日常
奉憧くんが不慮の事故で亡くなってから数時間。
再び鳴らされたアナウンスにより、俺達は体育館へと招集された。
「今度は何をさせる気?」
ただ静かに、壇上にいる彼を見つめて「もううんざりだ」と言いたげに口を強く結び直した。
そんな琉霞くんに爪先を向けることのないまま、
「まあ、まあ!ただの仕切り直し。ケジメつけて、仲良くしようよお」
不気味なほど、穏やかにそう返してくる。
数時間前までは酷く憤慨していた様子だったのにも、関わらずだ。
奉憧くんの最期の勇姿を蔑み、あまつさえ「粗末な死体」だと罵倒した、モノクロックさん。
「はあ…………」
重苦しいものを取っ払うように深くため息を吐く人物。
今までの記憶からして、蒼太郎くんかな…なんて思いながらその声を辿るとそれは意外な人物で。
「…もう、何も疑いたくないのに……」
「…そうだねぇ」
悲しげに目を伏せ、そんな呟きを一粒零すえがきちゃん。
彼女の隣に寄り添うようにユキちゃんがいるのは、もうすっかり見慣れた光景だった。
仲良しだ何だなんて思ってはいたけれど、ただ仲良しなのではなく、きっと二人はそれだけじゃなくって……なんて、そんな想像だってしてしまう。
しかし、いつでもどこでも、モノクロックさんが絡むとロクな目に遭わない。
自身が向けているモノクロックさんへの気持ちが霞みがかって来ている気さえする、…きっとそれは俺だけの話じゃない。と、思ってたけど。
「ふふ…」
ただ一人、この場において笑みを浮かべていた。
大きな掌で覆っていることにも関わらず、思わず声を漏らしてしまうほどには極めて、愉しそうに。
「……は、気色悪」
これも聞き慣れたような彼の言葉。
ただひとつ見慣れない点をあげるのならそれは彼の。蒼太郎くんの瞳が、激しく非難するように彼を捕らえていること。
くすくす、くすくす
愉快だ!と言わんばかりに目元に弧を描き、含み笑う。
「……だって!…ああ、ダメだ。抑えられそうにないね、この高揚した気分をさ」
『一体、君に何があったの?何か面白いことでも起きたのかな…』
そう聞くと彼はゆっくりとこちらを見る。
どろり、とろり、見たこともないほどに幸せに蕩けた視線がかち合い、表しようのない不思議な感覚が身を走った。
「アレほど神様に愛された人はいなかった。のに、死んだ!しかも僕よりも早く。人の手の混じらない要因で!」
それが嬉しくて、おかしくて、面白くて仕方がないんだと麻堂くんは続けて口にした。
「…………ああ、そうかよ」
「ゆ、幸運くん…」
掛けようとする奏撫ちゃんの姿も、声も、見ようとせずただひたすら彼への思いの丈を綴る麻堂くん。
「運が悪かったね、幸運児」
…一頻り嗤ったのち、彼に話し掛けるように、そう床に向かって吐き捨てた。
そんな彼に今まで黙っていたまどかくんが掴みかからんとばかりに手を伸ばすと、
「だからさあ!!!…仲良くしようねって、言ってんでしょお?」
張り上げられた声に思わずビクリと肩を揺らしてしまうも、それに目を留めることなく。
先程の穏やかさはどこへやら、一転して不機嫌そうに手元をざわつかせていた。
空気が再び、重苦しいものに切り替わるのを肌に感じるんだ。
この雰囲気のモノクロックさんは、何をしでかすのか想像に足りる。…ようで、足らないから怖い。
もしかしたら、彼の意に反してしまった幸運くんやまどかくんになにかし始めるんじゃ…?
…と思えば再び、穏やかに
「喧嘩はダメだよお」なんて笑うんだ。
今の彼はなんだかおかしい。
情緒がまるで安定していない。
「奉憧くんの件で随分癇癪を起こしていた、と思ったけれど…分からないわ、貴方のことが」
「仕切り直しって言ってたしきっとさっきのアレのことじゃないかな?なんか結局、有耶無耶になっちゃったしさ♪」
彼の指す「アレ」はきっとディスクのこと。
俺達の後悔していること、基、俺達の過去の出来事が記録されているあの薄い円盤のことだ。
「まさかまた、誰かの中身を勝手に見ると…そのようなことを言うつもりなのですか」
「飛鳥さん…。…いくらモノクロックサマと言えど、人様の心の中を不躾に踏み荒らす行為に同意は出来ませんわ」
飛鳥ちゃんとアンジュちゃんの言葉は聞こえていないのか否か、さほど気にする素振りも見せずにいそいそと人数分、…から数枚抜き出した数だけ目の前に並べ始めるモノクロックさん。
抜かれたあのディスクはきっと……。
ひとつ、またひとつと丁寧にその形を魅せるついでに、なんてことない独り言を口に刻みながら。
「そんな事を言ってみたって、気にはなるでしょう。誰がどんな経験をしてきていて それを踏まえた上でどう後悔を感じているのか」
「少しずつ、少しずつ、片鱗を指先に感じている生徒だっているんでしょう。あの経験さえ無ければもっと良く生きられた、あの経験さえ無ければこんなに苦しまずに生きられた…」
「焚べることのない思いを日々の浮き出る笑顔の影に潜ませているんでしょう。そしてそれは、」
「真っ先に散り切れたあの子も同じことなのでしょう」
「ね!オマエもそう思うでしょお?」
オマエも、と投げかけられた彼が強く手を握る様が見えた。
壱華ちゃんに守られる形で助かっている彼のその心は、並大抵のことなんかでは到底分かりはしないんだろう。
数分後、自分の手元に来てしまった誰のものかも分からないディスクをただ、壊れてしまわないようにと優しく包むことしか出来なかった。
「見るも見ないも自由だよお、ただ見た方がスッキリするかもねえ!ボクなりに頑張って作ったものだから壊さないように大切にしてねえ」
その言葉を最後に一旦場が治まり、これで今日は解散かな、と出口の方へと向き直そうと髪を揺らす。
「……ぇっ」
そのか細い一言が耳に入った瞬間、どうしてか後ろを向いてはいけないような気になってしまって。
反射的に動こうとしていた自分の足を留まらせ、声の主を目先で探す。探して、捜して、