ユメミグサロンパ   作:24社長

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非日常②

少し遅れてやってきた飛鳥ちゃんが自分の証言台へと登ったのを確認し、麻堂くんは議論を開始させる。

 

 

「…それで、深作ちゃんの死因は?流星と星霰ちゃんがじーっくり見てたよね」

 

「まあ…死因は刺殺。これは間違いない、はず」

 

「流石に服までは捲れなかったからえがきに刺傷が本物か見てもらったんだ。悪いことをしたな、女子に頼むことじゃないのは重々承知してたけど…」

 

「ううん。四の五の言ってられる状況でもなかったし…長くは見てないけど、深作ちゃんのお腹は確かに刺傷だらけだったよ」

 

 

ところで、とえがきちゃんはそのまま

 

 

「最後に深作ちゃんを見た人がいるなら教えてほしいな。時間帯、絞りたいし」

 

 

と気持ちゆっくりに発言を続けた。

 

 

「私は見てないですね、夜ご飯の時間まで部屋にいましたし」

 

「私も楪くんと同じで部屋にいたから何も分からないな、…きるちゃんのこととか、まだまだ気持ちの整理が付いてなかったのもあって」

 

「きっとそれは私、です。17時過ぎに私は師匠の部屋の前で、師匠に会いました」

 

「部屋で作業してくるね、と、私にそう伝えて…」

 

 

そこで言葉を区切る飛鳥ちゃん。

 

 

「…でもその前に師匠は他の誰かと一緒にいたと思うんです、会話している声が聞こえてきたので」

 

「…………た、多分、それ俺…です」

 

「一条が?…深作と仲良かったんですか?意外ですね」

 

「あ、ち、違っ…直してもらうものあって、う、歌方さんが、呼んでくれたから」

 

「……ふうん、歌方が?」

 

『なんか蛇口壊れちゃったみたいで、葉金ちゃんに修理してもらおうと思ってさ』

 

「……う、うぅ……ごめんなさい……」

 

「なるほど。…しかし、」

 

 

「そんな簡単に壊れてしまうほどこの学園の蛇口は弱いものなんでしょうか?」

 

 

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ギクリ!と肩を揺らしたのは琴梨くんではなく。

 

 

「……やっぱり言うべきだと思うよ、小鳥遊さん」

 

「へ、…ぁっ…ぃ、一ノ瀬くん……」

 

 

自分を真っ直ぐ見据える琉霞くんに声を掛けられ、大きく肩を揺らしてだらだらと汗を垂らすあるむちゃんだった。

 

 

「ぁ、ぁの………………」

 

 

「ほ、ほんとは。…ぅ、運動、会のとき、た、小鳥遊が……パ、パキ、って……」

 

 

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上手く説明が出来ないらしいあるむちゃんに変わって、琉霞くんが説明をし始める。

そうだ。

確かこの二人、水飲み場に向かってたな?

 

 

「小鳥遊さんが水を飲もうと、下を向いてた蛇口を上に向けたんです。そこでパキンと」

 

「え、そ、それだけで壊れたんですか…?」

 

 

信じられないといったようにあんぐりと口を開けて困惑する飛鳥ちゃんを見やり、こくりと頷く彼。

 

 

「…だから多分、一条さんが更に蛇口を回したことで完全にどこかがやられちゃったんじゃないかな」

 

 

ドアノブも取ったことがある、と付け加えた琉霞くんにがっくりと肩を落として落ち込むあるむちゃん。

 

蛇口について突っ込みたいところはいろいろあるにしろ、兎も角「17時過ぎ〜18時半までの間に殺された」ということが分かり、議論はどんどん進んでいった。

 

 

「…深作の部屋、扉の前に血が垂れてたんだ。だから深作は多分、部屋を開けた瞬間誰かに刺されたんだと思う」

 

「……凶器。…キッチンの包丁。……朝からなかった」

 

「つまり、昨日のうちから…正確には、昨日の夜ご飯の後に包丁を持ち出してたってことなのかしら?」

 

「計画的犯行ということですか…世も末ですね。僕らみたいな子供が殺意を持って、人を殺すなんて」

 

「……ふん。そんなもん、元々だろ。世も末じゃなかったらガキの死刑囚なんざいねえよ」

 

「ん〜!俺、ちょっと思うんだけど!」

 

 

「死体は血塗れだったわけだし、クロにも返り血がかかってると思うんだよね…♪」

 

 

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「まあこうして見る限りみんなどこにもそれらしいものは付けてないから、洗い流したんだろうけど!」

 

「でも夕方から夜ご飯の時間までなんてそんなに時間があるわけじゃないし、服を洗ったとしたらまだぐっしょり濡れてると思うなぁ…」

 

 

返り血が付いた服を洗って、血を流して、夜ご飯の時間までに乾かすとしたら……?

