チート転生テンプレもの   作:Reppu

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日間ランキングTOP10入り有り難う投稿。




大雑把に示された拡張計画を実現するべく、ルクレツィアは働き続ける。人間に極めて近い容姿を持つ彼女であるが、本質的には機械であり、人間のような睡眠も休息もほぼ必要としない。そんな彼女は今、管理室と呼称されるスペースにしつらえた専用の椅子に腰掛け、腕を組み瞑目している。本来であれば自動化されている各種作業機械や製造ラインを直接彼女が制御することで最大限の効率化を行っているのだ。だが、それでもやはり限界はある。

 

「ダメですね」

 

彼女の主は無能ではない。むしろミリタリーなどに関しては一般より深い知識を有しては居るが、それでも所詮は素人である。補給や整備といった後方の重要性は認識していても、具体的にどうすればその体制が確立出来るかなどは知らないし、そもそも前線で戦術機を一機満足に動かし続けるのにどれだけの物資が必要となるかも解っていない。現在月産60機をベースとして指定された戦術機を製造しているが、これを前線に配備できても直ぐに置物になってしまうだろう。何しろ外観こそF-4と呼ばれる戦術機を踏襲しているが、中身は全くの別物である。そもそも素材や駆動方式すら異なるのだから既存の整備体系に組み込めないし、整備用の部品も掛け値無しに地球上でこの拠点でしか作れないのだ。笑顔で機体を日本帝国へ供給する計画を話す主人を全力で止めたのは記憶に新しい。

 

「じゃあ、超硬スチールだけならどう?」

 

そう聞いてくる主人の顔はどこか叱られた子犬を想像させ、ルクレツィアはちょっぴり興奮してしまった。因みにその時の映像は彼女のプライベートストレージにしっかりと保管されている。そんな主人に断腸の思いで伝えたのはやはり難しいという答えだった。

超硬スチールは別世界における娯楽作品に登場する人型兵器の構造材だ。一般的な鉄の半分以下という驚異的な軽量さで極高張力鋼を超える強度を誇るという夢のような素材であるが、これは従来の合金とは異なり、製造過程で分子レベルで配列を制御することで生み出されている。故に素材として提供したとしても加工段階で特性が失われてしまうため意味をなさないのだ。そしてやはり超硬スチールの製造設備もこの拠点にしか存在しない。

 

「人類を救う英雄としてはまだまだ未熟。ですが古今英雄が始めから英雄であった事はない。そしてご主人様には私が居ります」

 

これまで幾人かの英雄候補に仕えた経験のあるルクレツィアであったが、今回ほど好ましく思う主人は居なかった。兵站を軽視するような者はそもそも彼女を呼び出さないが、一方で彼女を呼ぶ程度に知識のある者は大抵が自身の能力を過信している事が多く、彼女の提言や忠告を聞くことを拒む傾向にあったのだ。兵站を丸投げされたのは想定外であったが、確かに今の主人では足手まといにしかならないのだから、適切な判断であるとも考えられる。そして何よりも主人には彼にしか出来ない仕事があった。

 

「過酷な一歩、けれど成さねばならぬ一歩ですご主人様。ご武運を」

 

 

 

 

前略、今僕は船に乗っています。

 

「いや早すぎるって」

 

「何かご不満がおありですか?」

 

「いいえ、何でもありませんよ」

 

後ろから声を掛けて来た佐伯中佐に向かって俺は笑顔で応じた。辺り一面夜の海というのは実に殺風景であるが、まあクルージングに来ているわけでも無いのだから妥協すべきだろう。出された食事のひどさは正直なんとかして欲しいところだが。

 

「それは良かった。ご不満などありましたら何なりと申しつけて下さい」

 

トーンと内容が全く一致しない台詞を吐きおえると、仕事は終わりだと佐伯中佐はさっさと船内に戻ってしまった。俺も顔に当たる風の冷たさに溜息を吐き中へ戻ることにした。

 

「ま、話が早いのは良い事だ」

 

今から一週間ほど前だ。帝国とコンタクトを取ろうとした俺にルクレツィアが深刻な顔で今後について相談があると言ってきた。その内容とは、どう頑張っても俺が立てたプラン、即ちチート技術で製造した戦術機を帝国に供与して状況の改善を図るというのが実行できないという話だった。素人である俺が考えるより戦争というのは信じられないくらい物資を消費するらしい。

 

「現在の施設拡張速度と技術のみでは状況の打開は困難と言わざるをえません。ついては新技術の獲得並びに管理エリアの拡充を提案致します」

 

つまりBETAをぶっ殺してこいって事ですね、ワカリマス。だが、この時期まだBETAは日本まで来ていない。なので彼らの支配域まで行かねばならないのだが、如何せん俺には移動手段が無い。どうしたもんかと悩む俺を助けてくれたのが帝国海軍様である。手土産としてファントムモドキを一機技術研究用として提供した際に御偉いさんがデモンストレーションを見学していたのだが、大陸で実際に試験がしたい旨伝えたら輸送船をポンっと貸して下さった。実に良い笑顔だったことを覚えている。そしたら慌てた様子で陸軍の方が護衛の戦術機部隊を付ける事を提案してくれた。正に至れり尽くせりである。まあ、俺の監視が本当の仕事だろう。

 

「技術主任殿、どうされました?」

 

ぶらぶら歩いているとそう声をかけられる。振り返るとそこには近年めっきり数を減らした厳つい成人男性、大岳大尉が立っていた。全体的におっかない風体であるが、佐伯中佐に比べれば遥かにフレンドリーで話しやすい相手だ。

 

「少し機体を確認しておこうかと思いまして」

 

「ではご一緒しましょう。その方が面倒がないでしょうから」

 

