チート転生テンプレもの   作:Reppu

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「一体なんの騒ぎか!?」

 

声を荒げたのは城内省の重鎮である斉御司家のご老体であった。既に家督は息子に譲っているものの、未だその権勢は衰えておらず、城内省の意思決定に多大な影響を与えている。

 

「驚くことはございますまい。君側の奸を討つ、という奴ですよ。ご老公」

 

部屋に入って来た斑鳩崇継は飄々とそう嘯いた。無論その目は全く笑っていなかったが。

 

「斑鳩の小童が!殿下の覚えめでたき儂を事もあろうに奸臣だと!?」

 

「時勢を見誤り国を傾けようとしているのです。それに気付かぬのですから当然の評と存じますが?」

 

その言葉に老人は顔を赤くするが、事態は変わらない。まだ日も落ちて間もないと言うのに、これだけ騒いでも警備の者どころか、護衛として侍っているはずの譜代の者すら現れないのだ。その事実が既に老人の命運を端的に表していた。

 

「本来ならばその首を詫び替わりに差し出したい所ですが、爺の首など貰っても長谷川殿も困るでしょう。命だけは堪忍いたしましょう。…連れていけ」

 

引きずられる痛みに老人が喚くが、配慮する者は誰一人いない。

 

「さて、あちらはどうかな」

 

部屋に一人残った斑鳩は、小雨の降りだした外を見ながらそう呟いた。

 

 

 

 

「ふむ、煌武院の当主が何用かな?」

 

「お願いがあって参りました」

 

二条城、政威大将軍の居室に赴いた煌武院悠陽は、穏やかな声音でそう告げた。

 

「ほう、お願いか。なんであろうな?」

 

「お国の為、泥を被って頂きとうございます」

 

御簾の向こうに座る将軍に対し悠陽は言い放つ。立場を考えればそれは無礼以外の何物でもないのだが、返ってきたのは朗らかな声だった。

 

「随分な物言いだ。けれどお国の為、民の為と言われれば是非も無い。相分かった」

 

「真、申し訳ございませぬ」

 

そう言って首を垂れる悠陽に対し、政威大将軍は落ち着いた態度を崩さずに口を開く。

 

「良い、全ては余の不徳が招いた事である。国の歪みを正すことなく、この乱世は乗り切れまい。ならばこの首の一つや二つ、安いものよな」

 

政威大将軍の座は五摂家より輩出される。だが実態を見れば、既に将軍も実権からは程遠い象徴的な立場にあり、城代省の内面は一部の権力者によって好きにされていると言うものだった。特に今代は彼らに逆らい首相を指名した事などからよりその傾向が顕著だったのである。

 

「しかし上手くいくだろうか。正直に申せば、余の首にそれ程の価値があるとは思えぬ」

 

「それを言ってしまえば、この国そのものがかの方にとって無価値でございましょう。それでもすがろうと言うのですから、差し出せるものは何でも差し出さねば」

 

その言葉に政威大将軍は苦笑する。存外そんな事をしなくてもあの人の良さそうな青年ならばこの国も救ってくれる気がしたからだ。だが出来るのだからと善意に甘えきりになる事が出来る程、彼の肝は太くなかった。

 

 

 

 

「攻撃機に搭載可能なメガ粒子砲は欧州と中東に優先して供与、戦術機用の物も供給ね。あー、勿体ない!」

 

ストライダーの中に組み込まれている俺のオフィス、応接用の椅子に座って装備品の供与計画を眺めていた夕呼先生が笑いながらそう評した。

 

「仕方がないでしょう。人類の資産の中で今最も価値があるのが命そのものなんですから」

 

何しろ神器は人々の信仰心に依存しているからな。この神器が人類最強の兵器である以上、それを維持運用できる資源が最も貴重である事は疑うべくもない。

 

「解っているわよ。でももう少し焦らしても良かったんじゃないかしら?信仰心だと言うのなら、唯一自分を救える対象である方が効率的に集められると思わない?」

 

