奏瑛視点
放送を聞いて慌てて葉金ちゃんの部屋に向かう。
勢い余って大きな音を立てたドアにびくりと肩を揺らしたのはラピスくんの後ろに隠れるようにして立っていたアンジェリーナちゃんだった。
彼女はそっと目を伏せ、ゆっくりと首を横に振る。
辺り一面に充満している錆びたような鉄の臭い。
人から漂う異臭に思わず顔を顰めてしまう。
遅すぎた
揺れる三つ編みをそばに、
「師匠……」
かくりと、膝をつけている飛鳥ちゃんは何を思ったのだろう。
ただただ呆然として、大きな瞳を揺らしながら一心に葉金ちゃんだけを見つめていた。
その背中の痛々しげなことといったら!
「…飛鳥。あまり、見ない方が……」
オレーシャちゃんがそう諭すとわずかに肩を揺らす。
視線は外さないまま。
食い入るように彼女だけを見て。
「……だ、」
「え?」
「まだ…まだ、生きているかも…」
「…飛鳥、貴女何を」
ゆっくりと立ち上がってひとつ、ふたつ、と確実に葉金ちゃんに向かって歩を進める彼女。
「まだ死んだって決まったわけじゃ…ないですよね?」
そっと葉金ちゃんの手首に指を添えて目を瞑る。
冷たかったのだろう、
それでも信じたかったんだ。
無事であると 息をしていると、
でもそれは無情にも壊されてしまった。
死を確信してしまった飛鳥ちゃんは何度も何度も、何度も葉金ちゃんの名前を呼んではしゃくり上げの声を漏らしている。
誰も動かない中、静かにそばにより、葉金ちゃんの遺体を調べ始めたのは流星くんだった。
悪いな、と一言告げてから。
すぐ後に美織くんも葉金ちゃんと葉金ちゃんの部屋を調べ始める。
声を押えて泣きじゃくる飛鳥ちゃんを支えるようにして立たせたのは奏撫ちゃんだ。
「…奏瑛くん。私、飛鳥ちゃんのこと保健室に連れてくね」
こくりと頷き返すのを見届けると、そのままゆっくりと部屋から連れ出した。
私には気持ちが分かる、と、目で示しながら。
無造作に投げられている何かを見つけた、琴梨くん。
「…………時計だ…」
中身がむき出しの時計ともつかない、しかし短針と長針が付いている時計らしいもの。
触れられた拍子に道半ばで止まっていた螺子が落ち、カツンと小さな音を零して床の上をころころと廻っていく。
泣いた痕を痛々しく残した彼は黙ってそれを見つめている。
刃物というならきっとそこになにか手がかりがあるだろうと、キッチンへと向かった。
誰も居ずガランとしたキッチンより木霊しているのは水の滴り落ちる小さな音。
『…濡れてる……』
「…………奏瑛」
思わず飛び出しかけた大きな声を何とか飲み込み、後ろを見ると中夜ちゃんが出入口の前にちょこんと佇んでいた。
!
そうだ、彼女は今日のご飯当番だったはず!
『ねえ、うさみん!』
「?」
『この包丁って洗ったりした?濡れてるのが気になって』
「………ううん。してない。………そもそも。包丁なんてなかった」
『…なかったの?どこにも?』
「……ん。…朝からない。……だから困った」
『ああだから今日のご飯…いやそっか。今日一日無かったのか…』
「………奏瑛は」
『うん?俺?』
「……奏瑛は。…クロを見つけたいの?」
『え?』
「……なんでもない」
それ以降彼女は口を開くことなく、静かにキッチンを立ち去る。
クロを見つけたいの、か。
……そんなの、出来ることなら見つけたくないに決まってる。
覆い被さるおどろおどろしい何かを振り切るように、中夜ちゃんの向かった方向とは逆の方に足を進めると、
「…………」
何かを拾い上げて乱雑にポケットに突っ込んでいる蒼太郎くんが。
一応探索はしてくれているんだろう、目についた部屋に入っては出てを繰り返していた。
俺もなんとなく近くにあった脱衣所に入ってみる。
洗濯カゴを見てみたり、お風呂の戸を開けてみたり。
洗濯機、乾燥機……。
『…っ、』
血?
__待ち疲れちゃったよお、そろそろ始めちゃってもいい?
__オマエラお待ちかねの【学級裁判】を!
__先日入った【裁判場】に集合してください!
ドクドクと嫌な跳ね方をする心臓を制圧するように鳴る、この間と全く同じアナウンス。
誰がクロなのかは分からない。
葉金ちゃんの死は間違いなく他殺だ。
もしまたクロを見つけてしまったら、
俺達は更に仲間を失くすことになる。
それは、嫌だなぁ…