一回間違って投稿しちゃいました。ユルシテ。
というワケで二ヶ月ぶりの投稿です。忙しいのがようやく落ち着いたので、またゆっくりやっていきます。
ちょっとだけ書き溜められたので第一弾を投稿。近日中にもう一話くらい上げられるかも。
こちらを散々待たせてくれたと思しき碧眼の美女が、目の前でニカッと笑いかけてきます。
「よろしくね、日向」
その言葉とともに差し出された白い手に、私も戸惑いながら応じます。むふ、と満足げに握り返してくるその手は、まさに白魚の如き手でした。しなやかな見た目も、握り返したときの温度感も。
そのことにビックリして彼女を良く見てみれば、ずいぶん急いで来てくれたのだと気づきました。僅かに乱れた長髪や手にかけたコートに付いた雪は、ようやく融け始めたところ。白い首筋に薄ら汗をかいていて、ゆるやかに肩を上下させています。
「まあ、座って話をしようか。今日は、日向に大事なお話があって来たんだ」
小綺麗とはほど遠い身嗜みなのに、スイスイと話を進めていく様子は妙に堂に入っています。
明らかに日本人ではないと分かるクールな見た目に反して、私たちに馴染む、冷たさを感じさせない柔らかな雰囲気。ゆるりとソファに寄り添ってこちらに微笑む様子からは、この人が何をやっている人なのか全く判然としませんでした。
「ほら、キミが立ちっぱなしだと私も座れないじゃあないか。戸惑いもあると思うけど、楽にしてしっかりお話を聞いてくれると嬉しいな」
ぬけぬけとそんなことを言ってきます。良い笑顔で。しかもそれが様になっているから、なおさら性質が悪い。あちこち擦れたスーツなど気にしないと言わんばかりです。
そんな彼女を見ていると、身構えていた心が解かれていくようです。なんだ、散々待たせてくれたことだし、そんなつもりなかったのに。毒気を抜かれたというのでしょうか。根負け、の方が近いかも知れませんね。
「ほら座りなって日向…──と、ええと、そちらは……?」
私を促しながら、しかしふと首をかしげる仮称碧眼美女。
その視線の先には、帰る支度をしたまま立ちっぱなしの凜さんがいます。ただ、先ほどから敵を見るような、凄まじい目をしているのが気になります。尋常ではない様子、端的に言って怖いです。
いったい、凜さんはどうしてしまったのでしょう。変です……特に彼女が現れてから。もしかして、私のために怒ってくれているのでしょうか?つまり、予定より遅れて現れたことに対して。
「えと、彼女は結城りn─」
のほほんとそんなことを思いつつ、凜さんを紹介しようとしたその矢先でした。
「──あなたはいったい、何なんですか…? ここに、何をしに来たと言うんですか」
思いがけないほど怯え、掠れた声。それが私を遮りました。
その中には、敵意がふんだんに混ぜ込まれていました。普段の凜さんからはおおよそ考えられないような、刺々しい口調。そんな余裕のない様子で来訪者に詰め寄ったのです。
これには金髪美女も一瞬面食らった様子。困惑しきりといったふうに形の良い眉をひそめています。対して凜さんは一歩も引かず、私は間に挟まれてオロオロしっぱなし。こうも急展開だと面倒くさいという気すら起きません。どうしてこうなっちゃったんですかね、もう。
この均衡は、金髪美女がぽんと手を打つまで続きました。いかにも得心がいったという感じで──私には何が何やらですが──口を開きます。
「あー…、確かに自己紹介がまだだった。そうだな……。ボクのことはケイって呼んでくれれば良いよ。同僚もみんなそう呼ぶ」
ケイ。K? 海外の名前については詳しくありませんが、今の言い方だと本名ではなさそう。愛称みたいなものでしょうか。
うんうんと考えるわたしをよそに、金髪美女ことケイさんは簡単な自己紹介を始めます。
明らかに説明し慣れたテンポの良い語り口で知ることができたのは、しかし他愛もないことばかりでした。
出身がイギリスの20代女性で、趣味は読書に旅行。好きな飲み物はオレンジジュースで、雪を見るのは久しぶりだから見られて嬉しいとか。これまでに数多くの国を渡り歩きながら
そんなことを、身振り手振りを交えながら話してくれます。少し空気が悪くなったこともあるのでしょう、輪をかけて軽快かつ丁寧に話している様子でした。
気になるところと言えば、彼女が聞く限り違和感のないくらい上手く日本語を操っているところ。そしてなにより──。
「ある組織、って? 何なんですか?」
なんて歯切れの悪い言い方でしょう、思わず私も詰問してしまいます。そんな渋い顔しても無駄です、そんなツッコミ待ちかってくらいわざとらしく誤魔化されたら嫌でも気になるってもんです。
「うむむ、なんと言えば良いか……」
ケイさんは凜さんを横目で見つつ、何やら言い渋っている様子。そんな態度をとられるとこちらも身構えてしまいます。何か後ろ暗いような組織なのでしょうか?
