チート転生テンプレもの   作:Reppu

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金剛型巡洋戦艦。彼女はカンパニーが地球奪還後の火星攻略を想定して建造した艦艇である。

 

「全戦術機の収容を確認。点検作業及び補給に入ります」

 

「エントリーシェル並びにVOBの最終点検完了、機体側の準備が整い次第順次接続を開始します。終了予定時間は4時間後です」

 

オペレーターから上げられる報告を艦長席で黙したままキリヤマは聞き続ける。無論沈黙しているから彼が何もしていないと言うわけでは無い。寧ろ艦隊を統括する彼はこの場の誰よりも働いていた。何しろ部下は全てカンパニー製のドロイドだ。今後貸し出される事が前提であるために、音声による意思疎通が常態化している部下達と異なり、カンパニーの艦隊を今後も預かり続けるのが確定している彼は、発音分のリソースすら指揮管理に割いている。

 

「世話になるよ」

 

そう言ってブリッジに入ってきた主人に対してもキリヤマは黙礼で応じる。それを咎めるでも無く主人は窓へと近づくと目の前に静かに浮かぶ地球を眺める。その姿を見てキリヤマは好意に表情を歪めるという余計な行動を自然と起していた。元々神器によって顕現している彼等は、持ち主に好意的であるように調整が施されている。だが、そんなモノが無くとも彼は主人に好感を抱いただろう。食い荒らされた大地に向けられる明確な怒りを宿した視線。それだけで彼の善性を理解するには十分であったからだ。

 

「出撃準備が完了するまで、こちらへどうぞ」

 

インダストリアル1から同道していたルクレツィアの一人がそう言って主人をブリッジから連れ出す。その事にキリヤマは密かに感謝した。幾ら強化されているとはいえ未だ生身の部分も残す我らが主人である。余計な負担は少ないに越したことはない。彼は制帽を目深にかぶり直すと、自らの職務へと没頭した。

 

 

 

 

「…これで最後か?」

 

沈痛な表情を隠さずに沙霧尚哉は副官に問うた。その言葉に硬い表情を崩さぬまま副官が応じる。

 

「はい、情報省より連絡のあった対象者は以上です」

 

「恐ろしいな、これが合衆国の力か」

 

彼等が渡されたリスト、それは青年将校達の集まりであった戦略研究会に入り込んでいた合衆国間諜の一覧だった。実に構成員の1割に及ぶ人間が彼等の手先であり、その活動によってかなりの人間が思考を誘導されてしまっていた。そしてオリジナルハイヴ攻略のためにカンパニーの戦力が出払っているこのタイミングで、彼等は日本国内での武装蜂起を計画していたのである。無論その内容に成功の目処など全くない。尤もそれは当然の事で、真の目的は武装蜂起した部隊に駐留している合衆国軍が襲われる事だからだ。

帝国軍の不義理を理由に帝国との関係を優位な状況へと持って行く。更に反乱軍がカンパニーの機体を使用する事で、カンパニーへも何らかの譲歩を求めると言うのが彼等の筋書きだ。随分と杜撰に思える計画であるが、それだけ相手が追い詰められていたと言う事だろう。無理もあるまい、数年単位で侵食していた同盟国の内情が、ほんの1~2年で劇的どころではない変化を遂げたのだ。それも早急に手を打たねば合衆国を容易に抜きうる成長である。

 

「残念ですがその一端、と言うのが正解ですねぇ。何せ反カンパニーの強硬派だけですから、そのリスト」

 

唐突にかけられた声に沙霧が振り向くと、そこにはスーツを着込んだ男が立っていた。

 

「どーも。情報省の方から来ました、荒川です。沙霧尚哉大尉殿でよろしいか?」

 

そう言いつつも返事を待たずに荒川と名乗った男は鞄から書類の束を取り出すと沙霧へ押し付けてくる。

 

「こちらで独自に調査した追加のリストです。どうするかはお任せします」

 

「任せる、だと?」

 

その言葉に沙霧がリストを検める。そこには先ほどまでの物とは比べものにならないほど大量の名前が記されていた。その中には、彼に賛同し協力してくれている者の名まである。驚愕に沙霧が目を見開いていると、荒川が皮肉気な笑顔で口を開く。

 

「その昔、我が国でも陸海相争い余力をもって敵と戦う。などと嘯いた方がいたようですが、合衆国は同じ部署内ですらそれをやった上でこれだけのことが出来るんですな。いやはや、羨ましい限りだ」

 

「それだけの力がありながら、連中はそれを斯様な事にしか使えんのか!」

 

「こんな事?バカを言っちゃいけませんな、彼等は実に勤勉な公僕だ。忠誠を誓った国家に最大限の利益供与を図っているに過ぎません。そしてそれは我々とて同じでしょう?」

 

荒川の放つ遠慮の無い指摘に副官は言葉を詰まらせる。無論国家の主権を守るなどと言うのは言葉にする必要が無いほど当然の権利であるし、軍人とは本来それを守る為に存在する。それ故に沙霧達もまた日本帝国から合衆国の影響を排除するべく画策していたのだ。だが荒川の言う通り、その行動は人類全体の利益から考えれば個々の都合に依ったものに過ぎないのも事実だった。

 

「ま、今は事前に厄介ごとを防げた幸運を喜びましょう。ただでさえ我が国は心象が悪いのです、かの御仁が寛容であってもその周りも同じと見るのは危険過ぎる。それを努々忘れずに職務に当たるとしましょう、お互いにね」

 

そう言って下手な敬礼をして荒川は背を向ける。沙霧は黙ってそれを見送るしかなかった。

 

 

 

 

