『コマンドポストよりトイボックス1、重金属雲の規定濃度到達を確認。速やかに所定のテスト項目を実施されたし』
「トイボックス1了解、これより試験を開始する」
頭上を幾つもの砲弾が過ぎ去り、BETA共の上で激しい光を放つ。対BETA戦のお約束であるアンチレーザー弾による先制攻撃だ。この砲弾は光線属種に迎撃されることを前提とした重金属の塊で、迎撃されることで金属雲を発生させレーザーの威力を減衰させることを目的としている。侵攻に対する迎撃であればこの後通常砲弾に変更して釣瓶打ちが続くわけだが、今回のような間引きでは戦術機の出番となる。
「トイボックス1よりチェイサー1並びにチェイサー2へ。目標の距離6000まで前進し射撃試験を実施する」
『『了解』』
他の戦術機部隊が動き出すのを見て、俺も機体を前進させる。だが歩調を合わせるのではなく、ジャンプユニットを使用して先行する形でだ。
『ちっ!出過ぎだ!何処の馬鹿だ!?』
どうも同じエリアを担当する衛士を心配させてしまったようだ。お詫びに少しばかり楽をさせてあげるので許して欲しい。
「目標地点到達。前方BETA、D個体群を確認。FOX2」
親の顔より見た楔野郎こと突撃級の集団へ向けて、俺は躊躇無くトリガーを引いた。装備している120ミリの発射速度はそれ程速くない。毎分180発の速度で吐き出されたAPHE弾が次々と突撃級にその外殻を破砕しながら突き刺さると、即座に信管が作動。体組織を巻き込みながら派手な爆発を引き起こす。幾つかの砲弾は貫通してその先で炸裂し、近くにたむろしていた小型種を纏めて吹き飛ばした。
「射撃における砲身の振動は許容範囲内、過熱も許容値内である事を確認。だが120ミリの貫徹能力が過大であることから、汎用性を鑑み、より炸薬量の多い砲弾の開発が望ましい。続いて400ミリの試験に移る」
そう言って俺は武装を切り替える。元の世界におけるアサルトライフルのG36をモデルに作ったこの120ミリ突撃砲には、銃身の下に400ミリグレネードランチャーを装備している。マガジン式6発。俺は両手に持ったそれを、今し方ミンチに転職した突撃級の後ろからこちらへ向かっていた要撃級の集団へ気前よくプレゼントした。弾は2種類、標準的な破片効果の榴弾と、ルナチタニウム合金すら焼却可能なスーパーナパームである。放たれた砲弾は綺麗な弧を描いて頭上へ到達。エアバーストでその力を解放する。
「正常動作を確認。破片榴弾は威力十分であるが効果範囲における打撃力の不均一が見られる。小型種対策に用いる場合討ち漏らしが懸念される。焼夷弾は小型種、大型種にも有効であるが燃焼時間が長く、広域に焼夷範囲を形成する性質上、友軍の行動を制限する事が懸念される。運用には十分な注意が必要である」
降り注ぐ金属片が数体の要撃級を纏めてズタズタに切り裂いた横で人類の英知をつぎ込んで生み出された炎が小型のBETAを一瞬で蒸発させる。残ったでかい連中も火だるまになり、少しばかりのたうち回った後動きを止めた。うむ、所詮は炭素系生物。効果はばつぐんだ。
「T個体群の接近を確認、近接防御を行う。FOX3」
中々に破壊をばらまいているつもりだがさすがはBETA、圧倒的物量を背景に健気に戦車級がこちらへ接近してきた。距離は4000、彼らの移動速度からすれば目と鼻の先だ。もっとも俺にしてみれば、それは永遠に近づかない距離という意味になるのだが。即座に起動した両肩の36ミリ機関砲がスコールのように砲弾を浴びせる。A-10に搭載されているGAU-8ガトリングに着想を得て制作したこの機関砲は単砲身を採用し、発射速度を抑えている。結果瞬間的な弾幕の形成能力はGAU-8よりも低下したものの、長時間の継続射撃を実現すると同時に大幅な軽量化に成功している。そしてその分は積載弾数という形で反映されていた。1弾倉3万発という数字は87式突撃砲の倍近い発射速度でも十分な射撃時間を提供、浮塵子のごとく押し寄せていた戦車級を残らず地面の染みに変えた。
「95式速射砲の弾幕形成能力は良好、防御火器として十分な火力であると考える。ただし戦車級未満の目標へは過大であり、射角についてもやや狭く感じる。取り付け位置改善の要を認める。また装弾数に関しては戦地での弾倉交換が困難である事から、更なる増加が必要であると考える。FOX3」
手頃な位置に寄ってきていた要撃級へ向けて、今度は腕に取り付けられた36ミリを放った。この武装は発射速度を大幅に上げているため、2千発ほどある装弾を10秒ほどで撃ちきってしまう。しかしその瞬間火力は絶大で、目標にした要撃級は原型が解らないほどグロテスクな挽肉になっていた。