今まで軽快に話してくれていた分、会話が停滞するといやに重く感じます。ううっ、こういう口を出しづらい雰囲気って苦手。
その空気感を引き裂くようにわたしの疑問に答えてくれたのは、意外なことに凜さんでした。ケイさんが何かを口に出そうとするのを鋭い目で制します。そして、刺々しい口調はそのままに言い放ちました。
「──あなたは能力管理官。そうでしょう?」
能力管理官? 管理官。 ……ああ、あの能力者を1対1で監督しているとかいう。
「ありゃ、知ってたんだ。ボクのこと見たことあった?」
「いえ。けれど記章があったから。私の管理官も同じものを着けてる」
首を傾げるケイさんに、凜さんはこともなげに応えます。えっと、記章……ああ、スーツに付いてる菱形のバッジのことでしょうか。胸元で黒地に光る金色が眩しい、立派なものです。どうやらあれが能力管理官の証らしいですね。
「ふーん……。でも、なんでそんな方がわたしに会いに来たんですか?」
ケイさんの職業が分かったとしても、その疑問は残ります。凜さんによれば、彼ら管理官はなかなかに忙しくしているらしいですし。
どうしてわざわざ学校くんだりまでやってきて、わたしに会おうとしたのでしょうか。
来客用のソファに寄り添うようにして立つケイさんに、率直に疑問をぶつけてみます。
それまで興味深げに私たちを観察していた彼女。わたしに問われてふと考え込むように目を伏せると、
──どうやらそこの彼女も能力者らしいし。ここで伝えちゃったほうが良いか。
ふと漏らしてしまったように、誰に告げたとも知れず呟きました。
それと同時に、彼女の纏う雰囲気が変わっていきます。なんと形容すればいいでしょうか。軽薄な暖かさに少しピリッとしたものが混じった、より真剣なものへ。
んんっ、と咳払いを一つ、そして豊穣の色をさらりと振りまいて、ともすれば気圧される強烈な視線がこちらを射貫きます。そしてそれに負けぬほど丁寧に、私に向けて口を開きました。
「今日は、日向。あなたに大切なお話があってここまで来ました」
ずいぶんと遅刻してしまって申し訳ない。だけど、今日のうちに……絶対に早いうちに知っておいてもらった方がいいことだ。たぶんキミにとって大切なことだから、なるべくしっかりと耳を傾けていて欲しい。
そんな前置きが入ります。いまだ座れずじまいだったわたしに一歩一歩近づきながら、その視線はわたしを縫い止めてしまうかのよう。不可解な緊張感から、相槌を打とうとしても喉がカラカラです。わたしはひとつ頷いて続きを促すのがやっとでした。
「そこの彼女との関係を見るに、能力者のことは少しは知っているらしいね。そのことを踏まえて、まあズバリ伝えるのが良いと思うんだけど、いいかな」
わたしの目の前で足を止め、自然と見下ろしてくるケイさん。先程までの軽快さはなりを潜め、すこし緊張しているように見えるのは気のせいでしょうか?
背ぇ高いな、とか呑気に考えているわたしをよそに、碧眼が真っ直ぐ私を捉えます。彼女はその緊張を振り切るようにひとつ息をついて、その綺麗な瞳でただただ真剣にわたしを捉えて。
「日向はどうやら、不思議なチカラを持つ人──能力者だということがわかりました」
告げていきます。眉一つ動かず、身体の強ばりをひた隠しにして冷静に。
「そして、キミの管理官にボクが任命されました」
「今日からキミを管理することになります。……どうぞ、これからよろしくね?」
能力者。わたしが……。それに、目の前のこの人が担当?
まだこのときは、そう言われても何の実感も湧きませんでした。凜さんに話だけは聞いていたけど、ほとんど公にされていない能力者のことなんて何も分かりません。
わたしはそれよりも、ケイさんに目を奪われてしまったのです。告げた直後、全身を覆う緊張をほぐし崩して、照れたように微笑むその姿。怖いほど真剣だった目が弧を描くその様子に、この人はわたしのために真剣になってくれていたんだって気がしました。
……不思議な気分です。会う前はいい印象なんて無くて。だけどいざ会ってしまえば、この人は信用できるって思えて。何だか不安より先に、ほっとする気持ちで一杯になりました。
──それはそれとして、『管理』ってなに???
これからわたし、管理されちゃうんですか??