乾かせるような、何か……

 

 

『あ!』

 

「奏瑛くん?」

 

『乾燥機だよ奏撫ちゃん、俺見たんだ乾燥機に血が付いてたのを!』

 

 

『どれくらいで乾くのかは分からないけど…でも、部分的に濡れてるだけならすぐに乾くと思う』

 

 

えがきちゃんがこくりと頷き、薄く笑う。

 

 

「乾燥機を使ったら、自然乾燥よりは早く乾くもんね。わたしは歌方くんの推理に賛成だな」

 

「脱衣所か……うむむ……。あ、脱衣所といえば」

 

「琴梨くん、君、そのパーカー洗濯に出したんじゃなかったのか?」

 

「……っ、は、え、何で…?」

 

「パーカーを手に持ちながら黒のタンクトップ姿で脱衣所に入ってく君を見たのだよ!でももう着てるってことはきっと乾燥機を……ん?乾燥機……?ま、まさか、君……!」

 

「待って俺じゃな…違、違う!違うよ!!」

 

「あ。でも俺も18時前に乾燥機が動いてるのは見たな、変な時間に動いてたからよく覚えてる。そこに一条がいたかは見てないけど」

 

「た、確かに、俺は脱衣所に行って…か、乾燥機、動かしたけど…」

 

 

「でもそれは蛇口が壊れたときに水被ったからで!だ、だからっ…お、俺じゃない…っ!」

 

 

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「しん、信じて…、っ二藤さん!」

 

 

必死にまどかくんに向かって自分の無実を主張する琴梨くん。

親に縋り付いて泣き喚く子供のように、

 

それまで涙を見せなかった彼の目に、再びじわりと溢れ出す水。

 

彼の言葉がどうしても嘘だとは思えなくて

欺けるほど器用でもない彼に、欺瞞だらけの証言が出来るのだろうか?

 

でもそれは、懸命に貫き通そうとした

小さな小さな虚言だった

 

 

『アドリブはもう終わりだよ。琴梨くん。…水を被ってるわけがないんだよ、あのとき、君も君の服も濡れていなかったんだから』

 

 

「……っ…」

 

「ちなみにその蛇口が壊れた時間帯は?」

 

『大体、16時過ぎくらいだったかな。』

 

「違う!!…違う、のに、」

 

「一条さん」

 

 

時間帯を聞き、しっかりと琴梨くんの目を見て彼に話しかける莎莎匁くん。

逃げ惑う視線すら逃がしはしないと、力強く捕らえていた。

 

 

 

「仕切りに「違う」と主張していますが、具体的に何が「違う」のですか?」

 

「え……?」

 

「水を被ったのが本当だとしてもそれは16時過ぎの話。しかし実際に乾燥機が動いていたのは18時だそうです。…クロでないと言えるのならこの不自然に空いた2時間を説明できるはずですよ」

 

「そ、それは、」

 

「………………」

 

 

それきり、黙ってしまった琴梨くん。

代わりに口を開いたのはモノクロックさんだった。

 

 

「いい時間だねえ、それじゃあ投票タイム!いってみよお!」

 

 

超高校級の機械技師

【深作葉金】を殺したクロは?

 ▶︎一条琴梨

 

 

「またまた正解!そう、葉金ちゃん殺しのクロは琴梨くんでしたあ!」

 

 

「……そん、な……っ」

 

 

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壊れたロボットのようにゆっくりと下を向いて沈んでいく琴梨くん。

何も言わず、瞬きもせず、たらたらと流れ落ちる涙を拭いもせず、ただ、そこにいるだけ。

 

 

「どうして琴梨は、葉金を殺したのかしら…動機が分からない」

 

 

ぴくり、と反応して顔を上げる。

 

 

「……動機?そんなの、決まってる」

 

 

「殺人の練習だよ」

 

 

思わず、息を飲む。

どういうことなんて声は出なかった。

 

 