そりゃ多少は思うけどね。彼女の言う通り極めて強力な兵器であるこれらは大きな交渉材料になる。けれど既に合衆国には技術供与済みだし、ソ連にもП-3計画経由で現物を納入済みだ。因みに両国からは技術習得と戦術確立の為に技術者とテストパイロットを受け入れている。着いて早々に脳味噌の洗浄が必要ではあったが、おかげで難民からの志願者も含めて3個大隊規模の戦力を獲得している。

 

「信者を集めるならそうですけどね、教祖という柄ではありません。それにさじ加減を間違えたら目も当てられない。博打は嫌いなんですよ」

 

「単独で光線級吶喊をする奴が何か言ってるわ」

 

失礼な、あれは博打じゃない。出来る事をやっているだけだ。

 

「しかし宜しいのですか?随分と余裕そうですが?」

 

そう聞くと、夕呼先生は楽しそうに笑った。

 

「人生で一番楽な仕事だったわよ。まあ正直悔しくはあるけれど、効率だって重要だから仕方ないわ。後はあのデカブツに取り付けるだけね」

 

00ユニットに関する完成時の理論と運用結果については既に取得済みで夕呼先生に渡してある。素体になるドロイドを早速弄り回していたと思ったが、もうどうやら終わっているらしい。因みにBETA側に人間という物を認識させる必要が無い――何しろ連中は人間が理解出来ない――ため、誰かの人格を移植する必要も無くなった。何処か憑き物の落ちたような顔をしているのはそのせいかもしれない。

 

「それは重畳、ついでに情報を引き抜くだけでなく欺瞞情報とか流せませんかね?」

 

俺がそう聞くと、夕呼先生は手元の端末から目を離さずに口を開く。端末の内容は既に資料では無くゲームに切り替わっているようだ、ちょっと懐かしいチープなBGMが流れている。

 

「無理ねー。ツリー型じゃない情報伝達経路で、そのたった一つから流れ込んでくる偽情報なんて取捨選択の段階で除外されちゃうわよ。しかもその端末が物理的に接触出来ない状態なのよ?統括側が異常を起したと認識して、最悪ネットワークから切り離される可能性すらあるわ。言いたくないけれど堅実にやるならこのまま情報を抜くだけに留めておくのがベストね」

 

「そう上手くは行きませんか」

 

「相手は思考はあっても感情が無い、その思考もあくまでコンピュータと同じ演算の延長上にあるものなのよ。私達みたいに希望的観測や楽観から自分に都合の良い事実を信じてくれるなんて事はあり得ないわ」

 

ですよねぇ。

 

「つまり、これまで通りという訳ですか」

 

「相手が知的生命体になったらもう少し賢い手段も採れるようになるわ。それまでは、ま、がんばんなさいな」

 

そう言って手を振っていた夕呼先生が思い出したように言葉を続ける。

 

「そう言えばオルタネイティブ4名義で集めてた人材なんだけど、こっちで預かってくれないかしら?要らなくなったせいで日本政府があれこれと難癖をつけてくるのよね」

 

「いや、犬や猫じゃないんですから」

 

てか、動物でももう少し交渉するだろ。

 

「良いじゃない。もう合衆国とソ連からは受け入れているでしょ?アレに比べたら催眠処置も何もしてない綺麗な人員だわ。それに新型機に慣れた国連の人間は今後重要になると思わない?」

 

これだから天才様との駆け引きは嫌なんだよ。

 

「…現状集まっている人員だけですよ?」

 

俺は溜息と共にそう了承するのだった。

 

 

 

 

「ノワキも良い機体だったけど、コイツは最高ね!」

 

ソ連に居た頃に乗っていた戦術機を圧倒する速度で動き回る自機にタチアナは興奮気味にそう口を開いた。彼女の所属しているジャール大隊はソ連極東方面軍に所属する部隊だった。非ロシア人、それも徴兵年齢の下限すら下回る年齢の兵士だけで構成された同大隊は所謂捨て駒用の戦術機部隊だった。使い勝手が良く、失っても困らない部隊。新技術との交換で差し出すのには正に打って付けの人員と言えた。

 

