チート転生テンプレもの   作:Reppu

44 / 60
44

八月のアラビア半島は文字通り刺すような陽光に照らされていた。その中を砂塵を巻き上げながら光沢を放つ白色の機体が疾駆する。旧ティグリート近郊、かつてユーフラテス川の側で栄えた町は瓦礫一つ残さず均されている。その風景へ無感動な視線を送りながら、ヴォークリンデは僚機へ通信を行った。

 

「周囲の敵性反応消失。北上しますか?」

 

『いえ、このくらいで良いでしょう。あくまでこれは助攻ですし』

 

『意見具申、ボパール攻略後はアンバールへの攻撃が想定されます。可能な限り侵攻すべきだとヴェルグリンデは思考します』

 

『けれどヴェル姉様、既に手持ちのグランドソナーは20%を切っています。これ以上防衛線を拡大しても維持が困難であるとフローズヒルデはそう判断します』

 

悩ましい所だとヴォークリンデは考える。ここ二ヶ月の戦いでアラビア半島全域のBETA駆逐には成功した。共同で戦線を構築している聖戦連合側も順調で、現在人類はユーフラテス川沿いまで戦線を押し上げる事に成功していた。カンパニーはバグダットとバスラに要塞を構築中で、バグダット要塞が完成すればアンバールに存在するH09の喉元に迫ることになる。問題は先ほどのフローズヒルデの言葉通り、物資が不足し始めている事だろう。想定よりもBETAの再侵攻が激しく、敷設したグランドソナーが頻繁に破壊されているのに加え、聖戦連合側の支援に陸上戦艦と攻撃機を投入したために、弾薬も不足し始めている。本部へ物資の追加は申請しているものの、あくまでボパール攻略のための助攻である事を考慮すれば、こちらに物資を回すために本作戦が遅延しては本末転倒だ。そしてどうやら長女もヴォークリンデと同意見のようで、諭すようにヴェルグリンデへ口を開いた。

 

『ヴェルグリンデ。気持ちは判りますが、フローズヒルデの言うように手持ちの戦力もそろそろ不足し始めます。本部から増援が望めない現状、あまり燥ぎ過ぎて余計な厄介ごとを呼び込むべきではありません』

 

既に目立つ機体を駆る彼女達は、その圧倒的な戦闘能力と相まって聖戦連合の士気を大いに上げている。だが、其の所為でハイヴ攻略を夢想する者が激増したことで、聖戦連合内の統制に綻びが生まれつつあった。特に問題なのがイラクやシリアの部隊で、彼等はカンパニーの戦力を中核としてハイヴ攻略を主張している。だがヴェルグリンデ達にしてみれば、満足に包囲も出来ない現状では反応炉の破壊で手一杯になる事は目に見えていた。しかも現在行っている間引きの状況からすれば、アンバールには想定よりも遥かに大量のBETAが存在している可能性が高い。反応炉破壊後にそれらが別ハイヴへ逃亡する事は確実で、最有力候補は最寄りのボパールになる。

 

『こちらもこちらの都合で攻略目標を決めていますから、彼等の主張が解らないではないのですけれど』

 

困った声音でそうアリスが溜息を吐く。彼女の言う通り眼前に故郷の奪還という悲願がちらつけば、冷静でいられないのも頷ける話ではあるのだ。

 

『悩める状況ではないとフローズヒルデはそう考えます』

 

『肯定、こちらの戦力を中核などと言っていますが、事実上攻略に必要な戦力の80%以上をカンパニーが負担する必要があります。ならば我々の都合が優先されて然るべきだとヴェルグリンデも考えます』

 

『結論が出ましたね。今日の間引きはここまで、基地に帰還しましょう。全機警戒は厳に』

 

『『了解』』

 

結論が出てしまえば元AIである彼女達の行動は早い。即座に陣形を組み直すと、基地へ向かい移動を開始する。その最中、ヴォークリンデは部隊長にして長女たるアリスへ向かって通信を送った。

 

「アリス姉様。先ほどの増援の件ですが、何とか戦術機、可能であればビーム兵器対応型を送って頂く訳にはいきませんでしょうか?」

 

『貴女も気になりますか、ヴォークリンデ』

 

返ってきたアリスの言葉に、ヴォークリンデは自然と頷いた。

 

「はい、率直に申し上げてこの地のBETAの行動は異常です。当初はこちらの戦力不足によるものかと考えたのですが」

 

『それにしては反応が鈍すぎる。そう言いたいのでしょう?私もそう思います。連中は愚かではありますが、無知ではない。少なくとも二ヶ月に渡って何の対策も無く戦力を削られ続けるなんて事は、月ではあり得なかった』

 

「ハイヴ内と外部の違いとも考えましたが、それにしても対応に時間が掛かりすぎています」

 

雲霞のごとく押し寄せるBETAの大群を、この地で吹き飛ばした回数は既に10を超える。だというのに連中は変わらない編成と戦法でひたすらに押し寄せてくるのだ。それを笑って見過ごせる程彼女達は楽観的ではなかった。

