チート転生テンプレもの   作:Reppu

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重慶。かつて長江と嘉陵江との合流点に栄えた都市は、今やその名を地図にのみ残している。BETAとの戦いにより荒廃した都市は、その後居座った彼等により、文字通り根こそぎ均されてしまったからだ。そこへ我が物顔で屹立する、醜悪なオブジェの監視映像へ視線を送りながら、ホワン大佐は方面軍司令の言葉を思い出していた。

 

「国連軍から正式に連絡があった。彼等のボパール攻略は2ヶ月後だそうだ」

 

妥当な判断だとホワンは考えた。BETA共と重金属のおかげで大陸の気象状況はひどく悪い。重慶などの内陸部は比較的影響が少ないが、海岸からの影響を受けやすいインド亜大陸は気温が上昇するこれからの季節、正に滝のような豪雨に連日見舞われる事となる。視界不良もさることながら、BETAによって削られた大地は水はけも悪く容易に戦場を水没させる。戦術機を運用する人間からすれば、控えめに言っても遠慮したい環境だ。それを考慮すれば、4月と言う日程は天候の影響を受けにくいギリギリのタイミングである。本格的なハイヴ攻略のために、目一杯戦力を整える腹づもりなのだろうとホワンは推測した。

 

「かの企業には我々も並々ならぬ借りがある。そこで我が軍はボパール攻略の側面支援として、重慶への大規模攻勢を行う事が決定した」

 

(そう来たか)

 

歪みそうになる表情筋を精神力で強引に彼女は抑え込んだ。73年のBETA地球到達以来祖国は苦汁を飲まされ続けていたが、カンパニーの支援を受けて以降劇的に状況は改善している。そう、国家としての面子を取り繕おうと欲を出すくらいには。

 

「それは従来よりも1歩踏み込んでの間引き、と捉えて宜しいでしょうか?」

 

現在でも定期的な間引きは実施されている。それも従来よりも早いサイクルでだ。これは野分の配備が進んだ事に加え、既存の他兵科も鍾馗に更新されつつあるからだ。

 

「ああ、大筋はその認識で構わない。懐にも余裕ができつつあるのだ、恩返しもすべきだろう」

 

野分と鍾馗の配備によって人的損耗もさることながら、劇的に改善したのは装備の喪失量だろう。何しろ出撃すれば半分も帰還しないことがザラにある機甲部隊や、間引きにおいては損耗が跳ね上がる戦術機の喪失数が文字通り桁違いに減ったのだ。同じ補給であっても、新造と補修部品のみでは生産にかかる負担も大きく変わる。補充の負担低減は新規配備数、機体更新の拡大へとつながり、より拡充された戦力により被害が更に減ると言う好循環が生まれつつあった。

 

「これの性能も良好なのだろう?」

 

そう言って司令官は手にした報告書を振ってみせる。そこには97式戦術突撃砲という名が記されていた。

 

「はい、10%近く弾薬の使用量が減っております。射程が延びた事が大きいようです」

 

97式は今年に入って本格的に配備の始まった統一中華戦線の新型突撃砲だ。新型とは言うものの、使用弾薬は共通弾薬の36ミリ、基本的な構造も従来の82式と大きな変化は無い。では何が変わったかと言えば、銃身の延長と銃床部の延長という一見僅かなものだが、その効果は劇的だった。理屈としては単純である。そもそも既存の突撃砲は36ミリ砲弾の能力を殆ど発揮していないからだ。支援突撃砲を見れば解るとおり、本来36ミリは戦車級以下の小型目標に対してならば10000mの有効射程を確保出来るだけの性能が与えられている。ところが突撃砲ではその半分にも満たない能力しか発揮していない。それは何故か、単に戦術機が脆弱過ぎるからである。本来の性能を発揮するためには支援突撃砲と同等の砲身が必要なのだが、近接火器としてそのような大型火器を振り回すにはトルクが足りず、かといって取り回しの為に軽量化したならば、想定される連続射撃に砲身が耐えられない。このため突撃砲では砲身を短小化する事で投射量と運用性を両立させたのだ。だがそれは同時に射程の低下と発射時の反動増大による集弾性の悪化を招くことになる。一般的に突撃砲の射程は4000mとされている。しかしこれは最大射程の事であり、有効射程となれば3000m。更に狙った場所へ当てるならば1000mまで引きつけると言うのが前線での常識だ。これは発砲開始からBETAが自機までたどり着くのに60秒程と言う事だ。文字通り大地を埋め尽くし雪崩のように押し寄せてくる相手に対し、これを長いと感じられる人間は少数だろう。無論設計者側にも言い分はある。確かに精度はお世辞にも良いとは言えないが、そもそも戦術機は常に動き回って戦う事が想定されているし、砲弾そのものは十分な殺傷能力を有している。多少当たり所が悪かろうともBETAを殺すには事足りるのだ。第一根本的な問題は戦術機側にあるのだから、改善にも限界がある。結果として今日までこの問題は棚上げされていたわけだが、カンパニーと言う異物が混入することでこれらの事情が一変する。何しろカンパニーが送り出している戦術機は従来の機体と比べるのも馬鹿らしい程のトルクを確保しているからだ。

 

「素晴らしい。間違い無く流れは良い方向へ向かっていると言うわけだ」

 

そこまで言うと司令官は皮肉気に口元を歪ませ、ホアン大佐へ手招きをする。察して彼女が近づけば、司令官は忌々しげな声で耳打ちをしてきた。

 

「今回の作戦は共産党派閥の急進派共が言いだした事だ。連中どうも世界初のハイヴ攻略という手柄が欲しくなったらしい」

 

