強張った顔で無理矢理笑みを浮かべながら、こちらを見つめてくる山城上総を前にして、俺は内心で溜息を吐いた。城内省さぁ、もうちょっと人選何とかならんかったのかい?
「如何でしょうか」
そう口にする彼女に向かって、俺は腕を組みながら言い返す。
「如何と言われてもね。我が社としても信頼して預けて頂いている以上、そう簡単には頷けないよ。それに君はまだ未成年だろう?」
そう俺が言えば、山城候補生は挑戦的な笑みを浮かべた。
「ええ、長谷川様が女好きと言う噂を信頼して預けられておりますね。お手つきどころか誰一人口説かれてもいない現状に今頃大いに焦れている事でしょう」
「君は中々良い性格をしているね」
「お褒めの言葉と受け取らせて頂きます。どうでしょうか、私を雇っては頂けませんか?」
「簡単に言ってくれる」
そう言って隠しもせずに俺は溜息を吐くと、彼女は笑みを崩さぬまま言葉を続けた。
「既に石見さん達と言う前例があります。それにこれはカンパニーにとってもメリットがあると自負しております」
ほほう。
「いいよ、続けて?」
「私達が新カリキュラムのテストケースとして訓練を開始して10ヶ月が経過しました。けれど長谷川様が望んでいる及第点に届いている者は一人も居ない。戦場見学に連れて行けるボーダーに私と篁さんがギリギリ引っかかっているという所でしょうか?けれど後2ヶ月で約束の期限です。宇宙の石見さん達はともかく、残った人間は戦場に送らない訳にいきません。そこで私です」
「正直に言えば賢い選択とは思えないよ」
元々彼女達を戦場へ送り出すと言うのは、俺が手を出しやすくするために付け足された要因に過ぎない。最悪全員俺が気に入ったことにしてしまえば良い話でもある。ただその場合戦場へ出ない代わりに彼女達の価値は終わる。複数の少女を喜んで手元に置く好色家の下にいた娘が身綺麗なままだなどと思う程世間は優しくないし、面子で生きている連中のお下がりに対する扱いなど想像に難くない。そして厄介なのが、この世界を救ったとして、その後俺はどうなるのかが全く不明だと言う事だ。俺は良い。どうせ偶然拾った命だ、消えてしまったとしてもこの巫山戯たバッドエンドの世界を変えられたなら価値もあると思える。けれど残された彼女達はどうなる?そう考えてしまうと、ハーレムだなんだと浮かれられる程俺は楽観できない。
「そうでしょうか?押しつけられた事とは言え、与えられた任務を果たすことなくおめおめと戻った外様の小娘の扱いなど容易に想像がつきませんか?」
「良案だと判断します。お受けしましょう、長谷川様」
だからといって徒に戦場に放り込むのも違うと考え、思い悩んでいると横からそう声がした。見れば替わりのお茶を淹れてくれたルクレツィアが、カップを置きながらそう微笑みながら口を開く。
「いずれにしても後進を育てることは重要です。彼女は兵士以外でも優秀な人材ですからこれは我々にとっても十分に良い取引です」
「酷い話だ」
優秀な人材を手元に置くために斯衛から引き抜く。どう言ったところで気に入った娘を囲う外向けの言い訳にしか聞こえない。だが、少なくとも彼女達を送り込んできた連中の目的は達成される。そうなれば残りの子達にも可能性はあるわけだから、無理に戦場へ送るよりも出来るだけ長くカンパニーで研修させた方が得策だと考えても不思議ではない。そこへこちらから訓練期間の延長を申し込めば喜んで首を縦に振るだろう。カンパニーというか俺のメリットは、彼女達を危険に晒さない事と、しっかりこちらに染まった人材を帝国内に送り込めるという点だろうか。こちらからの持ち出しが多いように思えるが、元々真面目に商売をしている訳でもない。
(それにもうちょっと隙を見せないといかんしなぁ)
少し前にルクレツィアから報告があったブリッジス女史の発言を思い返して、密かに溜息を吐く。チート使ってるから気味が悪いと思われても仕方ないけど、BETAモドキ呼ばわりはあんまりだよ。俺ってそんなに人間味が薄いかね?気になって山城さんをつい見てしまうが、そこには変わらず笑顔で座る彼女がいるだけだ。うん、わかんね。
「確かに、時間は有限なんだから後任は必要か」
大きく息を吐きながら、俺はそう納得する。正直そっち方面の技術も少しずつ獲得はしているから、その気になれば100年単位での延命も出来る。ただまあ施術後はナニカサレタ状態に極めて近いので、万一にも模倣されて粗悪品の量産なんぞされたら目も当てられない。故に出来れば本当に最後の手段にしたいと言うのが俺の考えだ。諦めと妥協のない交ぜになった気持ちで端末を操作していると、山城さんちの娘さんがトンデモねえ事を口走る。
「あら、手は出してくださらないのですか?」
「っ!?」
含んでいたお茶を強引に飲み込んで噴き出すのを堪える。いきなりなんば言いよっとね、この娘っこは!?