 

『私達はどうとでもなるでしょうが、問題は聖戦連合の方ですね』

 

何しろ個体の戦力で評価するならば彼女達は間違いなく地球上で最強であるし、彼女達が率いている戦力は全てカンパニーで製造されたドロイドだ。壊滅的な被害を被ったとしても人的被害は皆無であるし、その様な場合でも彼女達だけならば逃亡も容易だ。何しろ人目さえ気にしなくて良いのなら、雷は無補給で地球を一周しても御釣りが来る航続力を有しているからである。だが聖戦連合側はそんな都合の良い集団ではない。

 

「仮にこの行動が連中の戦術であるならば、彼等が狙われる可能性が高いかと。その場合、現状の戦力だけでは対象の完全防衛は不可能と言わざるを得ません」

 

現在彼女達は4個師団の戦力を有しているが、その内3個師団は攻撃機の部隊だ。機動力と打撃力に優れる一方で弾薬の消耗が激しく、継戦能力に劣る攻撃機はその名の通り攻勢には向くものの、防衛目標を抱えた上での守備には不安が残る機体である。無論カンパニーから支援を受けている聖戦連合の戦力が無力な訳ではないが、BETAがこちらの想定を超えた何らかの攻勢に出た場合となれば、耐えきれると考える方が楽観に過ぎるだろう。

 

『そうね、旧型機を配備している部隊を確認して、緊急時には即応出来る位置へこちらの戦術機部隊を配置しましょう。増援は野分ならば幾らか余裕があるかもしれません。木星輸送船団の増強も今回のポイントで行ったそうですから』

 

その言葉にヴォークリンデは少しだけ自身の気持ちが上向くのを感じた。雷を含む核融合炉搭載兵器の問題点であったヘリウム3の獲得状況は順調に改善されつつある。カンパニーの戦力が本格的に雷へ移行するのにそれ程時間は掛からないだろう。そう考えていると、珍しく喜色を含んだ声音でヴェルグリンデが告げて来た。

 

『報告。共有データベースの更新を確認しました。ブリッジス女史の担当していた新型機の基礎設計が完了したようです。これは我々にとって吉報であるとヴェルグリンデは判断します』

 

『例のML機関搭載機ですか』

 

報告を聞いたアリスが感嘆の声を上げた。ミラ・ブリッジスがカンパニーに本格的に参加するようになってまだ3ヶ月だ。戦術機の設計が年単位の時間を要する事を考慮すれば正に驚異的な開発速度と言えた。尤もミラに対してそう称賛を送れば、彼女は苦虫を噛み潰したような表情になるかもしれない。何しろカンパニーが用意している設計環境は、たった1年で数十機のMSを設計してのけたCAD・CAMシステムを中心としているからだ。このシステムの特徴は、内包されたデータベースに基づき、殆ど全ての設計を自動で行える事だ。極端な話、設計者が目標とする数値を打ち込めば、材料の選定から形状の決定までを過去のデータを参考に全て行ってくれるのだ。ミラ達の様な開発者にしてみれば、システムが出した結果をかすめ取って称賛された気分になるだろう。

だが実際は異なる。何故ならデータベースに存在しない機構や構造は設計者が構築する必要があるし、各種パーツが勝手に描き上がったとしてもそれを最終的に一つの機体としてまとめ上げるには、やはり設計者の手が必要になるからだ。特に人が乗り込んで扱う装備となればその傾向は顕著だ。利用者の言語化、数値化出来ない要求をくみ取って機体に反映させるなどという事は、未だシステムには荷が重い作業である。

 

「まだ空間跳躍能力は獲得していないようですが、ラザフォード・フィールドの存在は魅力的ですね」

 

『ええ、ただ問題はグレイ・イレブンの安定供給でしょうね。太陽系内でそれなりに確保出来るといっても無尽蔵とはいきませんし。正直に言って核融合炉搭載機と同等の生産性を獲得出来るのは随分先になりそうですね』

 

そもそも現状カンパニーは表向きグレイシリーズを保有していない。例え完成しても投入出来るのはボパールのH13以降だろうとアリスは続ける。

 

『雷も良い機体ですが新型機も気になります、とフローズヒルデは期待します』

 

『同意、雷は既に私達の反応速度に対し遅延を発生させています。状況改善の為にも新型機の受領をヴェルグリンデは強く希望します』

 

『伺ってはみましょう。けれど今は目の前の事に集中なさい』

 

妹二人の言葉にアリスは苦笑しつつ、そう戒めの言葉を放つ。ヴォークリンデも気を引き締めつつ、その言葉に深く同意した。扱いを間違えれば人類を滅亡に追い込みかねない力を持つ兵器。それを操ると言うならば、せめて人類の守護者を嘯ける程度の義務は負うべきなのだから。




私生活が少々立て込んでおりまして、更新が不定期になります。
大変申し訳ありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。