『畜生!何だってこんな!?』
『か、囲まれた!?』
『クソ!来るな!来るんじゃねえぇ!!』
目的の部隊はすぐ見つかった。それは当然の話で、まだ十分にデータリンクが機能しているし、何より作戦が始まって30分も経っていないからだ。不幸だったのは彼らが優秀で他の隊より突出していたことと、流れ込んできたBETAの群れが丁度彼らを呑み込む位置だったと言う事だ。それでも1機の喪失だけで持ちこたえている彼らは非常に優秀である事が解る。彼らを失うのは人類にとって大きな損失であることは間違いない。ならば、世界を救う勇者としてやるべき事は一つである。
「前方の統一中華軍機へ!東側に突破口を作る!後退しろ!」
叫びながら彼らを囲んでいたBETAの東側に居た連中へ掃射を行う。幸いにしてまだ弾薬に十分な余裕があるから、ついでに周囲へ400ミリ榴弾を撃ち込んで、押し寄せるBETAをなぎ払った。
『え?な、なに?』
『支援砲撃!?』
残念違います。
「こちらは日本帝国軍技術試験小隊所属、コールサイントイボックス1。後退を支援します!」
『帝国軍!?』
『助かった!』
「急いで、もう砲撃がはじま―」
そう言い終わる前に空で幾つもの光が瞬く。準備射撃のアンチレーザー弾が迎撃されたのだ。それを見ていた中華統一戦線の衛士がうめき声を上げた。
『拙いぞ、光線級の数が多すぎる』
その言葉に、俺は口には出さなかったが同意した。重金属雲が発生したからと言って光線属種による迎撃が完全に無力化されるわけではない。あくまで効率が下がるだけだ。だからこちらの投射量を圧倒的に上回る光線属種を揃えられてしまえば、こちらの砲撃が逆に無力化されてしまう。そして見る限り旅団規模を撃滅しなければならないこちらにとって、極めて困難な条件である事は否めない。
「とにかく下がりましょう。巻き添えで死んでも誰も得をしません」
『くそ!今回に限って何でこんな!』
『知るかよ、宇宙人共の考えなんて!さっさとずらかるぞ!』
『中華統一戦線陸軍所属、フェイタオ1だ。支援感謝する、後で一杯奢らせてくれ!』
そう言って中華軍機は即座に離脱する。やはり優秀なだけあって判断が早い。おかげで俺はもう一仕事できそうだ。
『コマンドポストよりトイボックス1!既に砲撃が始まっている!至急当該区域から離脱せよ!』
「こちらトイボックス1、悪い報せです。極めて有力な光線級の一団を確認しました、AL弾の迎撃状況から鑑み、砲兵による制圧の深刻な障害になる可能性が高いと判断します」
『コマンドポストよりトイボックス1。対象のBETA群は作戦本部でも確認済み。現在予定ポイントに展開していた砲兵部隊を再展開し火力を増強中。即時後退せよ』
それじゃ間に合わんな。
「トイボックス1よりコマンドポスト。意見具申。砲撃効果拡大のため目標への光線級吶喊を提案します」
『コマンドポストよりトイボックス1、当該区域には既に戦術機は存在しない。即時後退を―』
「何を言っているコマンドポスト。居るでしょう、ここに」
『!?』
俺の言葉に絶句するCP将校。そしてちょっとした騒音の後に聞こえてきたのは佐伯中佐の怒鳴り声だった。
『巫山戯るなトイボックス1!1機で光線級吶喊など自殺行為だ!とっとと後退しろ!』
その言葉に取り合わず、俺は言いたいことだけを口にした。
「砲撃は規定通りに実施されたし、当方に留意する必要は無い。これより光線級吶喊を実施する」
それだけ言うと俺は通信を切り、大きく深呼吸をした。残弾、推進剤共にまだ十分残っている。そしてこの機体の力を俺は十分に理解している。ならば、恐れることなど何もない。
「いくぞ」
誰に言うともなくそう宣言し、俺はフットペダルを踏み込んだ。
「トイボックス1加速を開始!L群集団へ突入していきます!」
「馬鹿者!戻れ!聞こえないのかトイボックス1!!」
篠原中尉の悲鳴を横目に佐伯中佐はヘッドセットに向かって叫ぶ。だが通信に返ってくるのはホワイトノイズだけだった。
「佐伯中佐、作戦司令部より通信が」
副官の言葉に舌打ちを堪えながら、佐伯中佐はチャンネルを繋げる。聞こえてきたのは予想通りの人物の声だった。
『よう、サエキ。楽しんでいるところ悪いがさっさとはしゃいでる馬鹿を下げてくれないか?砲兵の連中が退屈しちまう』
口調こそ陽気であったがその裏に明確な怒気を感じ、佐伯中佐は思わず息を呑んだ。
『それとも構わずぶっ放してもいいかい?私も気が長い方じゃないことは知ってるだろう?』
「そ、それはっ!」
戦術的に見れば暴走した1戦術機など無視して、即座に攻撃へ移るべきだろう。しかし今その損害にカウントされようとしているのは、人類の行く末を左右するかもしれない。否、量産の暁には確実に左右する機体なのだ。それが佐伯中佐に躊躇いを生ませた。しかし時間は待ってはくれない。
『後2分だけ待ってやる。それ以上は―』
「…いえ、即時射撃を開始して下さい」
「中佐!?」
驚きの声を上げる副官を手で制し、佐伯中佐はそう口にした。
『へえ?いいのかい?』
「こちらの都合で部隊全体を脅威にさらすわけにはまいりません」
その言葉に暫し沈黙した後、ホアン大佐は溜息を吐いた。
『部下を救ってくれた手前、なんとかしてやりたかったがね。恨まないでおくれよ』
その言葉を最後に通信が切れる。そして程なくして遠雷のような砲声がコマンドポストにも届いてくる。気まずい沈黙が流れるコマンドポストに焦った声の通信が入ったのは、それから数十秒後の事だった。
『チェイサー1よりコマンドポスト!拙いぞ、砲撃が迎撃されている!』
その言葉に一番初めに行動したのは篠原中尉だった。戦域マップを立ち上げ、叫ぶ。
「射撃第一射、ひ、被撃墜率100%!第二射も98%が撃墜されています!」
「馬鹿な!重金属雲はどうなっている!?」
「形成されていますが規定濃度に達していません!光線級の数が多すぎます!」
この不幸は幾つもの要因が重なって出来た結果だ。比較的若いハイヴである敦煌ハイヴは元々光線属種の個体数が少なく、これまでの間引きでも大きな障害となることは少なかった。加えて重金属雲の規定濃度は光線級の個体数によって決定されるため事前に準備されていたアンチレーザー弾の数も少なく、更に当該区域が砲撃予定地点でなかった事から、配置されていた砲兵の数が不足していた為に起こった事だった。
「戦術機に迎撃準備を取らせろ!砲兵陣地に食い込まれたら戦線が崩壊するぞ!?砲兵の準備が整うまでの時間をなんとしても稼がねばならん!」
そう悲壮な決断を下す佐伯中佐の前で、変化は唐突に起きた。
「え?だ、第三射、被撃墜率64%、続いて第四射、被撃墜率30%!」
困惑と驚きがない交ぜになった声音で篠原中尉が状況を報告する。それは砲兵の数が増えたと言うだけではとても説明できない結果であり、その他の要因に佐伯中佐以下全員に心当たりがあった。
「まさか、成功させたのか?光線級吶喊を、たったの1機で」
通信に歓声が溢れる中、試験小隊のコマンドポストだけは沈黙に支配されていた。
何処まで毎日更新できるかのチキンレース。