チート転生テンプレもの   作:Reppu

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壁面の燐光によって光度を担保されているその場所は、地中深くである事を忘れさせるような空間だった。人類が生み出した人工の巨人たる戦術機すら易々と呑み込める横穴の中を、武骨な軍用車両で移動する。ご丁寧にも最新鋭の戦術機の護衛付きで。

 

「申し訳ありません、博士。何分奪いたてですので、整備も進んでいないのです」

 

目の前の席に座った男が和やかに話しかけてきたので、香月夕呼は笑顔で応じた。

 

「とんでもありませんわ。寧ろこれまでのご無礼を思えば、お呼び頂けただけでも望外の幸運ですもの。繰り返しになってしまいますが、ハイヴの攻略おめでとうございます。長谷川様の名は人類史に刻まれますわね」

 

夕呼の称賛に男は苦笑を返して来る。それはそうだろう。本気で人類を救おうとしている人間にしてみれば、こんなものはまだスタートラインに過ぎない。その程度の事で歴史に刻まれたなど正しく笑うしかないのだろう。

 

「大袈裟ですよ。私と同じ力があれば、誰だって出来る事です。たまたまその力を貰ったのが私だった。それだけの事です」

 

「え?」

 

BETAは異星人の送り込んできた生体機械。そんな言葉に釣られて遥々インド亜大陸までやってきた夕呼であったが、目の前の男は更なる爆弾を唐突に放って来た。自身の目が険しくなる事を自覚しつつ、夕呼は口を開く。

 

「…今、力を貰ったと聞こえたのですが?」

 

彼女の問いに男は気負いなく頷いて見せると、そのまま衝撃的な内容を口にする。

 

「ええ、私は神を名乗る存在にこの世界を救ってほしいと頼まれ、その対価として今の力を頂いただけの男です」

 

「か、神?」

 

唐突に湧いて出たファンタジックな言葉に夕呼が混乱する間にも話は進む。

 

「更に言えばこの世界の住人ですらありません。平行世界。それもBETAが娯楽作品の中にしか存在しない世界から私は来ました」

 

「ま、待ってください。そんな」

 

制止の言葉は残念ながら無視された。

 

「博士自身、不審に思っていたのではないですか?聞いたこともない研究者の論文に、それを前提とした技術群。隔絶などという言葉が馬鹿らしくなるほど現行機と乖離した戦術機。そんな物がある日突然現れた。そんな都合の良い話が、人類の技術体系で発生するはずが無い」

 

「それを、何故今私に告白するのですか?」

 

もっともな言葉に理解を示しつつ、その意図を問う。だが、この時点で彼女は凡その当たりをつけていた。そしてそれは続く男の台詞で肯定される。

 

「こんな馬鹿げた与太話を、貴女以外の誰が信じられますか。そして、これからお話しする内容が一切真実であると認識いただくためには、それを明かしておく必要があると考えたのですよ」

 

因果律量子論。彼女の唱える理論ならば、目の前の男の存在を証明できる。証明できるという事は、それを唱える人物にすれば、信じるに値する事実であるという事だ。

 

「…確かに、今の今まで秘匿していたなどと言う言葉よりは現実的ですね。では長谷川様は異世界の技術をこちらに持ち込んでいらっしゃるのですか?」

 

夕呼の問いに男は頭を振って否定する。

 

「残念ながら私の世界でもこれらの技術は実用化されておりません。それどころか二足歩行兵器すら夢物語と語られている技術水準ですよ。私が持ち込んでいる技術は全て、私の世界の創作物で登場していた技術です。まあ、そういう意味では現実に存在する世界もあるのかもしれませんが」

 

そう言って男は懐から見慣れない端末を取り出し、言葉を続ける。

 

「私に与えられたのは、私が認識している技術をこの世界に反映させる事が出来るという、この神器でした。BETAを殺傷する事でポイントが貯まり、規定値に達すれば技術と交換できます。物資も同様に入手出来ます」

 

そう言って男が端末を操作すると、目の前に突然段ボール箱が現れる。中身は見慣れたカンパニー製のレーションだった。

 

「重要なのは、この神器が人類の信仰と総数によって動作を担保されているという事です。考えたくはありませんが、人類が劣勢となり神に祈る者が居なくなれば、力を失ってしまう」

 

「成程、観測と認識ですね」

 

目の前の男が恐れている事態を夕呼は理解し、そう応じた。先程長谷川氏は持ち込んだ技術は全て架空のものだと言った。つまりこの神器とやらは、恐らく人類全体の意識とリンクしていて、神器を経由して呼び出されたモノをこの世界に存在する物だと、世界に誤認させることが出来るのだ。だからもしそれを観測し、認識する力が弱まれば、世界を誤魔化せずに、あるべき姿に正されてしまう。それがどこまで波及するかは判らないが、間違いなく人類にとって危機的状況を呼び込む事は間違いない。否、これら出鱈目な技術をもってしてもそこまで追い詰められたのならば、人類は神器の恩恵を失った時点で確実に滅びる。

 

「その為にも人類は共通の認識を持ち、可能な限りこの戦いに一丸となってほしいのです」

 

「つまりその共通認識が、BETAは宇宙人では無い。という事実だと?」

 

夕呼の言葉に長谷川は頷く。

 

