愛と勇気のおとぎ話、それはこの世界には訪れない幻。終わる事の決定した世界が送り出した儚い夢物語。だがその夢に狂った男が紛れ込む事で世界の運命は歪み始める。
「スティレット1、ブラストオフ」
降下軌道上に居座った艦艇、これまで人類が宇宙艦隊と呼称してきたスペースシャトルモドキをあざ笑うかのごとき巨躯を誇る彼女達が、地表へ向けて遠慮呵責のない砲撃を続ける中、神に選ばれた男が一人、静かにそう告げる。
この世界に好意を抱いていた、少しだけ善良なだけの凡人。
「成程、こっちも対策済みか。ご苦労なことだ」
直径300mにも達するメインシャフト、現在そこは完全に塞がれていた。
「お礼にコイツをくれてやる」
創造主への資源供給という主業務を捨ててでも対策しなければならないというBETAの行動に対し、男は犬歯をむき出しにして笑いながら解除キーを入力する。即座に反応した機体は自身の身を覆っていた突入殻とブースターを切り離す。それに呼応するように付き従う僚機達も次々と同様の行動を実行した。タングステンを惜しげも無く使用した突入殻がマッハ4を超える速度で次々と侵入防止の天蓋へと突き刺さる。戦車砲弾を容易に超える質量が同等の速度で突入する威力は絶大であり、BETAの懸命な対応をあざ笑うかのごとき破壊を齎す。衝撃に耐えきれず大小の破片となって崩れる天蓋、その先には無数の照射膜が天を仰いでいた。
「大した歓迎ぶりだがな」
当然であるが戦術機に施された耐レーザー被膜は戦艦に比べて遙かに性能が劣る。これは単純に塗布できる厚みの問題であるから致し方ない事だった。また原作知識として既存よりも強力な光線属種の発生を想定していた男は、それ故に別の対抗手段を用意していた。即座に機体を覆う形で形成された歪みが放たれた光条の進路を逸らす。光すらも拒絶する断絶の壁、ラザフォード・フィールドを纏った彼等は躊躇なく突撃を継続。人類から空を奪った悪夢の犇めくメインホールへ次々と降り立つ。
『全周防御』
着地と同時にシスターズが搭乗している4機がフィールドを解除する。ラザフォード・フィールドは全てを防ぐ絶対の盾であるが、同時にこちらの攻撃も阻んでしまうからだ。解除と同時に彼女達は手にしていたロングメガバスターで円陣を組んだ友軍機の内側をなぎ払う。不幸にもそこに存在していたBETA達はインターバルが明けるのを待つこと無く分子へと還元された。その様子を円陣の中心で確認していた男は、メインホールの中央に鎮座している巣の主に話し掛けた。
「やあ、こんにちは」
『cちゅいvぼいp%&#’’!?』
ラザフォード・フィールドを解除した途端、脳内に不快な音が鳴り響く。多分これが連中の言語なのだろう。人間を十分に研究出来ず、社霞と言う中継を得られなかったからか目の前のそれは只管騒音を垂れ流し続ける。いやあ、こんなのをちゃんと理解出来る情報に変換出来る装置を生み出せるだけでも夕呼先生をこちらに引き込んだ価値はあったな。
『=ぺぽ%$(”)にゅい=!!?』
うるせえな。
「解んねえよ、何言ってるか全然解んねえ。日本語で喋れよ」
『pにk&’wぺう#くじぬん!?』
何やら喚きながらあ号標的こと重頭脳級と呼称される地球BETAの統括個体が触手を繰り出してくる。その先端の空間が僅かに歪んでいるのを俺は確認する。そうだよな、元々グレイシリーズ由来の技術はお前達が地球に持ち込んだものだ、その特性や利用方法に対して即座に適応出来ることは、原作知識が無くても十分想像出来た。だから敢えて言おう。
「無駄だ」
即座に俺の前に出たアリス達の機体が手にしたビームサーベルで次々と切り落とす。全くもって馬鹿にしてくれる。原作で御剣冥夜は、俺達の乗る機体より遙かに劣った機体で今の攻撃に応じた。もし彼女の駆る機体が万全で、今の俺達のように仲間とたどり着いていれば、ひょっとしてあの醜悪な作業機械に一太刀を入れる事だって出来たかもしれない。そんな攻撃を存分にズルをした俺達が喰らうはずが無い。
『ぬぺ&$##’!?ぺるy&%>=^??』
「だから何言ってんのか解んねえよ、日本語で喋れよ」
まあ、無理だって知ってて言ってるんだがな。俺は言いながら手にしていたロングメガバスターを構える。設定は当然最大射撃モード。
「日本語喋れねえなら、死ねよ」
喋ったところで殺すけどな。狂ったタコのように触手を振り回す重頭脳級へ向けてトリガーを引く。機体とほぼ同じ長さを持つ砲身から吐き出された光が空間を突き進み、奴に接触する間際で阻まれる。
