中夜視点
いっぱい歩いて、いっぱい話して、いっぱい動いて……楽しさとちょっぴりの疲れと怖さが残る体は、体力が切れて倒れるように自分の部屋のベットへと倒れ込む。
未依葉達が話していた内容を、うさみは聞いてしまった。
……やっぱり、うさみ達のときのラジコンロボットはそういうことだったのかな……。
楽しんでくれてたらいいな、楽しめてたのかな、なんて考えながら目を瞑ると、あっという間に夢の中。
このまま、起きたくない…。
__死体が発見されました!繰り返します、死体が発見されました!死体発見現場の【被服室】まで急いで集合してください!
そんなアナウンスに反射的に飛び起きて部屋を飛び出てしまう。
……そんな。だって、早すぎる…みんなだってまだ、…まだ、うさみは何も起きない、夢を見ていたかったのに。
__死体が発見されました!繰り返します、死体が発見されました!死体発見現場の____
ぱたぱたと急ぎ足で発見場所の被服室へと向かう。
そこにいたのは荒れ果てた末の、かつては綺麗だった……
……。…………。
「な、なん…え?なんで…?そんな…」
……狼狽える奏瑛の声が酷く頭にこびりつく。
ガンガンと容赦なく頭を打ち鳴らすその言葉はうさみには、重すぎて。
「な…夏月くん…?嘘、そんな…どうして…」
「……まさかもう、殺人が起きるなんて…」
奏撫の声も、莎莎匁の声も、ぼわぼわと反響を繰り返すだけで、上手く聞き取れない。
……泣きそうなのを堪えて、うさみは、廊下に出る。
気が付いたあるむや美織、琉霞が追いかけてくれているのは分かるけれど、何度体感しても人が死んだことを理解する瞬間は後味の悪いもの。
慣れられないのもあるし、きっと、慣れたくないのもある。……もし、あるむを失ったら、うさみはどうするんだろう。
ふと、不自然に半開きになったドアが目に入る。
気にしなければいいものを、気が動転しているのか、つい中を覗いてしまった。
「……は?」
そんな声が思わず漏れる。
だって、だって、だって……だって!
追いついた三人も中を見て騒然とする。いや、正しくは漠然だったかもしれないけれど…そんなこと、もう分からない。
__死体が発見されました!繰り返します、死体が発見されました!死体発見現場の【会議室】まで急いで集合してください!
「ぇ、ぇ…?なん…どぅして?ね、ねぇ…」
「…俺にも、分からない…。けど、あんまり見ない方がいいよ、小鳥遊さん」
「み、皆ーーーっ!来てーーー!!!…っ、何が、どうなってんの…」
分からない。分からない。分からない。
どうして?どうして、どうして……
複数の走る音を最後に、うさみは、床に膝をついて…そこから……。
最後まで目に入ったのは、
別室で一人静かに息絶えた、まどかの、姿。
✿
俺達が部屋に入ると同時に、倒れてしまった中夜ちゃんの姿が目に入る。
ギョッとしているのもつかの間、直ぐに俺も、何が起きたのか理解して、理解して、理解して………
彼のその姿を見て、自分が泣いているんだと気が付くまで、そう時間はかからなかった。
だって彼がぼやけて、なぜだか目頭も熱くなって、どうしようもなくなったんだから。
失ってしまった。ついに。失われてしまった。
ずっとずっと、ここに来てからずーっと俺を支えてくれた夏月くんも、ここに来てから増えた俺の大切な人だったまどかくんも、もう、生きてはいない。
それがどうしようもなく辛くて、受け入れたくない現実で!
