チート転生テンプレもの   作:Reppu

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今年最後の更新です。


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焼き付けるような暑さが支配し始めた6月のネバダ州、その一角に設けられた地下基地では、複数の男達が画面に映された図面を前に困惑していた。

 

「ハイネマン教授、これは一体?」

 

「一体も何も、見ての通りのだよ。本計画の目標である戦略航空機動要塞。その量産機の図面だ」

 

そう応えるとフランク・ハイネマン教授は機体についての説明を始める。

 

「試作機群を用いた試験で大凡のデータは揃った。要求されている今年度中の戦力化については試作1号から3号機を改修して充てるとしても、その後の量産機はアレと同じでは難しいだろう」

 

HI-MAERF計画によって生み出されたXG-70シリーズはその名が示すとおり、全高が130mに達する極めて巨大な機体だ。当初予定していた機能を満足させたことにより、現在人類が保有する戦力としては間違いなく最高クラスの性能を持つ一方、その生産性は劣悪の一言に尽きる。そもそもXG-70はハイヴへの単独侵攻及び制圧を目的としていたため、量産化されたとしてもその数は極少数であり、そのため性能を重視した設計となっているのだから無理からぬ事ではあるのだが。

 

「しかし教授。これは思い切りが良すぎるのでは?」

 

図面に描かれた寸法はどう見ても試作機の半分程だ、それでも気に入らないらしいハイネマン教授は鼻を鳴らす。

 

「これでもまだでかい。本当ならば戦術機くらいが理想なのだがね」

 

「確かに小型化は生産性を向上させるでしょう。しかしこれは些か…」

 

各人に配られた資料を眺めていた一人が唸る。それに続くように隣に居た別の者が口を開いた。

 

「搭載予定のVLSどころか防御火器の36ミリまで全て除外。主砲以外はカンパニー製の連装小型荷電粒子砲が僅かに2基。確かにこれならばペイロードは圧縮出来ますが、最初から積まない事を前提としては今後の拡張に不安が残ります」

 

そう懸念を示す男に、ハイネマン教授はつまらなそうに言い放つ。

 

「君、デパートとか好きなタイプかね?一つのものにあれこれと詰め込んだ所で良い結果になるとは限らんよ。兵器開発などその最たる例だ、限られたリソースを有効に活用する事が求められるんだからね。そもそも試作機に搭載した主砲と量産機に選定したものでは性能が違いすぎる、当然運用もだ」

 

威力こそ優越するものの、米国製の荷電粒子砲はカンパニー製のものに比べ遥かに完成度で負けている。特に収束率の調整が可能な点や、連射能力では足元にも及ばない。ハイネマンに言わせれば、あれこれと異なる武装を取り付けるより、この主砲を複数装備する方が余程柔軟に状況に対応出来ると確信していた。

 

「少々性急に過ぎませんか、教授。HI-MAERF計画は一度頓挫している。もう失敗は許されない」

 

「随分と暢気な発言だね」

 

深々と溜息を吐きながらハイネマン教授は続ける。

 

「この計画はのんびりと着実に進めるなんて贅沢はもう許されていないのだよ。何しろ人類は既に空飛ぶ荷電粒子砲を実用化しているんだからね」

 

彼の言葉に皆一様に黙り込む。昨年末にマンダレーで行われた反攻作戦。その最中に放たれた砲撃は国連から全世界に発信されており、当然のように彼等も目にしていた。悠々と空を進み、光条を放つその姿は正に彼等の思い描いた航空機動要塞の姿そのものだ。

 

「目撃された数、そしてこちらからの購入の打診に消極的である事を考慮すれば、カンパニーといえども容易に揃えられる兵器でない事が解る。そして今後合衆国が彼等と対等な関係を維持するには、これの量産配備が絶対条件だ」

 

既に戦術機という分野において合衆国は完全に後れを取っている。これ以上軍事的に後塵を拝したなら、政治面で影響を受けることになるのは明白だ。故に合衆国は独自に互角の兵器を配備出来る事を示さねばならない。

 

(幸いにしてミノフスキー物理学とやらは実物がある。リバースエンジニアリングは手間取るだろうが不可能ではない)

 

そして、カンパニー自体も軍事的一強になる事を忌避している節がある。でなければ態々弱みを握ってまで抱き込んだハイネマンを合衆国のプロジェクトにねじ込んだりはしないだろうし、国連から提供されたグレイシリーズを研究用と称して融通するなどあり得ない。

 

「最低でも年内に量産1号機を飛ばす。諸君もそのつもりでいてくれ」

 

ハイネマン教授は強く言い切った。

 

 

 

 

石見安芸は良くも悪くも今時の少女であり、その思考は年相応のものだ。はっきり言ってしまえば武家としての自覚も希薄で、幼い頃から許嫁が決められている友人の能登和泉や、譜代武家としてお堅く生きている篁唯依の生き方を、他人事として眺めながら生きてきた。だから突然自分が有力者の許嫁候補として送り出されると聞いた時も今一実感が湧かなかったし、その送り先で凡そ婦女子に味わわせるべきでない訓練を指示された際には、反感すら覚えた。

 

『ドーター6!空間識失調時は計器をよく見ろ!戦術機は貴様よりも遥かに正確だ!』

 

「ど、ドーター6っ!了解!」

 

