✿
「暁美。もう、良いのかよ」
「…うん、って言ったら嘘になっちゃうかも。でも…大丈夫。大丈夫だから、気にしないでまどかくん」
「それ。大丈夫じゃない人が言う言葉よ、暁美。…抱えて良いことは無いわ。なんて、月並みかしらね」
「…今日は何にも見つけられなかったねぇ、あの瓶以外は。ウィステリアちゃん、まだ起きてないけど…裁判、大丈夫かなぁ」
「もうやるしかないんじゃないかな、それでも。お客様何を見知っているのかはさておいてさ」
「在る真実はひとつだけ!手品でも増えない、特別なものだからね」
「さて…アンジェリーナさんがこの裁判に参加するまで何を話しましょうか。証拠らしいものはたったひとつ、しかもそれは皆さん周知のものですし」
莎莎匁くんのその言葉に二つの驚きの声があがる。
それは、あの瞬間部屋にいなかった奏撫ちゃんと飛鳥ちゃんのものだった。
「どういうこと…ですか?ウィステリアさんが参加って…彼女、」
「そうだよぉ星霰くんが気付いたの!不知火くんと小鳥遊ちゃんが解毒薬を見つけてくれたみたいだから、ウィステリアちゃんの起き待ち〜」
「……そっ、…か、アンジュちゃん…生きてるんだ」
口元に手をやって目を伏せる奏撫ちゃん。その目にはじんわりと優しい涙が滲み出ていて。
「…話は戻るけど、毒の瓶らしいもの以外に証拠になりそうなものは、見つからなかったのよね?考えたくはないけれど…やっぱり、心中しようとしたんじゃないかしら」
「あは、僕もLadyちゃんと同意見だよ。まぁ、失敗しちゃったみたいだけど…不運だったよねぇ」
「そうですか?俺はアンジェリーナがラピスを殺したんだと思ってますけど。クロ候補から外れるためにわざと倒れていたって線もありますよね」
「……そうならその作戦は成功だな。現に何人か、あのプリンセスはクロじゃないって思ってるだろ」
心中した、殺した、とそんなことばかりが飛び交うこの裁判場はいつにも増して異質な空間に思えてしまう。
結局は机上の空論でしかなくて、真実は今手元にあるものだけじゃあ到底見つけれはしない。
……。
「ぁ、そ、そぅ…ぃぇば。…な、無かった、よ…瓶、ぇ…ぇっと…ふたつ!…た、たぶん…」
すぐさま言葉を返したのは彼だった。
「…おかしいですね、先程全員で行ったとき戸棚に空きは無かったはずですけど…?一つは毒瓶だとして、二つも無かったのですか?」
細かなところもしっかりと把握しているのは、流石は超高校級の警察官といったところか。
その時はさほど気にとめなかったのか、曖昧な記憶に苦渋の表情を浮かべるあるむちゃん。
彼女と共に保健室へと向かった二人のうちの、一人である彼が真剣な表情で顎に手を添える。
「…何かを持って保健室から出てくるラピスを、見た。そうだ、今思うと確かあれは…毒の瓶だった、ような」
………息を、のんでしまった。
流星くんの記憶が正しければ、ラピスくんが持ち出したことになる。部屋に転がっていた、ものを。
殺されたわけでも、姫さんとの心中を望んだわけでも、ないんじゃないか。
彼が望んでいたのは、自らの死そのものだったのではないか。
ふと、俺が見た最後のラピスくんの表情が目の裏に浮かぶ。ああ、そうだ。そうだった。
優しい心を持つ彼が、はじめて、あんなに悲しい笑顔をしたというのは
『…自殺、だったんじゃ、ないか』
「…い〜んじゃね〜の?おれさんせ〜」
そうだとすると、どうしてあの場に彼女が倒れていたのかが分からない。
巻き込まれたのか、どうなのか。何が起きて、こうなってしまったのか。その全てが
…だからこそ、アンジュちゃんの目覚めを待つしかなくて。ただ黙って待つことも、この終わりのない討論に参加し続けることも、意味なんて無いんだ。きっと。
…………。
「……っラピス!……っ、……ああ…っ!」