「一条ちゃんは人を殺したかったの?…それとも、それが後悔だったのなぁ」

 

 

「…俺は、こうなる前に殺しておかなかったことを後悔してるんだ。…ずっとずっと、ずーっと、」

 

「明るい女の子にトラウマがある、から、だから深作さんを狙った。…だってあの人を殺せたら、俺は本番も成功できるでしょ…?」

 

「時計を作ってほしいって頼んで部屋に籠るように仕向けてみて、自分の部屋に包丁取りに行って、準備を整えて、部屋に向かって、…ドアを開けたあの人を刺した。倒れたから逃げないように跨って刺した。何回も何回も、死ぬまで刺した」

 

「…包丁はパーカーに包んでキッチンまで持ってったんだ。その後パーカーを抱えて、急いで手洗いして…乾燥機にかけた。……ああ、そこにも血、付いてたんだ…」

 

「………………早すぎた。アナウンスが鳴るのが、そう、俺は本当に……悪魔の放送だって!」

 

 

きっと今日までのどの日常でも、どの非日常でも、彼がここまで話したことも、自分の思いの丈を綴ったこともなかった。

後にも先にも、これが、最初で最後。

彼の大多数のうちのほんの一部の、彼の本性。

 

 

「………は、何…何ですか、それ。じゃあ師匠が、師匠を殺したのはただの練習ってことですか…?」

 

「…………」

 

「自分のトラウマに重ねて、罪も、恨みもない師匠を殺したんですか……!!」

 

 

張り裂けんばかりに声を張る飛鳥ちゃんの叫び。

少し前の彼ならば泣いていただろうけれど、いや実際先程まで泣いていたけれど、琴梨くんの瞳は今までにないほど乾いていた。

 

 

「俺が悪いの……?」

 

「っ、何を、」

 

「元はといえば、まわりの人間が悪いのに…っ、俺を苦しめて、傷付けて、悪びれもなく笑う!なのにどうして俺だけが責められなくちゃいけないんだ!」

 

 

大きく肩で息をして、やがて、再び口を開く。

もうずっと彼が何を言っているのか分からない。

 

 

「…包丁は昨日の夜持ち出した。あ、暁美さんの演奏会のとき…誰もいない学園を見て回って、場所は知ってたから」

 

「……一条さんはあのときから誰かは殺すつもりだったんだね」

 

「……あ、当たり前、でしょ。目的も、理由もなく歩き回るはずがない……!!お、俺は弱いから、殺されるんだ。だから、殺される前に殺して…っ!…、あのとき、楪さんと一ノ瀬さんに見つかったとき、…バレたかと、思ったけど…」

 

 

「…ボクが言おうと思ってたのに自分で全部言っちゃうんだから、琴梨くんてば甲斐性ないよねえ!」

 

 

そう声が聞こえてくると途端に震え、怯えだす。

彼は知っている。

俺も、知っていた。

 

これから訪れるのは「オシオキ」だと。

死ぬまで終わらない、裁きだと。

 

 

「うぷぷ…そろそろ来るよお、首輪!」

 

「嫌だ死にたくない!!!嫌だ、嫌……ヒィッ……!!!」

 

「イヤ?死にたくない?」

 

「し、死にたく、な…あっ、」

 

 

「死にたくなかったのは葉金ちゃんも一緒でしょ」

 

 

✿ クロ が 特定 されました

 オシオキ を カイシ します

 

 

【動画はTwitterにて】

 

 

✿ オシオキ 完了

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

夏月視点

 

一条のオシオキが終わると、また誰も話さなくなる。

誰も動かない。

いつまでも此処に留まろうとする。

 

どれだけ待ったって、小山も、雨野も、世子子も帰ってきはしないんだ。

目を瞑って深作を思い出すと、そこにあるのはどれも笑顔ばかりのみ。

 

 

眩しかったと そう思うよ

 

 

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綺麗なことしか知らぬまま生きてきただろうと思いさえする、太陽のような笑顔。

僕達はきっとまた、光を失ってしまった。

 

後悔はいつまでも僕達に付き纏うんだろう。

ただひとつだけ、投げられた甘い甘い誘惑に乗せられて過ちを犯してしまうほど、強く、重く。

 

……スパイなんてやってる僕が言えたことじゃあ、ないですね。

 

 

2章【奇怪的ファウル 廻る螺子は何を想う】

 

 

【挿絵表示】

 

 

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