連中が興奮しながら話していたのをよく覚えている」

 

「そうだ!知ってますか、大尉。先月帰ってきた真田大尉の所の穴山中尉と斉藤少尉、今月結婚するそうですよ」

 

「そうか、大陸を見た衛士でも所帯を持とうと思える。俺達はそこまで帰ってきたんだな」

 

そう言って目を閉じる大岳大尉に対し、鋭谷は笑いながら言葉を掛ける。

 

「でも、まだまだ足りませんよね」

 

BETAによって奪われたもの、失ったもの。二度と戻らないものはあまりにも多く、そして未だ奪われたままのものは幾らでもある。

 

「ああ、そうだ。あんな連中に奪われたままになどするものか」

 

「どうしたこんなところで。大岳大尉、鋭谷少尉?」

 

大岳大尉が呟き終わると同時に休憩室から佐伯中佐が現れる。その足取りはしっかりしたもので、彼女が手足を疑似生体に置き換えているなど一目で気付ける者は居ないだろう。

 

「はっ、雷について少々話し込んでおりました」

 

「そうか、体力が余っているようなら付き合わんか?漸く調子が出てきたんだ」

 

嬉しそうに笑う彼女の顔を見て、二人は思わず苦笑する。彼女の笑顔もまた取り戻せたものの一つであったからだ。それが思わず逃げ出したくなる程の訓練と共に帰ってきたとしても歓迎すべき事であろう。

 

「はっ!了解しました!」

 

「何処までもお供させて頂きます!」

 

そう言って彼等は一頻り笑うと、再びシミュレーターへと歩き出したのだった。

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