急な加減速と複雑な機動を行う戦術機は、陸上で戦う兵器でありながら空間失調の危険を孕んでいる。特に雨天や降雪といった視界が著しく制限される環境では顕著で、安芸自身、既に5回地面に突っ込んでいる。

 

「ミギカラクルゾ、アキ」

 

「うわっち、こんのぉ!」

 

目の前のモニターにソリッドで構築された画像が重ねられ、低下していた視界が補正されると同時、言葉通りに機体の2時方向から突っ込んできた突撃級へと安芸は銃口を向けトリガーを引く。ビーム兵器独特の発射音が連続して響き、ビームマシンガンから放たれた弾丸は素早く突撃級の命を刈り取った。

 

「マダクル!マダクル!」

 

「解ってるよ!」

 

『ドーター3よりドーター5!ドーター6をカバー!ドーター7は12時方向要撃級を制圧!』

 

『『了解っ!』』

 

思わず怒鳴りながら安芸は内心歯噛みをする。友人達で編成された第一小隊。彼女はその中で唯依に次いで衛士適性が高いことが密かな自慢だった。機体の操作に慣れるのも早かった為、寧ろ訓練当初は志摩子や和泉に教えていた程だ。だと言うのに。

 

「邪魔すんなぁ!」

 

叩き付けた95式追加装甲が外殻を破壊し、突撃級を縫い止める。藻掻くそれを強引に押さえつけながら、その後方から迫っていた個体を射撃で吹き飛ばした。

 

『ドーター6っ!チェック3!!』

 

志摩子の悲鳴じみた声と同時に機体に衝撃が走る。視界が回転し、僅かな衝撃の後目の前一杯に曇天が広がる。その時になって安芸は、自機が突撃級に吹き飛ばされ仰向けに転がされたのだと理解した。

 

『ドーター6!安芸っ!早くっ――』

 

焦りからコールサインではなく名前を呼んで来る志摩子の声を何処か遠くに聞きながら安芸は唇を噛みしめる。モニター一杯に群がった要撃級の前腕が連続して振り下ろされ、彼女が戦死判定を受けたのは2分後の事だった。

 

「なんだよ、もうっ!」

 

解りやすくロッカーへ八つ当たりをしながら、石見安芸は涙をにじませた。強化装備を脱ぎもせずそうしていると、更衣室のドアが開き賀東教官が入って来る。そして彼女を見るなり感情のこもらない声音で言い放つ。

 

「何をしているのです、石見候補生。デブリーフィングまで時間がありませんよ」

 

「…すぐ行きます」

 

そう口にはするものの動き出さない安芸を見て、賀東教官が溜息を吐きながら口を開いた。

 

「不満があるならば聞きますが?」

 

建前上、安芸達は新しい衛士育成カリキュラムの検証モデルと言う事になっている。そのため研修内容に関する意見は生徒側である彼女達にも出す権利が与えられていた。

 

「いえ、ありません」

 

「不満の無い態度には見えないから聞いているのですけれど?」

 

そのあけすけな物言いに、この半年程で鬱憤を溜めていた安芸はとうとう切れた。

 

「じゃあ言わせて貰いますよ。なんで私がこんな目に遭わせられなきゃならないの?」

 

武家と一口にくくるのは簡単だが、その内情は様々だ。特に家格の低い外様は顕著で、国からの優遇を受けても、それなりに裕福な一般家庭と同レベルという家も多い。

 

「それは貴女が武家の娘で斯衛の候補生だからでしょう?」

 

安芸の言葉に賀東教官が呆れた様に返す。だがヒステリーを起こしてしまった安芸には通じない。

 

「義務、義務って!ただ武家に生まれたってだけでなんでそこまでしなきゃなんないのさ!親藩や譜代の家みたいに贔屓されてるならまだしも、ウチなんて大した優遇もされてないのに!」

 

それは武家の人間として、禁句とも言える言葉だった。しかし、同時に外様の子供達の大半が持っている潜在的な不満とも言えた。幼少期から家格による上下を見せつけられて育つ彼女達にとって、優遇されている武家と言うのは譜代以上の明確に差を感じさせる者達であり、武家でない家庭でも同じ生活が送れる自分達が特別であるという認識は薄い。そのため武家の責務や義務というものに対する責任感も希薄だ。

 

「いきなり良くわからない男の妾になれ?でなきゃ前線送り!?私が一体何をしたって言うんだよ!!」

 

先日斑鳩中佐から伝えられた内容は、候補生達にも伝えられている。それが彼女が爆発した原因であると推察しつつ、賀東教官は黙って見つめていた。正確に言えば沈黙を守らなければ、罵声と共に目の前の少女の頬を張ってしまう衝動を抑えられそうになかったのだ。成程、安芸にも一理はある。15の小娘に抱えさせる荷物としては重すぎるだろう。だがその言葉には、彼女の言う大した事の無い優遇を一体誰が補っていて、同じ程度の生活のために一般人がどれだけの努力を必要とするのかという思慮が致命的に欠落していた。

 

「良く解りました。貴女の意見は長谷川様に伝えておきます。着替えて早く部屋へ向かいなさい」

 

そう言い残して賀東教官は出て行く。残された安芸はベンチへ座り込むと、堪えきれずに嗚咽を漏らす。人気の無いロッカールームには静かにその音だけが流れていた。




では皆さん良いお年を。
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