「面倒くさい」って、要らない?   作:ていくいっと

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僕には物書きの才能がないッ……(血涙)

前回の投稿はなんとびっくりハロウィンでした。
ということで、4話目です。



4. 出会い / beyond Accidents.

 ──どんよりと雲が積み重なっていき、とうとう雪も降り出したお昼時。生徒達はチャイムの音とともに、束の間の休息を得ます。

 なんとか午前中の授業を切り抜けた私はというと、凜さんと一緒に机を囲んでいました。

 

 

「ふふ、日向ちゃんってばやっぱり小食だね~」

 

 

 そう言いながら、お弁当をパクパク食べる凜さん。栗っぽい色の髪色と併せて、口におかずを放り込んでいくさまは何だかリスみたい。尻尾が付いていたらさぞ可愛かったことでしょう。普段から快活な印象のある彼女ですが、こんなところでも変わりませんね。徹底的、ってやつです。

 

 そんな彼女ですが、私とはお昼をいっしょに食べたり食べなかったり、といった関係です。凜さんと食べなくても、机の近い人といっしょに食べることもあるし、一人で食べることもザラなのですが。気が向いたら誘うし、誘われたら喜んで行く、みたいな…。案外、この教室の中で一番仲が良いのは凜さんかも知れませんね。

 さて、今日のお昼は凜さんの方からのお誘いでした。そういえば朝も一緒にお喋りしましたし、帰りも一緒に帰ろうと約束しましたね。今日という日は何か、凜さんにご縁がある日なのかも知れません。今朝、道すがらコンビニで買ってきたパンを頬張りながら思います。

 

 

「む~、聞いてる? 日向ちゃん、やっぱりパン一個だけじゃあお腹いっぱいにならないんじゃない?」

 

 

 おっと、あまりにもぼーっとし過ぎてしまいましたかね。えへへ、なんて思わず照れ笑いしちゃいます。反省反省。

 

 

「でも凜さんだって、朝抜いちゃった~とか言ってるじゃないですか。それに比べたら小食の方がマシってものです」

 

 

 今度は凜さんが照れ笑いで誤魔化す番でした。だって朝って忙しいんだも~ん、なんて言ってます。まあ、今朝も一番乗りで学校に来てましたし、忙しいのは本当なのかも知れませんが。…やっぱり、何かと苦労しているんでしょうね、凜さんは。

 

 そんなことを思いつつ、話は牛車のごとくゆったりと進んでいきます。今日は全然宿題が出なかったので楽だとか、話の長い先生が休みだったとか。いささか後ろ向きな話題ばかりなのはご愛嬌ってやつです。

 

 

「そういえば、放課後の呼び出しは何か分かったの?」

 

 

 そのままの流れで、凜さんが私も気になっていることを聞いてきました。面倒くさいものっていうものは、頭から離れないでこびりついたままなものですね。今回の呼び出しも例に漏れず、私を苛み続けています。私も何をするのか知りたいのですが…。事情に詳しい先生方もいなさそうでしたし。そのときが来るまで、謎に包まれたままになりそうです。まぁ、あんまり面倒だ面倒だと連呼するのもいけないので、おとなしく呼び出されますけれど。

 

 

 というか、この面倒くさがりな性格は自分でも直したいと思っているのです。…ほんとですよ? 何に対してでも面倒くさいって思ってしまうので、色々なことをイヤイヤやるのが大変なんです。いつメッキが剥がれるとも知れませんし。

 

 

「うぅ~ん、最近なんか変わったこととかなかったの?」

 

 

 変わったことですか…? 凜さんの、思いのほか真剣な目に見据えられて、もう一度我が身を省みます。

 ふむ。もう年の瀬も迫ってきて忙しい人は忙しいのでしょうが、私はなんら変化のない日常を送っています。面倒ごとも全く起こらず、ありがたい限り。ましてや、先生に呼び出される類いの変わったことはなかったと思いますけれど。

 

 

「例えばぁ~……、事件現場でも見ちゃったとか? 怪しい集団でも目撃したとか!」

 

 

 どう? なんて小首をかしげられても困ります。そんなもの見たこともないし、これから先も見る機会はないでしょう。

 というか、朝自分で進路関係でしょとか言ってたじゃないですか。テキトー言ってたんですか?

