チート転生テンプレもの   作:Reppu

43 / 60
本年もよろしくお願いします。


43

「他の子はどうなの?」

 

報告に来てくれた賀東さんにそう聞くと、如何にも敏腕秘書という感じで彼女は答える。

 

「はい、丹波候補生と周防候補生にも同じような兆候が見られます」

 

8人中3人か、半分近く駄目とか完全に失敗じゃねーか。

 

「困ったね。それにしても普通の衛士訓練校は凄いな」

 

技量的に落とさざるをえない人間以外は殆ど卒業できるとか、流石は専門機関だなと称賛したら賀東さんに微妙な顔で否定された。

 

「既存の衛士訓練校は薬物による感情抑制と催眠処置を前提にしていますから、心理的問題は基本的にない事になっています」

 

戦場に出ればそうした処置は当たり前だから、訓練校の段階でそっちの適性も見極めてるとか何とか。んで、中には耐性が低くて心身共にやっちゃう訓練生も出るらしいんだけど、薬物の使用を止めるわけにはいかないから、別の理由をでっち上げて退校処分にしてるらしい。なにそれ怖い。

 

「まあ、これまでの環境だと致し方ないのだろうね」

 

何せ薬物による問題が顕在化するよりも早く衛士が消耗されるからな。数を維持するにはそんなずっと後の事なんて気にしている余裕も無かったのだろう。だが今後もそれでは困る。何せ衛士の育成には馬鹿みたいに金がかかるのだ。たかだか20回程度の出撃でベテラン扱いなんて勘弁して欲しいし、初陣で大半が8分も持たずに戦死するなんて笑い話にもならない。何か良い案があるかと訪ねると、賀東さんは少し顎に手を当てた後に口を開いた。

 

「戦術機の搭乗適性が大幅に緩和されていますから、以前よりも衛士候補そのものの分母は大きくなっています。同時に第四世代機が主流となりつつある現状では既存の衛士の在任期間の長期化も期待出来ますね。むしろ薬物処置に頼らなくてもよいメンタルが重要な選考基準になるのではないでしょうか?」

 

「つまり、むしろ現状のカリキュラム内容で問題無いと」

 

「はい、速成で使い物になる衛士を前線に送ることを考えれば。という但し書きが付きますが」

 

今俺達がやっている訓練は、俺が仮想空間で受けたブートキャンプの超簡易版と言えるものだ。これは乱暴な言い方をすれば上官の命令を忠実に熟すことが出来る兵士を生産する訓練で、既存の衛士育成のカリキュラムに比べ操縦技能を重視した分、作戦立案や部隊指揮といった部分を大幅に削っている。なんでこんな極端な事をしたかと言えば話は単純で、新兵の育成期間が圧倒的に不足しているからだ。何しろ兵士としての訓練をしつつ、分隊指揮についても同時に学ぶという悪魔のようなスケジュールだ。それを僅か3年でやれと言われれば、兵士の質だって下がるというものである。尤もこれはBETA大戦においては許容しなければならない問題でもある。何せ投入した戦術機部隊が小隊単位で喪失するのが恒常的に起きるのだから、部隊単位での補充が標準的な戦力の回復手段になる。加えてBETA相手の戦闘は高確率で乱戦となるため、小隊長が指揮に専念出来る状況の方が希なのだ。そのような状況下でも統制を失わず、かつ連携が取れるようにという事から決定された教育内容なのだ。つまり、個人の技量なんて多少良くなっても物量の前には無力だから、それよりも連携能力を強化して部隊単位の生存性を上げようという方針なのだが、ウチ製の戦術機や攻撃機が出回った事で環境が大きく変わっている。

まず、損耗を補填するための部隊の入れ替えが大幅に減り、多くのベテランが生存する環境が整いつつある。このため多数の新兵を少数のベテランがお守りをするという状況が減っていて、新兵が隊を掌握しなければならないということ自体が起きなくなっている。加えて新型戦術機による強力な火砲の先制打撃と堅牢な防御能力による被撃墜リスクの低下は部隊全体に余裕をもたせ、指揮官が部隊指揮に専念出来るようになりつつある。こうした変化に伴い、新兵に求められる能力も未熟ながら何でもこなせる器用貧乏よりも、ベテラン指揮官の指示内容を忠実に実行できるプロフェッショナルの方が都合が良くなってきているのだ。無論全部出来た方が良いのは変わらないから訓練期間が今より大幅に延長されればそうした教育もするのだが、現在の3年では一人前に戦術機を扱えるようにする程度が限界だし、更に短い1年でどうにかしろなんて言われたら推して知るべしというものだ。

 

「訓練について行けないのなら仕方がない。と言いたいけれどね」

 

問題はその後の彼女達の処遇だ。落第して転科処分ならば良い。現状斯衛の機械化歩兵部隊が前線に展開するなんて事は絶対にあり得ないからだ。最も悪いのは、斯衛流に再教育をされて戦場に放り出される事だろう。何せ旧式の強化装備を身につけさせれば、遠隔で薬物投与や催眠処置の発動が可能なのだ。このまま放り出せば確実に薬漬けの衛士モドキに仕立て上げられるに違いない。何しろただでさえ使い捨て感覚で送られてきたような子達だ、城内省の良心に期待する方が間違っている。俺は深々と溜息を吐き、結論を下す。