「冗談にしてもそういうのは感心しないな」
平静を装ってそう返すが、彼女は笑みを崩さぬまま答える。
「本気ですよ。少なくとも伺っていたような方ではない事は理解しましたし。それに…」
「それに?」
「誰かの御負け扱いは真っ平御免ですが、正室なら射止める意味も価値も十二分過ぎます」
そう言って笑みを深める彼女を見て、俺は心底女って怖いと思うのだった。
国連所属スペースコロニー、ヘイヴン1。日本帝国から貸与されているこのコロニーには幾つかの進入禁止区域が存在する。その一つであり、カンパニー専用の宇宙港である、第6宇宙港に石見安芸は立っていた。
「アキ、ネルナ!ネルナ!」
足下を転がっていた緑色の球体ロボットがそう姦しく騒ぎながら耳のようなパーツを使って器用に飛び跳ねる。安芸は溜息を一つ吐くとそれを睨み付けながら口を開いた。
「うっさい寝てないよ。てかアンタも美波や蘭子の子みたいに大人しくしてろ!」
そう言って視線を向けた先には困り顔で立っている同級生、正確に言えばカンパニーに嘱託として斯衛から名目上派遣されている同僚の丹波美波と周防蘭子の二人が居た。彼女達も同じように緑色の球体を抱えてはいるが、どちらも大人しく腕の中に収まっている。
「元気なのは好い事じゃないかな?」
「ペットは飼い主に似ると言いますし」
「蘭子、それは私がやかましいと言いたいのかな?」
「「あはははは」」
否定せずに控えめな笑い声で応じる二人に安芸は盛大に肩を落として見せる。その程度の冗談が通じる程度には、彼女達は打ち解けていた。
「それにしてももう実機が届くなんて、カンパニーの技術はどうなっているのかしら?」
話題を逸らそうと考えたのか、丹波がそう口にする。
「確かにね。毎年新型機を造るとか、コロニーだっけ?こんなの宇宙に浮かべちゃうとか滅茶苦茶だよ」
「その恩恵に与っている身としては正直有り難い半分、恐ろしさも感じるわね」
抱えている球体ロボットを撫でながら周防も溜息交じりに丹波と安芸の言葉に同意してきた。それに対し安芸達も頷いて見せる。異質な存在であったカンパニーは、内に入ってみれば最早滅茶苦茶としか表現の出来ない組織だった。どこからともなく湧いてくるとしか表現の出来ない資源を背景に大量の兵器群を生産しているだけに留まらず、聞いた事も無いような技術や新素材を保有しているなどという、外からでも解る部分のおかしさなど彼等にしてみれば、見せても構わない程度の異常さだったのだ。兵器が全て完全に自動生産されている上に、それを扱う側ですら、ほぼ全てがドロイドと呼ばれる人間大の自立作業機によって賄われていると知った時の彼女達の衝撃は計り知れない。
「もう全部カンパニーに任せちゃえば良いんじゃないの?」
その事実を伝えられた瞬間、安芸などは思わずそう口にしてしまった程だ。今でこそ失言であったと理解し、恥じてもいるが、当時の彼女の心理状況からすれば無理からぬ言葉でもあった。何しろすでに人命を危険に晒さずとも良い方法が確立されているのだ、なのに何故自分達が辛く苦しい思いをしなければならないのかと考えるのは自然な反応とも言える。それに対して長谷川代表は困った顔をしながら諭すように言葉を紡ぐ。
「もし私が神様みたいなものだったら、あるいは君の願いを叶えてあげられたかもしれない。けれど残念ながら私はちょっと特殊でもただの人間でね。永遠に生きられるわけでも無ければ無限に技術を生み出せもしない。それにね、情けない話私自身が私を信用しきれないんだ。ある日突然人類を見限って自分だけ逃げる。そんな可能性を否定しきれない以上、私が居なくても人がBETAと戦い続けることが出来るだけの道筋くらいは残すのが、せめてもの仁義と言う奴じゃないかと思うんだ」
「強いよなぁ」
エアロックを抜けて宇宙港へ静かに入港してくる宇宙戦艦を見ながら、長谷川の言葉を思い出し安芸が呟く。我が身可愛さに訓練から落とされることを承知した安芸達にとって、その姿はとても眩しく見えた。そしてそれは確かな火種となって、残っていた彼女達の自尊心を熾らせた。
「すぐ戻るなんて、虫の良いことは言えない。けど必ず」
仲間の下へ戻る。最後の言葉を安芸はそっと胸に秘めた。今の自分にそれを口にする資格は無いと思ったからだ。
「まずはこの任務を完璧にこなす。話はそれからだ」
飛び回っていた球体ロボットを捕まえると、安芸は力強く一歩を踏み出した。
肉体労働職に転向したためライフが尽きています。
申し訳ありませんが再開は今暫くお待ちください。