「面倒くさい」って、要らない?   作:ていくいっと

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少し短いけど、キリが良いので投稿。



3.異変、そろそろり。/ About to turn.

 きーんこーんかーんこーん。

 

 

 この2年間ですっかり聞き慣れた電子音が耳朶を揺らす、とほぼ同時に担任がガラリと教室に入ってきました。おはよーございます、と方々で声が上がり、今まで立ってお喋りしていた男子達も、うだうだとしながらも自分の席に戻ります。ガラガラと椅子が引かれて、ざわざわしていた教室が徐々に静かになっていく…、そんな普段と変わらない教室の光景を、私は後ろの席からぼーーっと見渡していました。

 

 

 今朝早く学校に着いたとはいえ、学校で目新しいものなんて滅多にありません。せいぜいが過ごし方が少し変わるくらい。そんなある種の惰性は、ふよふよと私に眠気を運んできます。

 

 

「よーし、じゃあ朝のホームルームはじめるぞー」

 

 

 担任が見た目相応の爽やかな声で告げ、そのまま連絡を言い渡し始めます。本日の欠席者は無しだとか、今日の掃除当番は何班だとか、中身もないような連絡。その間、私は欠伸をかみ殺すのに必死です。暖房でぬるくなった空気と代わり映えしない話が相まって、私のまぶたはもう重力に陥落寸前でした。

 

 薄目で窓側前方の席をふと見やると、今朝一緒に話していた、結城 凜(ゆうき りん)さんがぐっすりと居眠りしているのが見えました。アレはもう完全にアウトです、咎められても言い訳1つできません。私が教室に着いたときも眠たそうだったけれど、今はもう首を上下に振って船を漕いでいます。純粋に見ていてハラハラする、むしろ潔い居眠りっぷりです。

 席が近ければ突つくなりして、起こしてあげるのですが。消しゴムをぶつけるのは論外でしょうし、こうも席が遠いと為す術はありません。……まあ放っておいても、ホームルームくらいは大丈夫でしょう。たいして面白い話でもありませんし、それに皆さんも眠そうにしていますし。

 

 私も頬杖でもついて寝そべらずにいればバレることはないでしょうか。もう正直、我慢のならないほど眠たいのです。バレてしまうとまあまあ面倒くさいことになりますから、耐えたい……。

 そんなことを考えている間にも、睡魔は私を攻め落としていきます。いまもほら、首がかくんと落ちてしまいそうでした……。

 ──ふぁう。皆さんを隠れ蓑にしながら、バレないように聞いているふりだけして、と。後ろの席で良かったと思う瞬間第1位は、まさにこんなときなのでしょうか……。

 

 

「──。───。」

 

 

 自分のまぶたの色を見ながら、どんどん先生の話を聞き流していきます。頬に当たる手の冷たい感覚だけを強く感じつつ眠気に身を任せるのは、堪らなくスリリングだということに今気づきました。バレたらお小言がセットでついてくる(とてもめんどうくさい)ので、率先してやろうとは思いませんが。

 

 

 そんなことを考えている間にも、お話はトントン進んでいきます。早く終わらないかなぁ…。この話が終わったら1時限目が数学ねぇ。また、いっぱい宿題出されるんだろうなぁ。数学得意じゃないし、そういえば今日も宿題あったんだっけ?

 

 突然そんなことを思い出したので、薄目を開けて周囲を窺います。誰か、いま宿題やってる同志の人はいないかな~、なんて。1時限目にある数学の宿題なんて、どうせやっていない人が大半に決まってるんですから。心の中で言い訳しながらチラチラと目だけを動かして探ります。机の下で隠れてスマホいじってたり、ペンをもてあそんで回していたり。コレは通り越し苦労だったでしょうか…?

 

 そんな中ふと、パッチリした瞳と目が合いました。あれ、凜さん? さっきまでスヤスヤだったのに…。その表情は今朝までの眠たげなものではなく、どこか楽しげ。今は首だけで振り返り、肩越しにこちらを見ています。

 む、手元を良ーく見てみると──何やらこっそり、先生の方を指さしています。顔を今一度黒板の方へ向けてみれば、先生はまだお話中。長かった音声垂れ流しも、いよいよ終わりというところでしょうか。ここ10分間、いっさい変化なしです。いったい凜さんは何を伝えたいのでしょうか、とんと分かりません。

 しかし私が先生へ向き直った時点で、凜さんは満足げに前を向いてしまいました。なんだか、やりたい放題されて取り残された感じがします、納得のいかないモヤモヤが尽きません。跡で問い詰めてやろうと思っていると、すっかり目も覚めてしまいました。せっかくなので、最後の一言二言くらいはしっかり聞いてやろうと思い、丸まった背中を伸ばします。

 

 と、ちょうどそのときでした。

 

 

「最後に朝凪。放課後お話しすることがあるから、1時間くらい時間空けといてね。帰りのホームルームが終わったら職員室まで来るように」

 

 

 

 ほえ。───ああ。寝てたのバレた?