 

「安請け合いはするもんじゃないね。精神面はともかく技量は高い、そして年齢的にもまだまだ伸び盛りだ。是非ウチの社員に欲しい」

 

そう言うと驚いた顔をする賀東さん。

 

「随分買われているのですね」

 

いいえ、ただの言い訳です。

 

「今から育てていけば、アグレッサー役には適任だ。新型のテストパイロットも多い方が何かと都合が良いしね」

 

ついでだから暫く戻らなくて良い理由もでっち上げようか。

 

「それから空間運用試験が最終段階に入っていたよね?確か最後は有人での運用試験だったと思うから、彼女達に参加して貰おう」

 

勿論そんな試験なんてしていない。

 

「承知しました。ニューエデンに彼女達の宿舎を用意いたします」

 

ルクレツィアの言葉に黙って頷く。ニューエデンは国連に解放している方のコロニーだ。そちらで活動すれば対外的に非常に有名になる事は間違いない。そうなればいくら城内省でも簡単に返せとは言えないと思いたい。

 

「…お手つきにはしてあげないのですか?」

 

賀東さんの問いに俺は眉を寄せた。それが一番簡単な取り込み方だとは解っているんだけどさ。

 

「何度も言うけど、嫌がる娘を無理矢理手篭めにして喜べる程悪趣味じゃないよ」

 

まあ、本人達が承知しているなら、将来的にそう言う関係になるのは吝かじゃないけどね。俺だって性欲はあるし。

 

「ではそちらも覚悟しておいて下さい」

 

さらりととんでもない事を言ってのける賀東さんの顔を思わず見てしまう。あかん、あれは本気で言っている目だ。

 

 

 

 

「ねえ、長谷川会長って本当に人間?」

 

支給されたパソコンを前にミラ・ブリッジスはそう口にする。それに反応したのは横に座る新名菖蒲だった。

 

「なんですか、いきなり」

 

「ノワキは辛うじて納得できる範囲だわ。革新的すぎる技術に目を瞑れば、あれはまだ戦術機の範囲だもの。けれどイカヅチは完全に異質よ」

 

「それは確かに、根本から構造が違いますけど。それが何故会長が人間かなんて話になるんですか?」

 

険しい表情でモニターを見つめるミラに対し、新名が問い返す。

 

「貴女達は少しここに染まりすぎているみたいね。見てご覧なさい」

 

そう言ってミラは映し出されているイカヅチの3Dモデルを指した。

 

「この機体はBETAとの戦闘を想定して設計されていないわ。そうね、少なくとも自機と同程度のサイズ。いえ、恐らく自機と同じ兵器と戦う事を想定して設計されている。合衆国ですら従来機の延長に付与した能力を、この機体は前提にしているのよ」

 

言いながら彼女は手早くモデルを操作し内部骨格のみの姿に変える。

 

「それだけじゃないわ。イカヅチには不自然な接続や内部スペースが存在するのよ。まるでこの形以外にも姿があるみたいにね」

 

「別の姿?」

 

ミラの突飛な発言に新名は目を白黒させながら、何とかそれだけを口にする。彼女は決して愚鈍な人間ではないが、流石に戦術機が変形するなどというのは想像の埒外だったのだ。むしろ変形という概念を思いつけたミラが異質と言えた。

 

「非常識な技術にばかり目が向いているけれど、彼の本当に奇妙な点は私達人類が持っていない概念を成熟した状態で世に送り出している事だわ。貴女達が設計したっていうショウキだってそうよ?機体そのものを全てコンポーネント化して組み替えて運用しようなんて、普通思いついても実行しないし、実用出来る兵器にするまでにどれだけの予算と時間が掛かるか想像も付かない。けれど貴女達が設計する段階では既に規格が整えられていて、部品が即時要求できるだけの用意が出来ていた。もう一度言うわね、彼は本当に私達と同じ人間なのかしら?」

 

「長谷川会長がBETAだとでも言うんですか?」

 

ミラの真剣な表情に新名はそう言い返した。彼女にとって解りやすい異質な存在がそれだったからだ。新名の言葉にミラは肩を竦めて口を開く。

 

「もしそうなら人類はオシマイね、BETAに頼ってBETAと戦ってるんですもの。でも案外合っているかもね?」

 

「どう言うことです?」

 

「人類に敵対的な異星起源種が居るなら、友好的な宇宙人がいてもおかしくないんじゃないかってこと。…だから気をつけた方が良いわね」

 

理解できていない新名に対し、ミラは真剣な表情で告げる。

 

「姿形が同じでも、彼が私達と同じ論理で動いているとは限らないという事よ。もし無自覚に彼の逆鱗に触れてしまって人類の敵になんてなられたら?笑い話にもならないわ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。