初動の失態もあって国連においても中華統一戦線の発言権は極めて低い。常任理事国に名前こそ連ねてはいるものの、国内が呉越同舟の様相であるために任命される大使も頻繁に入れ替わる。そしてそのたびに意見が二転三転するものだから、他国からはまともに付き合える相手ではないと見なされている。それでも国連からの支援が途切れないのは彼等がBETAに屈すれば、人類はユーラシア大陸を完全に失陥してしまうという危機感からだ。先んじてソ連が政治機能をアラスカへ移転している事も状況を後押ししていた。だがカンパニーの出現以降支援が厚くなるにつれ、反比例するように中華統一戦線の政治的発言権は低下し続けている。政治家連中はそれが我慢ならないようだが、前線に身を置く軍人にしてみればたまったものでは無かった。

 

「しかしハイヴ攻略となれば明らかに自衛の範囲を逸脱しています。連中はバンクーバー協定を忘れているのですか?」

 

人類全体の損耗抑制を狙って公布されたバンクーバー協定は各国独断によるハイヴ攻略を制限している。尤もこれまでの戦争で前線国家は軒並み疲弊しており、単独でハイヴ攻略など望むべくもなかったために、明文化されてはいるものの気にしている者は少なかった。

 

「無論覚えているだろうさ。違反した国家へ対するペナルティーが明確化していないことも含めてな。それよりもG元素を確保する事の利点の方が大きいと連中は考えているのさ」

 

「成程、この20年程で連中が何も学ばなかった事が再確認できましたよ」

 

確かにG元素は今後の国家戦略において極めて重要な資源となる事は間違い無い。しかしこの国にそれを有効に使う技術も無ければ、売り込める相手が居るわけでもない。第一ハイヴ攻略後の資源は国連の共同管理下におかれることが明文化されているのだ。多大な労力を払って確保したところで、米国辺りにかすめ取られるのは目に見えている。そんなことも想像出来ずに目先のエサに飛びつこうとしているような連中が自分達の指導者層であるという事実にホアン大佐は思わず首を振った。

 

「不本意ではあるが、命ぜられればやるのが軍人だ。それがどんな理不尽な内容でもな。…だが」

 

そこで言葉を句切り、司令官は笑って見せる。

 

「無茶無謀な作戦には失敗もつきものだ、特に味方にすら真意を隠して行う状況で足並みも揃わんとなれば、尚のことな」

 

司令官の言わんとすることを悟り、ホワン大佐も不敵に笑って見せる。そう、成功しては拙い作戦ならば、成功させなければ良い。

 

「問題はやってみせる事までは必要だと言う事だ。相応に深く切り込む必要もある」

 

「それで私達でありますか」

 

ホアン大佐の言葉に司令官は頷いてみせる。

 

「大佐の部隊がノワキに最も慣熟していることは疑いようもない。貧乏クジではあるが頼まれて欲しい。こんな事で失える程我が軍の兵士は安くないのだ」

 

「仰る内容は理解致しました。しかしその後は如何なさるおつもりですか?」

 

どの様な理由であれ、命じられた目的を達成出来なかったという事実は覆せるものではない。つまり司令官の立場が悪くなる事は避けられないと言う事だ。そうホワン大佐が問えば、司令官は愉快そうに聞き返してくる。

 

「おや、心配してくれるのかね?」

 

その物言いにホワン大佐は半眼になりながら言い返す。

 

「当然でしょう。物わかりの良い上官がいなくなって困るのは下っ端と相場が決まっているんです。英雄気分で閑職に栄転なんてされてはたまりません」

 

そんな台詞に司令官は喉を鳴らして笑いながら答えた。

 

「流石は黄虎、いやはや全くもってその通りだな。安心してくれて良い、俺も途中で放り出す程無責任ではないよ」

 

「……」

 

司令官の言葉にホワン大佐は沈黙で応じた。他派閥、元台湾政府側の派閥ならば当たり障りの無い相手であるが、大陸における軍部への影響力は残念ながら低い。司令官が作戦失敗後に現在の地位を確実に守るには、後ろ盾として心許ないと言わざるを得ないし、彼はそれが解らない人ではない。ならば同じ旧共和国政府側の他派閥かとも考えたが、現在ホワン達を使っている派閥が最大勢力である事からその線も望みが薄い。そこまで思考を巡らした時点で、彼が誰を頼ったのか当たりを付けたホワンは思わず引きつった笑みを浮かべた。

 

「司令官、まさか」

 

それだけで通じたのだろう。ホワンが正解にたどり着いた事に満足するように、司令官は笑顔で頷いて見せた。

 

「何、偉大なる我らが総書記も建国の際には同じ手を使ったのだ。責められる謂れはあるまいよ」

 

言葉だけならばそうなるだろう、だがその中身は致命的な乖離がある。確かにどちらも国外勢力を後ろ盾としているが、かの先達は民族こそ違えど主義主張を共にする言わば同胞を頼ったのに対し、司令官が頼ったのは思想が異なるどころの話ではない。何せ相手は国家ですら無いのだから。

 

「確かに、これ以上ない後ろ盾ではありますが」

 

「使えるものは何であれ有効に使う事は軍人として当然のことだ、寧ろ義務とも言える。こうあるべきだなどという理想論を振りかざして貴重な祖国の人的資源を浪費しようとする者など、それこそ彼等が声高に非難している政治犯と言う奴だとは思わんかね?」

 

目だけが全く笑っていない司令官の顔を見ながら、ホワン大佐はただ首肯を繰り返すだけだった。




いつもの悪い癖が…。
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