『これでエコノミーだなんて言うんだからな。ヤポンスキーはイカレてやがるぜ!』

 

ビーム兵器と交換で日本帝国の1企業に売り払われた彼等に与えられた最初の仕事は、ベテラン衛士による試作機の評価だった。97式量産試作型と社内で呼称されているそれは、何でも大量生産を前提とするために本来の機体から多くの機能を削った簡易版と言うべき物だと言う。しかしその性能は文字通り桁違いだ。

 

『目標、距離15000。ロングメガバスターを使うぞ!』

 

小隊長であるオルガの声に合わせて、小隊の各機が兵装担架にマウントされていた長砲身のビーム兵器を展開する。

 

『FOX1!!』

 

言葉と同時にトリガーを引けば、砲口から圧倒的な熱量を誇るエネルギーの奔流が放たれる。そしてそれは狙い違わずBETAの集団をなぎ払い、更にBETAに含まれる水分によって水蒸気爆発を引き起こす。それは正しく地獄のような光景であったが、生み出した各々の胸中に訪れたのは歓喜だった。

 

『すげえっ!』

 

『この力があれば…』

 

彼等の多くは中央アジアに位置する連邦を構成する共和国の出身だ。大戦初期の段階で前線となった彼等の国は既にBETAに飲み込まれている。党中央は難民の受け入れと祖国奪還を約束しているが、その対価としてロシア人に比べ遥かに過酷な献身を要求している。そして明確な待遇差を前線で見せつけられれば、党への忠誠心も共産主義への幻想もあっという間に消し飛ぶというものだ。そこに彼等を信じて与えられる最新鋭の強力な戦術機という存在は、正に致命の一撃と言えた。

 

「誰にでも機会が与えられ、生まれで差別されない世界。皮肉よね?」

 

タチアナの思わず漏れ出た言葉に小隊の面々が同意する。

 

『偉そうに語ってたロシア人共が悪し様に罵ってた連中こそ、一番その世界に近いところに居るってか?喜劇にしちゃ出来すぎだよな』

 

『ロシア人共は俺達の事もBETAと同じ下等生物だとでも思ってやがるのさ、俺らが感情もあれば考えもする人間だなんて想像も出来ねえんだろ』

 

『小隊各機、仕事に集中しろ!大隊長の顔に泥を塗るつもりか?』

 

口々にそう不平を漏らす隊員達にオルガの叱責が飛ぶ。慌てて彼等は口を閉じると、目の前の敵に集中する。とは言うものの最早それは戦闘では無く一方的な殺戮である。地獄を経験済みの彼等にしてみれば、あまりにも気楽な作業であるそれは、その後ほんの数分で終了を告げて来た。

 

(この力があれば、故郷に帰れるかもしれない。父さん、母さん…)

 

タチアナは故郷を追われた後に生まれた、だから父や母が熱望したような望郷の念は無い。けれど両親が死んでまで望んだ帰還を、せめて子である自分が叶えてやりたいと思う程度には家族を愛していた。

 

「諸君、ご苦労。20分後にデブリーフィングを行うから、各自着替えて第二会議室に集合する事」

 

物思いにふけっていたタチアナは、その声で現実に引き戻される。目の前には優しく微笑む敬愛する大隊長のフィカーツィア・ラトロワ中佐が立っていた。

 

「「了解!」」

 

元気よく返事をし、そしてもう一つの思いを胸に抱く。ラトロワ中佐はロシア人だ。けれど自分達と生死を共にし、その死を誰よりも悲しんでくれている。そしてそんな彼女を中心に彼等ジャール大隊は、全員が家族のような関係を築いている。だからこそタチアナは強く願う。

 

(この力で戦争を終わらせる。そして、もう誰一人欠けること無く終戦を迎えるんだ)

 

それは今まで何度も望みながら、届かないと諦めていた願い。しかし今、タチアナにはそれが手の届く目標であると確かに感じられるのだった。




日本帝国で政変が発生しました。
オルタネイティブ4がカンパニーと急速に接近しています。
ジャール大隊のソ連離反フラグが立ちました。

嫌な予感がしますね!
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