「オルタネイティブ4の責任者である貴女から正式に、彼らが交渉の余地のない存在である事を明言いただければ、少なくとも平和的な話し合いでの解決を考える輩はいなくなるでしょう」

 

戦争ではなく生存競争。成程そう認識が改まれば、カンパニーの技術的価値は更に上がる。そしてこの世界にそれらが浸透すればするほど、この世界のあるべき姿も変容していく事だろう。誰もがそれがあるのを当たり前であると認識したならば、万一神器に不都合が起きても、この世界に産み落とした技術は見逃される可能性が残る。

 

「しかし、BETAの居ない世界ですか。長谷川様はそんな世界で、どうやってこの世界の情報を得られたのです?」

 

「あまり気持ちの良い話ではありませんよ?」

 

そう言って長谷川は語り始める。彼の元居た世界では様々な娯楽が発展していて、その中には個人で扱えるほどの安価で普及したコンピューター、しかも遊ぶためだけに作られたものがあるのだと言う。そしてこの世界はそうした娯楽作品の一つとして遊ばれていて、彼はそのゲームを通じて知識を得たのだと言う。

 

「そのゲームで、私は?」

 

「同じくオルタネイティブ4の責任者になっていました。ですが、私の知る物語と、この世界には致命的な違いがあるのです」

 

物語を成功させるためのデウスエクスマキナ。全ての根幹となる主人公がこの世界には居ないのだと長谷川は言った。

 

「主人公が居たからこそ、00ユニットへと改造された少女は貴女が望むだけの資質を手に入れました。貴女自身も、技術的課題のクリアに彼の世界を越えると言う反則を利用しました」

 

「つまりその人物無しにオルタネイティブ4は完成を見ず、そして人類は5と共に地球を捨てると」

 

「はい、しかもBETAが何者であるかすら知らぬままに。はっきりと申し上げて、あれは病原菌の類です。宇宙の全てを食い尽くすまで止まる事は無い。方法はただ一つ。打ち滅ぼし根源から断つのみです」

 

人類に逃げ場など存在しない。逃げられず、滅びが受け入れられないのなら、戦う以外に道は無い。

 

「しかし、それをどう証明するのです?」

 

夕呼の疑問に長谷川は笑みを浮かべると再び端末を操作した。今度はメイド服を着た、見慣れた女性が目の前に現れる。しかしその表情は文字通り能面で、瞳には何も映していない。

 

「彼女は戦略支援システム型ドロイド、演算能力は人間の脳を凌駕している機械です。勿論、我々と意思の疎通ができます」

 

その言葉に夕呼は目を見開く。

 

「無論、貴女が望むような最良の結果を引き当てる能力などは持ち合わせていませんが、BETAから情報を引き出し、それを私達に伝える位の事は出来ます」

 

「そして、この場所には生きたままのBETA。それも情報を統括している個体が存在する」

 

長谷川の言葉を継いで夕呼がそう口にすれば、長谷川は非常に良い笑顔になった。

 

 

 

 

「馬鹿じゃないの?」

 

大岳から渡された資料に目を通した佐伯中佐が発した第一声がそれだった。その言葉に深く同意する大岳は素直に首肯しつつ口を開く。

 

「馬鹿でしょう。何せ自身が操られている事すら理解出来ておらん連中です」

 

先日突然顔を出した沙霧大尉。彼が去り際に鋭谷中尉に手渡して来た資料は、帝国軍に所属する兵士の名前が書き綴られたシンプルな内容だった。尤もその内訳は沙霧大尉も参加している青年将校の勉強会のメンバーとその子飼いと目される面子である。

 

「自浄は不可能と見たか。彼経由で直接こんなものが送られてくるという事は、暴発間近という事かしら?」

 

そう言いつつ、彼女はもう一枚の書類を手に取り溜息を吐く。そちらはカンパニー経由でCIAからリークされた日本に潜伏している工作員、そして彼らによって催眠処理を施された人物のリストだった。

 

「しかし一体全体どんな難癖を付けて動く気かしら?」

 

「この際理由などどうでも良いのでしょう。重要なのは我が国でカンパニー相手の軍事行動があったという事実だけです。そうすれば米国の連中は喜んでカンパニーを安全な本国に誘致するでしょうな」

 

「土地を間借りしていた分の義理などとうに払い終えて、こちらが富士より高い負債を積み上げている最中ですものね、設備の殆どがメガフロートにある以上、移動だって簡単でしょう」

 

そう言って佐伯中佐は大きな溜息を吐く。実際にはカンパニー最大の工廠は現本拠地であるためそう簡単ではないのだが、その事を正確に把握しているのはカンパニーに所属する面々だけである。

 

「城代省の連中も随分やらかしてくれているし、何なのかしら?こいつらはこの国を滅ぼしたいのかしら?」

 

「ある意味そうかもしれませんな」

 

佐伯中佐の言葉に大岳はそう返す。そもそもの間違いは、BETAとの戦いを戦争と表現した事だろう。

大陸で真実のそれを味わっていない者達にすれば、戦争とはそれ以前の第二次大戦に対する思考と感情であり、それによって価値観も形成される。お陰で未だに呑気に人類同士で足の引っ張り合いなどが平然と出来るのだ。

 

「兎に角、早急に処分するしかないでしょう。カンパニーもとうに愛想など尽きておりましょうが、この上尾まで踏んだとなれば、この国が火の海になっても文句を言えません」




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