重力制御がされていない格納庫の中、突入用装備を身に纏い最終点検を受ける自機のコックピットの中で俺はゆっくりと息を吐く。強化処置のおかげだろう、この大一番にあって俺は実に平静を保てている。

 

「地球が終われば月か、人員の受け入れと訓練が要るな。コロニーを増やすか?」

 

無重力に身を任せながら俺はそんな事を呟く。艦艇や戦術機の製造に特化しているインダストリアル1もそろそろ手狭になっているし、国連艦隊の拠点として解放しているニューエデンの方は余裕があるが、本格的に宇宙艦隊を整備するには心許ない。月のハイヴを平らげてしまえば当面ポイントの入手は難しくなる。太陽系外への進出も視野に入れるならば出来る限りポイントは技術取得に割り振りたいと言うのが俺の偽らざる本心だ。戦術級以上のドロイドははっきり言ってコストパフォーマンスが非常に悪い。地球に展開している戦力から転用するにしても、太陽系からBETAを追い出すにはまだまだ数が必要だから、何とか生産技術を解放しておきたいところだ。何しろ彼等は人間と違ってほぼ不眠不休で働けるし、補給に必要な物資も少ない。宇宙艦隊の中核は必然的に彼等に任せる事になるはずだ。

 

「…そろそろ怪しくなってきたしね」

 

言いながら俺は手の中の神器へ視線を落とす。人口の減少は俺の介入で大幅に緩和されているにもかかわらず、神器が性能を向上させる様子は無い。それどころか物資や技術の獲得に必要なポイントはむしろ増加傾向にある。既にルクレツィア達のような高性能かつ今だ生産技術すら確立出来ていないドロイドに至っては初期の10倍近いポイントが必要だ。俺のやり方が信仰心に繋がりにくいと言うのもあるのだろうが、神器の性能が低下しているのも間違い無いだろう。幸いにして能力の低下と共に召喚した物が使えなくなるような事にはなっていないが、それでも今後も同じように消費ポイントが増加していくとすれば、今のようなチートによるごり押しは事実上不可能になる。

 

「やれやれ、働けど我が暮らし楽にならずってね」

 

そんな風に嘯いている間に、艦がわずかに揺れ加速を始めた。同時に格納庫の警告灯が灯火され空気が回収される。それに続いて並べられていた友軍機がカタパルトへと誘導されていく。

 

『HQよりスティレット1、降下10分前です』

 

「スティレット1了解。状況は?」

 

出撃準備を促すオペレーターに問い返すと、彼女は笑顔でこう答えた。

 

『やり過ぎを懸念する程度には順調です』

 

それは重畳。俺は口には出さず、笑顔と敬礼でそう表した。

 

 

 

 

「相手は作業機械だ。撃ち負けるような無様は晒すな」

 

金剛級3番艦榛名は姉妹艦である金剛・比叡に先行し、4番艦である霧島と共に一足先に軌道上に進出していた。高度400キロまで接近した彼女達は、地上から猛烈な射撃に襲われている。既に宇宙艦隊は脅威であると学習したBETAからの攻撃だった。

 

「数も威力も大したものだ。だが相手が悪かったな」

 

そう言って艦長席に座った男が笑う。

 

「右横転90°、ロングレンジキャノンの固定を解除しろ」

 

同じ金剛型に分けられているが、戦術機の運用能力を重視した金剛・比叡に対し、榛名と霧島は砲撃能力に重点を置いた設計がなされている。宇宙世紀においてドゴス・ギア級と呼ばれていた艦をベースに建造された彼女達の艦底には衛星軌道から地表を狙撃可能な長距離砲が搭載されていた。

 

「ピカピカと喧しい事だな。おかげで探す手間が省けるのは良いことだ」

 

最大望遠で捉えた地表、そこには未分類の光線属種が蠢いていた。要塞級と比較してもまだ巨大なそれは、三つに分かれた照射膜を備えた器官を懸命に空へと向け射撃を続けている。

 

「撃て」

 

短い男の指示と共にロングレンジキャノンと命名されたそれが砲口を輝かせる。最上型に搭載されていたハイパーメガ粒子砲の数倍と言う冗談のようなエネルギーを通常の主砲と同程度の範囲にまで収束させたそれは、大気の減衰も迎撃のレーザーも無視し数秒という圧倒的な速度で地表へと到達。狙い違わず直撃させた巨大な新種光線属種を瞬時に蒸発させ、その構成していた組織を速やかにプラズマへと分解。周囲に悪夢のような破壊をまき散らす。それを見届けた男は満足そうに頷き口を開く。

 

「所詮突貫の間に合わせだな。とは言え数は居るようだし、突入部隊も降下中に撃たれれば煩わしいだろう、眩しいしね」

 

そう言って男は作戦モニターに表示された時計を確認する。

 

「降下部隊の軌道上到着まで後5分。手早く済ませるとしようか」

 

彼の言葉に応じる様に、ロングレンジキャノンが再び砲口を光らせた。




そろそろクライマックス。


金剛級巡洋戦艦
宇宙世紀におけるドゴス・ギア級戦艦をベースに建造されたカンパニー宇宙艦隊の中核をなす艦。1番艦である金剛はポイントでゼネラル・レビルを生産後、現地にて近代化改修を施されている。この時のデータを元に比叡は完全な同型として建造、続く榛名・霧島は同型ながら降下する友軍戦術機を直接支援出来る艦艇として砲撃能力を向上させた設計がなされている。元々の設計からして高い耐久性が与えられている同艦であるが、最新の対ビーム処理が施されているほか、ML機関を搭載する事で合衆国のHI-MAERF機をも凌駕する防御力を獲得している。一方で巨大な船体は運用に大量の人員を必要とするが、物資の搭載能力が低く、運用時には大量のドロイドが必要といった問題も抱えている。
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