 

 

「ん~、なんか臭うんだよね~。怪しいって言うかさ」

 

 

 勘だけど、と曖昧に微笑む凜さん。

 む。勘じゃあ判断のしようも無いと一蹴したいところですが、凜さんの勘は妙に当たるのです。特に人間関係においてだと無類の鋭さを発揮するのですが…。今回はどうなのでしょうか。

 

 

「何かなかったの? 珍妙な事件とか、このさい心霊現象とかでもいいからさぁ~」

 

「ふふ、滅多なことじゃあ起こりませんよ、そんなの。最近はむしろ、私の周りでは良いことが起こってばかりかも知れませんね」

 

 

 そういえば、今日もそうでしたね。今日は宿題の山も出されませんでしたし、常々面倒だと思っている雪はね当番も、次回は晴れ予報なのでやらなくて済みそう。気分も晴れ晴れです。

 

 ん、珍妙な事件、珍妙な事件…。

 

 

「朝早く教室についてみれば、友達がノートを涎でぐしゃぐしゃにしていた、とかはどうでしょうか」

 

 

 う゛、と胸を押さえる凜さん。隠せたと思ってたのに、なんて呟いています。私が扉を開けた音で目が覚めているのに、ごまかせるわけがないでしょうに。思わず、ふふっと笑いが漏れてしまいます。そんな恨めしげに見つめられても知りませんよー、だ。

 粗方お弁当も食べ終わった凜さんですが、今度はむくれてしまった様子がやはりリスのようです。ほっぺを膨らませている仕草が似合うこと! 人という人がおしなべて、温かいものを見る目で彼女を見るでしょう。微笑ましいことです。

 

 

「むむ~……。とにかく! おかしな出来事だとか、怪しげな集団の勧誘だとかには気をつけること。知らない人たちは迂闊に信用しちゃダメ。わかった?」

 

 

 涎にもですね、と笑って返せば、ぷんすこと音を立てて大むくれです。こっちは真剣なんだよー、なんて私の頬をぺちぺちと叩いてきます。

 結局、お昼中むくれっぱなしだった彼女に、頬をおもちゃにされてから午後の授業に突入したのでした。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「よーし、今日はコレで終わり。放課後も各々気をつけて活動するように。以上」

 

 

 その言葉を合図に、さようならー、と皆が唱和します。続いてガラガラと椅子を引く音が響けば、すっかり騒然とした教室に逆戻り。動物園もかくやというお喋りの前に、帰りのホームルーム中の静けさもさっさと退散してしまったようです。

 

 さあ、この一日私の頭に居座り続けた面倒な用事と、ついに対面の時が来ました。

 

 掃除や部活動に向けて動き始めるクラスメイトをよそに、私はするすると担任に近づいていきます。呼び出しの件ですね。掃除当番もあるし、いつ行けば良いか聞かねばなりません。今回ばかりは逃がしませんよ。逃げられても困るんですけどね。

 すみません先生、と声をかけつつ、

 

 

「先生、私掃除があるんですけど、それが終わってから行ってもいいですか?」

 

 

 と聞けば、意外な返事が返ってきます。

 

 

「いや、朝凪は今日掃除しなくて良いよ」

 

 

 あらら珍しい、役割には厳しめの先生なのに。面倒くさかったしラッキー、なんて思っていたらさらに言葉が重ねられます。

 

 

「朝凪は今すぐ応接室に行くこと。そこで人が来るまで待機していなさい。先方もすぐに来るって連絡があったから」

 

 

 予想外の言葉に困惑してしまいます。お、応接室……? そんなとこ入ったこともありませんし、場所も知りません。大体、生徒がそんなところを使う機会があるのやら。

 それに、先方、って。何をするにせよ、学校内の人が相手ですらないらしいです。学校外の人で私に用がある……。コレはもう、さっぱり分かりませんね。

 

 

「先生は、私が何の用で呼び出されたか知りませんか?」

 

 

 ダメ元で聞いてみても反応は芳しくありません。微妙に引きつった感じの微笑みを浮かべながら、

 

「う~ん、僕は詳しいことは知らないんだ。上手く説明もできないし。申し訳ないけれど、相手から直接話を聞いた方が良いと思うよ」

 

 なんて言われてしまいます。

 目も泳いでいますし、なんだか及び腰という感じ。

 

 

「終わったらそのまま帰って良いから。それじゃあヨロシクね」

 

 

 ぽんと私に鍵を渡すと、そのまま、やはり逃げるように担任は去ってしまいました。

 ん~~。身体の奥の方から、思わずため息が漏れてしまいます。嫌な感じ。ええもう、面倒も面倒になりましたよ。そんな、まるで関わりたくないみたいな。

 

 

 

 

 

 はあ。行きますか、もう。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 雪に閉ざされた校舎に元気な掛け声が響く、冬の暮れ。

 

