ユメミグサロンパ   作:24社長

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非日常③

まどか視点

 

息を切らしながら、その艶やかな長い髪を散らして裁判場に駆け込んで来たのは今話題の渦中にいるウィステリア、その本人だ。

 

開幕早々、口をついだのは親しいあいつの名前。

おれらが此処にいること。それが何を意味してるのか、分からないわけではなかっただろうに。

この場に姿がないことで、決定的になった。

 

顔色は悪く、つつけば倒れそうなくらいには覚束無い足取りでふらふらと自分の証言台を目指すその姿はとてもじゃないが見ていられるものじゃない。

 

 

「!………もう。……大丈夫?」

 

 

卯佐美の滲んだ声に頷いた。

気軽に声を出せるほど楽な状況じゃないのかもしれない。

それでも目だけは確りと何かを真っ直ぐ捉えていて、おれが口を出せるような隙はどこにもなかった。

 

 

「…姫さん、君が無理してるのは俺にでも分かるんだよ」

 

 

歌方奏瑛の歪んだ顔に笑った。

困ったように眉を下げて、寂しいものを押し殺すように。

 

やっとの思いで自分の立つべき場所へ足をつけたウィステリアは、依然として凛とした表情を保ち続けている。

 

振り絞るように出した声は決して大きくはない、むしろ静かで、少しの雑音にかき消されてしまいそうなそうな程掠れ、か細く繊細な琴のような声。

 

おれが生涯をかけてでも推し続けていくであろうあの俳優くんや、あの代役ちゃんとは全く違う。

 

はず、なのに。照明に当てられたウィステリアはスポットライトを浴びているように照り輝いていて、堂々としたその姿勢は重ねてしまうものがあった。

 

 

「……皆様に多大なる御迷惑をおかけしてしまったこと、本当に申し訳なく思っています。起きた頃には誰も、いませんでしたから…私は酷く焦りました」

 

 

取り込みにくくなってしまった空気を大きく、ゆっくり、ゆっくりと吸って囀る。

裁判が何も進んでいなくて安心したとも、あいつは口にしていたな…。

 

 

「こんなに直球に聞くのは心苦しいけれど…ヴァイオレットのことは、アンジェリーナが殺したのかしら…?」

 

「……それとも。………二人で死のうとしたの?……」

 

「ラピスさんの自殺、なんて話もあるけど…。…本当のことを知ってるのは、ウィステリアさんだけだよ」

 

 

ホーネットが口を開くたび、卯佐美が手織るたび、一ノ瀬が見抜くたび、

 

 

「…………。」

 

 

ひとつずつ、思い出しているんだ。

花の咲いていた笑顔はどこへと消えるか、枯れていく。

 

 

『どっちかは合ってんのか、どっちも間違ってんのか。…答えてくれねぇと先に進めないんだよ』

 

「…そう、ですね。いずれその二択のどちらかを選ばなければならないというのなら、」

 

 

「最後だけは不正解。………これが私の握る、真実ですわ」

 

 

……………はぁ?

 

 

奏瑛視点

 

「どっ…どぅ、ぃぅ…?」

 

「心中しようとしたけど運良くアンジュだけが生き延びたってことか…?」

 

「え、でも何でそれが、ラピスを殺したことに繋がる…」

 

 

あるむちゃんと流星くんの疑問には答える素振りを見せなかったアンジュちゃん。「ラピス」という単語を口にした美織くんの疑問に、静かに口を開いた。

長いまつ毛を、震わせて。

 

 

「…聞けば、きっと理解出来ましょう」

 

_____

 

 

もう長いこと、疲れていたのです

この身も、この心も。

それは小山サマの死から始まったことではありませんでした。

遡れば、ニッポンに連れてこられたあの日に辿り着くのですから。

 

…私の国と、この国は冷戦状態。

私は所謂人質のようにニッポンに送り込まれました。

知らない土地で、知らない言語に囲まれた私が頼れるのは、同じ国から来てずっと一緒にいたラピスだけ…。

 

限界だと思ったのです、私自身のことを。

……………つい、死にたいと、口にしてしまった。

 

 

[…いけません、アンジュさん。その気持ちだけは芽吹かせられないものです]

 

 

無論ラピスは否定しました。

単なる私情だけではありません。あの人はバカじゃあ、ありませんから。

きっと、私の背負うもの全てを含め、引き止めたのです。

 

 

「…ウィステリアさんは、一国の姫、ですもんね」

 

 

ええそうですわ、東雲サマ。

それでもラピスは最終的に、了承してくださいました。

話し合った結果が皆様知っての通りの毒だったというわけです。

 

…毒薬を取りに行ってくれました。

その瓶を手にしたとき、少し、気持ちが揺らいでしまったのかもしれません…しかし!今更、辞めようとも、思えなかったのです。

 

 

「……?…待ってください。分かりません、どうしてそこで…ラピスが死ぬことに繋がるんです?死にたがってたのは、話を聞く限りあなたじゃないですか」

 

 

そうですね。それでも提案した心中を受け入れたのはラピス自身。私が勝手に決めた事じゃありません…何時いかなる時も共に在ったからこそ、最期の時まで私の傍にいようとしてくれたんだと、思うことにしています。

 

………この気持ちは、貴方に分かりますか?柊サマ。

 

話が逸れてしまいましたね。

私達はお互いに毒を飲ませ合いました。

ラピスが私に、私がラピスに。口移しで注がれた毒には唾液も、きっと愛も、混じっていたと…。

 

…それなのに!どうしてあの人だけが死に、私が生きているのでしょう…?