……奏撫ちゃんがしきりに何かを言ってるけれど、前を向くことなんて、もう、出来ないんじゃないかって。
「…それでおしまいなんですか、歌方さん。貴方は呆気なく諦めてしまうんですか、全てのことを」
誰だ、と、顔をゆるゆると上げると、俺の前には莎莎匁くんが立っていた。
「ショックなのも分かります。絶望的なのも分かります。…しかし、私は貴方にはまだ立っていて欲しい…前を向いて、進んでほしい。…今まで積み上げてきたものを此処で、やめてしまってもいいんですか?」
その言葉は、俺に重くのしかかるもので。
どうして俺ばかりこんな重荷を背負わせられているんだろう、とか、奮い立たせられるんだろう、とか、思うことはいっぱいだったけれど。
何よりも、誰よりも、気にかけてくれるということ
俺なんかに希望を見出してくれていること
それが、それが、嬉しくて。
『…奏撫ちゃん、』
「…なぁに、奏瑛くん」
『……まだ、頑張ってみてもいいのかな、俺も』
「いい。…ダメなんて、言わない。もしも誰かがダメって言うなら、君の代わりに私が怒るから」
いつだって皆が俺を支えてくれていた。
まだこんなところで折れるわけにはいかないんだ。
涙を拭って前を向くと、皆の顔が良く見える。
都合のいいように捉えてもいいのなら、安心、とか、安堵、とか、とにかくそんな感じの顔ばかりのような気がして。…隣に立つ奏撫ちゃんがこくりと頷いた。
……これは君が持っててよ。
なんて、生きていたら受け取ってくれるか分からないけど。そっとヘアピンを髪から外してその柔らかい彼の髪に添える。
もう捜査に移っている莎莎匁くんだけれど、一番最初に俺を励ましてくれたのは莎莎匁くんだから。
ありがとうってその背中に言ったら、少しだけ振り向いて、どういたしましてって笑うんだ。
彼のように俺を支えようとしてくれてるのかなって思って、まだ俺は一人じゃないんだって実感して、どうしようもなく、安心してしまった。
【相棒交代】
柊 夏月 → 楪 莎莎匁
✿
今回はシロが三人もいる、ということでまず遺体周りの捜査を優先し、これ以上見つからないところまで進んだらその他部屋の捜査に入ろう、ということで話がまとまった。
俺は未依葉くんと美織くんと一緒に飛鳥ちゃんの遺体を調べ始める。
「抵抗した感じはない…かな」
「うん。すやすや寝てるみたいに死んでるし…穏やかだね」
飛鳥ちゃんの遺体は酷く綺麗で、眠るように死んでいる。
彼女は一人だけ別の死に方だったようで、彼らとは違って血はどこからも出ておらず、ただその細い首に痛々しく締め跡が残されているだけだった。
死因が違うのには理由があるのだろうか、
思案していると、ふと二人が夏月くんの遺体の方に手を伸ばしているのが見えた。
「この刺傷は本物みたいだよ。服捲っちゃって悪いけど…見ないことには確証が得られないし、ごめんね東雲さん」
「でも傷跡は異様に細いし、包丁とか果物ナイフとかで刺されたわけじゃなさそう…?ねえ、後で厨房行って刃物類確認しない?」
…どうやら、刺傷の確認をしているみたいだ。
細い、となると…
『一応鋏も見ておきたいな。ほら、ユキちゃんが髪切ったとき使ってたやつとかもかなり鋭利だったし…』
そうだね、と二人が頷いたことを確認して俺達は立ち上がる。
同じく夏月くんの遺体を調べていた麻堂くん、流星くん、グレイちゃんも立ち上がり、どこかへ移動するところみたいだ。
邪魔しちゃったかな…途中で割り込んじゃったみたいだし
「ああ、いや俺達は図書室に行くところなんだ。ちょっと気になることもあるしな…」
「……葉っぱの次は紙で手切らないようにしてよ、流星」
「あなた達は凶器を探しに行くのよね?ついでに保健室に寄って、中夜ちゃんのこと見てきてほしいわ」
「…もう限界だったんじゃないかしら。まだ、たった17歳の女の子なんだもの…」
「そうだな。…同じ歳の俺だって、嫌気がさす。ま、とにかくそういうことだから!行こう。幸運、グレイ」
部屋を出る前に一応念の為に被服室を調べてみたけれど、針も糸切り鋏も凶器になりそうな程の殺傷能力は無さそうだ。
裁縫箱の中も抜き取られたものは無く、使われた形跡が残った糸がそこに置かれているだけだった。
…最後に、本当に最後に。
まどかくんのいる会議室を覗き込むと、捜査しているらしいユキちゃんとえがきちゃんがいたのが見える。
人数も少なくなってきたこともあって、今まであまり触れてこなかった遺体にも触れなくてはならないのが今の現状。
それでも二人は真剣な面持ちでまどかくんやまどかくんの周りを必死に調べてるようだ。
…俺も、もっと頑張らなくては!
