ユメミグサロンパ   作:24社長

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非日常①

 

 

「ええ、もう大丈夫。ごめんなさいね、騒がせてしまったかしら…」

 

「ううん。レディグレイちゃんが謝ることなんて、なんにもないよ」

 

 

あの後、力のある流星くんにおぶられる形ですぐさま保健室へと運ばれたグレイちゃん。

えがきちゃんが慣れた手つきで手当をしてくれたからなんとか、命だけは救われたけれど。

 

ただ負傷箇所を動かすと、やっぱり痛みも伴ってしまうのか、グレイちゃんは何度か我慢するように顔を強ばらせていた。

 

 

「…………レディグレイ。……髪…」

 

 

うわ言のように呟く中夜ちゃんにふるふると首を横に振って、気にしないでと返す。

彼女の整ったポニーテールは槍に千切られ、俺が試行錯誤を繰り返しながら切り揃えたと言えど形を崩してしまった。

 

 

「服、汚してしまったわね」

 

「え?ああ、全然気にしてないから大丈夫だ!」

 

 

自分の事よりも相手の事を気にするグレイちゃんの為人は利点なんだと思う。思いやる心は誰にでもあるものじゃないから…。

それでも今くらいは、自分の事を考えてほしいだなんて思ってしまうのは酷いことなんだろうか。

 

床に散らばった白銀の髪を手で掬うユキちゃんは、やがて僕がやるねとそれをホウキで履き始める。

手伝うよ!と未依葉くんが申し出てもそれはやんわりと断られてしまったようだ。

 

 

「きっとあの子は、わたしを殺す気だったんじゃないかしら。…許してなんてなかったんだわ、最初から。そのつもりで…わたし達を呼んだのね」

 

 

目を伏せてそう言う彼女に、そうだね、ともそんなことない、とも返せず、ただただ黙る他なかった。

 

 

「…このディスク、別に馬鹿素直に所持しなくてもいいんじゃね〜の?」

 

 

静かに机上にそれを放置したのはまどかくんだった。

もう触れない、と示すように、もう囚われない、と自分から離すように。

 

 

「誰の手にも渡ってなかったら何の脅威にもならないし、燃やして消せば円満解決だろ」

 

「燃やす…君は本気でそう言ってるの?」

 

 

…そう返す琉霞くんの表情を見るに同意は出来ないみたいだ。

何かを恐れるようにただひたすら、曇らせるばかり。

 

 

「……覚えてる?さっき、モノクロックは壊さないように、って言ってたこと。頑張って作ったものらしいよ、…どうやってかは分からないけど」

 

 

「もし今燃やして…棄てて、それでそれが、いつかモノクロックにバレたとき、」

 

 

「俺達がどうなるか…考えなくても、もう分かってるんじゃないの」

 

 

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他人事だとは思えないその重い言葉に、まどかくんも言葉を詰まらせた。

 

 

「まあ、タダでは済まないかもしれませんね。軽くで済めばいいですがそうでなかった場合は…」

 

「グレイみたいに傷付けられるか、壱華みたいに殺されるか…の二択だろうな」

 

「僕達の勝手な行動はお気に召さないみたいですし。…使い勝手の良い駒にでもしたいんですかね」

 

 

火種になりそうなものも見当たらない、そもそも燃やせそうな場所もない…夏月くんと流星くんの冷静な言葉により不安は更に伝染するばかり。

 

 

「それではこうするのはどうでしょう?」

 

「……楪サマには何かお考えがあるのですか?」

 

「まどかさんの案には賛成です。しかし一ノ瀬さんの意見もよく分かります。焼却処分には同意しかねますが…」

 

 

「ディスクを回収し、隠す。見るも見ないも私達次第と仰っていましたし、最悪バレたとしても何の問題もありません。見ない選択をしただけ、壊してはいませんので」

 

 

ただ隠すだけじゃ些か不安が残る、とのことで隠し場所と隠したディスクは俺達男子が二人一組の交代制で管理することになった。

体育館倉庫の奥に隠し、鍵をかける。そして朝昼晩の三回に分けて中を見て様子を見る…。

 

女子は危ないからこの見張り番にはあえて入れていない。

あるむちゃんやユキちゃんは乗り気で協力を申し出てくれたけれど。

 

今日の当番は俺とラピスくんだ。

ジャンケンで負けたから。

それぞれ回収して、人数分あることを確認する。

 

 

『じゃあ行こっか!』

 

 

こくりと頷きが返ってきたのを見て、並んで保健室から出る。

安心するほど暖かな空気に包まれていた部屋から一点、自然な空気が流れ込む廊下は少し冷えていた。

 

ふるり、と微かに身震いするとそれに気が付いたラピスくんが優しく笑って反応してくれる。

 

 

「この後温かい飲み物でもお作りしましょうか」

 

『本当?じゃあ、お茶会しよう!一緒にケーキ食べたり話したりしてさ』

 

「ええ、是非!ふふ…楽しみが出来ましたね」

 

 

朗らかに笑うラピスくん。

優しい心を持つことの、それがどんなに尊いことなのか。きっと白黒の彼には分かり兼ねるものなんだろう。

 

 

「…歌方様にもやり直したいことはありましょう。そしてそれは、私も同じです」

 

『何の巡り合わせか分からないけどね。…それで、どうしてか本気でやり直せると思っちゃうんだ。俺も、みんなも』

 

「……ええ、本当に」

 

 

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驚きに蠢く目の玉二つ。

忙しなく動く舌でさえ、今は煩わしいと思ってしまう。

 

 

『っ…、だ、…誰か……!』

 

 

呼ばないと。呼ばないと、いけないのは

頭では分かっているのに!