 

もう、疲れました。本当に…疲れたのです、全てに。

 

 

奏瑛視点

 

 

「だからもう…終わらせてください。

どうか。もう、楽にさせて…。

心中さえ、阻まれた私は…」

 

 

苦しそうに、証言台に凭れ掛かるように懇願するその姿はただの一人の、女の子で。

……………だから、…………

 

 

「その音色は違うかも…っ」

 

 

それは、ただ一粒の涙。

 

 

「…確かに、ラピスくんは毒薬をアンジェリーナちゃんに渡したのかもしれない…けど!愛情があったからこそ、ラピスくんは…ラピスくんだけが、亡くなったんじゃないかなぁ…っ」

 

「…っ、は、ぁ?何、言ってるんですか?ラピスは頷いてくれました!死にたいと言った私の提案した心中にだって…!」

 

 

「それはどうなの?」

 

 

それは、ただ一本の芽。

 

 

「ラピスは、元から…アンタを死なせないつもりで動いてたんだと思うよ。アンタが死ぬことを受け入れてなんて無い、心中する気も無かったんだ」

 

 

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「……なに、それ。あの人がワタシに嘘をついたと?…今!そんな頭の悪い冗談に笑ってられるほど、」

 

 

「…わ、わたしだって言うときは言うからね…!」

 

 

それは、ただ一筋の線!

 

 

「あのね、小鳥遊ちゃんが「瓶は二つ無かった」って言ってたんだ。だから…ヴァイオレットくんが毒薬と一緒に解毒薬も持っていったんだよ。ウィステリアちゃん、あなたを生かすために!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

もう一つの空の瓶がラピスくんの服から出てきていた、といいそっと取り出されたのはドクロの上にばってんがつけられたラベルの瓶。

それを見た流星くんとあるむちゃんがポツリと解毒薬だと呟いていたような気がした。

 

 

「解毒の瓶、あの部屋にあったんだね。もっと早くに言ってくれれば…」

 

「…予想は出来ても確実にソレとは分からなかったんじゃないかしら、もしかしたら私物の可能性もあったわけだし…」

 

 

アンジュちゃんはとうとう言葉を失う。

目を大きく見開き、震え、やがて…絶望したように、立ち竦んだ。

 

何かが終わって、しまった。

 

 

超高校級の執事

【ラピス・ヴァイオレット】を殺したクロは?

 ▶︎アンジェリーナ・ウィステリア

 

 

「おお〜!正解だよお、ラピスくんを殺したクロは異国のオヒメサマ!アンジュちゃんでしたあ!今回はサービス回だったかもねえ」

 

「…………」

 

 

ぱちぱち、と思ってもないことをさも思っているかのように手を叩いて褒めてみせる。

褒められることは嫌いじゃあないけれど、こんなにも褒められて喜べないものはなかった。

 

 

「でも、無理心中を強いたわけでもないのに…それに合意の上だったのよね?毒もシロ本人が持ってきたんだから、」

 

「あのねえグレイちゃん!…これは立派な事件!立派な殺人!…なんだよお」

 

 

「方法さえ違えばラピスくんの自殺ってことになったけどお…うぷぷ!飲ませ合った、って言ったもんねえ?」

 

「…そっか。確かに合意の上で、お客様自身で準備をしていたけど…実際に毒を飲ませたのはアンジェリーナさんだから」

 

 

毒をお互いに飲ませた結果、ラピスくんの狙い通りとはいえアンジュちゃんが生き延びてしまった。

生き延びたってことは、ラピスくんを殺したことになってしまうわけで…そんなこと、あんまりなんじゃないか!

 

けれど…俺達がこうしてモノクロックさんと交わすことすら、もう、どうでもいいみたいで。

ただ静かに証言台を降り、自らモノクロックさんに近付き、首を差し出す。

 

彼も分かっていたみたいで、手ずからその細く白い首にアームを付けてあげていた。

 

 

「…ワタシ、日本が嫌い。戦争を始めようとする日本人も、戦争が始まることを知らない日本人も、皆、皆嫌い」

 

 

「でも、…………楽しかったです。ここに来て、ワタシ、初めて、お友達が出来ました」

 

 

「……………………でも、ごめんなさい。貴方達のこと、恨みます。この命が終わるまで。じゃないと、ワタシの国民は、報われないもの」

 

 

✿ クロ が 特定 されました

 オシオキ を カイシ します

 

 

 

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✿ オシオキ 完了

 

 

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あまりにも後味の悪い、妙に棘付く苦い味。

国を背負うこと、国の事情を知ること、それがどれほどのものなのか。

……何も、分かってあげられなかった。

 

まだ未来ある少年少女が手にするにはあまりにも余るものを、大人のように振舞って必死に抱えてきたんだろう。

 

現実を騙り、理想を語ることしか許されなかった生活の果てに待っていたものこそが、俺達のよく知る、世間の知る人ぞ知る、アンジェリーナ・ウィステリアその姿。

 

 

「…ま。ある意味自殺だったのかもね、ラピスちゃんはさ。そのせいで生かしたかったお姫様はクロとしてオシオキされちゃったわけだけど」

 

「……悲しい事件、だねぇ。…。」

 

 

ぽつぽつと、裁判場から人が消えていく。

俺もそれに続いて…

 

…あれ、今日はまだ出ていかないのかな。

 

…まあ、いいか。

 

…皆は凄いな。捜査で証拠を拾って、推理して。

俺は…どうなんだろう。出来てるのかな。

 

嫌なことに取り憑かれる前に、悪い夢に魘される前に、俺は急ぎ足で自分の部屋へと戻った。

 

 

_____

 

 

「……………何が、起きてる?」

 

 

3章【甘い果実に宵知れて。】

 

 

【挿絵表示】

 

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