「そりゃそうだよな、そっちの使い方も見せたものな」
ビームを放ち続けながら俺はそう鼻で笑う。ラザフォード・フィールドによる絶対防御。無効化すら可能なのだから防御に用いるなんて出来て当然だ。けれどお前には致命的な問題があるんだよ。
「所詮お前は作業機の統括用コンピューターに過ぎない。だから作業端末の改造や開発は指示できても、お前自体を改造する権限は持っていない。そして」
搭載されたML機関と核融合炉から供給され続けるエネルギーを変換し、俺はビームを放ち続けながら決定的な失態を告げてやる。
「お前自身は融合炉しか内蔵していない。さて、ここまで体内に備蓄出来たグレイ元素はあとどれくらいかな?」
フィールドを展開したことで奴は攻撃手段を失ってしまった。そしてその他の有象無象はシスターズのダミー機で十分対処出来る。故に俺を守るべく四方を固めていたアリス達も既にロングメガバスターを重頭脳級へ向けて放ち始めていた。射線が増えたことで加速度的に増大した負荷は一気にグレイ元素の消費を加速させたらしく、見る間にフィールドが縮小していき、とうとう干渉した自身の触手を消し飛ばし始める。そしてその瞬間は程なく訪れた。
「終わりだな」
重頭脳級を覆っていた空間の歪みが唐突に消失する。貯蔵していたグレイ元素を使い切ったのだ。突き刺さるビームの光条に焼かれ、奴は瞬時に膨張するとその身を弾けさせ、辺りに自らの体液と破片を散ら蒔く。その様子を眺めながら、俺は安堵の溜息を吐いた。
「とりあえず一段落か?」
まだまだ月や火星のハイヴは残っているし、その先の木星、更には土星にだってハイヴは確認されている。だが少なくとも人類の本土から連中を叩き出せたのは大きい。
「おっと、そうだ神器は?」
こっちに来る時に神様は言っていた。俺に与えられているのは人類の危機を救うための力だと。もしこの適応範囲が地球上に限定されていたら、
「良かった。いや、この場合良くないのか?」
神器はまだ人類の危機は去っていないと判断しているのだから、喜ぶのは違うかもしれない。
「とりあえず今後は布教活動を試してみるか。これだけ実績を積めばペテン扱いはされんだろう」
尤も神の使いっ走りですなんて言った日には激怒しそうな人も沢山居るが。まあその辺りの認識やら信仰のすり合わせは各々で頑張って貰おう。しかし結局教祖にはならざるを得ないかもしれない。
「ま、人類の天敵ルートよりは余程マシかね?」
そう笑っていると、神器にメールが送られて来た。送り主は神器の端末を持つルクレツィアだ。
「何かトラブルか?」
ハイヴ侵攻における残る問題の一つがこの通信手段だ。地中深い上に電波を妨害する金属粒子やら何やらがアホほど滞留しているから通常の電波によるものは当然出来ないし、遮蔽物がある関係上レーザー通信も困難だ。そして未だに地球も宇宙もミノフスキー粒子が希薄な場所が多すぎてミノフスキー通信も難しい。結果、俺の持つハイヴ深部で問題なく外部と連絡を取る手段は、このオカルト全開な神器のみとなっている。端末を操作しつつメールを開いた瞬間、俺は眉を顰めた。
「は?」
そこには極めて簡潔に、外から見た現状が記されていた。
「BETAが撤退していない?」
そんな異常事態に一瞬俺は固まってしまう。何せ今目の前で重頭脳級は俺が倒した。神器に加算されているポイントからも、あれがそうである事は間違い無い。だから残ったBETA共は、ウチの戦力が待ち構えている唯一生き残っているハイヴのボパールへ逃げ込む以外に選択肢は無いはずなのだ。
「ハヤタ達が手間取っている?いや、だとしても…」
作戦に先立ってスリーパーハイヴには攻略部隊を差し向けた。長距離の地中侵攻だから既に2日以上連絡が取れていない。だが彼等から振り込まれ続けているポイントから作戦は継続していてしかも順調である事はほぼ確定している。第一それらが健在であるとしても、ここからBETAが動かないのはどう考えてもおかしい。情報が必要だと考えた俺が、指示を出そうとした瞬間、メインホールが振動した。
「な!?」
慌てて機体を浮かび上がらせた瞬間、周囲を警戒していたダミーの何機かが、地中から飛び出した細い触手に貫かれる。サイズこそ小さいが、それはあの重頭脳級の使っていた物に酷似していて。
「そういう、事かよ」
巻き上がった土煙の向こう、そこには触手を伸ばす
ラストバトル!