_____
刃物というなら此処だろう、と厨房に来てみたはいいものの、どれも夕食以降に持ち出された様子も使われた様子もなく、きちんと整列しているだけの包丁達。
血を洗い流したにしても一切の湿りも見せず、琴梨くんのときのように濡れ滴ることもなかった。
…厨房から刃物は持ち出していないってこと?
「鋏、確か保健室にあるしちょうどいいんじゃない?」
「あーね、うん。じゃあ、行ってみる?」
保健室の扉を開けると、既にそこにはあるむちゃん、オレーシャちゃん、琉霞くんが座っていた。
寝ている中夜ちゃんを囲んでいて、きっとみんなお見舞いに来ていたんだろうなと推測してみる。
「!未依葉くん…!どうしたの?どこか怪我でもしたのかしら…?」
「ああ…良かったね。丁度今、卯佐美さん目を覚ましたところだったから…ほら、小鳥遊さんもこっちに来なよ」
「ちゅ、やちゃんっ!…も、もぅ、平気?大丈、夫?ど、どっか痛ぃ…?」
「……あ、るむ…」
震えながら彼女に抱き着くあるむちゃんは酷く心配していたようで、中夜ちゃんはその大きな目を見開いて驚いていた。
駆け寄ってきたオレーシャちゃんと一言二言会話をすると、未依葉くんはそのままオレーシャちゃんを連れて…というか、オレーシャちゃんが着いてきて、目的のものを探し始める。
「び、吃驚、したぁ!ぅぅ…無理しな、しなぃで…に、二度と!ぜっ…たぃ!」
「…卯佐美さん、苦しそうだから…ほら、深呼吸、深呼吸。…ね?大丈夫、落ち着こう」
「未依葉くん…?鋏なんて見て…あ、もしかしてそれが今回の凶器…だったりするのかしらね」
「…でも、ほんの少しだけ、髪の毛がついてる。…きっと掃除しきれなかったユキちゃんのものじゃないかな?」
『う、うわっ!?…か、奏撫ちゃん!』
「ふふ…驚かせちゃったね。これで何回目だろう…中から話し声が聞こえたから、つい入ってきちゃった」
口元に手をやって上品に笑う奏撫ちゃんは、もちろん中夜ちゃんのことも気になって、と目尻を下げる。
奏撫ちゃんの言う通り、刃の先には二本ほど綺麗な黒毛が残っている。
仮にこれを使って人を殺したとするなら血どころかこんなに短い毛なんてついているはずがないんじゃないか?
包丁、果物ナイフときて鋏も凶器候補から外れたとなるといよいよ本当にお手上げ状態。
何か見落としてるものがある…?
…でもそれがなんなのか、皆目見当もつかないんだ。
プツ、
__待ち疲れちゃったよお、そろそろ始めちゃってもいい?
__オマエラお待ちかねの【学級裁判】を!
__【裁判場】に集合してください!
「……うさみ。何も、してない」
「倒れていたんだし、仕方ないでしょう。中夜ちゃんは悪くないわ…」
「そ、捜査は…小鳥遊達が頑張った!…から、大丈夫…!」
「………。…うん。……ごめんね。迷惑かけた」
捜査している中呑気に寝てしまっていた、と落ち込む中夜ちゃんをじっと見つめる琉霞くん。
言葉が見つからなかったようで、すぐに床に目を落としてしまったけれど。
「……裁判場、行こう。歌方さんも…みんなも、卯佐美さんも。…進むしか、ないんだから」