 人が走り回る音を聞きながら、私はひとり応接室にて座っています。

 初めて入った応接室には、向かい合った一組のソファが置いてありました。流石というべきか高級っぽい感じですし、ちょうど良いふかふか具合。いやに高まった緊張も和らいでいきます。

 

 しかし……。一体どうしたものでしょうか。ずぶずぶとソファに身を沈み込ませながら考えます。退くべきか残るべきか、それが問題だ…。ちょっと格好の付けすぎでしたか。けれど、本当に問題なんですよ。

 

 というのも、カーテンの隙間から覗く景色はすっかり真っ暗。そして私一人がポツンと佇む応接室。これがどういうことか分かりますか? …誰一人やってこないってことですよぅ、もう。

 なんと現在時刻午後五時。もはや、とうに日が落ちている時間です。放課後になるのはだいたい午後四時ですから、すでに1時間は待たされています。先方とやらからも全く音沙汰がないまま。正直どうすればいいのか、すっかり困り果ててしまいました。

 

 

 「まったく…。来るなら早く来てほしいものです」

 

 

 思わず心の声が漏れてしまいます。今まで朝の続きの本を読んだり参考書を眺めたりして耐えてきましたが、もう忍耐の限界が近いってもんです。待つのが面倒くさいという訳ではないのですが、いつまでも待たされるというのも、舐められているみたいで気に食わないです。

 ほう、とため息をついても、暖房が効いているので白くはなりません。しかし、帰り道はきっと冷えることでしょう。朝の天気予報では、これから天気が崩れるらしいですし。できることなら、早く帰りたいな~、なんて思ってしまいます。

 

 私は部活動にも所属していないのに。いったいどうしてこんな時間まで残っているのでしょうか。今回私を呼びつけてくれた人たち──海のものとも山のものともつかぬ、個人か集団か──も、何をしているのですかね。

 

 ソファに寝転がりながら内心でぐちぐちと文句を言っていると──コンコン、と。木製の扉が叩かれる柔らかい音が部屋に響き渡りました。

 

 そのとたん、私は素早く飛び上がります。端から見ればネコのようなしなやかな反応だったでしょう。警戒心の強い野生動物的な、無駄のない動きに自分でも満足ですが、そんなことはどうでも良い。散々待たせてくれましたが、何やら大事なお話の予感──隙の無いようにしなくては。乱れた髪を整えながら、咳払いをひとつ。どうぞ、と扉の向こうに声をかけて──。

 

 

「日向ちゃ~ん。お話し合い、もうおわった? 一緒にかえろ」

 

 

 がちゃりと入ってきたのは見知った顔。ええ、やってきたのは凜さんです。申し訳ないですが、覚悟していた分肩すかしを食らった気分です。

 凜さんはきっちりと着込んでリュックを背負い、帰り支度バッチリといった感じ。そういえば、一緒に帰る約束をしていたのでした。申し訳ない、反省です。だらだら待たずに、すぐに連絡を入れるべきでした。

 

 ずかずかと入り込んできた凜さんといえば、物珍しそうに部屋中を物色しています。くりくりとそこら中を巡る茶色の瞳は、しかしすぐに私以外に人がいないことを認め、こちらに向き直りました。

 

 

「あれ、お話し合いしてたんじゃなかったっけ? もう終わってた?」

 

 

 怪訝そうな視線が、答えに窮していた私に突き刺さります。ううっ、そんなに見つめないでください。

 純真な瞳の圧に追い立てられて、私はこれまでのいきさつを説明します。かくかくしかじか、といっても相手方が来ないというだけのことですが。

 

 説明しているうちに、凜さんが徐々に呆れた表情になっていきます。

 

 

「む~、それで1時間も待ってたの? さっさと抜け出しちゃえば良かったのに」

 

 

 ぶ~、と頬を膨らませながら言う凜さん。いやいや、そんなわけには行かないです。何やら大事なお話っぽいですし、これから来る人たちにも迷惑が掛かります。

 

 

「でも、面倒くさかったでしょ? 1時間も待つの。こんな部屋にひとりでさ、来るかもわかんない人を待つのなんて馬鹿らしいって。相手が悪いんだしさ、今日のところはさっさと帰っちゃおうよ」

 

 

 ね? 日向ちゃん(自分)だって、そう思ってるでしょ?