そう言って大岳大尉は同行を申し出てくれる。因みに彼は佐伯中佐の指揮する戦術機大隊の中隊長だ。尤も彼女の大隊は先の大陸における防衛戦で損害を受けたために後方で再編されている。てか構成人員中無事なのが8名だけ、その上大隊長は負傷で戦術機に乗れなくなっているとか、もうそれ大隊として機能していないじゃねえかと思うのだが、割とBETA大戦では日常的な光景だったりする。実に地獄。

 

「大尉も大陸ではF-4に乗っておられたのですよね?」

 

「ええ、現地での部品供給の都合もありまして」

 

そう言って大尉は苦笑する。中国は初動の失敗と東側であるという理由から戦術機の供給はかなり遅かった。当然米軍では主力となっている第二世代の開発も遅れたため、前線で運用されている多くの機体は未だに第一世代だ。ただし、派遣軍の多くが物資の供給もしていたから、彼らがF-4の帝国ライセンス機である撃震を与えられていたのは、どちらかと言えば帝国の懐事情によるものだろう。確か第二世代のF-15は研究用で少数のライセンス獲得だった筈だから貴重な機体を前線に出し渋ったのかもしれない。

 

「実際の所、どうですか?」

 

「…厳しいですな。F-4では正直運動性が低すぎます」

 

第一世代の戦術機は攻撃を装甲で耐えるという、どちらかと言えば戦車のような運用が想定されていた。これは兵器としての蓄積が不十分であったことと、運動性の中核を担う推進器の性能不足から来る妥協の結果だ。おかげで第二世代以降は運動性能と反応速度に重点を置いた設計にシフトしている。

 

「言いたくはありませんが、撃震ですとその問題はより顕著でしょうね。F-4は格闘戦に全く向いていない」

 

日本帝国は戦術機に格闘性能――それも文字通りの意味の――を求める傾向にある。恐らくこれは国としての能力の問題だろう。国内で火薬の大量確保が難しい帝国はどうしても弾薬不足という不安がつきまとう。故に残弾を気にしなくて良い装備、と言う事なのだろう。

でもなあ、正直俺はこの思想が好きじゃない。何故なら戦術機が非常に脆い兵器だからだ。突撃級の体当たりなんて受けたら大破確実だし、そうでなくても要撃級に殴られると最低でも機体に歪みが、運が悪いと普通に推進器を破壊されて詰むなんてことが起きる。そしてBETAの数は戦術機より圧倒的に多いから、常に一対多数の戦いを強いられるのだ。パイロットに掛る負荷は相当なものだ。シミュレーションでやらされたナイフサバイバルは未だに俺のトラウマだ。

 

「成程、それで彼の様な機体を設計されたのですな。…しかし、使えますか?」

 

まあ、正体不明の実験機には正当な評価だよな。

 

「理論上は問題ありませんよ。後は実証するだけです」

 

俺の物言いに大岳大尉は一度呆けた後、悪い笑みを浮かべる。

 

「それは実に楽しみですね、正式に採用となればあの機体を真っ先に受領するのは恐らく我々です。今回の試験の成功を心よりお祈りしますよ」

 

 

 

 

無線機越しに聞こえる会話に集中しながら、佐伯恵那中佐はキャットウォークから輸送中の機体を眺めていた。F-4JX、まだペットネームも付けられていないその機体は、あの巫山戯た連中によって持ち込まれたものだ。

 

「カンパニー、ね。名前まで巫山戯ている」

 

一体何者かと言うこちらの問いに、代表としてやってきたあの男――状況から察するに彼がご主人様とやらであろう――は、しばし考え込んだ後そう名乗った。適当だろうがせめて名前くらい考えておけと言いたかった。そんな相手に自国の今後を任せねばならないという状況も腹立たしい。だがもっと腹立たしいのは話を拗らせた挙句にこちらへ丸投げしてきた上官である。

 

「海軍連中に全て持って行かれる訳にはいかん。それに君は最初から正しく彼らを評価していたようだし適任だろう?」

 

ヘラヘラと笑いながらそんなことを言う上官を殴らなかった自制心を褒めて欲しいものだと佐伯中佐は思った。

 

「でも、これは本物だ」

 

交渉の場で見せられた光景。それは佐伯中佐という前線を知る一人の軍人が、何を犠牲にしようとも量産配備しなければならないと確信させる性能を披露した。それを忌憚の無い意見として述べたのだが、そのせいで佐伯中佐は“彼ら担当”という認識が帝国軍上層部に広まることとなり、胃痛の種と長く付き合うことが確定してしまったのだが、まだ彼女は気付いていない。

 

「後はあの男がヘマをしないことを祈るばかりね」

 

口ではそう言うものの、その可能性は極めて低いという確信が彼女にはある。何しろ件の男は一目で理解出来るほど完成された兵士と言うべき肉体の持ち主だったからだ。その上で機体は富士の教導団が虎の子の第三世代を持ち出しても敵わないという傑作だ。ただ明らかに佐伯中佐より年若い彼が一体どのような経歴を辿れば彼の様になるのか見当もつかないが。

 

「ん?来たか」

 

信頼できる部下である大岳大尉の声が直接聞こえ始めたため、彼女は手すりから身を離し格納庫を後にする。彼と良好な関係を築くのも彼女に課せられた任務だ。だが最初の印象で失敗している事から、そちらの方面は部下達を中心に進めて貰っている。幸いにして状況は順調のようだし、要らぬ波風を立てないよう気を遣うのも必要な措置だ。

 

「そうと言っていられない日が来るのも近そうだけれど」

 

そうなった時、あのメイド服の女とどう接すれば良いのか。それを考えるだけで胃の辺りが重くなる佐伯中佐だった。




ぶっちゃけ、今日のUAとお気に入り登録数の伸びにびびってます。
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