「腕部連装機関砲の火力は良好。しかし装弾数に不安が残る。また短砲身故に集弾性は極めて悪いが運用目的からすれば問題はないと考える。トイボックス1よりコマンドポスト。全搭載火器の射撃試験を完了。機体のコンディションにも問題は見当たらない。続いて運動試験に移る」
『コマンドポスト了解。戦域警報として作戦区域へのBETAの集中が報告されています。留意してください』
「トイボックス1了解。トイボックス1よりチェイサー1及びチェイサー2へ。更に5000前進し近接戦試験に移る」
『チェイサー1了解。こちらは気にせず存分に暴れられたし』
『チェイサー2了解。遠慮せず全部平らげて下さい』
流石は大陸帰り、全然動じてないな。
「こちらトイボックス1、出来るだけ善処します」
さて、もうひと頑張りだ。
目の前で繰り広げられる理不尽な光景を記録しながら、大岳大尉は自分が夢を見ているのではないかと疑問を覚えた。あまりに希望の見えない人類の行く末に耐えきれなくなった自身の脳が逃避に見せた甘い幻想。だが彼が座っているシートの感触が、機体を襲う振動が、これはどうしようもなく現実であると合唱している。
『すげえ』
オープンチャンネルで繋がっているチェイサー2、鋭谷少尉が思わずといった口調でそう呟いた。
「集中しろ、チェイサー2。特に震度計から目を離すな」
『チェイサー2了解です。しかし俺達の援護なんて要るんですかね?』
そう会話をしている間にも件の戦術機、F-4JXは第一世代とは思えない速度でBETAの中を駆け回りその火力の餌食にしていく。その姿はベテランを自認する二人からしても全く危うさを感じさせない完成された動きだ。だが、その行動故の弱点を大岳大尉は警戒していた。
「あれだけ頻繁に匍匐飛行をしていてはソナーは使えん。まあ、止まっていてもあの射撃では観測できるか怪しいがな。故に俺達がその死角を埋めてやる必要がある」
圧倒的な火力は同時に戦術機の重要な感覚器であるソナーにとって大きな障害だ。発砲音だけでなく間断なく発生する機体振動はソナーの感度を著しく下げるからだ。この問題は戦術機全体が抱えるジレンマであり、明確な解決には至っていない。現状は事前にソナー群を敷設することで対応しているが、今回のようなBETAの勢力圏へ突入する作戦ではそのような事前準備は望めない。そして戦術機に搭載されたソナーでは地表付近に来て飛び出す直前のBETAを察知するのが限界だ。
『確かに。圧も全然減りませんしね』
鋭谷少尉の言葉通りだった。作戦開始からまだそれ程経っていない現時点でF-4JXを擁するこの区域は、他に比べて極めて速いペースでBETAを駆逐しているはずだ。にもかかわらず連中の数は一向に減る様子を見せず、むしろ増えているようにすら感じる。そして彼らの感覚は間違っていなかった。
『コマンドポストより試験小隊各機!旅団規模のBETAが当該区域に接近中!砲兵による臨機目標射撃を実施する!至急当該区域より後退せよ!繰り返す!試験を中断し即時後退せよ!』
『旅団規模!?』
通信に鋭谷少尉の悲鳴じみた叫び声が響く。彼らが戦っているのはまだまだBETA勢力域の外縁だ。今までの戦闘記録や経験からすればこの辺りでの戦闘に対するBETAの対応は鈍く、こちらが浸透しない限り大部隊が投入される事はまず無い。故に戦術機を用いて領域に深く侵攻し、予め予定された砲兵のキルゾーンへとBETAを誘引するのが基本的な戦術となる。そのため予想外すぎる状況の発生に、同戦域に展開していた戦術機部隊は一時的に混乱してしまう。
『チェイサー1了解!聞こえたなチェイサー2、即時後退だ。トイボックス1、聞こえているな!試験中止!後退だ!』
未だBETA相手に大立ち回りをしてるF-4JXに対して大岳大尉はそう叫んだ。
『トイボックス1了解。トイボックス1よりコマンドポスト、意見具申。当該区域の友軍に動揺が見られる。再度後退勧告を。チェイサー1並びにチェイサー2は先に後退されたし』
返ってきた声は非常に落ち着いており、むしろ不気味なほどだった。さらに続いた言葉に大岳大尉は思わず問い返してしまう。
「先に?一体何を」
『逃げ遅れている部隊がいます。拾って下がりますから先に行って下さい』
「バカを言うな!俺達の任務は貴様とその機体を無事に持ち帰る事なんだぞ!」
そう叫ぶ大岳大尉に対する返事はあまりにも無情なものだった。
『それならばさっさと下がってください。問答をしているだけ時間が無駄です』
それだけ告げると、F-4JXはジャンプユニットを使って飛び去ってしまう。その速度は匍匐飛行であるというのに彼らの操る撃震の直線飛行よりも速かった。
『どうしますか、チェイサー1?』
呆れた声音でそう聞いてくる鋭谷少尉に、大岳大尉は怒りを懸命に抑えながら叫んだ。
「…後退だっ!!」
友人からのコメント。
「無双まで7話もかけるとかスケジュールガバすぎない?」
返す言葉もございません。