 

 

 ……言い方が悪いかも知れませんが、可愛らしく小首をかしげて私を唆す様子は、まさしく小悪魔というべきものでしょう。

 たちが悪いのは、彼女が私の心情をだいたい言い当てていることです。担任にも邪険に扱われたし、こんな寂しい場所で1時間も放置された。何の理由付けもされずに、ただ言いつけられたからというだけで。ええ、不安だったし、馬鹿らしかった。何より面倒でしたとも。

 

 

 そうでしょう? こんなに待たされたんなら許してくれるって。約束の時間にも来ない、得体の知れない奴になんか会わなくていいよね?

 

 

 ──うん、たしかにそう。このまま借りた鍵を返して、事情を説明して……。同情こそされても、決して責められはしないでしょう。この面倒くさい待ち時間も解消され、私のメッキだって剥がれることはない…。まさに理想的です。

 

 

 

 

 ──けど。だけど、です。

 目を閉じて、落ち着いて自分の気持ちを咀嚼します。面倒くさい……、その思いが心を占めていました。さっきまでは。

 

 先ほども言いましたが、私は自分の性格を直したいと思っているのです。溢れる面倒くさいの声に負けて流されたくないのです。私が自分自身を流していくうちに育んできた、ちっぽけな、しかし確かなプライドが、ここで()()()()に済ませてはいけないと叫んでいるのです。

 

 こんなことは、誰だって常に心に留めていることかもしれません。楽に流されるべきじゃあない。しかし、結局は流されてばかりの日々を送ってきました。

 ただ、なぜか。そう本当に不思議なのですが、今日このときに限って、私の天性の負けず嫌いというものが殻を破って表に出てきたのです。

 

 

 ──そしてそれは、とても幸運なことでした。私にとっても、()()()()にとっても。

 

 

 

 凜さんと帰る帰らないで押し問答しているとき。

 ちらと見えた時計の分針は水平に近づき、彼女があらん限りの言葉を使って──少なくとも私にはそう見えました──私を帰らせようと試み、それもすぐに達成されるだろうと思えた、そのときでした。

 今日2回目のノックが響いたのは。

 

 

 

 私たちは二人揃って、ピクッと扉を振り向きます。ようやく……来たのでしょうか? 顔を見合わせれば、思いのほか険しい表情をした凜さんと目が合いました。

 

 

「入ってもいいですか?」

 

 

 扉の向こうから、良く通る声が響きます。少なくとも聴いたことのない声。身構えたまま動かない友人を尻目に、少しばかり緊張しながら肯んじます。

 

 ノブがくるりと回り、軽快にドアを押して入ってきたのは果たして──。

 

 

「いやいや、遅れて申し訳ない……っと。やあ、キミが朝凪日向さん?」

 

 

 よろしくね、なんて笑顔で手を差し出してきた、金髪碧眼の女性。豊穣の金糸を雪に濡らし、にかっとこちらに笑いかけてきます。遅れに遅れたくせに良い笑顔で……方々に乱れた髪に、所々擦れた痕のあるスーツを着た、麗しいひと。

 

 こちらも困惑しながら手を差し出します。実のところ、このヒトはたくさんの点で私を困惑させたのです。

 なぜこの人はこんなにもボロボロなのだろう? 顔には細く切り傷が入っていますし、パンツスーツの裾は濡れそぼり、太腿には大きな擦り痕が付いています。ネクタイも緩んでいて、まるで激しい運動をした後みたい。

 なぜこの人は、こんなに気丈に振る舞っているんだろう? 全身を雪に濡らし、身体にさまざまな傷を付けて…。明らかに普通でない様子なのに、その笑顔には一点の曇りもありません。

 

 ──そして。なぜ凜さんは、この人を睨み付けているのでしょう? 先ほどから目つきは常にあらず厳しいものでしたが、今は怯えさえ垣間見せている様子。何か理由があるのでしょうか。

 

 

 ただ、その惑いを飛び越えて伝わってくる、不思議な魅力を持っている人でもありました。その美しくも鋭い顔が、笑うと微かな暖かさを放っているようで……。こちらを見下ろす、すらっとした長身なのに圧迫感を感じさせない。柔らかな、安全な雰囲気に満ちている人です。

 

 先ほどまでの苛立ちも忘れ、その白いしなやかな手と握手を交わします。しっかりと握られた手は、しかし随分と冷えていて。すこしだけ、大丈夫なのだろうかと心配になったことを覚えています。

 

 

 …まあ、とにかく。これが、私こと朝凪日向と、センセイとの初めての出会い。センセイにとっては飛びきりデンジャラスな出会いだったらしいのですが、このときの私は知るよしも無し、です。

 世界を駆け回り、何の因果か日本の北国に辿り着いた傑物と、片や田舎の女子高生。その交流は、こんなところから始まったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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