 

 

『誰か…』

 

「ん〜?あれ君?そこで何、し て……」

 

 

目の前、目の、すぐ先には二人が倒れている。

二人分の体があるんだ、

 

 

どうして?

 

 

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_____毒林檎でも口にしたのか

 

彼の傍に眠るように横たわっているのはアンジェリーナ・ウィステリアだった。

 

その白く柔らかだった頬に確かに流れた、涙の形。

 

 

「……っ、…僕、皆のこと呼んでくる」

 

 

そう言うと瞬く間に部屋を飛び出していったユキちゃん。…その背中を眺めることもせず、俺ははじめて目の当たりにした人の死に動揺していた。

 

これまでも、死は見てきてはいる。

けどそれはどれもこれも、アナウンスが流れたあとの話であって。覚悟も、準備も何も無く…少し前まで生きていた二人の、生々しい姿をこんな形で!

 

数分も経たないうちにバタバタと廊下が騒がしくなる。

女の子数人の声が聞こえてきたかと思えば、

 

 

「っ二人が!…亡くなってるって本当なの…?」

 

「………奏撫。……あっ」

 

「あ、暁美さん…!」

 

 

__死体が発見されました!繰り返します、死体が発見されました!死体発見現場の【会議室】まで急いで集合してください!

 

 

その姿を目にしたと同時に、アナウンスが耳を過ぎる。

 

落ち着かせようと肩に触れようとしていた中夜ちゃんと飛鳥ちゃんを振り切るように、奏撫ちゃんはただ一直線に倒れている二人の元へと駆け寄った。

 

泣きさえせずとも、酷く気をやっているのは一目瞭然だ。

こんな事を考えている俺は意外と冷静なのだとかそういうのではなく、きっと目の前から逃げているだけ。

 

やがて、認めるように力なく項垂れるとそのまま立ち上がって部屋を出ようとしていた。

咄嗟に夏月くんが手を掴んで行き先を問うと、ただ、ピアノを弾きにいくだけだと。落ち着かせるために、と。

 

それを止める理由なんて無い夏月くんはどこか不安げな顔のまま手を離す。やや覚束無い足取りで出ていった奏撫ちゃんを追いかけようと飛鳥ちゃんが動いた。

 

 

「私、暁美さんについて行きます!…だから、柊さん達はどうか捜査を…」

 

「……分かりました。東雲に任せましょう」

 

 

そうだ、捜査があるんだ。…そう思った俺は二人の倒れている部屋を調べようと見て回る。

 

いつもなら別の部屋に手掛かりが残ってないか、部屋を出て探してみるんだけど。…今回は、他の部屋には何も残っていない気がして。

 

ラピスくんの遺体は綺麗だった。

アンジュちゃんの遺体も酷く、綺麗だ。

 

ラピスくんの遺体をえがきちゃんが調べていて、アンジュちゃんの遺体は美織くんが調べているらしい。

二人ともしゃがんで、死因を追求しているようだ。…なんて、俺はいつも周りのことばかり。

 

 

「…う〜ん…あれ…?何か口に…ん?これ…」

 

「…………ん…、……?…!」

 

 

ふと、彼が目を見開いて勢いよく立ち上がった。

 

 

「…………そんな…!!」

 

「み、美織、くん…?ど、どぅし、」

 

「っ、…あ、小鳥遊…俺ヤバいこと気付いたかも、」

 

 

何に気が付いたのかは分からないけれど、顔を青くさせてあるむちゃんに向き合った美織くんは「何に、」とかけられた質問に間を開けて答えてくれた。

部屋に残っていた人はみんな、彼を見ている。

 

 

「…よく、見て。そう、…動いているんだ。小さくだけど、肩が。アンジェリーナは息をしてる、まだ生きてるんだよ!」

 

 

「…本当だ!お客様はまだ…なら、保健室に連れていこうよ。ここに放置するより、的確じゃない?」

 

「そうね…アタシは未依葉くんの意見に賛成だわ。なんとかなれば…ヴァイオレットをこうしたクロを、知っているかもしれないし」

 

 

分かった。と頷いた彼は、流星くんとあるむちゃんを指名して、この二人と一緒に保健室に行くと言う。

美織くんは考え無しに行動するような子じゃないのはもう十分に理解している、から。きっと、意味があるんだ。

 

 

「え…俺も?」

 

「うん。…なんとなく、処置に慣れてそうだから。小鳥遊も軍人だし、素人よりはそういうの分かるでしょ?」

 

「ぇ、ぁ、…ぅ、ぅん。でも、げ、原因…」

 

「原因はコレだろ、どう見ても。プリンセスと執事の間に落ちてた明らかな毒瓶。…………ま、はた迷惑な話だな」

 

 

カツ、と静かに床に立てられたそれは誰が見ても「毒」

だと分かるような、少し中が濡れている空き瓶。

巻かれた黒いラベルには白色のドクロマークが付いていて下には小さくDanger!と。

 

中身の抜かれた毒の瓶がここにあること、それが何を意味するのか…つまるところ、俺も蒼太郎くんと同じことを思っていたんだ。

信じたくは、ないけど…。

 

 

「ほ、ほけ、んしつに…解毒、薬、ぁった…!気が、す、するから!ぃ…ぃくよっ…!」

 

「…いや、本当に力が強いんだなぁ」

 

「……ん。……あるむだから」

 

 

アンジュちゃんをお姫様抱っこして保健室へと走っていったあるむちゃんとその後ろを追いかけるように出ていく流星くんと美織くん。

 

彼女が未だ生きようと必死に追い縋っていた事が良い事だったのか悪い事だったのかは、分からない。

けど。…目を覚まして、また俺達の前に現れてくれたらいいなと、思うよ。

 

その後の捜査で見つかったものは無かった。

 

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