 

 びっくりして、反射的に「分かりました」と返事してしまいました。冷静に考えればバレていないはずです……バレてないですよね? 居眠りで1時間も説教されたら堪ったものじゃありません、そうじゃないと信じることにします。ったく、変な汗をかきそうです。

 

 けれど、それならば尚更心当たりがありませんね。というのも、私は職員室に呼ばれるような委員会活動も、いわゆる不良的行為も、まったくやっていない……はず、なのですが。

 ぴよぴよと混乱している間に、朝のホームルームは畳まれてしまいました。担任の先生もそのまま、そそくさと出て行ってしまいます。このまま詳しい事情も話さないで、担任は私を放課後まで放っておくつもりでしょうか。

 

 せめて何について話すのか聞き出すために先生を追おうと立ち上がりますが、間に合いません。足はっっや、逃げたのかってくらい。こうして、今日は放課後まで悶々としながら過ごすことが確定してしまいました。思わず立ち尽くしたままぶーたれてしまいます。なんですかぁ、ちょっとくらい説明して貰ってもいいじゃないですかぁ、もう。

 お喋り砂地獄から解かれガヤガヤとしてきた教室の中で、ひとり憮然とするしかありません。しかも、名指しされて悪目立ちしたのでしょう、頼んでもいないのにクラスメイト達が冷やかしてきます。

 

 

「日向ちゃーん、いったい何やらかしたんですかぁ~?」

「とうとう朝凪も、やんちゃするような歳になったのかねぇ」

「あんなに優秀で良い子だったのにね……」

 

 

 よよよ~、なんて言われても私にはどうしようもありません。だいたい、私が悪事を為した前提なのはおかしいのではないのでしょうか。こりゃたまらん、それはもう舌が回る限り誤解を解こうと口を開きます。

 曰く、何にもやっていない、ただ突然呼び出されただけで、私もまったく説明を受けていない。言葉足らずも甚だしい、昼休みにでも聞き出しに押し入ってやろうか。

 

 

「丁寧に言ってるけど、いつになくアグレッシブ」

「な~んだぁ、半グレの道に墜ちたわけではないのぉ?」

「うわ、良く回る頭から繰り出される言い訳……。質が悪い」

 

 

 ふん、どうですかこの弁舌は。若干名誤解を解けていませんが、まあいいです。どうせたいした用じゃあないんですし。1時間なんて余らすに決まってます、ちょっと話すのに呼び出されただけです。あーめんどくさい行きたくなーい。

 

 

「まあこの時期なら、大体進路の話じゃないかな?」

 

 

 そんな会話の輪にひょっこりと顔を出した女がひとり。そう、先ほど私を惑わせてくれた凜さんです。いつものように笑顔を咲かせながら、スルスルと近づいてきました。

 

 

「ほら、日向ちゃん成績もいいし、この学校(ウチ)ったら一応進学校でしょ。やっぱり担任たちも、そういうところにはチカラ入れて然るべきなんじゃない?」

 

 

 むぅ、それっぽい。凜さんが指を立てながら語った内容に、私はふむふむと納得します。進路、進路ですか。耳の痛いこと痛いこと、なかなか考えたくないです。しかしもうすぐ最終学年、そんなことも言っていられません。

 

 

「そんなところですか。それならそうと言ってくれればいいんですけどね。ともあれ、期待には応えなければなりませんね」

 

 

 そんなもの、面倒くさいことには変わりないけれど。口には出さないのが吉、ですか。

 そんな私を見て、凜さんは変わらずニコニコ。視線に気づくと、ぱちりとウインクしてきます。周りにうろついていた級友たちも、納得できる答えを得て興味を失ったようです。

 

 

「ほ~、そういうことなら頑張れ」

「ま、そういうことかしらぁ」

「また進路ぉ? つまらん……──ぅ~

 

 

 ごちゃごちゃ言いながら、それぞれ1限目の教室に向かっていく彼ら。って、つまらんていうな、人の大事なことを。

 そんなことを思っていれば、もう時間ギリギリです。今日は居眠りもしたし、危ない橋ばかり渡っている気がしますね。いつもはもう少ししっかりしているつもりなのですが。

 

 

「わたしたちも行こっか、日向ちゃん」

 

「はい、凜さん。そうしましょう」

 

 

 私も、凜さんに促されて、重い腰を上げて立ち上がります。ぐぐーーっ、と伸びをして、教科書に問題集、筆箱とノートを持てば準備完了。今日も頑張りますか、っと。

 ふと周りを見渡せば、教室はあっという間に閑散としていました。っていうか、私たち以外には誰もいません。がたがたと出しっ放しの椅子だけが今朝着いたときとの違いでしょうか。これはいよいよ急がねばと歩き始めたところで、凜さんにそっと話しかけられました。

 

 

「そうだ日向ちゃん、今日一緒に帰らない?」

 

 

 ちらりとこちらを窺いながら、そんなことを尋ねてきます。その表情もどこか不安げと言うか、心配げというか…。いつもニコニコしているというのに。

 少し不思議に思いながら確認をします。

 

 

「はい、私はかまいませんよ。しかし呼び出しの分時間を取ってしまうのに、いいんですか?」

 

「うん、それはいいの。……じゃ放課後、約束ね」

 

 

 そう言うと、凜さんは再び笑顔を浮かべます。何だったのでしょうか。まあ、一緒に帰ることくらいは良くあることですし、別に何もないでしょうが。

 

 

 

 

 

 

 

 まあそんなこんながあって、放課後に謎の予定が入ってしまいました。ただの進路相談か、はたまた──。

 

 どちらにせよ、変なことに時間を取られてしまいそうです、めんどくさい。ちょっぴり憂鬱な気分になりながら、私は駆け出し始めるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そういえば日向ちゃん、今日やる数学の宿題やった?」

 

 

 …え、ありましたっけ?

 

 

「あるよう。まさか、やってないの?」

 

 

 ……あーーすっかり忘れてたッ、見せてください!!

 

 

 そう拝み倒せば、はいどうぞ、とノートを見せてくれます。優しさが心に沁みる…。

 そのかわり、「ふふ、()()()()()()()()()()()」なんて。凜さんに笑われてしまう私なのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




す、進まねぇ…。気長にお待ちいただきたく。


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